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22.許さない
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私はハーラルトの部屋に来ていた。
ちゃんと話をしないといけないのは分かっているけど、どう切り出していいのかが分からない。
「リリー?焦らなくていいよ」
ソファーに隣同士で腰掛けながら、ハーラルトは私の手の上に掌を被せる様にして握ってくれた。
私の気持ちを落ち着かせるかの様に。
「実は…この前図書室に本を返しに行った時に、偶然…マティアスに会ったの…」
「そうか…」
「その時にサラ様との婚約が白紙に戻せそうって事を言ってた」
「……そういう事か。だからサラは焦ってリリーの元に乗り込んで来たんだな」
ハーラルトは納得した様に呟いた。
私は様子を伺うようにハーラルトの顔を見つめていた。
「多分…そうさせたのは私かも…」
「どういう事?」
「マティアスは…今でも私の事……」
「好きだって言われた?」
私が中々言葉に出せずに迷ってると先にハーラルトが聞いて来た。
私はその言葉を聞いて困った顔をしてしまう。
「元々サラが強引に決めた婚約だった訳だから、ある意味彼も被害者なんだろうな。リリーは今でも彼が好きか?」
「好きじゃない…!マティアスは…私がどれだけ傷ついたかなんて全然気づいてない。婚約解消する時だって詳しい事は何も教えてくれないまま離れて行った。それで今更好きだとか言われても…困るだけなのに…自分勝手すぎるよ」
私は思い出すとなんだか悔しくなり、ぎゅっと掌を握りしめた。
「そうだな」
ハーラルトは落ち着いた声でそう一言だけ呟いた。
私はそんなハーラルトが気になり再びハーラルトの顔を覗き込む様に見つめた。
「……どうした?」
「ハルは…どうしてそんなに冷静なの?」
私はこの話をしたら責められるんじゃないかと思っていた。
全く動揺しないハーラルトが意外過ぎて思わず聞いてしまった。
「僕からも話さないといけない事があるんだ」
「え…?」
それからハーラルトは暫く黙ったまま何かを考えている様だった。
私はハーラルトが話始めるのをただじっと見つめながら待っていた。
「僕はサラと婚約するはずだったんだ」
突然の言葉に私は驚き何も言葉が出て来なかった。
「本来なら、君の元婚約者であるマティアス・ライムントではなく僕がサラの婚約者になる予定だった。サラがずっと前から君の婚約者の事を好きだったことは知っていた。もしサラが彼と婚約しれくれれば、リリーとの婚約は白紙に戻る。そうなれば僕はリリーを手に入れられると思った」
「……何の…話を…しているの?」
私は動揺して声が震えていた。
「そうなれば良いと思ってたのは認めるよ。だけどその話をサラにされた時は断った。僕には自分の手でリリーを傷つける真似なんてしたくは無かったから。だけど暫くしてそれが現実になった」
「………」
「僕はサラを真っ先に問い詰めたよ。そもそもランデルス公爵の力だけでは君達の婚約を白紙にまで戻せるとは思っていなかったからね。だからサラは僕を頼って協力関係を結ぼうとしていたんだと思うよ。そしてサラは僕の兄である王太子に相談をした。兄さんは僕がリリーの事を幼い頃からずっと好きな事を知っていたから、僕の為だと思って手を貸した。そのせいで君達の婚約が白紙に戻った。僕の意志では無かったけど、結果的には同じ事。僕がリリーの婚約を壊したも同然なんだよ」
「……うそ……」
私の目からは涙が溢れていた。
ハーラルトが私達の婚約を壊したの…?
そんなの信じられない。
「リリーを傷つけた原因を作ったのは僕だ。サラを止められなかった事、本当に申し訳ないと思ってる。だから僕には彼を責める権利はない。もし君が彼の元に戻りたいと言うのなら…止めるつもりはないよ」
「っ……どうしてっ…」
視界が涙でぼやけて良く見えなかった。
ハーラルトが今どんな表情をしているのは分からない。
「……それならっ…どうして…私の事…抱いたの?」
「僕はこんな事になってしまって悪いと思っている反面、リリーを手に入れられるチャンスを得られたことに喜んでいた。好きだったんだ…、どうしようもない位…リリーが欲しかった。だから逃げられない状況まで追い込んで僕から離れられないようにしたかった。……今だって本当は彼の元になんて返したくはない…っ…」
ハーラルトの言葉は悲痛の叫びの様に聞こえた。
今までこんな風に喋るハーラルトなんて見たことが無い。
「私は今更マティアスの元に戻るつもりはない……全部ハルのせいだって言うなら…責任取ってよ」
「……責任、か。それなら二人が再び婚約を結べるように…」
「違うよ、私はそんな事望んでない。もう誰かに裏切られるのは嫌なの!本当に私の事を好きって言うなら…私から離れようとしないで…。もう一人にしないでっ…」
私が涙でぐちゃぐちゃの顔で懇願する様に言うと、ハーラルトに強く抱きしめられた。
「リリーは僕を許してくれるのか…?」
「許さないっ…、許さないから…傍に居て欲しいっ…」
もう今更戻るなんて出来ない。
だって私はもうハーラルトに心を奪われてしまったから。
離れることは許さない。
「もう二度と離れようなんて思わない。ずっとリリーの傍にいると誓うよ…」
ちゃんと話をしないといけないのは分かっているけど、どう切り出していいのかが分からない。
「リリー?焦らなくていいよ」
ソファーに隣同士で腰掛けながら、ハーラルトは私の手の上に掌を被せる様にして握ってくれた。
私の気持ちを落ち着かせるかの様に。
「実は…この前図書室に本を返しに行った時に、偶然…マティアスに会ったの…」
「そうか…」
「その時にサラ様との婚約が白紙に戻せそうって事を言ってた」
「……そういう事か。だからサラは焦ってリリーの元に乗り込んで来たんだな」
ハーラルトは納得した様に呟いた。
私は様子を伺うようにハーラルトの顔を見つめていた。
「多分…そうさせたのは私かも…」
「どういう事?」
「マティアスは…今でも私の事……」
「好きだって言われた?」
私が中々言葉に出せずに迷ってると先にハーラルトが聞いて来た。
私はその言葉を聞いて困った顔をしてしまう。
「元々サラが強引に決めた婚約だった訳だから、ある意味彼も被害者なんだろうな。リリーは今でも彼が好きか?」
「好きじゃない…!マティアスは…私がどれだけ傷ついたかなんて全然気づいてない。婚約解消する時だって詳しい事は何も教えてくれないまま離れて行った。それで今更好きだとか言われても…困るだけなのに…自分勝手すぎるよ」
私は思い出すとなんだか悔しくなり、ぎゅっと掌を握りしめた。
「そうだな」
ハーラルトは落ち着いた声でそう一言だけ呟いた。
私はそんなハーラルトが気になり再びハーラルトの顔を覗き込む様に見つめた。
「……どうした?」
「ハルは…どうしてそんなに冷静なの?」
私はこの話をしたら責められるんじゃないかと思っていた。
全く動揺しないハーラルトが意外過ぎて思わず聞いてしまった。
「僕からも話さないといけない事があるんだ」
「え…?」
それからハーラルトは暫く黙ったまま何かを考えている様だった。
私はハーラルトが話始めるのをただじっと見つめながら待っていた。
「僕はサラと婚約するはずだったんだ」
突然の言葉に私は驚き何も言葉が出て来なかった。
「本来なら、君の元婚約者であるマティアス・ライムントではなく僕がサラの婚約者になる予定だった。サラがずっと前から君の婚約者の事を好きだったことは知っていた。もしサラが彼と婚約しれくれれば、リリーとの婚約は白紙に戻る。そうなれば僕はリリーを手に入れられると思った」
「……何の…話を…しているの?」
私は動揺して声が震えていた。
「そうなれば良いと思ってたのは認めるよ。だけどその話をサラにされた時は断った。僕には自分の手でリリーを傷つける真似なんてしたくは無かったから。だけど暫くしてそれが現実になった」
「………」
「僕はサラを真っ先に問い詰めたよ。そもそもランデルス公爵の力だけでは君達の婚約を白紙にまで戻せるとは思っていなかったからね。だからサラは僕を頼って協力関係を結ぼうとしていたんだと思うよ。そしてサラは僕の兄である王太子に相談をした。兄さんは僕がリリーの事を幼い頃からずっと好きな事を知っていたから、僕の為だと思って手を貸した。そのせいで君達の婚約が白紙に戻った。僕の意志では無かったけど、結果的には同じ事。僕がリリーの婚約を壊したも同然なんだよ」
「……うそ……」
私の目からは涙が溢れていた。
ハーラルトが私達の婚約を壊したの…?
そんなの信じられない。
「リリーを傷つけた原因を作ったのは僕だ。サラを止められなかった事、本当に申し訳ないと思ってる。だから僕には彼を責める権利はない。もし君が彼の元に戻りたいと言うのなら…止めるつもりはないよ」
「っ……どうしてっ…」
視界が涙でぼやけて良く見えなかった。
ハーラルトが今どんな表情をしているのは分からない。
「……それならっ…どうして…私の事…抱いたの?」
「僕はこんな事になってしまって悪いと思っている反面、リリーを手に入れられるチャンスを得られたことに喜んでいた。好きだったんだ…、どうしようもない位…リリーが欲しかった。だから逃げられない状況まで追い込んで僕から離れられないようにしたかった。……今だって本当は彼の元になんて返したくはない…っ…」
ハーラルトの言葉は悲痛の叫びの様に聞こえた。
今までこんな風に喋るハーラルトなんて見たことが無い。
「私は今更マティアスの元に戻るつもりはない……全部ハルのせいだって言うなら…責任取ってよ」
「……責任、か。それなら二人が再び婚約を結べるように…」
「違うよ、私はそんな事望んでない。もう誰かに裏切られるのは嫌なの!本当に私の事を好きって言うなら…私から離れようとしないで…。もう一人にしないでっ…」
私が涙でぐちゃぐちゃの顔で懇願する様に言うと、ハーラルトに強く抱きしめられた。
「リリーは僕を許してくれるのか…?」
「許さないっ…、許さないから…傍に居て欲しいっ…」
もう今更戻るなんて出来ない。
だって私はもうハーラルトに心を奪われてしまったから。
離れることは許さない。
「もう二度と離れようなんて思わない。ずっとリリーの傍にいると誓うよ…」
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