85 / 133
85.穏やかな朝
しおりを挟む
心の奥に溜め込んでいた気持ちを全てザシャに伝えることが出来て、私は安心しきった顔で眠りについた。
ザシャという存在は、私の中で日々大きくなっている。
もう、離れることなんて出来ない程に。
「ん……」
「起きたのかな?おはよう、エミリー」
私がゆっくりと瞼を開くと、微笑みかけているザシャと目が合った。
(気持ちいい……、ずっと頭を撫でていてくれたの?)
なんだか心地良いなと感じていたのは、ザシャが私の髪を柔らかく撫でてくれていたからだった。
これは夢なんかじゃないと分かると、自然と笑みが溢れ「ザシャさん、おはようございます」と笑顔で返した。
「やっぱりエミリーの寝顔を見るのはいいものだね。これは私だけの特権だな」
「……っ、私の寝顔なんて見ても面白くないですよ」
私は恥ずかしくなり早口で焦るように答えてしまう。
するとザシャは「そんなことないよ」と小さく笑った。
「無防備にスースーと寝息を立てながら眠るエミリーの姿は、可愛らしくて癒やされるんだよな。きっと、ずっと眺めていても飽きない気がするよ」
ザシャはクスッと楽しそうに笑い「たまに可愛い寝言も聞けるしな」と冗談ぽく付け加えた。
「……っ!!そんなのを聞いて楽しまないでくださいっ」
私は恥ずかしくなり、思わずザシャから視線を逸らしてしまう。
(恥ずかしいっ!私、また変な事言ったりしてないよね?)
「そんなに恥ずかしい?耳まで真っ赤だ」
「ひぁっ!な、何するんですかっ!びっくしりた」
突然耳元でザシャの声が響き、ビクッと体を勢い良く跳ね上げてしまう。
私は慌てて耳を隠すと、顔を真っ赤に染めてムッとした表情で言い返した。
「エミリーは耳が弱いのに、簡単に私の前に晒して。いじめて欲しいのかなって勘違いしてしまうよ。本当にこの耳はすぐに真っ赤になるよな」
ザシャは私の耳を指でなぞるように触れる。
指の感覚に私はゾクッと体を震わせてしまう。
「ザシャさんの意地悪っ……」
「エミリーにだけだよ」
私が困ったように答えると、ザシャは私の反応を楽しむかのようにクスクスと笑っていた。
そして視線が絡むとザシャの顔がゆっくりと近づいてきて、ドキドキしていると唇に温かいものが重なり私は静かに目を閉じた。
(朝からザシャさんの傍にいられるのって、本当に嬉しいな)
「……っ」
ザシャは唇をゆっくりと剥がすと、今度は額に、そして瞼、頬と順番に口付けていく。
「今日は何して過ごしたい?」
「ザシャさんと一緒ならなんでもいい」
私は悩むことなく即答した。
本当にその言葉通りだった。
私はザシャと一緒に過ごせれば、きっと何をしても楽しいのだと思う。
しかし私の言葉を聞いてザシャは困ったような顔を見せた。
「本当に何でも良いの?」
「はい」
私が頷くと、ザシャは何かを考えたように私のことをじっと見つめてきた。
(な、なに!?)
「それじゃあ、今日は一日中エミリーをいじめ尽くそうかな」
「……っ!?」
ザシャは目を細め意地悪そうに呟いてくる。
(いじめるってまさか……耳を!?)
私はハッとすると慌てるように両手で耳を隠した。
その光景を見ていたザシャは「ぷっ」と吹き出すように笑い出した。
「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
ザシャは私の手を掴むと塞いでいる手を外させた。
「酷いっ!騙したんですか」
「騙したというか、エミリーが何でもいいなんて言うから少しからかっただけだよ。それとも、本当に一日中耳をいじめて欲しい?」
「だ、だめっ!」
私は慌てるように答えた。
そんなことをされたら、私がおかしくなってしまう。
「それなら、何をしたいか一緒に考えようか」
「……はい」
耳をいじめられるのを回避出来てほっとしていると、ザシャは何かに気付いたのか傍に置かれている本を手に取った。
「エミリーってこういう本に興味があるの?」
「え?……あ、それはっ!!」
ザシャは手に取った本をパラパラと捲っていく。
その本は私がザシャの心を掴むために読んでいた、恋愛のコツが書かれているものだった。
ザシャにこんな本を読んでることがバレて恥ずかしくなり、みるみるうちに顔の奥が熱くなっていく。
「もしかして、私のために読んでくれていたの?」
「私、恋愛ってザシャさんが初めてだったから……」
「本当にエミリーは可愛いな。折角読んでくれているのにこんなことを言うのは悪いけど、この本を読まなくても私の心はしっかりとエミリーに奪われているよ。だけど、私のために努力してくれたという気持ちはすごく嬉しいかな。ありがとう」
ありがとうと言われても反応に困ってしまい、私は顔を何度も横に振った。
「私もエミリーに負けないように、これからは今まで以上にはっきりと気持ちを伝えていこうかな」
「え?た、例えば……?」
「そうだな。普段から『愛してる』って伝えてみようかな。そうすればエミリーの不安も減るんじゃない?私もストレートに気持ちを伝えたいと思っていたところだし。もうエミリーに遠慮はしないって決めたからね」
「嬉しいけど、ドキドキしすぎて私の心臓が持たなくなる……」
私はもじもじと恥ずかしそうに答えると、ザシャは「可愛いな」と呟いた。
「それこそ私の思う壺だね。私の事しか考えられなくしたい。愛しいエミリーを私はいつだって独占したいと思っているからね」
「もうっ、またからかって」
ザシャは意地悪な顔をしていたので、本気で言っているのか冗談なのか分からなかった。
だけどそれでもいい。
いつもザシャに気持ちを振り回されてしまうけど、私はこういう時間がすごく好き。
(私だってザシャさんを愛しく思ってるし、独占したい)
「ザシャさん。今日は天気も良いし、二人だけでお茶会がしたいです」
以前お茶会をした時はアイロスも含め三人で行った。
あの時は私が一人で動揺してしまい、心が落ち着かないまま終わってしまった。
だから今回は二人だけで、のんびりとした時間を一緒に過ごしたいと思った。
それは私にとっては至福で贅沢な時間になることだろう。
*********
作者より
こちらの作品を読んで頂きありがとうございます。
暫くの間更新を止めてしまい、申し訳ありませんでした。
本日より再開します。
最初は甘々からにはなってしまいますが、この後完結に向けて物語も大きく動き出す予定です。
今度こそ完結まで書き上げてしまおうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
ザシャという存在は、私の中で日々大きくなっている。
もう、離れることなんて出来ない程に。
「ん……」
「起きたのかな?おはよう、エミリー」
私がゆっくりと瞼を開くと、微笑みかけているザシャと目が合った。
(気持ちいい……、ずっと頭を撫でていてくれたの?)
なんだか心地良いなと感じていたのは、ザシャが私の髪を柔らかく撫でてくれていたからだった。
これは夢なんかじゃないと分かると、自然と笑みが溢れ「ザシャさん、おはようございます」と笑顔で返した。
「やっぱりエミリーの寝顔を見るのはいいものだね。これは私だけの特権だな」
「……っ、私の寝顔なんて見ても面白くないですよ」
私は恥ずかしくなり早口で焦るように答えてしまう。
するとザシャは「そんなことないよ」と小さく笑った。
「無防備にスースーと寝息を立てながら眠るエミリーの姿は、可愛らしくて癒やされるんだよな。きっと、ずっと眺めていても飽きない気がするよ」
ザシャはクスッと楽しそうに笑い「たまに可愛い寝言も聞けるしな」と冗談ぽく付け加えた。
「……っ!!そんなのを聞いて楽しまないでくださいっ」
私は恥ずかしくなり、思わずザシャから視線を逸らしてしまう。
(恥ずかしいっ!私、また変な事言ったりしてないよね?)
「そんなに恥ずかしい?耳まで真っ赤だ」
「ひぁっ!な、何するんですかっ!びっくしりた」
突然耳元でザシャの声が響き、ビクッと体を勢い良く跳ね上げてしまう。
私は慌てて耳を隠すと、顔を真っ赤に染めてムッとした表情で言い返した。
「エミリーは耳が弱いのに、簡単に私の前に晒して。いじめて欲しいのかなって勘違いしてしまうよ。本当にこの耳はすぐに真っ赤になるよな」
ザシャは私の耳を指でなぞるように触れる。
指の感覚に私はゾクッと体を震わせてしまう。
「ザシャさんの意地悪っ……」
「エミリーにだけだよ」
私が困ったように答えると、ザシャは私の反応を楽しむかのようにクスクスと笑っていた。
そして視線が絡むとザシャの顔がゆっくりと近づいてきて、ドキドキしていると唇に温かいものが重なり私は静かに目を閉じた。
(朝からザシャさんの傍にいられるのって、本当に嬉しいな)
「……っ」
ザシャは唇をゆっくりと剥がすと、今度は額に、そして瞼、頬と順番に口付けていく。
「今日は何して過ごしたい?」
「ザシャさんと一緒ならなんでもいい」
私は悩むことなく即答した。
本当にその言葉通りだった。
私はザシャと一緒に過ごせれば、きっと何をしても楽しいのだと思う。
しかし私の言葉を聞いてザシャは困ったような顔を見せた。
「本当に何でも良いの?」
「はい」
私が頷くと、ザシャは何かを考えたように私のことをじっと見つめてきた。
(な、なに!?)
「それじゃあ、今日は一日中エミリーをいじめ尽くそうかな」
「……っ!?」
ザシャは目を細め意地悪そうに呟いてくる。
(いじめるってまさか……耳を!?)
私はハッとすると慌てるように両手で耳を隠した。
その光景を見ていたザシャは「ぷっ」と吹き出すように笑い出した。
「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
ザシャは私の手を掴むと塞いでいる手を外させた。
「酷いっ!騙したんですか」
「騙したというか、エミリーが何でもいいなんて言うから少しからかっただけだよ。それとも、本当に一日中耳をいじめて欲しい?」
「だ、だめっ!」
私は慌てるように答えた。
そんなことをされたら、私がおかしくなってしまう。
「それなら、何をしたいか一緒に考えようか」
「……はい」
耳をいじめられるのを回避出来てほっとしていると、ザシャは何かに気付いたのか傍に置かれている本を手に取った。
「エミリーってこういう本に興味があるの?」
「え?……あ、それはっ!!」
ザシャは手に取った本をパラパラと捲っていく。
その本は私がザシャの心を掴むために読んでいた、恋愛のコツが書かれているものだった。
ザシャにこんな本を読んでることがバレて恥ずかしくなり、みるみるうちに顔の奥が熱くなっていく。
「もしかして、私のために読んでくれていたの?」
「私、恋愛ってザシャさんが初めてだったから……」
「本当にエミリーは可愛いな。折角読んでくれているのにこんなことを言うのは悪いけど、この本を読まなくても私の心はしっかりとエミリーに奪われているよ。だけど、私のために努力してくれたという気持ちはすごく嬉しいかな。ありがとう」
ありがとうと言われても反応に困ってしまい、私は顔を何度も横に振った。
「私もエミリーに負けないように、これからは今まで以上にはっきりと気持ちを伝えていこうかな」
「え?た、例えば……?」
「そうだな。普段から『愛してる』って伝えてみようかな。そうすればエミリーの不安も減るんじゃない?私もストレートに気持ちを伝えたいと思っていたところだし。もうエミリーに遠慮はしないって決めたからね」
「嬉しいけど、ドキドキしすぎて私の心臓が持たなくなる……」
私はもじもじと恥ずかしそうに答えると、ザシャは「可愛いな」と呟いた。
「それこそ私の思う壺だね。私の事しか考えられなくしたい。愛しいエミリーを私はいつだって独占したいと思っているからね」
「もうっ、またからかって」
ザシャは意地悪な顔をしていたので、本気で言っているのか冗談なのか分からなかった。
だけどそれでもいい。
いつもザシャに気持ちを振り回されてしまうけど、私はこういう時間がすごく好き。
(私だってザシャさんを愛しく思ってるし、独占したい)
「ザシャさん。今日は天気も良いし、二人だけでお茶会がしたいです」
以前お茶会をした時はアイロスも含め三人で行った。
あの時は私が一人で動揺してしまい、心が落ち着かないまま終わってしまった。
だから今回は二人だけで、のんびりとした時間を一緒に過ごしたいと思った。
それは私にとっては至福で贅沢な時間になることだろう。
*********
作者より
こちらの作品を読んで頂きありがとうございます。
暫くの間更新を止めてしまい、申し訳ありませんでした。
本日より再開します。
最初は甘々からにはなってしまいますが、この後完結に向けて物語も大きく動き出す予定です。
今度こそ完結まで書き上げてしまおうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
11
お気に入りに追加
3,094
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる