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102.眠れない夜③
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少し弱気になってしまったが、嬉しい報告を聞けてまた明日から頑張れる気がしてきた。
肌寒いせいか、いつもに増してザシャの体温が心地よく感じる。
(今日のザシャさん、いつもよりも温かい気がする)
私は暫くの間、ザシャの腕に包まれて幸せを感じていた。
耳元から荒々しい吐息が聞こえていることに気付き、私は一人でドキドキしてしまっていた。
だけど次第に違和感を覚えて、ザシャの体を引き剥がした。
「ザシャさん?」
「……エミリー、悪い。少し目眩が」
ザシャは私の肩に顔を埋めて、弱々しい声で呟いた。
私は慌ててザシャの頬に手を触れてみると、明らかに体温が高いことに気付いた。
「熱い……。もしかして、熱があるのかも。ザシャさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。少し寝不足なだけだと思う」
「少しって……」
部屋が暗いせいではっきりとした顔色は分からないが、体調が悪いのは間違いないようだ。
寝不足が日常化していたのだろう。
「全然少しじゃないくせに……。ザシャさん、ここで少し休んでいてくださいっ! 私はアイロスさんを呼びに行ってきます」
「え、大丈夫だよ。一時的に目眩を引き起こしただけだと思うから」
私はザシャの肩を掴み体を引き剥がすと、ゆっくりとベッドに倒した。
言葉では否定しているが抵抗を見せないところから、相当に具合が悪いのかも知れない。
(どうしよう……! お医者様も連れてきた方がいいかも)
「全然大丈夫じゃありませんっ! 体が少し休ませてって、悲鳴をあげているんですよ。もしくは、寝かせてくれって泣いているのかも……」
「ふふっ、面白い表現だな」
「もうっ、笑ってる場合じゃないですよ! もっと自分の体を労ってあげてください。ザシャさんは頑張りすぎなので、少し休んだ方がいいです」
ザシャに笑われて恥ずかしくなり、勢い良く答えてしまった。
するとザシャの掌が伸びてきて私の手に触れた。
「情けないところを見せてしまったな」
「そんなことないです。私、少し外しますが、絶対にこのベッドから抜け出したりしたら駄目ですからね!」
「エミリーに怒られるなんて、新鮮でいいものだな」
「……っ」
「冗談だよ。心配してくれてありがとう、エミリー。名残惜しいけど、この手を離さないとね」
「その言い方、なんかずるい」
ザシャは離すと言いながら、私の手を未だにぎゅっと握ったままだ。
そんな態度を取られると、この手を離したくなくなってしまう。
もしかして、一人になるのが心細いのだろうか。
「こんな時でも、エミリーのことを困らせてしまいたくなるな」
「……っ、これじゃあいつまで経っても呼びに行けません」
「そうだね。だけど、エミリーの傍にいるのが一番安心するのも事実だな」
安心すると言われて、胸の奥がドキッとしてじわじわと熱くなる。
私はザシャの手を剥がすと、身を屈めて額にそっと口付けた。
「今は大人しく休んでいてください。私、やっぱり元気なザシャさんの方が好きなのでっ」
恥ずかしそうに私が小声で呟くと、ザシャは「ありがとう」と静かに答えてそっと目を閉じた。
私は「いってきます」と一言告げて私室を後にした。
その後、私はアイロスを呼びに行き、医者を連れて部屋に戻ってきた。
診断によると、思った通り過労と寝不足がたたり体調を崩したとのことだった。
その事でザシャは暫くの間休養を取ることになり、執務についてはアイロスが中心で行うことに。
助手として、私も手伝いに参加させて貰うこととなった。
そしてこのことがきっかけで、思わぬ騒動に発展していくこととなる。
肌寒いせいか、いつもに増してザシャの体温が心地よく感じる。
(今日のザシャさん、いつもよりも温かい気がする)
私は暫くの間、ザシャの腕に包まれて幸せを感じていた。
耳元から荒々しい吐息が聞こえていることに気付き、私は一人でドキドキしてしまっていた。
だけど次第に違和感を覚えて、ザシャの体を引き剥がした。
「ザシャさん?」
「……エミリー、悪い。少し目眩が」
ザシャは私の肩に顔を埋めて、弱々しい声で呟いた。
私は慌ててザシャの頬に手を触れてみると、明らかに体温が高いことに気付いた。
「熱い……。もしかして、熱があるのかも。ザシャさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。少し寝不足なだけだと思う」
「少しって……」
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「え、大丈夫だよ。一時的に目眩を引き起こしただけだと思うから」
私はザシャの肩を掴み体を引き剥がすと、ゆっくりとベッドに倒した。
言葉では否定しているが抵抗を見せないところから、相当に具合が悪いのかも知れない。
(どうしよう……! お医者様も連れてきた方がいいかも)
「全然大丈夫じゃありませんっ! 体が少し休ませてって、悲鳴をあげているんですよ。もしくは、寝かせてくれって泣いているのかも……」
「ふふっ、面白い表現だな」
「もうっ、笑ってる場合じゃないですよ! もっと自分の体を労ってあげてください。ザシャさんは頑張りすぎなので、少し休んだ方がいいです」
ザシャに笑われて恥ずかしくなり、勢い良く答えてしまった。
するとザシャの掌が伸びてきて私の手に触れた。
「情けないところを見せてしまったな」
「そんなことないです。私、少し外しますが、絶対にこのベッドから抜け出したりしたら駄目ですからね!」
「エミリーに怒られるなんて、新鮮でいいものだな」
「……っ」
「冗談だよ。心配してくれてありがとう、エミリー。名残惜しいけど、この手を離さないとね」
「その言い方、なんかずるい」
ザシャは離すと言いながら、私の手を未だにぎゅっと握ったままだ。
そんな態度を取られると、この手を離したくなくなってしまう。
もしかして、一人になるのが心細いのだろうか。
「こんな時でも、エミリーのことを困らせてしまいたくなるな」
「……っ、これじゃあいつまで経っても呼びに行けません」
「そうだね。だけど、エミリーの傍にいるのが一番安心するのも事実だな」
安心すると言われて、胸の奥がドキッとしてじわじわと熱くなる。
私はザシャの手を剥がすと、身を屈めて額にそっと口付けた。
「今は大人しく休んでいてください。私、やっぱり元気なザシャさんの方が好きなのでっ」
恥ずかしそうに私が小声で呟くと、ザシャは「ありがとう」と静かに答えてそっと目を閉じた。
私は「いってきます」と一言告げて私室を後にした。
その後、私はアイロスを呼びに行き、医者を連れて部屋に戻ってきた。
診断によると、思った通り過労と寝不足がたたり体調を崩したとのことだった。
その事でザシャは暫くの間休養を取ることになり、執務についてはアイロスが中心で行うことに。
助手として、私も手伝いに参加させて貰うこととなった。
そしてこのことがきっかけで、思わぬ騒動に発展していくこととなる。
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