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103.執務を手伝う①
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翌日、朝からアイロスに呼ばれて王宮に向かっていた。
昨晩はあの後直ぐに医者を呼びに行き、ザシャの具合を見て貰った。
日々の過労と寝不足が原因で、体力が低下し体調を崩したのだろうと診断された。
私も前々からそのことについては気になっていたが、ザシャは私の前では辛そうな顔は一切表には出さなかったので、大丈夫なのだと勝手に思い込んでしまっていた。
もっと早くに気付いてあげられたら……、とつい悔やんでしまう。
「ザシャさん、大丈夫かな」
「暫くはしっかり休んで貰うつもりだから、きっと直ぐに良くなるはずだ。ザシャ様が休養している間、全ての業務は止まる。それには婚約者候補と過ごす時間も含まれている。お前もザシャ様に会うのは、暫くの間は控えてくれ」
暫くの間ザシャに会えなくなるのは寂しいが、今はゆっくりと休んで貰って早く元気な姿を見せて貰いたい。
その気持ちはアイロスと同じだ。
それに私には昨日ザシャから伝えられた言葉があるから、きっと大丈夫。
「分かってます! 私だってザシャさんには早く良くなって貰いたいし。我慢ならいくらだってしますよ!」
「そうだな、お前にはこんな言葉は必要なかったな。話は変わるが、今日から暫くの間俺の補佐を頼みたい」
「補佐……?」
「ザシャ様が普段行っている執務を俺と王妃様で行うことになった。基本的に俺達がチェックをして王妃様がサインをする。詳しい話は執務室に着いたら説明するから」
アイロスは平然と話しているが、すごい内容を聞かされているような気がする。
それに王妃が同席すると言うことも、私にとってはとんでもないことだ。
まさかこんな形で会うことになるだなんて思ってもいなかった。
「えっと、執務っていつもザシャさんがしているお仕事ですよね?」
「ああ、そうだ」
「それを私がお手伝いするということですか? 王妃様と一緒に!」
「ああ、そうだ」
「……っ!!」
急にカタカタと手が震えてきてしまい、私の足はピタッと止まった。
それに気付いたアイロスは私の前に立ち、困った顔で見つめてきた。
「狼狽えても無駄だぞ。これはもう決まったことだ。王妃様がお前を是非にと押してくれたんだ」
「王妃様が、私を……?」
なんで? と言った顔をしていると、アイロスは盛大にため息を漏らした。
「お前はザシャ様の婚約者になるつもりで、今まで努力してきたのだろう。もし婚約者に決まったら、エミリーがこの仕事を手伝う機会も出てくる。だが、今回はあくまでも俺の補佐という立場で参加して貰うことになる。お前にとって良い経験になるとは思わないか?」
「あ……、なるかも」
「お前は何もしない内から余計なことを考えすぎだ。それで必要ない不安を抱えて、何のプラスにもならないことは今まで何度も経験しているから分かっているだろう」
「うっ、たしかに……」
アイロスの厳しい言葉に、思わず顔を引き攣らせてしまう。
だけど彼の言うとおりだった。
私はいつも余計な憶測に囚われ過ぎて、要らない不安に翻弄され続けてきた。
不安になるのは、きっと私に自信がないからだ。
はっきりと指摘して、導いてくれるアイロスにはいつも感謝している。
彼がいなければ、私の心は何度も簡単に折れていたことだろう。
(また余計なことを考えてしまいそうだったわ。ザシャさんの話だと、王妃様は私のことを気に入ってくれているみたいだし、不安なんて持つ必要はないのかも。それにザシャさんの仕事を手伝えるなんて、すごく名誉なことな気がする!いつか一緒に仕事が出来たら嬉しいな……)
そんな風に前向きに考え始めていくと、急にやる気が出てきた。
不安なことも、経験を積んでいけば自信へと変わる。
努力は絶対に無駄にならないことを、私はここに来て多くのことから学んだ。
(大丈夫……。きっと上手くいく!)
「アイロスさんの言うとおりでした。私、今出来ることを自分なりに頑張ってみようと思います!」
「ああ、それで充分だ。最初から全てを求めているわけじゃない。無理をする必要なんてないからな。俺も傍にいるのだから、分からないことがあれば素直に聞けば良い」
「はいっ!」
アイロスの言葉で心が大分楽になった気がする。
本当に頼れる従者だ。
ザシャが見込んだだけあると、今更ながら実感してしまった。
(やっぱり傍にいてくれるのがアイロスさんで良かったな)
昨晩はあの後直ぐに医者を呼びに行き、ザシャの具合を見て貰った。
日々の過労と寝不足が原因で、体力が低下し体調を崩したのだろうと診断された。
私も前々からそのことについては気になっていたが、ザシャは私の前では辛そうな顔は一切表には出さなかったので、大丈夫なのだと勝手に思い込んでしまっていた。
もっと早くに気付いてあげられたら……、とつい悔やんでしまう。
「ザシャさん、大丈夫かな」
「暫くはしっかり休んで貰うつもりだから、きっと直ぐに良くなるはずだ。ザシャ様が休養している間、全ての業務は止まる。それには婚約者候補と過ごす時間も含まれている。お前もザシャ様に会うのは、暫くの間は控えてくれ」
暫くの間ザシャに会えなくなるのは寂しいが、今はゆっくりと休んで貰って早く元気な姿を見せて貰いたい。
その気持ちはアイロスと同じだ。
それに私には昨日ザシャから伝えられた言葉があるから、きっと大丈夫。
「分かってます! 私だってザシャさんには早く良くなって貰いたいし。我慢ならいくらだってしますよ!」
「そうだな、お前にはこんな言葉は必要なかったな。話は変わるが、今日から暫くの間俺の補佐を頼みたい」
「補佐……?」
「ザシャ様が普段行っている執務を俺と王妃様で行うことになった。基本的に俺達がチェックをして王妃様がサインをする。詳しい話は執務室に着いたら説明するから」
アイロスは平然と話しているが、すごい内容を聞かされているような気がする。
それに王妃が同席すると言うことも、私にとってはとんでもないことだ。
まさかこんな形で会うことになるだなんて思ってもいなかった。
「えっと、執務っていつもザシャさんがしているお仕事ですよね?」
「ああ、そうだ」
「それを私がお手伝いするということですか? 王妃様と一緒に!」
「ああ、そうだ」
「……っ!!」
急にカタカタと手が震えてきてしまい、私の足はピタッと止まった。
それに気付いたアイロスは私の前に立ち、困った顔で見つめてきた。
「狼狽えても無駄だぞ。これはもう決まったことだ。王妃様がお前を是非にと押してくれたんだ」
「王妃様が、私を……?」
なんで? と言った顔をしていると、アイロスは盛大にため息を漏らした。
「お前はザシャ様の婚約者になるつもりで、今まで努力してきたのだろう。もし婚約者に決まったら、エミリーがこの仕事を手伝う機会も出てくる。だが、今回はあくまでも俺の補佐という立場で参加して貰うことになる。お前にとって良い経験になるとは思わないか?」
「あ……、なるかも」
「お前は何もしない内から余計なことを考えすぎだ。それで必要ない不安を抱えて、何のプラスにもならないことは今まで何度も経験しているから分かっているだろう」
「うっ、たしかに……」
アイロスの厳しい言葉に、思わず顔を引き攣らせてしまう。
だけど彼の言うとおりだった。
私はいつも余計な憶測に囚われ過ぎて、要らない不安に翻弄され続けてきた。
不安になるのは、きっと私に自信がないからだ。
はっきりと指摘して、導いてくれるアイロスにはいつも感謝している。
彼がいなければ、私の心は何度も簡単に折れていたことだろう。
(また余計なことを考えてしまいそうだったわ。ザシャさんの話だと、王妃様は私のことを気に入ってくれているみたいだし、不安なんて持つ必要はないのかも。それにザシャさんの仕事を手伝えるなんて、すごく名誉なことな気がする!いつか一緒に仕事が出来たら嬉しいな……)
そんな風に前向きに考え始めていくと、急にやる気が出てきた。
不安なことも、経験を積んでいけば自信へと変わる。
努力は絶対に無駄にならないことを、私はここに来て多くのことから学んだ。
(大丈夫……。きっと上手くいく!)
「アイロスさんの言うとおりでした。私、今出来ることを自分なりに頑張ってみようと思います!」
「ああ、それで充分だ。最初から全てを求めているわけじゃない。無理をする必要なんてないからな。俺も傍にいるのだから、分からないことがあれば素直に聞けば良い」
「はいっ!」
アイロスの言葉で心が大分楽になった気がする。
本当に頼れる従者だ。
ザシャが見込んだだけあると、今更ながら実感してしまった。
(やっぱり傍にいてくれるのがアイロスさんで良かったな)
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