王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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99.心の葛藤-sideザシャ-

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アイロスが出て行くと、再び机の上に置かれている書類に目を向けた。しかし先程の話を聞いてからは、胸の奥がもやもやして集中が出来ない。
普段なら気にかかることがあっても問題なく執務を熟せていたが、今日に限ってははそんな気持ちにすらなれなかった。

きっと今頃エミリーは不安を抱えているはずだろう。
直接では無いが、原因を作ったのは私だ。

アイロスの話だと側室の件はエミリーには伝えていないようだが、いずれエミリーの耳にも入るかも知れない。
本当は何も告げずに知らないところで解決しておきたい問題だが、それには少し時間がかかる。
その間に別の者から誤った情報を聞かされる可能性だってある。
それならば自分の口から伝えて、少しでも安心させてあげたい。

(また、泣かせてしまうかな……)

私は重くため息を漏らした。

「だめだ、全く集中出来ない」

彼女のことを思っていると今すぐ傍に行き、この腕の中に抱きしめたいという気持ちが膨らんでいく。
自分でも呆れる程、私は彼女に溺れている。

不安を感じているのは私の方かも知れない。
エミリーは貴族令嬢だが、平民のような生活をしていたと言っていた。
しがらみに囚われること無く、今まで自由に生きてきたのだろう。
表情が豊かなのも素直な所も、きっとそういった環境下で伸び伸びと過ごしてきたからなんだと思う。

突然制限が多い生活に変わり、窮屈に感じているはずだ。
今は文句を言わずに耐えてくれているが、それがいつまでも続くとは限らない。
いつかこの生活に嫌気を差してしまう時が訪れる知れない。

私は恐れている。
エミリーが私の傍から離れていってしまうのではないかと。
私が王太子なんて立場でなければ、もっと彼女の望むような生活を送らせてあげることが出来るのに。
してあげたいことは沢山あるのに、叶えられないことばかりだ。
今だって王都にも連れて行ってあげられないし、ずっと離宮という籠の中にに閉じ込めている。

そんな私が彼女を幸せにすることなんて出来るのだろうか。
だけど手放すなんて事はもう出来ない。
彼女がいない世界なんて考えられなくなっていた。

私が会いに行くと、エミリーはいつも私に笑いかけてくれる。
嬉しそうに微笑んで、傍にいたいと言ってくれる。
あの笑顔に癒やされ、幸福感に満たされる。
私にとっては太陽みたいな人だ。
だからこそ、幻滅するようなことは絶対にさせない。

彼女のことを考えていたら頭の中がいっぱいになり、席を立ち上がった。
ここにいても無駄な時間を過ごすだけだ。
それに彼女に会いたいという強い衝動に駆られ、次の瞬間には歩き出していた。

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