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117.覚悟
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お互いの気持ちを再確認するようにザシャと体を繋げた。
彼の体温に包まれていると、どれだけ自分がザシャに惹かれているのかを思い知らされ、離れたくないという感情が大きくなっていく。
「エミリー、そろそろ戻らないと」
「……はい」
彼に抱かれた後、ザシャは私を寝かしつけるために暫く傍についていてくれた。
その間、ずっと手を握っていてくれていて、私は離したくなくてしっかりと指を絡めていた。
当然、眠気なんていつまで経っても訪れない。
この手を離してしまえば、朝には彼の姿がなくなっていることを分かっていたから。
いつまでも寝ようとしない私に対して、ザシャは困ったように呟いた。
「また手紙を書く。それに私の心はいつだってエミリーだけのものだ。だから、そんなに寂しそうな顔をしないで」
「……っ」
ザシャは困った顔を浮かべると、空いているもう一方の掌で私の頭を優しく撫でた。
私は決して彼を困らせたいわけではない。
だけど、彼に愛された余韻に浸っていると、離れたくないという気持ちがますます大きくなってしまう。
(ザシャさんも辛いのを我慢しているのに、困らせてはだめよね)
私は心の中で自分に言い聞かせると、絡みつけていた指を緩めて彼の掌を解放した。
そして、私は笑顔をつくる。
「困らせてしまってごめんなさい。私、たくさん充電できましたっ! だから、もう大丈夫です」
「…………」
きっと、ザシャには私が強がって笑顔を作っていることはお見通しなのだろう。
一瞬、彼の表情が歪み苦しげな顔へと変わる。
そして、気が付くと私は彼の胸の中できつく抱きしめられていた。
「ザシャ、さん?」
驚きから、私は思わず声をかけてしまったが、彼の返答はない。
だけど、その腕の力強さから、彼の覚悟を察することは出来た。
暫くすると、抱きしめている腕が緩まり、彼の体は私から離れていく。
「私も、充電出来たよ。ありがとう、エミリー」
彼は柔らかく微笑むと、私の唇にそっと触れるだけのキスをした。
再び見た彼の表情は、すっきりとした穏やかなものへと変わっていた。
何かを吹っ切ったかのような、覚悟を決めた凛々しい姿に見えて、私の不安も少しだけ薄れていく。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るよ。何かあればアイロスに伝えて。それから、暫くの間、出来る限り離宮からは出ないでほしい」
「分かりました」
きっと、私の身を案じてそう言ったのだろう。
それに、私が身勝手に動いてしまえば、これから彼がしようとしていることの妨げになってしまうかもしれない。
私はそう考えて、素直にその言葉に従うことにした。
「分かってくれてありがとう」
ザシャは最後に「愛している」と伝え、私の瞼にそっと口付けを落とし、この部屋を出て行った。
彼がいなくなった室内は静寂に包まれ、急に寂しさが込み上げてくる。
だけど、私の体には彼の温もりがまだ残っているし、心はいつだって繋がっていると信じている。
「大丈夫。きっと全て上手くいくに違いないわ」
さっきのザシャの顔を頭の中で思い浮かべると、私の表情も次第に明るくなる。
再びベッドに潜り込み、静かに目を閉じた。
私はザシャの温もりを思い出すように眠りへと落ちていった。
彼の体温に包まれていると、どれだけ自分がザシャに惹かれているのかを思い知らされ、離れたくないという感情が大きくなっていく。
「エミリー、そろそろ戻らないと」
「……はい」
彼に抱かれた後、ザシャは私を寝かしつけるために暫く傍についていてくれた。
その間、ずっと手を握っていてくれていて、私は離したくなくてしっかりと指を絡めていた。
当然、眠気なんていつまで経っても訪れない。
この手を離してしまえば、朝には彼の姿がなくなっていることを分かっていたから。
いつまでも寝ようとしない私に対して、ザシャは困ったように呟いた。
「また手紙を書く。それに私の心はいつだってエミリーだけのものだ。だから、そんなに寂しそうな顔をしないで」
「……っ」
ザシャは困った顔を浮かべると、空いているもう一方の掌で私の頭を優しく撫でた。
私は決して彼を困らせたいわけではない。
だけど、彼に愛された余韻に浸っていると、離れたくないという気持ちがますます大きくなってしまう。
(ザシャさんも辛いのを我慢しているのに、困らせてはだめよね)
私は心の中で自分に言い聞かせると、絡みつけていた指を緩めて彼の掌を解放した。
そして、私は笑顔をつくる。
「困らせてしまってごめんなさい。私、たくさん充電できましたっ! だから、もう大丈夫です」
「…………」
きっと、ザシャには私が強がって笑顔を作っていることはお見通しなのだろう。
一瞬、彼の表情が歪み苦しげな顔へと変わる。
そして、気が付くと私は彼の胸の中できつく抱きしめられていた。
「ザシャ、さん?」
驚きから、私は思わず声をかけてしまったが、彼の返答はない。
だけど、その腕の力強さから、彼の覚悟を察することは出来た。
暫くすると、抱きしめている腕が緩まり、彼の体は私から離れていく。
「私も、充電出来たよ。ありがとう、エミリー」
彼は柔らかく微笑むと、私の唇にそっと触れるだけのキスをした。
再び見た彼の表情は、すっきりとした穏やかなものへと変わっていた。
何かを吹っ切ったかのような、覚悟を決めた凛々しい姿に見えて、私の不安も少しだけ薄れていく。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るよ。何かあればアイロスに伝えて。それから、暫くの間、出来る限り離宮からは出ないでほしい」
「分かりました」
きっと、私の身を案じてそう言ったのだろう。
それに、私が身勝手に動いてしまえば、これから彼がしようとしていることの妨げになってしまうかもしれない。
私はそう考えて、素直にその言葉に従うことにした。
「分かってくれてありがとう」
ザシャは最後に「愛している」と伝え、私の瞼にそっと口付けを落とし、この部屋を出て行った。
彼がいなくなった室内は静寂に包まれ、急に寂しさが込み上げてくる。
だけど、私の体には彼の温もりがまだ残っているし、心はいつだって繋がっていると信じている。
「大丈夫。きっと全て上手くいくに違いないわ」
さっきのザシャの顔を頭の中で思い浮かべると、私の表情も次第に明るくなる。
再びベッドに潜り込み、静かに目を閉じた。
私はザシャの温もりを思い出すように眠りへと落ちていった。
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