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87.二人だけのお茶会②
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「シルヴィア、どうしたの?」
「だっこしてもらってる……」
ザシャが問いかけると、シルヴィは小さな声でぽつりと呟いた。
私は動揺と恥ずかしさを感じ、一人だけ落ち着きがない様子だった。
こんな風に抱きかかえられている所を、誰かに見られるのは少し抵抗があるからだ。
(どうして、こんな時にシルヴィアさんに会うの!?恥ずかしいっ……)
内心はかなり動揺していたが、焦っている態度を表に出さない様に必死に作り笑顔を作っていた。
私は今マナーについて学んでいる最中であり、こういう場合は落ち着いた態度で接しなければならないと頭に浮かんだからだ。
「シルヴィア様、こんにちは」
「あ、こんにちは!天気も良いし、今日は外でお茶でもしようかと思っていたの。良ければお二人もご一緒にどうですか?」
私が挨拶を送ると、シルヴィアはすぐに笑顔で自然に返してくれた。
シルヴィアからのお茶のお誘いを受けて、私の表情が一瞬曇る。
(お茶って、もしかして同じ場所で?)
戸惑った私は、不安そうな顔でザシャの方に視線を向けてしまう。
するとすぐに目が合いドキッとするが、ザシャは小さく微笑んでいた。
「悪いね。折角のお誘いだけど、またの機会にお願いしようかな」
「どこかに行かれるんですか?でも、出かけるような格好には見えないわ」
シルヴィアは私達の服装を見て何かを察知すると、こちらをじっと見つめていた。
ザシャの言葉で引き下がるつもりはなさそうだ。
「今日はエミリーと二人きりの時間を満喫する予定だからね。それじゃあ、私達はこれで失礼させてもらうよ」
ザシャはサラリと返すと、再び体を前方に戻し歩き出そうとする。
私はザシャの首に掴まりながら、シルヴィアに向けて小さく頭を下げた。
しかしシルヴィアは不満そうな顔でこちらを見ると、ザシャの前に回り込んで足を止める。
「もしかして、二人も今からお茶をするの?それなら一緒にしましょうよ!私、エミリー様ともっとお話してみたいと思っていたの」
ザシャに言っても断られると分かっているのか、今度は私の方に視線を向けて提案してきた。
(どうしよう……。今日はザシャさんと二人っきりでお茶をしたいけど、断っていいのかな……)
「あ、あの……」
「ごめんね、シルヴィア。私は今日一日エミリーを独占したいんだ。私の大切な人を奪おうとしないで欲しいな」
私が口を開くのと同時に、ザシャがはっきりとした口調で告げた。
突然の台詞に私とシルヴィアの二人は一瞬固まってしまった。
今の言葉がはっきりと分かって来ると、私の頬はじわじわと熱に包まれていく。
「……っ」
シルヴィアは言葉を詰まらせ、むぅっとした顔でザシャを見つめていた。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
「シルヴィアとは昨日一緒に過ごしたはずだよ。週に一度、公平になるように与えられている時間だ。今日はエミリーと過ごす日。邪魔をするのはルール違反になるよ。シルヴィアだって、それは十分わかっているはずだよね」
ザシャは落ち着いた口調でスラスラと続けていく。
シルヴィアはそのまま黙り込んでしまう。
私は内心ほっとしていたが、残念そうなシルヴィアの表情を見ていると少し罪悪感を覚えてしまう。
今のシルヴィアは、昨日感じたあの時の私と同じ気持ちなのかもしれない。
ザシャはシルヴィアとはそんな関係ではないと言った。
だけど、シルヴィアが同じ思いでいるとは限らない。
こんな態度を見せるくらいだから、きっとザシャの事を思っているのだろう。
心なしかザシャを奪われたくないと言う気持ちが動いて、巻き付けている手に僅かに力が篭もる。
「エミリー、そろそろ行こうか」
「は、はいっ」
ザシャは私の僅かな態度に気付いたのか、優しい声で呟いた。
私は慌てるように答えた後、シルヴィアの方にチラッと視線を寄せた。
シルヴィアは切なそうな顔でザシャをじっと見つめていた。
(やっぱり、シルヴィアさんはザシャさんのこと……)
シルヴィアの気持ちに気付いてしまうと、胸がざわざわと揺れる。
何も言わないシルヴィアを残し、私達は再び長い通路を歩いて行く。
私はザシャに抱きかかえられているため、簡単に後ろを見ることが出来てしまう。
そのため、気になって何度もチラチラと奥に視線を向けていた。
シルヴィアはその場からは動かず、ずっとこちらを眺めているようだった。
「エミリー、シルヴィアのことは気にしなくていいよ」
「……はい」
(そう、よね。今日は私と過ごす日だし。シルヴィアさんだって、昨日はザシャさんに王都に連れて行って貰ったはずよ)
だから気にするのはやめようと自分に言い聞かせた。
「まだ気になる?」
「え?」
「エミリーは嘘をつけないね。その顔を見れば気になっているって一目で分かるよ」
「……っ!」
ザシャは困った様に私の顔を見て呟く。
「可愛いな。だけど、私だって今日をずっと心待ちにしていたんだ。誰にもこの時間は邪魔されたくない。一週間分、エミリーを充電させてもらうよ」
それはザシャの本心に聞こえて、胸が高鳴った。
私だって同じ気持ちだ。
この日を一週間どんなに待ちわびていたか。
明日からも頑張れるように、沢山元気を貰いたい。
「でも、シルヴィアさん。お茶って言っていたけど、もしかしてこの前の庭園でするのかな?」
「どうだろうね。だけど、私達がこれから向かう場所はそこではないから、鉢合わせになることは無いはずだよ」
「え?この前と違う場所なんですか?」
「うん。まあ、こうなることも少し予想はしていたからね。折角エミリーと二人きりで過ごすのだから、誰にも邪魔されない場所を選ばせて貰ったよ」
ザシャがそんな風に考えていてくれたことを知ると、嬉しさが込み上げてくる。
私は溢れてくる感情を抑えられず「ザシャさん」と呟いて、ぎゅっと抱きついた。
「ふふっ、私のエミリーへの気持ちが伝わったのかな?そうだったら嬉しいかな。エミリー、愛しているよ」
「……っ!!」
突然ザシャは私の耳元で囁いてきた。
ザシャの熱い吐息にゾクッと背筋が震え、慌てるように離れた。
「本当に素直な反応をするね。その照れた顔も愛らしいな。後で、すぐに真っ赤になる可愛らしい耳も、たっぷりいじめてあげようかな。今日は私達の邪魔をする存在は誰もいないのだから、覚悟しておいてね」
「だっこしてもらってる……」
ザシャが問いかけると、シルヴィは小さな声でぽつりと呟いた。
私は動揺と恥ずかしさを感じ、一人だけ落ち着きがない様子だった。
こんな風に抱きかかえられている所を、誰かに見られるのは少し抵抗があるからだ。
(どうして、こんな時にシルヴィアさんに会うの!?恥ずかしいっ……)
内心はかなり動揺していたが、焦っている態度を表に出さない様に必死に作り笑顔を作っていた。
私は今マナーについて学んでいる最中であり、こういう場合は落ち着いた態度で接しなければならないと頭に浮かんだからだ。
「シルヴィア様、こんにちは」
「あ、こんにちは!天気も良いし、今日は外でお茶でもしようかと思っていたの。良ければお二人もご一緒にどうですか?」
私が挨拶を送ると、シルヴィアはすぐに笑顔で自然に返してくれた。
シルヴィアからのお茶のお誘いを受けて、私の表情が一瞬曇る。
(お茶って、もしかして同じ場所で?)
戸惑った私は、不安そうな顔でザシャの方に視線を向けてしまう。
するとすぐに目が合いドキッとするが、ザシャは小さく微笑んでいた。
「悪いね。折角のお誘いだけど、またの機会にお願いしようかな」
「どこかに行かれるんですか?でも、出かけるような格好には見えないわ」
シルヴィアは私達の服装を見て何かを察知すると、こちらをじっと見つめていた。
ザシャの言葉で引き下がるつもりはなさそうだ。
「今日はエミリーと二人きりの時間を満喫する予定だからね。それじゃあ、私達はこれで失礼させてもらうよ」
ザシャはサラリと返すと、再び体を前方に戻し歩き出そうとする。
私はザシャの首に掴まりながら、シルヴィアに向けて小さく頭を下げた。
しかしシルヴィアは不満そうな顔でこちらを見ると、ザシャの前に回り込んで足を止める。
「もしかして、二人も今からお茶をするの?それなら一緒にしましょうよ!私、エミリー様ともっとお話してみたいと思っていたの」
ザシャに言っても断られると分かっているのか、今度は私の方に視線を向けて提案してきた。
(どうしよう……。今日はザシャさんと二人っきりでお茶をしたいけど、断っていいのかな……)
「あ、あの……」
「ごめんね、シルヴィア。私は今日一日エミリーを独占したいんだ。私の大切な人を奪おうとしないで欲しいな」
私が口を開くのと同時に、ザシャがはっきりとした口調で告げた。
突然の台詞に私とシルヴィアの二人は一瞬固まってしまった。
今の言葉がはっきりと分かって来ると、私の頬はじわじわと熱に包まれていく。
「……っ」
シルヴィアは言葉を詰まらせ、むぅっとした顔でザシャを見つめていた。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
「シルヴィアとは昨日一緒に過ごしたはずだよ。週に一度、公平になるように与えられている時間だ。今日はエミリーと過ごす日。邪魔をするのはルール違反になるよ。シルヴィアだって、それは十分わかっているはずだよね」
ザシャは落ち着いた口調でスラスラと続けていく。
シルヴィアはそのまま黙り込んでしまう。
私は内心ほっとしていたが、残念そうなシルヴィアの表情を見ていると少し罪悪感を覚えてしまう。
今のシルヴィアは、昨日感じたあの時の私と同じ気持ちなのかもしれない。
ザシャはシルヴィアとはそんな関係ではないと言った。
だけど、シルヴィアが同じ思いでいるとは限らない。
こんな態度を見せるくらいだから、きっとザシャの事を思っているのだろう。
心なしかザシャを奪われたくないと言う気持ちが動いて、巻き付けている手に僅かに力が篭もる。
「エミリー、そろそろ行こうか」
「は、はいっ」
ザシャは私の僅かな態度に気付いたのか、優しい声で呟いた。
私は慌てるように答えた後、シルヴィアの方にチラッと視線を寄せた。
シルヴィアは切なそうな顔でザシャをじっと見つめていた。
(やっぱり、シルヴィアさんはザシャさんのこと……)
シルヴィアの気持ちに気付いてしまうと、胸がざわざわと揺れる。
何も言わないシルヴィアを残し、私達は再び長い通路を歩いて行く。
私はザシャに抱きかかえられているため、簡単に後ろを見ることが出来てしまう。
そのため、気になって何度もチラチラと奥に視線を向けていた。
シルヴィアはその場からは動かず、ずっとこちらを眺めているようだった。
「エミリー、シルヴィアのことは気にしなくていいよ」
「……はい」
(そう、よね。今日は私と過ごす日だし。シルヴィアさんだって、昨日はザシャさんに王都に連れて行って貰ったはずよ)
だから気にするのはやめようと自分に言い聞かせた。
「まだ気になる?」
「え?」
「エミリーは嘘をつけないね。その顔を見れば気になっているって一目で分かるよ」
「……っ!」
ザシャは困った様に私の顔を見て呟く。
「可愛いな。だけど、私だって今日をずっと心待ちにしていたんだ。誰にもこの時間は邪魔されたくない。一週間分、エミリーを充電させてもらうよ」
それはザシャの本心に聞こえて、胸が高鳴った。
私だって同じ気持ちだ。
この日を一週間どんなに待ちわびていたか。
明日からも頑張れるように、沢山元気を貰いたい。
「でも、シルヴィアさん。お茶って言っていたけど、もしかしてこの前の庭園でするのかな?」
「どうだろうね。だけど、私達がこれから向かう場所はそこではないから、鉢合わせになることは無いはずだよ」
「え?この前と違う場所なんですか?」
「うん。まあ、こうなることも少し予想はしていたからね。折角エミリーと二人きりで過ごすのだから、誰にも邪魔されない場所を選ばせて貰ったよ」
ザシャがそんな風に考えていてくれたことを知ると、嬉しさが込み上げてくる。
私は溢れてくる感情を抑えられず「ザシャさん」と呟いて、ぎゅっと抱きついた。
「ふふっ、私のエミリーへの気持ちが伝わったのかな?そうだったら嬉しいかな。エミリー、愛しているよ」
「……っ!!」
突然ザシャは私の耳元で囁いてきた。
ザシャの熱い吐息にゾクッと背筋が震え、慌てるように離れた。
「本当に素直な反応をするね。その照れた顔も愛らしいな。後で、すぐに真っ赤になる可愛らしい耳も、たっぷりいじめてあげようかな。今日は私達の邪魔をする存在は誰もいないのだから、覚悟しておいてね」
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