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第一章:聖女から冒険者へ
38.会いに行く③
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彼は目を閉じると、静かに息を吐いた。
まるで瞑想をしているかの如く、心を落ち着かせているようにも見えた。
私はその様子を、少し興奮しながら見守っていた。
黙ってその様子を眺めていると、彼の周りから白い靄のような物が現れ、四方八方奥の方向へと広がっていく。
(こんなの、始めて見た。もしかして、この煙みたいなもので探していくのかな?)
始めて見る光景に、胸が弾んだ。
魔法にも様々な種類があるのだと、改めて感じていたからだろう。
この世界には、まだ私の知らないものが沢山存在している。
そんな風に思うと、どうしても高揚感が増してわくわくしてきてしまうものだ。
私がドキドキしながら固唾を呑んでいると、ゆっくりと彼は目を開いた。
(終わったのかな……?)
「見つかりましたか?」
私が不安そうな顔で問いかけると、彼はにっと小さく笑った。
その表情を確認すると見つかったんだと分かり、私の顔も次第に緩んでいく。
「ああ、見つけた。場所は分かったんだけどさ、一つだけ問題がある」
「問題……?」
私は不思議そうに顔を傾けた。
「あんたが探してる男はここの最深部の部屋にいる。だけどその部屋に入るには許可証が必要になるんだが……。見た感じ、持ってなさそうだよな?」
「無いかも。で、でもっ、知り合いだって伝えれば呼んでもらえるかも?」
私が自信なさげに答えると、彼は「それもそうだな」と答えた。
「じゃあ、決まりだな。その部屋まで案内してやるよ」
「ありがとう」
私は嬉しそうに笑顔でお礼を言った。
ゼロとは二時間後落ち合う約束をしている。
だけどここに来て、まだ三十分程度しか経っていない。
残り時間を待つよりも、彼に案内して貰って先にイザナに合流してしまったほうが良い気がした。
折角この人が好意的になっているのだから、ここまで来て断るのも申し訳なく思えてきてしまう。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前はフィル。一応魔術師だ」
「やっぱり魔術師だったんだ。私はルナ。一応、冒険者……かな」
「ルナは成立ての冒険者か?」
「……うん。まあ、そんな感じかな」
私がそう答えるとフィルは納得した様な顔をしていた。
外見的にあまり強そうにも見えないし、きっと私が冒険者であることが意外だと思ったのだろう。
「ここから、イザ……、私が探してる人がいる所までって、どれくらいかかるんだろう」
「すぐ着くよ。転送装置で飛ぶからな。こっちな」
フィルはあっさりと私の質問を返した。
(転送装置って本当に便利だな……)
きっと私一人で歩き回っていたら、時間内に見つけることは出来なかっただろう。
彼が言っているように、最深部なんて行くことすら考えなかったのだから。
そう思うと、フィルに会えたことは本当に幸運だった。
私はフィルの後を追うように付いて行く。
すると彼の足は途中でピタリと止まった。
「え? ここにも転送装置ってあるの?」
「こんなに広い場所を一々移動するなんて面倒だからな。この街は転送装置だらけだから、ここにあってもおかしくは無いだろ?」
本棚一つ分の隙間が空いており、そこに簡易転送装置があった。
大人二人が横に並べる程度の隙間だ。
「魔法陣が描かれている上に乗って」
「う、うん!」
私が円の中に入ると続けてフィルも入り、横に置かれている装置のボタンを彼が操作してくれた。
それから間もなくすると魔法陣の内部が白色に光り、一瞬で転送された。
転送装置は楽に移動が出来るが、それにかかる負荷も少なからずあるようだ。
例えるならば、エレベータに乗った時に起こる浮遊感にも近い感覚が一気に体の中に入って来る。
その為、酔いのような、眩暈にも似た感覚に襲われる。
(やばっ、頭がふらふらする……)
私がふらっと倒れそうになると、フィルがすかさず支えてくれた。
「大丈夫か? あー、悪い。また説明するのを忘れたわ。ルナはこれ使うのにはあまり慣れてなさそうだよな」
「ううん。大丈夫だよ。ちょっとふらついただけだし。ありがとう」
「入口とかにある大きな転送装置はなるべく負荷がかからない様に作られているんだけど、簡易的なこっちの装置だと負荷が割とかかるんだよ。だから慣れてない者が乗ると、今のルナみたいに頭がふらふらしてしまうんだ。先に説明すべきだったな。悪い」
「そうなんだ。でも、本当に大丈夫だよ!」
私がフィルから離れようとすると、バランスを崩しその場に思わず座り込んでしまった。
予想以上に負荷があるようだ。
「無理すんなよ。そこに椅子があるから、落ち着くまで座っといたら?」
「うん、そうする。ありがとう……」
再びフィルに支えてもらい、私は椅子までなんとか辿り着けた。
「お詫びといっては何だけど、これをやるから飲んで少し落ち付いたら?」
「いいの? ありがとう。なんか色々迷惑ばかりかけて、ごめんなさいっ」
フィルは液体が入った瓶を私に手渡してくれた。
恐らくこれは果実水なのだろう。
この街で売られているのを見たことがあった。
「いいよ。俺が説明を忘れたのもあるからな」
「私も聞かなかったし。フィルはここ、結構詳しいんだね?」
「まあな。魔術を扱ってる人間にとってはここは聖地の様な場所だからな。この魔術研究所には、魔術に関するありとあらゆる書物が置かれてる。だから新たな魔術を習得する為に、度々訪れたりしてるんだよ」
「魔術師にとっては大事な場所なんだね。でも本がいっぱいあり過ぎて、探すのって大変そう」
私が感心した様に答えるとフィルは「そうでもないよ」と答えた。
なんでも検索システムがあるらしく、探している条件を受付で伝えると、どこに置かれているのか瞬時に分かるらしい。
私が元いた世界では、それは当たり前のように行われている事だったから、聞いてもそれ程驚かなかったが、転送装置も含め、ここは他の国よりも文明が進んでいるのは明らかだった。
(国によって色々違うんだな……)
そんな時だった。
「……ルナ?」
目の前から聞きなれた声が響き、私は顔を上げた。
すると、そこには会いたかったイザナの姿があった。
まるで瞑想をしているかの如く、心を落ち着かせているようにも見えた。
私はその様子を、少し興奮しながら見守っていた。
黙ってその様子を眺めていると、彼の周りから白い靄のような物が現れ、四方八方奥の方向へと広がっていく。
(こんなの、始めて見た。もしかして、この煙みたいなもので探していくのかな?)
始めて見る光景に、胸が弾んだ。
魔法にも様々な種類があるのだと、改めて感じていたからだろう。
この世界には、まだ私の知らないものが沢山存在している。
そんな風に思うと、どうしても高揚感が増してわくわくしてきてしまうものだ。
私がドキドキしながら固唾を呑んでいると、ゆっくりと彼は目を開いた。
(終わったのかな……?)
「見つかりましたか?」
私が不安そうな顔で問いかけると、彼はにっと小さく笑った。
その表情を確認すると見つかったんだと分かり、私の顔も次第に緩んでいく。
「ああ、見つけた。場所は分かったんだけどさ、一つだけ問題がある」
「問題……?」
私は不思議そうに顔を傾けた。
「あんたが探してる男はここの最深部の部屋にいる。だけどその部屋に入るには許可証が必要になるんだが……。見た感じ、持ってなさそうだよな?」
「無いかも。で、でもっ、知り合いだって伝えれば呼んでもらえるかも?」
私が自信なさげに答えると、彼は「それもそうだな」と答えた。
「じゃあ、決まりだな。その部屋まで案内してやるよ」
「ありがとう」
私は嬉しそうに笑顔でお礼を言った。
ゼロとは二時間後落ち合う約束をしている。
だけどここに来て、まだ三十分程度しか経っていない。
残り時間を待つよりも、彼に案内して貰って先にイザナに合流してしまったほうが良い気がした。
折角この人が好意的になっているのだから、ここまで来て断るのも申し訳なく思えてきてしまう。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前はフィル。一応魔術師だ」
「やっぱり魔術師だったんだ。私はルナ。一応、冒険者……かな」
「ルナは成立ての冒険者か?」
「……うん。まあ、そんな感じかな」
私がそう答えるとフィルは納得した様な顔をしていた。
外見的にあまり強そうにも見えないし、きっと私が冒険者であることが意外だと思ったのだろう。
「ここから、イザ……、私が探してる人がいる所までって、どれくらいかかるんだろう」
「すぐ着くよ。転送装置で飛ぶからな。こっちな」
フィルはあっさりと私の質問を返した。
(転送装置って本当に便利だな……)
きっと私一人で歩き回っていたら、時間内に見つけることは出来なかっただろう。
彼が言っているように、最深部なんて行くことすら考えなかったのだから。
そう思うと、フィルに会えたことは本当に幸運だった。
私はフィルの後を追うように付いて行く。
すると彼の足は途中でピタリと止まった。
「え? ここにも転送装置ってあるの?」
「こんなに広い場所を一々移動するなんて面倒だからな。この街は転送装置だらけだから、ここにあってもおかしくは無いだろ?」
本棚一つ分の隙間が空いており、そこに簡易転送装置があった。
大人二人が横に並べる程度の隙間だ。
「魔法陣が描かれている上に乗って」
「う、うん!」
私が円の中に入ると続けてフィルも入り、横に置かれている装置のボタンを彼が操作してくれた。
それから間もなくすると魔法陣の内部が白色に光り、一瞬で転送された。
転送装置は楽に移動が出来るが、それにかかる負荷も少なからずあるようだ。
例えるならば、エレベータに乗った時に起こる浮遊感にも近い感覚が一気に体の中に入って来る。
その為、酔いのような、眩暈にも似た感覚に襲われる。
(やばっ、頭がふらふらする……)
私がふらっと倒れそうになると、フィルがすかさず支えてくれた。
「大丈夫か? あー、悪い。また説明するのを忘れたわ。ルナはこれ使うのにはあまり慣れてなさそうだよな」
「ううん。大丈夫だよ。ちょっとふらついただけだし。ありがとう」
「入口とかにある大きな転送装置はなるべく負荷がかからない様に作られているんだけど、簡易的なこっちの装置だと負荷が割とかかるんだよ。だから慣れてない者が乗ると、今のルナみたいに頭がふらふらしてしまうんだ。先に説明すべきだったな。悪い」
「そうなんだ。でも、本当に大丈夫だよ!」
私がフィルから離れようとすると、バランスを崩しその場に思わず座り込んでしまった。
予想以上に負荷があるようだ。
「無理すんなよ。そこに椅子があるから、落ち着くまで座っといたら?」
「うん、そうする。ありがとう……」
再びフィルに支えてもらい、私は椅子までなんとか辿り着けた。
「お詫びといっては何だけど、これをやるから飲んで少し落ち付いたら?」
「いいの? ありがとう。なんか色々迷惑ばかりかけて、ごめんなさいっ」
フィルは液体が入った瓶を私に手渡してくれた。
恐らくこれは果実水なのだろう。
この街で売られているのを見たことがあった。
「いいよ。俺が説明を忘れたのもあるからな」
「私も聞かなかったし。フィルはここ、結構詳しいんだね?」
「まあな。魔術を扱ってる人間にとってはここは聖地の様な場所だからな。この魔術研究所には、魔術に関するありとあらゆる書物が置かれてる。だから新たな魔術を習得する為に、度々訪れたりしてるんだよ」
「魔術師にとっては大事な場所なんだね。でも本がいっぱいあり過ぎて、探すのって大変そう」
私が感心した様に答えるとフィルは「そうでもないよ」と答えた。
なんでも検索システムがあるらしく、探している条件を受付で伝えると、どこに置かれているのか瞬時に分かるらしい。
私が元いた世界では、それは当たり前のように行われている事だったから、聞いてもそれ程驚かなかったが、転送装置も含め、ここは他の国よりも文明が進んでいるのは明らかだった。
(国によって色々違うんだな……)
そんな時だった。
「……ルナ?」
目の前から聞きなれた声が響き、私は顔を上げた。
すると、そこには会いたかったイザナの姿があった。
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