王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

文字の大きさ
上 下
90 / 133

90.告白

しおりを挟む
「話ですか?」

私が問いかけるとザシャは真直ぐに私を見つめ、私の掌の上にそっと自分の手を添えた。
突然のことに私の胸はドキドキと鳴り始める。

(改まって話って何だろう。も、もしかしてプロポーズ……!?)

以前のザシャの言葉が頭に過り、私の頬はほんのりと赤みを増していく。
それに気付いたザシャはクスッと小さく笑った。

「エミリーは何を期待しているのかな?」
「べ、別に。なんでもありませんっ」

私は恥ずかしそうに早口で答えた。
するとザシャの表情は真剣な表情へと変わっていく。

「残念だけど、多分エミリーが思っている様なことではないかな」
「え?」

その言葉を聞くと更に恥ずかしさが込み上げ、私の頬は真っ赤に染まってしまう。
ザシャは真面目な話をしようとしているのに、浮かれてしまった自分が恥ずかしい。

「これから話す事はエミリーに伝えるか迷ったんだ。だけど、エミリーには隠し事はしないと決めているから正直に話すよ。だけどこれだけは覚えておいて。エミリーを思う気持ちは本物だ。誰よりも愛しているし、手放すつもりはないからね」
「……っ」

前置きを聞いて、私は恥ずかしそうに小さく頷いた。
ザシャがあまりにも真直ぐに見つめて来るので、その瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

(何の話なんだろう)

「エミリーに伏せていたことがある。エミリーは全て偶然だと思っているかもしれないけど、ヴィアレット家の令嬢に招待状を送ったのには裏があるんだ。本来であればエミリーではなく、姉のレイラ嬢に頼むつもりだった」
「え?……あの、頼むって協力者をってことですか?」

予想外の内容に私の頭は混乱し始めた。
私が戸惑った声をあげると、ザシャは小さく「そうだよ」と答えた。

(え?……え?どういうこと!?)

「ザシャさんはお姉様と連絡を取っていたんですか?」
「いや、連絡は取っていない。ここにレイラ嬢が来たら、エミリーにしたように頼むつもりでいた。ヴィアレット家の、特に財に関しての内情は把握していたからね。それに他の貴族との関りが皆無であるというのが、こちらとしては都合が良かった」

ザシャが言うには利害関係を結ぶにはヴィアレット家が最適だったようだ。
ヴィアレット家としては資金さえあれば、傾きかけていた家を再建することが出来る。
その他の見返りを求められる事はないと判断した様だ。
田舎にいるので滅多に王都に来ることは無いし、ましてや他の貴族との関りも殆ど無いような家だ。
期間が終われば契約を解除して、それで今までの関係は終わりだ。
リスクが一番無いと思われたのが、このヴィアレット家だったらしい。

私はその話を聞いてなんとも複雑な気分になってしまった。

(ヴィアレット家って王子に心配される程、酷い有様だったのね……)

しかし利用されたということには、ショックを全く感じなかった。
それはヴィアレット家にとっては、とんでもなく有難い話であったからだ。

「もし、お姉様が来ていたら、ザシャさんは……。私にしたようなことを、お姉様にしようと思っていたんですか?」
「半分は正解かな。協力者になってもらうつもりで呼んだのだからね」

ザシャの言葉を聞いて、私は表情を曇らせた。
だけどザシャはすぐに「そんな顔はしないで」と続ける。

「確かに最初はこちらの策略で全て動いていた。だけどそれは本当に最初だけで、計画はすぐに狂っていったからね」
「あ、私がお姉様の代わりに来てしまったからですよね。ごめんなさいっ……」

「謝らないで。私にとっては嬉しい誤算だったからな。初恋であるエミリーと運命的な再会を果たせて、その上妻にまで出来るのだから。これ以上の幸せはないくらいだよ」
「……っ、ザシャさんはいつから私がヴィアレット家の人間だって気付いていたんですか?」

ザシャの目を見ていたら、それが本心であることはすぐに分かった。
嬉しさが込み上げて来て、恥ずかしさから私は咄嗟に話題を変えた。

「道の真ん中で見つけた時は気付かなかったよ。レイルに住んでいると聞いた時はもしかしてと思ったけど、名前が違っていたからね」
「あ、たしかに……」

「だけどエミリーだったら良かったのに、とは思っていたよ。話は面白いし、一緒にいて私まで楽しい気分にさせてくれたから。それにどこか懐かしい雰囲気を感じた。だからまた会いたいと思ったんだ」

ザシャはあの時を思い返す様に、どこか楽しそうな顔で話していた。

「王宮に戻ってすぐに招待状リストからエミリーの名前を探した。だけど一向に見つからなかった。その時レイルから来たという言葉を思い出して、ヴィアレット家の書類に目を通したんだ。そうしたらエミリーと言う名の妹がいる事実を知った。あの時は本当に胸が高鳴ったよ。これから半年間、ずっと傍に置けるのだと思ったからね」

ザシャの手が伸びて来て、私に頬にそっと触れた。
その瞳は『愛おしい』とでも言っている様に、うっとりとした表情に見えた。
ザシャの体温を吸収する様に、私の頬は温かくなっていく。

「最初、本当に結婚はしないって言ってましたよね。初めから私の事、そんな風に……、あの、思っていたんですか?」

私は恥ずかしそうに、もじもじとしながら答えた。

「たしかにそんなことは言ったな。だけど本心は、エミリーとなら結婚しても構わないと思っていたよ。他の令嬢には悪いけど、魅力を感じなかったからね。私の心を揺さぶっていたのはエミリーだけだった。だけどまさか断られるなんて夢にも思わなかったよ。ふふっ、だからかな。余計に欲しくなった。エミリーが初恋の相手であるフォリーだと知った時は、絶対に逃がさないと決めていたけどね」

「……っ!」
「自分がどれだけ私に思われているか、分かってる?」

ザシャは鋭い視線で私を捉えていた。
そしてザシャの顔がゆっくりと近づいて来る。
私の鼓動はうるさい位に鳴っていて、これを抑えることなど到底出来ない。
それくらい今の私はドキドキしている。

「この巡り合わせは一見偶然が重なって出来たものに見えるけど、運命だとは思わない?私達が出会う事は最初から決められていた。幼い頃に出会ったことも、私がヴィアレット家を選んだことも。運命ならば激しく惹かれ合うのも、愛さずにはいられなくなるのも全て必然だ。だから、私は絶対にエミリーを離さない。この世界で誰よりも愛しくて、大切な存在だから、ね」
「ザシャさん、私もっ……」

ザシャの気持ちを聞いて、胸の奥が沸き立つように熱くなった。
今の私は間違いなく興奮している。

ザシャの言う通り偶然という言葉で片付けてしまうには、色々と出来過ぎている様な気がする。
これが全て運命の巡り合わせだったと思えば、なんとなく納得出来てしまう。

(ザシャさんと出会うのが運命……。どうしよう、すごく嬉しい)

そんな風に解釈をすると、次第に幸福感に包まれていく。
嬉しいという感情が溢れて来て、私は自然と笑顔になっていた。

「エミリー、好きだよ。これから先もずっとエミリーだけを見て、愛していくから」

ザシャは私の嬉しそうな顔を見て微笑むと、静かに唇を塞いだ。
それはまるで永遠の愛を誓うような、そんな口付けだった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...