聖女が不要になった世界で王子と結婚しましたが、私は必要ないみたいなので出て行きます【R18】

Rila

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第一章:聖女から冒険者へ

35.不安

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 私が薬を飲んでから暫くするとイザナが戻って来た。

「ルナ、ごめん。少し部屋を離れないといけない事になった」
「え? 何かあったの?」

「ああ、時間があまりないから帰ってきたら話すよ。本当にごめんな。ルナ一人じゃ心細いと思うから、ゼロに来てもらえる様に伝えとくよ」
「今来たのって、ゼロじゃなかったの?」

「来たのはソフィアだ」
「……そう、なんだ」

 ソフィアと聞いて私の胸はざわついた。
 イザナは本当に急いでいるらしく、準備をしながら話していた。
 そして準備を終えると私がいるベッドの方まで来て、額にそっと口付けた。

「ルナ、ゆっくり休んでいて。帰りに何か買って来るよ」
「うん、ありがとう」

 イザナは優しく微笑むと「行って来るな」と言って出て行ってしまった。
 一人部屋に取り残されてしまった私は、急に寂しくなってしまう。
 ソフィアに呼ばれるって一体何の用事なんだろう。
 私の心は次第に不安に包まれていった。

 余計なことは考えないようにしようと思い布団を被った。
 だけどそういう時は、逆に不安になるような事ばかり考えてしまうものだ。
 結局私は落ち着くことが出来ず眠れなかった。


 ***


 それから暫くすると部屋の扉をトントンとノックする音が聞こえた。
 すると扉が開いて、部屋の奥にあるベッドの方まで入って来た。
 そこにいたのはゼロだった。

「ルナ、大丈夫か?」

 ゼロは心配そうな顔で覗き込んで来たので、私は「大丈夫だよ」と答えた。
 昨日に比べたら大分体も軽くなっているし、食欲もある。
 体調的にはもう問題はないだろう。
 ゼロはベッドの横にある椅子を見つけると腰掛けた。

「イザナは、どこに行ったの?」
「俺も詳しい事は聞かされていないけど、恐らくは国絡みのことじゃないかなって思ってる」

「国絡み?」
「イザナが世界を周ってるのは、ただ旅をしているからだけじゃないことはルナも知ってるよな? イザナは世界を周って各地の情勢を見たり、時には外交をしたりする。恐らく、今回はダクネス法国との話だとは思うけどな」

 そんな話、今までイザナから聞いたことは無かった。
 何も言わなかったのは、私に余計な不安を与えない為の配慮だったのかもしれない。
 私が聖女であることを隠したり、王宮を嫌っていることを彼は知っている。
 
「でも、さっきここに訪ねて来たのはソフィアさんだったみたいだけど」
「彼女はダクネス法国の人間らしいな」

 その言葉に私はピンと来なかった。
 寧ろ『そうなんだ』と受け流すくらいだった。

「ルナ、不安になるかもしれないけど一応伝えておくな。警戒に越したことはないからな。ルナはダクネス法国には近づかない方が良い」
「え? それはどういうこと?」

 ゼロは私の顔を真直ぐに見ながら伝えた。
 その表情からはふざけている様な態度は一切窺えないし、彼にしては珍しいほどに真剣に見えた。

「ルナは知らないそうだが、あの国は色々と問題がある国なんだよ。西にあるラーズ帝国とは特に仲が悪くて、戦争が秒読みとまで噂されている。そして一番厄介なのが、ダクネス法国は古代の禁忌魔法も使えるという噂があることだ」
「禁忌魔法……?」

(禁忌って、禁じられてるって事だよね?)

「禁忌っていうくらいだから使えば良くない事が起きるのは間違いないだろうな。どんな魔法なのかは詳しくは知らないけどな。恐らくルナがこのジースにいる事は、既に伝わってるはずだ。あの国がルナのことを狙っている可能性もある。だけど安心していい。このジースにいる限り手出しは出来ないからな」
「…………」

 私が不安そうな顔をしていると、ゼロはふっと笑って「そんな顔しなくても平気だ」と言ってくれた。

(私が狙われてるって、どうして……?)

「この街は特別なんだよ。ダクネス法国の支配下ではないって意味でな。どこにも属してない街だから、ここで起きたことは何者だろうと、この街の中で裁かれるのがルールらしい。それにこの街の連中はダクネス法国の連中を嫌っている者が多いからな」

 ダクネス法国……。
 危険な国って事は分かったけど、イザナはそんな国と関わって大丈夫なのだろうか。
 私の不安は増していくばかりだった。
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