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89.二人だけのお茶会④
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馬車を降りると、ザシャが私の手を取ってくれて案内されるまま建物の入り口へと移動した。
そこは円形の建物で、外面は全て透明なガラスで出来ているようだ。
内部が外からでも覗けてしまうのだが、周囲は背の高い生垣で囲まれているので中がどうなっているのかまでは分からない。
「ザシャ殿下、こちらの準備は全て整っております」
「そうか、ありがとう。後はこちらで全てするから、君達は下がってくれて構わないよ」
ザシャは入り口付近で待機していた使用人に向けて挨拶をした。
「エミリー、行こうか」
「はい」
私はザシャに連れられ内部へと入っていく。
***
内部は温室になっていて、まるで庭園の中にいるような感覚だった。
周囲には色とりどりの花が咲いていて、目でも楽しませてくれる。
天井はガラス張りで出来ているので日差しが入りとても明るいが、眩しさはあまり感じられない。
後から聞いた話によると、過ごしやすいように魔法壁が張られているそうだ。
常に一定の温度を保ち、いつでも過ごしやすい空間になっているとか。
「すごい……。室内なのに、まるで庭園の中にいるみたい」
「そうだな。静かだし邪魔するものは何もない。今の私達にはぴったりな場所だな。だからエミリーの緊張もきっとすぐに解けるはずだ」
それから更に奥へ進んでいくと、開けた場所に出た。
そこには寛ぐのにぴったりな大きめのソファーとテーブルが並んでいて、その上には出来たてのお菓子が多数並んでいた。
「……っ!」
「ふふっ、気に入ってくれた?エミリーの為に、焼き菓子を色々頼んでおいたんだ」
テーブルには様々な種類の可愛らしい焼き菓子が綺麗に並んでいて、甘いシナモンの香りが漂っている。
そしてポットからは湯気が出ていて、ハーブの優しい匂いを仄かに感じる。
本当に今し方準備が終わったのだろう。
この光景を目にして、私の心は次第に弾んでくる。
「エミリー、こっちにおいで。座ろうか」
「はいっ」
私はザシャと並ぶようにして腰掛けた。
ザシャはポットを手に取り、カップにお茶を注ぎ始めた。
「あのっ、私がやります!」
「いや、いいよ。今日はエミリーを一日中甘やかすと決めているからね」
「でもっ、王子にお茶を淹れさせるなんて……」
「エミリーはそんなこと気にしなくていいんだよ。だから大人しく待っていて。それにまだお湯は熱いから危険だよ。エミリーの可愛い指に火傷なんてさせられないからね」
私が困ったように答えると、ザシャは譲るつもりはないらしくさらりと答えた。
そこまで言われてしまうと、何も答えられなくなってしまう。
仕方なくザシャの準備を終えるまで、私は不思議な気分でその光景を眺めていた。
(こんなことさせちゃって本当に良かったのかな。だけどザシャさんの淹れたお茶が飲めるなんて、すごく嬉しいかも……)
普段は見せないザシャの姿が見れて、私は一人喜んでいた。
「これで準備はいいかな。お茶はまだ少し熱いから冷めるまで待っとく? その間に焼き立てのお菓子でも食べていたら?」
「そうします」
私はお菓子の方に視線を向けた。
焼き立てということだけあって、どれもいつも以上に美味しそうに見えてしまう。
私は最初に食べるお菓子をどれにするか、すごく悩んでいた。
(どうしよう、どれも美味しそう。この焼き立ての香り、最高だわ!)
「ふふっ、お菓子を選ぶのにそんなに真剣な顔をして。本当にエミリーは可愛らしいな」
「……っ、ザシャさんはどれにしますか?」
突然笑われて私は照れてしまう。
恥ずかしさを誤魔化すように慌てて話題を変えた。
「そうだな……。それじゃあ、エミリーに選んで貰おうかな」
「え?」
「エミリーの方がお菓子には詳しそうだからね。頼めるかな?」
「分かりましたっ!任せてください!」
こんなことだけど、ザシャにお願いされる事が嬉しくて私は笑顔で答えた。
そしてザシャが気に入ってくれそうなお菓子を選び始める。
(ザシャさんって甘い物はあまり得意じゃないって前に言ってたような。甘そうじゃないものを選んだらいいのかな……)
私は先程よりも真剣な眼差しで吟味し始めた。
そしてふわふわのマフィンをお皿に取り分けて、ザシャの前に置いた。
「これなんてどうですか?レモンの甘酸っぱい匂いがしているから、多分そこまで甘くないような気がします」
「確かにレモンの香りがするな。エミリーも食べてみる?」
ザシャの言葉に頷くと、私は自分のお皿の上にも同じものを乗せた。
「いただきますっ!」
マフィンを口の中に入れると、甘酸っぱいレモンの風味と、程良い甘さが口の中に広がっていく。
私の表情は緩んでいき、笑顔になっていた。
「んー、おいしいっ!やっぱり焼き立てって最高ですね!」
「ふふっ、たしかに。こんなに美味しそうに食べるエミリーと一緒にいると、更に楽しい気分になるな」
私が本音を次々に口に出していると、ザシャは微笑みながら私の事をじっと見つめていた。
そんな風に見つめられるとまた照れてしまう。
「どうしたの?もしかして食べさせて欲しい?」
「ち、違いますっ」
私は顔を赤く染めながら咄嗟に否定した。
またからかわれて悔しいけど、この時間がとても愛おしく感じる。
このまま時間が止まってくれたらいいのに、なんて考えてしまう程に、私はこの瞬間幸せに包まれていた。
「エミリー、少しいい?今日はエミリーに話しておきたい事があるんだ」
お茶を楽しんで少し落ち着いていると、ザシャは徐に話を切り出して来た。
そこは円形の建物で、外面は全て透明なガラスで出来ているようだ。
内部が外からでも覗けてしまうのだが、周囲は背の高い生垣で囲まれているので中がどうなっているのかまでは分からない。
「ザシャ殿下、こちらの準備は全て整っております」
「そうか、ありがとう。後はこちらで全てするから、君達は下がってくれて構わないよ」
ザシャは入り口付近で待機していた使用人に向けて挨拶をした。
「エミリー、行こうか」
「はい」
私はザシャに連れられ内部へと入っていく。
***
内部は温室になっていて、まるで庭園の中にいるような感覚だった。
周囲には色とりどりの花が咲いていて、目でも楽しませてくれる。
天井はガラス張りで出来ているので日差しが入りとても明るいが、眩しさはあまり感じられない。
後から聞いた話によると、過ごしやすいように魔法壁が張られているそうだ。
常に一定の温度を保ち、いつでも過ごしやすい空間になっているとか。
「すごい……。室内なのに、まるで庭園の中にいるみたい」
「そうだな。静かだし邪魔するものは何もない。今の私達にはぴったりな場所だな。だからエミリーの緊張もきっとすぐに解けるはずだ」
それから更に奥へ進んでいくと、開けた場所に出た。
そこには寛ぐのにぴったりな大きめのソファーとテーブルが並んでいて、その上には出来たてのお菓子が多数並んでいた。
「……っ!」
「ふふっ、気に入ってくれた?エミリーの為に、焼き菓子を色々頼んでおいたんだ」
テーブルには様々な種類の可愛らしい焼き菓子が綺麗に並んでいて、甘いシナモンの香りが漂っている。
そしてポットからは湯気が出ていて、ハーブの優しい匂いを仄かに感じる。
本当に今し方準備が終わったのだろう。
この光景を目にして、私の心は次第に弾んでくる。
「エミリー、こっちにおいで。座ろうか」
「はいっ」
私はザシャと並ぶようにして腰掛けた。
ザシャはポットを手に取り、カップにお茶を注ぎ始めた。
「あのっ、私がやります!」
「いや、いいよ。今日はエミリーを一日中甘やかすと決めているからね」
「でもっ、王子にお茶を淹れさせるなんて……」
「エミリーはそんなこと気にしなくていいんだよ。だから大人しく待っていて。それにまだお湯は熱いから危険だよ。エミリーの可愛い指に火傷なんてさせられないからね」
私が困ったように答えると、ザシャは譲るつもりはないらしくさらりと答えた。
そこまで言われてしまうと、何も答えられなくなってしまう。
仕方なくザシャの準備を終えるまで、私は不思議な気分でその光景を眺めていた。
(こんなことさせちゃって本当に良かったのかな。だけどザシャさんの淹れたお茶が飲めるなんて、すごく嬉しいかも……)
普段は見せないザシャの姿が見れて、私は一人喜んでいた。
「これで準備はいいかな。お茶はまだ少し熱いから冷めるまで待っとく? その間に焼き立てのお菓子でも食べていたら?」
「そうします」
私はお菓子の方に視線を向けた。
焼き立てということだけあって、どれもいつも以上に美味しそうに見えてしまう。
私は最初に食べるお菓子をどれにするか、すごく悩んでいた。
(どうしよう、どれも美味しそう。この焼き立ての香り、最高だわ!)
「ふふっ、お菓子を選ぶのにそんなに真剣な顔をして。本当にエミリーは可愛らしいな」
「……っ、ザシャさんはどれにしますか?」
突然笑われて私は照れてしまう。
恥ずかしさを誤魔化すように慌てて話題を変えた。
「そうだな……。それじゃあ、エミリーに選んで貰おうかな」
「え?」
「エミリーの方がお菓子には詳しそうだからね。頼めるかな?」
「分かりましたっ!任せてください!」
こんなことだけど、ザシャにお願いされる事が嬉しくて私は笑顔で答えた。
そしてザシャが気に入ってくれそうなお菓子を選び始める。
(ザシャさんって甘い物はあまり得意じゃないって前に言ってたような。甘そうじゃないものを選んだらいいのかな……)
私は先程よりも真剣な眼差しで吟味し始めた。
そしてふわふわのマフィンをお皿に取り分けて、ザシャの前に置いた。
「これなんてどうですか?レモンの甘酸っぱい匂いがしているから、多分そこまで甘くないような気がします」
「確かにレモンの香りがするな。エミリーも食べてみる?」
ザシャの言葉に頷くと、私は自分のお皿の上にも同じものを乗せた。
「いただきますっ!」
マフィンを口の中に入れると、甘酸っぱいレモンの風味と、程良い甘さが口の中に広がっていく。
私の表情は緩んでいき、笑顔になっていた。
「んー、おいしいっ!やっぱり焼き立てって最高ですね!」
「ふふっ、たしかに。こんなに美味しそうに食べるエミリーと一緒にいると、更に楽しい気分になるな」
私が本音を次々に口に出していると、ザシャは微笑みながら私の事をじっと見つめていた。
そんな風に見つめられるとまた照れてしまう。
「どうしたの?もしかして食べさせて欲しい?」
「ち、違いますっ」
私は顔を赤く染めながら咄嗟に否定した。
またからかわれて悔しいけど、この時間がとても愛おしく感じる。
このまま時間が止まってくれたらいいのに、なんて考えてしまう程に、私はこの瞬間幸せに包まれていた。
「エミリー、少しいい?今日はエミリーに話しておきたい事があるんだ」
お茶を楽しんで少し落ち着いていると、ザシャは徐に話を切り出して来た。
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