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5.見たくない光景

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今日の授業が終わり、周りの生徒達は帰る準備をしていた。
私も鞄に教材をしまっていると、私の席の前にハーラルトが来て声を掛けられた。

「リリー嬢、体調は大丈夫か?」
「はい、問題無いです。気にかけてくれてありがとうございます」
ハーラルトは何かと私の体調を気にかけてくれる。

「それならこれから少し勉強会をしようか」
「よろしくお願いします」

教室でするより資料がある図書室の方が手間が省けると言う事で私達は図書室に向かっていた。
この時間は下校時間で沢山の生徒達が帰っていく姿が見える。

廊下を歩きながら不意に窓の外を見ると、見たくなかったものが視界に入ってしまった。
その瞬間私の足が止まった。

「どうした…?」
「………」
私の異変に気付いたハーラルトは私の視線を辿る様に窓の外に目を向けた。
私はただ黙ったまま、外を眺めていた。

そこにいたのは元婚約者であるマティアスと、新しく決まった婚約者であるサラの姿だった。
サラはマティアスの腕に抱き着く様にして密着しながら歩いていた。
後ろ姿で表情までは確認出来なかったけど、仲良さそうな姿を見て胸の奥が苦しくなった。

「……?」
突然私の視界が真っ暗になった。
どうやら隣にいたハーラルトの掌が私の視界を塞いでいる様だった。
どうしてこんなことをしているのか理由は直ぐにわかった。

「そんな辛そうな顔をする位なら、見なくていい」
「………っ…」
その言葉で目の奥が熱くなって、耐え切れずに涙が溢れた。

「おかしいな…もう大丈夫だと思ってたのに……っ…」
目から溢れる涙は止まらなかった。

マティアスの事はもう忘れたつもりでいた。
会わなければ忘れられると思っていた。
だけどこうやって一目見ただけで、思い出してしまう。
あの一緒にいた楽しかった日々が頭の中で蘇る。
思い出したくないのに次から次へと溢れる様に浮かんできてしまう。

私は全然吹っ切れてなんていないと思い知らされる。
忘れるなんて…無理だ。

「無理するな…、泣きたい時は好きなだけ泣けばいい」
「うっ……っ…」
ハーラルトは優しい声でそう言うと私の事を抱きしめてくれた。
そして宥める様に私の髪を優しく撫でてくれた。

私が泣き止むまで、ずっと。
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