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第一章:聖女から冒険者へ

34.優しい看病

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 私はジースに着いてすぐに、風邪でダウンしてしまった。
 今までの疲れに加えて、激しい寒暖差でやられてしまったんだと思う。
 私は元聖女で傷を癒したり呪いを解いたりすることは可能だけど、風邪を治すことは出来ない。

 体が鉛の様に重くて、頭の奥がぼーっとする。
 こんな状態で今動くのは無理のようだ。
 魔法都市ジースの街を色々見て回りたかったのに、すごく残念に思えてしまう。

「ルナ、目覚めたのか?」
「……あ、イザ、ナ……?」

 額がひんやりしたのを感じて、私がゆっくりと目を覚ますとすぐ傍に彼の姿があった。
 きっと、イザナはずっと私の傍で看病をしてくれていたのだろう。

(ありがとう、イザナ……)

「熱、結構上がってるみたいだな。薬を買って来たんだ。少し水分も取った方がいいと思うし、飲めそうか?」
「うん……。ずっと、私の傍にいてくれたの?」

「薬や必要な物を買いに少しだけ離れたけどな。今日はもうどこにも行かないでずっと傍に居るから、ルナは安心して眠っていていいよ」

 私がゆっくり起き上がると、イザナは薬と水を手渡してくれた。
 起き上がる際に強い頭痛を感じ、思わず顔を顰めてしまう。
 こんなにも酷い風邪を引くのは、この世界に来てからは初めてな気がする。
 私は彼から渡された薬を、口に入れて水を流し込みゴクンと飲み込んだ。

「ちゃんと飲めたみたいだな、えらいな。水、もう少し飲むか?」
「ううん、大丈夫。色々私の為に用意してくれてありがとう。なんかごめんね……、折角ジースに来たのに」

 私が申し訳なさそうに答えると、イザナは「そんなことは気にする必要はないよ」と優しく言ってくれた。
 そしてすぐに寝かせてくれた。

「妻を心配するのは当然のことだろう? ルナが元気になったら色々街を見て周ろうか。別に急ぐ理由も無いからな。今のルナは風邪を治す事だけを考えていればいいよ。そんなに顔を真っ赤にして、目まで潤ませて相当辛いんじゃないか? 薬を飲んだから、効いて来れば体も幾分か楽になるはずだ。それまでは辛いだろうから、このままゆっくり休んでいて」
「……ありがとうっ」

 イザナは優しい表情で言うと私の髪を優しく撫でてくれた。
 こんな時だけど、そんな彼の優しさが嬉しくてドキドキしてしまう。

「どうした? もしかして心細いのか? 安心していい。ルナが眠るまでここにいるよ。それでも心細いって言うなら、……そうだな。手を繋いでおこうか」

 イザナは小さく笑うと、私の手を握ってくれた。

「イザナ、優し過ぎっ……」

 私は彼の優しさに胸を打たれ、瞳が僅かに潤む。
 そんな表情の私に気付くと、イザナは私の涙を指先で拭ってくれた。

「優しくするのは当然だよ。ルナは私にとって一番大切な存在なんだからな。そんなに泣く程喜んでくれるのなら、添い寝でもしようか?」
「ううん、大丈夫っ。風邪を移してしまったら悪いし。それに、そんなことをされたら……、ドキドキして寝れなくなっちゃう」

 私が慌てて答えると、イザナはクスクスと笑っていた。

「な、なに?」
「いや、こんな時でもルナは可愛いなって思って。ルナを眠れなくしてしまったら風邪が治らなくなるから、今日は手を握るだけで我慢しておくよ。もし私に風邪が移ったら、ルナに看病してもらおうかな」

 冗談ぽく言うイザナに私は「もちろんだよっ!」と強く答えた。

「ふふっ、頼もしい返事だな。だけどお喋りはここまでにしておこうか。これじゃ、いつまで経ってもルナが眠れないからな。今日は大人しく寝ておいて。ルナが寝るまで、私はここでルナの可愛い寝顔でも見させてもらっているよ」
「……っ!!」

 そんな風に言われると恥ずかしくなり、私はぎゅっと目を瞑った。

「おやすみ、ルナ」
「お、おやすみっ……」


 ***


 私が再び目を開けると辺りは明るくなっていた。
 ゆっくりと体を起こしていると、ソファーに座っていたイザナが私に気付いてベッドの方まで歩いて来た。

「ルナ、おはよう。体調はどうだ?」
「おはよ、イザナ。まだちょっと怠い感じはあるけど、昨日よりは楽になった気がする。イザナの看病のおかげかもっ……」

 イザナは心配そうに私の顔を覗き込んできて、額を手で触れた。

「熱はまだ少しありそうだな。ルナ、食欲はあるか?」
「うん、ちょっとお腹空いたかも……」

 私がそう答えると、イザナは口端を僅かに上げた。
 そして「ちょっと待っていて」と言ってテーブルの方に移動して、何かを手に持って戻って来た。

「これ、イザナが作ったの?」
「ルナは果物が好きだし、これくらいなら食べれると思ってね。私は果物を切って混ぜただけだけどな」

 イザナは私の為にフルーツポンチを作ってくれた。
 色とりどりの果物が入っていて、見た目も綺麗で美味しそうだ。

「美味しそう……。イザナ、ありがとうっ!」
「思った以上に沢山出来てしまったから、おかわりも自由だよ。だから遠慮なく沢山食べて」

 私はスプーンを手に取り、食べ始めた。
 色んな触感の果物がシロップと絡み、甘さが増して美味しかった。
 中にはゼリーも入っていて、冷やしておいてくれたことで更に美味しく味わう事が出来た。
 火照った体から熱がスーッと抜けて行くようで、気持ちまでリラックスしていくような気がする。
 昨日から何も食べて無かったのと、あまりの美味しさでおかわりまでしてしまった。

「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「すごく美味しかったよ。イザナありがとう。いっぱい食べたから、きっとこれで風邪もすぐに治るかもっ!」

「そうだったら良いんだけどね。さあ、今日も薬を飲んでゆっくりしておこうか」
「うん」

 私はイザナから薬と水を受け取った。

 そんな時だった。
 部屋の扉ををトントンとノックする音が聞こえた。

「ゼロかな?」
「そうかもな。ちょっと見て来るからルナは薬を飲んでおいて」

 イザナはそう言うと扉の方まで移動して行った。
 私はその間に薬を飲み、奥の方に視線を向ける。
 しかしベッドからだと扉の辺りは見えないので、誰が来たのか確認することは出来なかった。
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