聖女が不要になった世界で王子と結婚しましたが、私は必要ないみたいなので出て行きます【R18】

Rila

文字の大きさ
上 下
2 / 68
第一章:聖女から冒険者へ

1.不要になった聖女の末路

しおりを挟む
 私の名前は、有栖川ありすがわ月菜るな
 黒髪ロングストレートに色素の薄い茶色の瞳。
 まだ幼さが残る顔立ちで、周囲からしたらどこにでもいそうな平凡な見た目をしているのだと思う。

 五年前、私は突然この世界にやって来た。
 というよりは、強引に連れて来られたと言った方が正しい表現な気がする。
 当時の私はまだ十五歳で、突然の出来事に戸惑い、直ぐには受け入れる事なんて到底出来なかった。

 私は何人もの優秀な魔術師の手によって、聖女としてこの世界に召喚された。
 そして城にいる偉い人達から『この世界を災厄から救ってほしい』とか「救えるのは聖女である君だけだ』と散々説得させられた。
 私よりも何倍も年上の人達に囲まれて、あの時は怖くて仕方が無かった。
 断ることも出来ず、世界を守るために戦う事を決意する他なかった。

 この世界は私が元いた場所とは大きく文明が異なっていて、慣れるのにも時間がかかった。
 そして元の世界に戻れないと知った時は絶望した。
 沢山泣いたし、この世界に私を呼んだ人間を恨んだりもした。
 だけどそんなことをしたって、元の世界に帰れる方法が見つかるはずもなかった。

 そんな一番辛かった時に傍に居てくれたのがイザナだった。
 イザナ・デニス・ベルヴァルト、それが彼の名前だ。
 彼はこの国の王太子であり、私と一緒に戦う仲間でもあった。
 金髪のサラサラな長い髪を後ろで一纏めにしていて、瞳の色は深い碧色。
 色白で端麗な顔立ちをしていて、その風貌は誰が見ても王子そのものだった。

 そんなイザナはいつも優しくて、私の話を何でも聞いてくれた。
 私はいつしかそんなイザナの事が好きになってしまった。

 そして召喚されてから三年後、災厄から世界を守り再びこの世界に平和が戻った。
 私は世界を救った聖女として称えられ、多くの人々から賞賛された。
 その功績から王太子であったイザナとの結婚が決まった。

 当時イザナには婚約者がいたのだが国王の命によりそうなった。
 私はイザナの事が好きだったから素直に喜んだ。
 イザナも嫌そうな素振りはしていなかったし、私の事を大事にするって約束をしてくれた。
 私達はお互いを想い合っているのだとずっと信じていた。

 だけど現実はそうでは無かった。
 イザナと結婚して二年経つが、私は一度もイザナと肌を重ねたことがない。
 いわゆる『白い結婚』というものらしい。

 結婚初夜は私が緊張していたから、気を遣ってくれたんだと思っていた。
 だけど、それからもイザナは私に手を出すことは一切なかった。
 それどころか部屋は別々のままで、最近はお互い忙しくて会う時間さえ殆どない。
 最後にイザナと話をしたのは、一週間以上前な気がする。

 私は本当にイザナに愛されているのだろうか。
 そもそもこの結婚は国王が強引に決めたものであり、イザナが望んだものではない。
 それに貴族でもない私が、王妃なんて務まるとは到底思えない。

 イザナと結婚すると同時に王妃教育が始まった。
 この国についての歴史や、他国との関係についての話を延々と聞かされた。
 聞きなれない単語が飛び交い、頭の中は混乱でパンク寸前になる。

 次に社交界に出れるように、礼儀作法を教え込まれる。
 私は元々貴族ではなかった為、全て一から覚える事となり、当然上手く出来ずに苦労することになった。
 時には怒鳴られることもあり、怖かったし嫌で仕方がなくて、今すぐにここから逃げ出したい気分でいっぱいだった。

 私には王宮に知り合いはいない。
 唯一話せるイザナも、すれ違いばかりでまともに話せる時間なんてなかった。
 相談出来る相手もいないまま、私の中には不安とストレスだけが溜まっていく。

 そんな時だった。
 廊下を歩いていると扉が少し開いていて、中から明るい声が響いていた。
 扉の隙間から覗いてみると、そこには楽しそうに談笑するイザナと元婚約者だった公爵令嬢のティアラの姿があった。

 あんなに楽しそうに話すイザナの姿を見たのは久しぶりだった。
 私の前ではあんな顔、もう随分見せていない。
 胸の奥が痛くなり、私は直ぐにその場から立ち去った。

 私は本当にイザナと結婚して良かったのだろうか……。

 平和を取り戻したこの世界では、聖女なんて存在はもう要らない。
 それならば、私がここに居る意味はあるのだろうか。
 何の為に自分が今ここにいるのかが分からなくなった。

 私はイザナに話し合いの時間を作って貰えるように頼んだ。
 彼だけはちゃんと私の声を聞いてくれる、分かってくれると信じていたから。
 だけど多忙を理由にされ、結局その時間を作って貰うことは叶わなかった。

 きっとそれが彼の答えなんだと思った。
 私の気持ちなんて誰も分かってくれる人はいない。
 ここには私の居場所なんて無い。
 それならば……、出て行こう。
 私はそう決心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...