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119.シルヴィアの本音①
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移動中、アイロスを挟むようにして三人並んで歩いていた。
私とシルヴィアはそれほど親しいわけではない。
だから、間にアイロスが入ってくれて正直ほっとしている。
「あっ、そういえば、エミリー様はご存知ですか?」
突然、シルヴィアは思い出したように話を切り出す。
「近々、ザシャの婚約者が発表されるらしいですね。カトリナ様は辞退されるって噂もあるし。やっぱり、選ばれるのはエミリー様かな」
「えっ……」
シルヴィアの言葉を聞いて、私の心臓はドキッと飛び跳ねる。
いきなりこんな話題を振られるだなんて予想していなかったので、すぐに言葉が出てこない。
(どうしよう……)
私を選んでくれるとザシャは言ってくれているが、公に発表していないことを勝手に口外していいものだろうか。
たぶん、良くないとはずだ。
(なんて答えればいいの……)
嘘をつくのも気が引けて、私が狼狽えていると隣にいたアイロスが口を開いた。
「まだ決定していないことをエミリーに聞いてどうする。決めるのはこいつじゃない」
「それは、そうだけどっ……。でも、気になるんだもの。お兄様はザシャの側近なんだから、なにか知っているんでしょ? 少しくらい教えてくれてもいいじゃないっ!」
アイロスに冷たい態度を取られると、シルヴィアは不満そうにむっとした顔を浮かべてすぐに言い返す。
「知っていたとしても教えるわけがない。少しは俺の立場も理解してくれ」
「うっ……」
さすがアイロスというべきか、うまくシルヴィアの質問を回避したようだ。
シルヴィアはまだ不満そうな顔をしているが、それ以上聞くことはなかったので一応は納得したのだろう。
その様子を見て、私は一人ほっとしていた。
「ザシャの婚約者についての話は聞かないことにするわ。……だけど、お願いがあるの」
シルヴィアは突然足を止めて、静かな声で呟いた。
それに気づいた私たちも足を止めるとシルヴィアのほうに視線を向ける。
アイロスは特に表情を変えることなく「なんだ?」と問い返す。
「もし……私が選ばれなかったら、やっぱりあの家に戻らないといけないわよね」
シルヴィアはどこか苦しそうに微笑んでいて、まるで帰りたくないと訴えているように感じた。
私はシルヴィアがどういった生活を送っていたのかはあまりよく知らない。
公爵家という高貴な家に生まれて裕福な暮らしをしているはずなのに、彼女は幸せではないのだろうか。
(シルヴィア様……、急にどうしたのかしら)
シルヴィアのことが心配だけど、私はこの件では部外者だ。
それに、彼女が答えを求めているのは私ではなくアイロスであるため、大人しく二人の様子を眺めていることしかできない。
しかし、肝心のアイロスは黙ったままだ。
「私もお兄様みたいに王宮に勤めてみようかしら。体は弱いけど、私って結構優秀なのよ! ねえ、お兄様からザシャに頼んでもらえない? 事務作業ならなんだってやれるわ……!」
「おい、突然なにを言っているんだ」
突然、シルヴィアにこんなお願い事をされて、さすがのアイロスも驚いている様子だ。
そして、私も急に態度を変えたシルヴィアに困惑している。
「もうあそこには帰りたくないっ……! 私、側室でもいい。お願いっ! ザシャに頼んで。お兄様の言葉なら聞いてくれるかも……」
「ヴィー、落ち着け。急にどうしたんだ」
アイロスは突然取り乱したシルヴィアを落ち着かせるように、彼女の体を抱きしめた。
すると、彼女はアイロスの腕の中で周囲を気にすることなく声を上げて泣き出してしまう。
突然の出来事を目の当たりにして、私はなにも出来ず、ただその場に立ち尽くし二人の様子を眺めていた。
私とシルヴィアはそれほど親しいわけではない。
だから、間にアイロスが入ってくれて正直ほっとしている。
「あっ、そういえば、エミリー様はご存知ですか?」
突然、シルヴィアは思い出したように話を切り出す。
「近々、ザシャの婚約者が発表されるらしいですね。カトリナ様は辞退されるって噂もあるし。やっぱり、選ばれるのはエミリー様かな」
「えっ……」
シルヴィアの言葉を聞いて、私の心臓はドキッと飛び跳ねる。
いきなりこんな話題を振られるだなんて予想していなかったので、すぐに言葉が出てこない。
(どうしよう……)
私を選んでくれるとザシャは言ってくれているが、公に発表していないことを勝手に口外していいものだろうか。
たぶん、良くないとはずだ。
(なんて答えればいいの……)
嘘をつくのも気が引けて、私が狼狽えていると隣にいたアイロスが口を開いた。
「まだ決定していないことをエミリーに聞いてどうする。決めるのはこいつじゃない」
「それは、そうだけどっ……。でも、気になるんだもの。お兄様はザシャの側近なんだから、なにか知っているんでしょ? 少しくらい教えてくれてもいいじゃないっ!」
アイロスに冷たい態度を取られると、シルヴィアは不満そうにむっとした顔を浮かべてすぐに言い返す。
「知っていたとしても教えるわけがない。少しは俺の立場も理解してくれ」
「うっ……」
さすがアイロスというべきか、うまくシルヴィアの質問を回避したようだ。
シルヴィアはまだ不満そうな顔をしているが、それ以上聞くことはなかったので一応は納得したのだろう。
その様子を見て、私は一人ほっとしていた。
「ザシャの婚約者についての話は聞かないことにするわ。……だけど、お願いがあるの」
シルヴィアは突然足を止めて、静かな声で呟いた。
それに気づいた私たちも足を止めるとシルヴィアのほうに視線を向ける。
アイロスは特に表情を変えることなく「なんだ?」と問い返す。
「もし……私が選ばれなかったら、やっぱりあの家に戻らないといけないわよね」
シルヴィアはどこか苦しそうに微笑んでいて、まるで帰りたくないと訴えているように感じた。
私はシルヴィアがどういった生活を送っていたのかはあまりよく知らない。
公爵家という高貴な家に生まれて裕福な暮らしをしているはずなのに、彼女は幸せではないのだろうか。
(シルヴィア様……、急にどうしたのかしら)
シルヴィアのことが心配だけど、私はこの件では部外者だ。
それに、彼女が答えを求めているのは私ではなくアイロスであるため、大人しく二人の様子を眺めていることしかできない。
しかし、肝心のアイロスは黙ったままだ。
「私もお兄様みたいに王宮に勤めてみようかしら。体は弱いけど、私って結構優秀なのよ! ねえ、お兄様からザシャに頼んでもらえない? 事務作業ならなんだってやれるわ……!」
「おい、突然なにを言っているんだ」
突然、シルヴィアにこんなお願い事をされて、さすがのアイロスも驚いている様子だ。
そして、私も急に態度を変えたシルヴィアに困惑している。
「もうあそこには帰りたくないっ……! 私、側室でもいい。お願いっ! ザシャに頼んで。お兄様の言葉なら聞いてくれるかも……」
「ヴィー、落ち着け。急にどうしたんだ」
アイロスは突然取り乱したシルヴィアを落ち着かせるように、彼女の体を抱きしめた。
すると、彼女はアイロスの腕の中で周囲を気にすることなく声を上げて泣き出してしまう。
突然の出来事を目の当たりにして、私はなにも出来ず、ただその場に立ち尽くし二人の様子を眺めていた。
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