王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

文字の大きさ
上 下
119 / 133

119.シルヴィアの本音①

しおりを挟む
 移動中、アイロスを挟むようにして三人並んで歩いていた。

 私とシルヴィアはそれほど親しいわけではない。
 だから、間にアイロスが入ってくれて正直ほっとしている。

「あっ、そういえば、エミリー様はご存知ですか?」

 突然、シルヴィアは思い出したように話を切り出す。

「近々、ザシャの婚約者が発表されるらしいですね。カトリナ様は辞退されるって噂もあるし。やっぱり、選ばれるのはエミリー様かな」
「えっ……」

 シルヴィアの言葉を聞いて、私の心臓はドキッと飛び跳ねる。
 いきなりこんな話題を振られるだなんて予想していなかったので、すぐに言葉が出てこない。

(どうしよう……)

 私を選んでくれるとザシャは言ってくれているが、公に発表していないことを勝手に口外していいものだろうか。
 たぶん、良くないとはずだ。

(なんて答えればいいの……)

 嘘をつくのも気が引けて、私が狼狽えていると隣にいたアイロスが口を開いた。

「まだ決定していないことをエミリーに聞いてどうする。決めるのはこいつじゃない」
「それは、そうだけどっ……。でも、気になるんだもの。お兄様はザシャの側近なんだから、なにか知っているんでしょ? 少しくらい教えてくれてもいいじゃないっ!」

 アイロスに冷たい態度を取られると、シルヴィアは不満そうにむっとした顔を浮かべてすぐに言い返す。
 
「知っていたとしても教えるわけがない。少しは俺の立場も理解してくれ」
「うっ……」

 さすがアイロスというべきか、うまくシルヴィアの質問を回避したようだ。
 シルヴィアはまだ不満そうな顔をしているが、それ以上聞くことはなかったので一応は納得したのだろう。
 その様子を見て、私は一人ほっとしていた。
 
「ザシャの婚約者についての話は聞かないことにするわ。……だけど、お願いがあるの」

 シルヴィアは突然足を止めて、静かな声で呟いた。
 それに気づいた私たちも足を止めるとシルヴィアのほうに視線を向ける。
 アイロスは特に表情を変えることなく「なんだ?」と問い返す。

「もし……私が選ばれなかったら、やっぱりあの家に戻らないといけないわよね」

 シルヴィアはどこか苦しそうに微笑んでいて、まるで帰りたくないと訴えているように感じた。
 
 私はシルヴィアがどういった生活を送っていたのかはあまりよく知らない。
 公爵家という高貴な家に生まれて裕福な暮らしをしているはずなのに、彼女は幸せではないのだろうか。
 
(シルヴィア様……、急にどうしたのかしら)

 シルヴィアのことが心配だけど、私はこの件では部外者だ。
 それに、彼女が答えを求めているのは私ではなくアイロスであるため、大人しく二人の様子を眺めていることしかできない。
 しかし、肝心のアイロスは黙ったままだ。

「私もお兄様みたいに王宮に勤めてみようかしら。体は弱いけど、私って結構優秀なのよ! ねえ、お兄様からザシャに頼んでもらえない? 事務作業ならなんだってやれるわ……!」
「おい、突然なにを言っているんだ」

 突然、シルヴィアにこんなお願い事をされて、さすがのアイロスも驚いている様子だ。
 そして、私も急に態度を変えたシルヴィアに困惑している。

「もうあそこには帰りたくないっ……! 私、側室でもいい。お願いっ! ザシャに頼んで。お兄様の言葉なら聞いてくれるかも……」
「ヴィー、落ち着け。急にどうしたんだ」
 
 アイロスは突然取り乱したシルヴィアを落ち着かせるように、彼女の体を抱きしめた。
 すると、彼女はアイロスの腕の中で周囲を気にすることなく声を上げて泣き出してしまう。

 突然の出来事を目の当たりにして、私はなにも出来ず、ただその場に立ち尽くし二人の様子を眺めていた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...