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85.穏やかな朝
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心の奥に溜め込んでいた気持ちを全てザシャに伝えることが出来て、私は安心しきった顔で眠りについた。
ザシャという存在は、私の中で日々大きくなっている。
もう、離れることなんて出来ない程に。
「ん……」
「起きたのかな?おはよう、エミリー」
私がゆっくりと瞼を開くと、微笑みかけているザシャと目が合った。
(気持ちいい……、ずっと頭を撫でていてくれたの?)
なんだか心地良いなと感じていたのは、ザシャが私の髪を柔らかく撫でてくれていたからだった。
これは夢なんかじゃないと分かると、自然と笑みが溢れ「ザシャさん、おはようございます」と笑顔で返した。
「やっぱりエミリーの寝顔を見るのはいいものだね。これは私だけの特権だな」
「……っ、私の寝顔なんて見ても面白くないですよ」
私は恥ずかしくなり早口で焦るように答えてしまう。
するとザシャは「そんなことないよ」と小さく笑った。
「無防備にスースーと寝息を立てながら眠るエミリーの姿は、可愛らしくて癒やされるんだよな。きっと、ずっと眺めていても飽きない気がするよ」
ザシャはクスッと楽しそうに笑い「たまに可愛い寝言も聞けるしな」と冗談ぽく付け加えた。
「……っ!!そんなのを聞いて楽しまないでくださいっ」
私は恥ずかしくなり、思わずザシャから視線を逸らしてしまう。
(恥ずかしいっ!私、また変な事言ったりしてないよね?)
「そんなに恥ずかしい?耳まで真っ赤だ」
「ひぁっ!な、何するんですかっ!びっくしりた」
突然耳元でザシャの声が響き、ビクッと体を勢い良く跳ね上げてしまう。
私は慌てて耳を隠すと、顔を真っ赤に染めてムッとした表情で言い返した。
「エミリーは耳が弱いのに、簡単に私の前に晒して。いじめて欲しいのかなって勘違いしてしまうよ。本当にこの耳はすぐに真っ赤になるよな」
ザシャは私の耳を指でなぞるように触れる。
指の感覚に私はゾクッと体を震わせてしまう。
「ザシャさんの意地悪っ……」
「エミリーにだけだよ」
私が困ったように答えると、ザシャは私の反応を楽しむかのようにクスクスと笑っていた。
そして視線が絡むとザシャの顔がゆっくりと近づいてきて、ドキドキしていると唇に温かいものが重なり私は静かに目を閉じた。
(朝からザシャさんの傍にいられるのって、本当に嬉しいな)
「……っ」
ザシャは唇をゆっくりと剥がすと、今度は額に、そして瞼、頬と順番に口付けていく。
「今日は何して過ごしたい?」
「ザシャさんと一緒ならなんでもいい」
私は悩むことなく即答した。
本当にその言葉通りだった。
私はザシャと一緒に過ごせれば、きっと何をしても楽しいのだと思う。
しかし私の言葉を聞いてザシャは困ったような顔を見せた。
「本当に何でも良いの?」
「はい」
私が頷くと、ザシャは何かを考えたように私のことをじっと見つめてきた。
(な、なに!?)
「それじゃあ、今日は一日中エミリーをいじめ尽くそうかな」
「……っ!?」
ザシャは目を細め意地悪そうに呟いてくる。
(いじめるってまさか……耳を!?)
私はハッとすると慌てるように両手で耳を隠した。
その光景を見ていたザシャは「ぷっ」と吹き出すように笑い出した。
「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
ザシャは私の手を掴むと塞いでいる手を外させた。
「酷いっ!騙したんですか」
「騙したというか、エミリーが何でもいいなんて言うから少しからかっただけだよ。それとも、本当に一日中耳をいじめて欲しい?」
「だ、だめっ!」
私は慌てるように答えた。
そんなことをされたら、私がおかしくなってしまう。
「それなら、何をしたいか一緒に考えようか」
「……はい」
耳をいじめられるのを回避出来てほっとしていると、ザシャは何かに気付いたのか傍に置かれている本を手に取った。
「エミリーってこういう本に興味があるの?」
「え?……あ、それはっ!!」
ザシャは手に取った本をパラパラと捲っていく。
その本は私がザシャの心を掴むために読んでいた、恋愛のコツが書かれているものだった。
ザシャにこんな本を読んでることがバレて恥ずかしくなり、みるみるうちに顔の奥が熱くなっていく。
「もしかして、私のために読んでくれていたの?」
「私、恋愛ってザシャさんが初めてだったから……」
「本当にエミリーは可愛いな。折角読んでくれているのにこんなことを言うのは悪いけど、この本を読まなくても私の心はしっかりとエミリーに奪われているよ。だけど、私のために努力してくれたという気持ちはすごく嬉しいかな。ありがとう」
ありがとうと言われても反応に困ってしまい、私は顔を何度も横に振った。
「私もエミリーに負けないように、これからは今まで以上にはっきりと気持ちを伝えていこうかな」
「え?た、例えば……?」
「そうだな。普段から『愛してる』って伝えてみようかな。そうすればエミリーの不安も減るんじゃない?私もストレートに気持ちを伝えたいと思っていたところだし。もうエミリーに遠慮はしないって決めたからね」
「嬉しいけど、ドキドキしすぎて私の心臓が持たなくなる……」
私はもじもじと恥ずかしそうに答えると、ザシャは「可愛いな」と呟いた。
「それこそ私の思う壺だね。私の事しか考えられなくしたい。愛しいエミリーを私はいつだって独占したいと思っているからね」
「もうっ、またからかって」
ザシャは意地悪な顔をしていたので、本気で言っているのか冗談なのか分からなかった。
だけどそれでもいい。
いつもザシャに気持ちを振り回されてしまうけど、私はこういう時間がすごく好き。
(私だってザシャさんを愛しく思ってるし、独占したい)
「ザシャさん。今日は天気も良いし、二人だけでお茶会がしたいです」
以前お茶会をした時はアイロスも含め三人で行った。
あの時は私が一人で動揺してしまい、心が落ち着かないまま終わってしまった。
だから今回は二人だけで、のんびりとした時間を一緒に過ごしたいと思った。
それは私にとっては至福で贅沢な時間になることだろう。
*********
作者より
こちらの作品を読んで頂きありがとうございます。
暫くの間更新を止めてしまい、申し訳ありませんでした。
本日より再開します。
最初は甘々からにはなってしまいますが、この後完結に向けて物語も大きく動き出す予定です。
今度こそ完結まで書き上げてしまおうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
ザシャという存在は、私の中で日々大きくなっている。
もう、離れることなんて出来ない程に。
「ん……」
「起きたのかな?おはよう、エミリー」
私がゆっくりと瞼を開くと、微笑みかけているザシャと目が合った。
(気持ちいい……、ずっと頭を撫でていてくれたの?)
なんだか心地良いなと感じていたのは、ザシャが私の髪を柔らかく撫でてくれていたからだった。
これは夢なんかじゃないと分かると、自然と笑みが溢れ「ザシャさん、おはようございます」と笑顔で返した。
「やっぱりエミリーの寝顔を見るのはいいものだね。これは私だけの特権だな」
「……っ、私の寝顔なんて見ても面白くないですよ」
私は恥ずかしくなり早口で焦るように答えてしまう。
するとザシャは「そんなことないよ」と小さく笑った。
「無防備にスースーと寝息を立てながら眠るエミリーの姿は、可愛らしくて癒やされるんだよな。きっと、ずっと眺めていても飽きない気がするよ」
ザシャはクスッと楽しそうに笑い「たまに可愛い寝言も聞けるしな」と冗談ぽく付け加えた。
「……っ!!そんなのを聞いて楽しまないでくださいっ」
私は恥ずかしくなり、思わずザシャから視線を逸らしてしまう。
(恥ずかしいっ!私、また変な事言ったりしてないよね?)
「そんなに恥ずかしい?耳まで真っ赤だ」
「ひぁっ!な、何するんですかっ!びっくしりた」
突然耳元でザシャの声が響き、ビクッと体を勢い良く跳ね上げてしまう。
私は慌てて耳を隠すと、顔を真っ赤に染めてムッとした表情で言い返した。
「エミリーは耳が弱いのに、簡単に私の前に晒して。いじめて欲しいのかなって勘違いしてしまうよ。本当にこの耳はすぐに真っ赤になるよな」
ザシャは私の耳を指でなぞるように触れる。
指の感覚に私はゾクッと体を震わせてしまう。
「ザシャさんの意地悪っ……」
「エミリーにだけだよ」
私が困ったように答えると、ザシャは私の反応を楽しむかのようにクスクスと笑っていた。
そして視線が絡むとザシャの顔がゆっくりと近づいてきて、ドキドキしていると唇に温かいものが重なり私は静かに目を閉じた。
(朝からザシャさんの傍にいられるのって、本当に嬉しいな)
「……っ」
ザシャは唇をゆっくりと剥がすと、今度は額に、そして瞼、頬と順番に口付けていく。
「今日は何して過ごしたい?」
「ザシャさんと一緒ならなんでもいい」
私は悩むことなく即答した。
本当にその言葉通りだった。
私はザシャと一緒に過ごせれば、きっと何をしても楽しいのだと思う。
しかし私の言葉を聞いてザシャは困ったような顔を見せた。
「本当に何でも良いの?」
「はい」
私が頷くと、ザシャは何かを考えたように私のことをじっと見つめてきた。
(な、なに!?)
「それじゃあ、今日は一日中エミリーをいじめ尽くそうかな」
「……っ!?」
ザシャは目を細め意地悪そうに呟いてくる。
(いじめるってまさか……耳を!?)
私はハッとすると慌てるように両手で耳を隠した。
その光景を見ていたザシャは「ぷっ」と吹き出すように笑い出した。
「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
ザシャは私の手を掴むと塞いでいる手を外させた。
「酷いっ!騙したんですか」
「騙したというか、エミリーが何でもいいなんて言うから少しからかっただけだよ。それとも、本当に一日中耳をいじめて欲しい?」
「だ、だめっ!」
私は慌てるように答えた。
そんなことをされたら、私がおかしくなってしまう。
「それなら、何をしたいか一緒に考えようか」
「……はい」
耳をいじめられるのを回避出来てほっとしていると、ザシャは何かに気付いたのか傍に置かれている本を手に取った。
「エミリーってこういう本に興味があるの?」
「え?……あ、それはっ!!」
ザシャは手に取った本をパラパラと捲っていく。
その本は私がザシャの心を掴むために読んでいた、恋愛のコツが書かれているものだった。
ザシャにこんな本を読んでることがバレて恥ずかしくなり、みるみるうちに顔の奥が熱くなっていく。
「もしかして、私のために読んでくれていたの?」
「私、恋愛ってザシャさんが初めてだったから……」
「本当にエミリーは可愛いな。折角読んでくれているのにこんなことを言うのは悪いけど、この本を読まなくても私の心はしっかりとエミリーに奪われているよ。だけど、私のために努力してくれたという気持ちはすごく嬉しいかな。ありがとう」
ありがとうと言われても反応に困ってしまい、私は顔を何度も横に振った。
「私もエミリーに負けないように、これからは今まで以上にはっきりと気持ちを伝えていこうかな」
「え?た、例えば……?」
「そうだな。普段から『愛してる』って伝えてみようかな。そうすればエミリーの不安も減るんじゃない?私もストレートに気持ちを伝えたいと思っていたところだし。もうエミリーに遠慮はしないって決めたからね」
「嬉しいけど、ドキドキしすぎて私の心臓が持たなくなる……」
私はもじもじと恥ずかしそうに答えると、ザシャは「可愛いな」と呟いた。
「それこそ私の思う壺だね。私の事しか考えられなくしたい。愛しいエミリーを私はいつだって独占したいと思っているからね」
「もうっ、またからかって」
ザシャは意地悪な顔をしていたので、本気で言っているのか冗談なのか分からなかった。
だけどそれでもいい。
いつもザシャに気持ちを振り回されてしまうけど、私はこういう時間がすごく好き。
(私だってザシャさんを愛しく思ってるし、独占したい)
「ザシャさん。今日は天気も良いし、二人だけでお茶会がしたいです」
以前お茶会をした時はアイロスも含め三人で行った。
あの時は私が一人で動揺してしまい、心が落ち着かないまま終わってしまった。
だから今回は二人だけで、のんびりとした時間を一緒に過ごしたいと思った。
それは私にとっては至福で贅沢な時間になることだろう。
*********
作者より
こちらの作品を読んで頂きありがとうございます。
暫くの間更新を止めてしまい、申し訳ありませんでした。
本日より再開します。
最初は甘々からにはなってしまいますが、この後完結に向けて物語も大きく動き出す予定です。
今度こそ完結まで書き上げてしまおうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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