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第一章:聖女から冒険者へ
32.旧坑道へ②
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予想以上に内部は魔物が溢れていた。
恐らくここを使う者が極端に少なく管理もされていなかった為、魔物の巣化してしまったのだろう。
「雨水で地面がぬかっているみたいだ。足元には気を付けて」
イザナは後ろを振り返ると、私の方に視線を向けてそう言った。
私は小さく頷き、ゆっくりと前に進んで行く。
「ルナ、大丈夫か?」
「う、うん……」
思った以上に泥がすごくて足が取られそうになる。
隣にいたゼロはぎこちない歩き方をしている私に気付くと、心配そうに声を掛けてくれた。
「なんだか危なっかしい歩き方してるな。俺の腕に捕まっていいよ。このままじゃそのうち転びそうだ。いや、絶対転ぶな」
「うっ……、ありがとう」
さすがにこんな泥の中で転びたく無かったので、私は迷う事となく彼の好意に甘えることにした。
ゼロの腕に捕まって歩くと、バランスが取れて大分歩きやすくなった。
「いいよ。そんなことでいちいち礼なんていらないぞ? それに、これくらい遠慮しないで言えばいいんだ。俺達は仲間なんだしな」
「仲間、か……。なんか仲間っていいね!」
私がその言葉に感動していると、ゼロは呆れたように「そんな事位で喜ぶなよ」と笑っていた。
「ルナってなんか変わってるよな。変な所で妙に遠慮してくるし、感動する場所もおかしいし」
「酷いっ! それ、馬鹿にしてるの?」
私がむっとした顔を向けると「馬鹿になんてしてないよ。ただ変わってるって思っただけだ」とさらりと答えた。
どう考えても同じ意味にしか聞こえない。
私は不満そうな顔でゼロを見つめていた。
「ルナの怒った顔なんて全然怖くない」
「……っ!!」
ゼロは私の事をからかうようにヘラっと笑っていた。
(ゼロ、意地悪になる回数増えてる気がする……。気のせいじゃないよね。でもそれだけ親しくなれたってことなのかな……)
彼とのこういったやり取りは悔しいけど、本気で嫌がっているわけではなかった。
自分の感情を抑えることなくぶつけられる相手がいることは、気持ち的にも楽だし本当に仲間って感じがして私は嬉しいんだと思う。
だからこそ、ゼロがこういう性格で良かったとすら思えて来てしまう。
「……イザナが惹かれた理由、なんとなく分かる気がする」
「え?」
ゼロはボソッと小さく呟いた。
私が聞き返すと「なんでもない」と答えた。
「置いて行かれないように、少し急ぐか」
「うん……」
私達が遅れて行くと、先に前を進んでいた二人は待っていてくれた。
「悪い、遅れた。待っててくれて助かったよ」
「ごめんなさいっ……。 私が歩くのに手間取ってしまったせいで……」
私がすまなさそうに言うと、イザナは「大丈夫だよ」と優しく返してくれた。
そしてイザナはこちらに近付いて来ると、ゼロに掴まっている私の手を静かに剥がした。
(え……?)
「ゼロ、この先は一直線だからソフィアと先に進んでくれるか? 私は後ろからルナと行く」
「……っ」
私はその言葉に驚いてイザナの方に視線を上げた。
「ああ、了解だ」
ゼロはそう答えると、ソフィアの方に行き先に歩き始めた。
「ここまで来たら魔物も出ないだろうし、警戒の必要もなさそうだ。ルナのペースに合わせて歩くから、無理して早く歩かなくていいよ」
「うん、ありがとう」
私はイザナの腕に掴まると、ゆっくりと歩き始めた。
ゼロ達はどんどん前に進んで行き距離が開いていく。
時々、後ろをソフィアが心配そうに振り返っている様子だった。
「寒くはないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「イザナは……」
「どうした?」
「ソフィアさんとは、そのっ……仲が良かったの?」
「そうだな。学生時代はそれなりに仲の良い友人の一人だったかな」
イザナは昔を思い出すように答えた。
私は不安そうな顔で「それだけ?」と聞いてみた。
少なくとも私には、それ以上の関係に見えたからだ。
戦闘の息もぴったりだったから、変に気になってしまった。
「授業で良くペアになっていたかな。実践訓練の時にね。二年間ずっとソフィアとペアを組んでいたから、お互いの戦い方が分かっているんだろうな」
「そうだったんだ……」
私の知らないイザナをソフィアは知っている。
そんな風に思うと、ソフィアが羨ましいと思ってしまう。
「もしかして、ルナは嫉妬でもしてくれたの?」
「……っ」
イザナは冗談ぽく言っていたけど、私は思わず慌てた態度を見せてしまった。
「ルナは分かりやすいね。本当に可愛いな。だけど、それは私も似たようなものだな」
イザナは自嘲する様に笑った。
(それって……)
「明かりが見えて来たな、もう少しで抜けられそうだな」
「あ、ほんとだ……」
顔を前に向けると、先の方に小さな明かりが見えていた。
きっとあれが出口なんだろう。
漸く外に出れるのだと思うと、ほっとして表情が緩んでいく。
しかし、不意にその光が遮られたかと思えば、イザナの顔が迫って来て一瞬唇に柔らかいものが触れた。
「……っ、こ、こんな所でっ!」
「ふふっ、大丈夫だよ。二人はずっと前を歩いているし気付いては無いはずだ」
私が頬を薄っすらと染めて慌て始めると、イザナは私の反応を満足そうに眺めていた。
「ルナはいつでも期待を裏切らない反応をするよな。本当に可愛いね。もっとその照れた顔を見ていたいけど、今は我慢するよ」
イザナは不敵な笑みを浮かべて意地悪そうに言った。
そして耳元で「二人だけの時に沢山見せて」と続けて囁いた。
その瞬間、私の顔は熱に侵されていく。
(ゼロも意地悪だけど、一番意地悪なのはイザナなのかも……)
奥の光が大きく広がっていく。
そして、私達は無事に旧坑道を抜けることが出来たのだった。
恐らくここを使う者が極端に少なく管理もされていなかった為、魔物の巣化してしまったのだろう。
「雨水で地面がぬかっているみたいだ。足元には気を付けて」
イザナは後ろを振り返ると、私の方に視線を向けてそう言った。
私は小さく頷き、ゆっくりと前に進んで行く。
「ルナ、大丈夫か?」
「う、うん……」
思った以上に泥がすごくて足が取られそうになる。
隣にいたゼロはぎこちない歩き方をしている私に気付くと、心配そうに声を掛けてくれた。
「なんだか危なっかしい歩き方してるな。俺の腕に捕まっていいよ。このままじゃそのうち転びそうだ。いや、絶対転ぶな」
「うっ……、ありがとう」
さすがにこんな泥の中で転びたく無かったので、私は迷う事となく彼の好意に甘えることにした。
ゼロの腕に捕まって歩くと、バランスが取れて大分歩きやすくなった。
「いいよ。そんなことでいちいち礼なんていらないぞ? それに、これくらい遠慮しないで言えばいいんだ。俺達は仲間なんだしな」
「仲間、か……。なんか仲間っていいね!」
私がその言葉に感動していると、ゼロは呆れたように「そんな事位で喜ぶなよ」と笑っていた。
「ルナってなんか変わってるよな。変な所で妙に遠慮してくるし、感動する場所もおかしいし」
「酷いっ! それ、馬鹿にしてるの?」
私がむっとした顔を向けると「馬鹿になんてしてないよ。ただ変わってるって思っただけだ」とさらりと答えた。
どう考えても同じ意味にしか聞こえない。
私は不満そうな顔でゼロを見つめていた。
「ルナの怒った顔なんて全然怖くない」
「……っ!!」
ゼロは私の事をからかうようにヘラっと笑っていた。
(ゼロ、意地悪になる回数増えてる気がする……。気のせいじゃないよね。でもそれだけ親しくなれたってことなのかな……)
彼とのこういったやり取りは悔しいけど、本気で嫌がっているわけではなかった。
自分の感情を抑えることなくぶつけられる相手がいることは、気持ち的にも楽だし本当に仲間って感じがして私は嬉しいんだと思う。
だからこそ、ゼロがこういう性格で良かったとすら思えて来てしまう。
「……イザナが惹かれた理由、なんとなく分かる気がする」
「え?」
ゼロはボソッと小さく呟いた。
私が聞き返すと「なんでもない」と答えた。
「置いて行かれないように、少し急ぐか」
「うん……」
私達が遅れて行くと、先に前を進んでいた二人は待っていてくれた。
「悪い、遅れた。待っててくれて助かったよ」
「ごめんなさいっ……。 私が歩くのに手間取ってしまったせいで……」
私がすまなさそうに言うと、イザナは「大丈夫だよ」と優しく返してくれた。
そしてイザナはこちらに近付いて来ると、ゼロに掴まっている私の手を静かに剥がした。
(え……?)
「ゼロ、この先は一直線だからソフィアと先に進んでくれるか? 私は後ろからルナと行く」
「……っ」
私はその言葉に驚いてイザナの方に視線を上げた。
「ああ、了解だ」
ゼロはそう答えると、ソフィアの方に行き先に歩き始めた。
「ここまで来たら魔物も出ないだろうし、警戒の必要もなさそうだ。ルナのペースに合わせて歩くから、無理して早く歩かなくていいよ」
「うん、ありがとう」
私はイザナの腕に掴まると、ゆっくりと歩き始めた。
ゼロ達はどんどん前に進んで行き距離が開いていく。
時々、後ろをソフィアが心配そうに振り返っている様子だった。
「寒くはないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「イザナは……」
「どうした?」
「ソフィアさんとは、そのっ……仲が良かったの?」
「そうだな。学生時代はそれなりに仲の良い友人の一人だったかな」
イザナは昔を思い出すように答えた。
私は不安そうな顔で「それだけ?」と聞いてみた。
少なくとも私には、それ以上の関係に見えたからだ。
戦闘の息もぴったりだったから、変に気になってしまった。
「授業で良くペアになっていたかな。実践訓練の時にね。二年間ずっとソフィアとペアを組んでいたから、お互いの戦い方が分かっているんだろうな」
「そうだったんだ……」
私の知らないイザナをソフィアは知っている。
そんな風に思うと、ソフィアが羨ましいと思ってしまう。
「もしかして、ルナは嫉妬でもしてくれたの?」
「……っ」
イザナは冗談ぽく言っていたけど、私は思わず慌てた態度を見せてしまった。
「ルナは分かりやすいね。本当に可愛いな。だけど、それは私も似たようなものだな」
イザナは自嘲する様に笑った。
(それって……)
「明かりが見えて来たな、もう少しで抜けられそうだな」
「あ、ほんとだ……」
顔を前に向けると、先の方に小さな明かりが見えていた。
きっとあれが出口なんだろう。
漸く外に出れるのだと思うと、ほっとして表情が緩んでいく。
しかし、不意にその光が遮られたかと思えば、イザナの顔が迫って来て一瞬唇に柔らかいものが触れた。
「……っ、こ、こんな所でっ!」
「ふふっ、大丈夫だよ。二人はずっと前を歩いているし気付いては無いはずだ」
私が頬を薄っすらと染めて慌て始めると、イザナは私の反応を満足そうに眺めていた。
「ルナはいつでも期待を裏切らない反応をするよな。本当に可愛いね。もっとその照れた顔を見ていたいけど、今は我慢するよ」
イザナは不敵な笑みを浮かべて意地悪そうに言った。
そして耳元で「二人だけの時に沢山見せて」と続けて囁いた。
その瞬間、私の顔は熱に侵されていく。
(ゼロも意地悪だけど、一番意地悪なのはイザナなのかも……)
奥の光が大きく広がっていく。
そして、私達は無事に旧坑道を抜けることが出来たのだった。
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