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88.二人だけのお茶会③
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離宮の入り口まで着くと、そこには一台の馬車が止まっていた。
ザシャはゆっくりとその場に私を下ろしてくれると、今度は手をスッと前に差し出してきた。
「どこかに行くんですか?」
意外な展開に私は不思議そうな顔で問いかけた。
するとザシャは「王宮の方にね」と短く答える。
少し驚いた顔を見せるも、待たせてしまっては悪いと思い、とりあえずザシャの手を取り馬車に乗り込んだ。
「王宮でお茶をするんですか?」
私が思わず不安そうな顔を浮かべてしまうと、ザシャはふっと柔らかく笑った。
最近は王宮に行く機会もそれなりに多くなった。
その殆どが図書館になるのだが、それでも王宮に入る際にはそれ相応の格好に着替えてからだ。
私はザシャの婚約者候補の一人としてここにいるのだから、周りの目は気にしなくてはならない。
綺麗に着飾ってさえいれば、貴族令嬢見習い中の私でさえも外面だけは誤魔化すことが出来る。
しかし今日の格好は誰がどう考えてもそれに相応しくない服装だ。
ザシャが傍にいてくれるとはいえ、不安を感じてしまう。
(どうしよう、こんな服装で王宮に入っても平気なの?)
「王宮内にはなるけど私達の他には誰も来ないから、そんな顔をしなくても大丈夫だよ」
ザシャは優しい口調で呟くと、隣に座る私の手をそっと握る。
その時ハッと馬車の中という狭く密閉された空間にいることに気付き、少しずつ私の顔は赤く染まっていく。
以前アイロスと一緒に馬車に乗ったことはあるが、ザシャと乗るのは恐らくこれが初めてなはずだ。
「どうしたの?馬車に乗っているだけなのに、エミリーは照れるの?」
ザシャは可笑しそうにクスクスと笑っていたが、不意に私の耳元に唇を寄せて「もしかして、いやらしいことでも期待しているのかな?」と意地悪そうな声で囁いてくる。
「……っ!!」
その言葉にドキッと心臓が飛び跳ねる。
「動揺してるってことは当たりかな?」
「ち、違いますっ!」
私は真っ赤に染まった顔で慌てるように否定する。
しかしザシャは意地悪な顔のままだ。
「そう?だけどこの頬は熱を持っているようだね。エミリーは素直に顔に出るタイプだから、嘘をついてもすぐに分かってしまうね」
ザシャは目を細め、じっと瞳の奥を見つめて来る。
そんなにも真直ぐに見つめられてしまえば、逸らす事など出来なくなる。
そして私の熱を帯びた頬に触れ、唇を指先でゆっくりとなぞっていく。
ザシャの長い指先が擦れる度に、胸の高鳴りと熱を感じて困った顔をしてしまう。
(ザシャさん、こんな所を何をするつもりなの?)
「ふふっ、その困った顔。可愛いな」
ザシャは満足そうに口端を上げた。
そして唇に柔らかくて温かいものが重なる。
「……っ」
「いつ口付けても、エミリーのここは甘いな。もっと味わいたくなる」
チュッと音を立て、味わうようにゆっくりと食む。
唇が剥がれていくとザシャと視線が絡み、私の鼓動は更にバクバクと鳴り始める。
(こんな場所でキスしちゃった……、どうしよう)
私は動揺していたが、ザシャからのキスを拒めるはずもなかった。
唇が離れた後も、先程の感覚がまだ残っていてザシャの熱を感じることが出来る。
余韻を味わうとはこのようなことを言うのではないか、などと考えてしまう。
(ザシャさんとのキス、やっぱり好き……)
「私はダメだな。照れているエミリーがあまりにも可愛くて、待てなくて味見をしてしまったよ。ここは後で沢山味わわせて」
「……っ」
ザシャは「もちろん、他の場所もね」と私にだけ伝わるような小声で囁いてくる。
おかげで私の体温は一気に上昇してしまった。
そんなことをしていると、いつも止まる王宮の入り口が見えてくる。
しかし馬車はそこを通り越し、更に中へと入って行く。
王宮内はかなり広いため、私が足を踏み入れたことのない場所の方が圧倒的に多いはずだ。
馬車の窓から覗く初めての光景を見て、胸が高鳴る。
離宮を遙かに超える敷地と、普段と違う角度から見る王宮の姿に私は圧倒されていた。
私は田舎育ちで、王都に来るのも初めての人間だ。
驚かない方がおかしい。
(ザシャさんはこんなにすごい所でずっと生活しているんだ。やっぱり私とは住んでる世界が違うんだな……)
私がその光景に驚いている間も馬車は走り続け、更に内部へと進んでいく。
すると奥の方にガラス張りで出来ている建物が目に入る。
どうやら馬車はそこに向かっているようだ。
「そろそろ到着だ」
「え?建物の中でお茶をするんですか?」
私は少し驚いたように呟く。
「そうだよ。今日のお茶会はここでする。きっとエミリーも気に入ってくれると思うよ」
ザシャはゆっくりとその場に私を下ろしてくれると、今度は手をスッと前に差し出してきた。
「どこかに行くんですか?」
意外な展開に私は不思議そうな顔で問いかけた。
するとザシャは「王宮の方にね」と短く答える。
少し驚いた顔を見せるも、待たせてしまっては悪いと思い、とりあえずザシャの手を取り馬車に乗り込んだ。
「王宮でお茶をするんですか?」
私が思わず不安そうな顔を浮かべてしまうと、ザシャはふっと柔らかく笑った。
最近は王宮に行く機会もそれなりに多くなった。
その殆どが図書館になるのだが、それでも王宮に入る際にはそれ相応の格好に着替えてからだ。
私はザシャの婚約者候補の一人としてここにいるのだから、周りの目は気にしなくてはならない。
綺麗に着飾ってさえいれば、貴族令嬢見習い中の私でさえも外面だけは誤魔化すことが出来る。
しかし今日の格好は誰がどう考えてもそれに相応しくない服装だ。
ザシャが傍にいてくれるとはいえ、不安を感じてしまう。
(どうしよう、こんな服装で王宮に入っても平気なの?)
「王宮内にはなるけど私達の他には誰も来ないから、そんな顔をしなくても大丈夫だよ」
ザシャは優しい口調で呟くと、隣に座る私の手をそっと握る。
その時ハッと馬車の中という狭く密閉された空間にいることに気付き、少しずつ私の顔は赤く染まっていく。
以前アイロスと一緒に馬車に乗ったことはあるが、ザシャと乗るのは恐らくこれが初めてなはずだ。
「どうしたの?馬車に乗っているだけなのに、エミリーは照れるの?」
ザシャは可笑しそうにクスクスと笑っていたが、不意に私の耳元に唇を寄せて「もしかして、いやらしいことでも期待しているのかな?」と意地悪そうな声で囁いてくる。
「……っ!!」
その言葉にドキッと心臓が飛び跳ねる。
「動揺してるってことは当たりかな?」
「ち、違いますっ!」
私は真っ赤に染まった顔で慌てるように否定する。
しかしザシャは意地悪な顔のままだ。
「そう?だけどこの頬は熱を持っているようだね。エミリーは素直に顔に出るタイプだから、嘘をついてもすぐに分かってしまうね」
ザシャは目を細め、じっと瞳の奥を見つめて来る。
そんなにも真直ぐに見つめられてしまえば、逸らす事など出来なくなる。
そして私の熱を帯びた頬に触れ、唇を指先でゆっくりとなぞっていく。
ザシャの長い指先が擦れる度に、胸の高鳴りと熱を感じて困った顔をしてしまう。
(ザシャさん、こんな所を何をするつもりなの?)
「ふふっ、その困った顔。可愛いな」
ザシャは満足そうに口端を上げた。
そして唇に柔らかくて温かいものが重なる。
「……っ」
「いつ口付けても、エミリーのここは甘いな。もっと味わいたくなる」
チュッと音を立て、味わうようにゆっくりと食む。
唇が剥がれていくとザシャと視線が絡み、私の鼓動は更にバクバクと鳴り始める。
(こんな場所でキスしちゃった……、どうしよう)
私は動揺していたが、ザシャからのキスを拒めるはずもなかった。
唇が離れた後も、先程の感覚がまだ残っていてザシャの熱を感じることが出来る。
余韻を味わうとはこのようなことを言うのではないか、などと考えてしまう。
(ザシャさんとのキス、やっぱり好き……)
「私はダメだな。照れているエミリーがあまりにも可愛くて、待てなくて味見をしてしまったよ。ここは後で沢山味わわせて」
「……っ」
ザシャは「もちろん、他の場所もね」と私にだけ伝わるような小声で囁いてくる。
おかげで私の体温は一気に上昇してしまった。
そんなことをしていると、いつも止まる王宮の入り口が見えてくる。
しかし馬車はそこを通り越し、更に中へと入って行く。
王宮内はかなり広いため、私が足を踏み入れたことのない場所の方が圧倒的に多いはずだ。
馬車の窓から覗く初めての光景を見て、胸が高鳴る。
離宮を遙かに超える敷地と、普段と違う角度から見る王宮の姿に私は圧倒されていた。
私は田舎育ちで、王都に来るのも初めての人間だ。
驚かない方がおかしい。
(ザシャさんはこんなにすごい所でずっと生活しているんだ。やっぱり私とは住んでる世界が違うんだな……)
私がその光景に驚いている間も馬車は走り続け、更に内部へと進んでいく。
すると奥の方にガラス張りで出来ている建物が目に入る。
どうやら馬車はそこに向かっているようだ。
「そろそろ到着だ」
「え?建物の中でお茶をするんですか?」
私は少し驚いたように呟く。
「そうだよ。今日のお茶会はここでする。きっとエミリーも気に入ってくれると思うよ」
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