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83.吐き出された本心
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私の心はざわざわと揺れていた。
ザシャは何度も私に気持ちを打ち明けて、言葉にして伝えてくれる。
今までの私だったら素直に喜んで、それだけで不安が吹き飛んでいただろう。
だけど今は前とは少し違う。
ザシャを深く思っていく度に、不安もその分大きくなる。
これから先何度も同じ思いをして、我慢しなくてはならないと思うと胸が苦しくなる。
本心を伝えてしまえば楽になれるかもしれないが、そんな事を言ってザシャを困らせたくない。
伝えてザシャが私から離れてしまったらと思うと、怖くて堪らない。
「エミリー、何を考えているの?」
「え?」
ザシャは鋭い視線で私の瞳をじっと捉えていた。
私はドキッとして思わず視線を逸らしてしまう。
「私に言いたい事があるのなら言って。私はエミリーの言葉なら何でも喜んで聞くよ」
「でも、言ったらザシャさん……、嫌な気持ちになっちゃうかも」
私が不安そうに答えると、ザシャはふっと小さく笑って「大丈夫だよ」と呟いた。
「話してみないと分からないだろう?何も言わないで黙っていられる方が寂しいな」
「本当に…?怒ったり、しませんか?」
「んー…、それは聞いてみないと分からないかな」
「……っ…」
ザシャは悩んだ様にぼそりと呟いた。
その言葉を聞いて私は困った顔を見せる。
「ふふ、冗談だよ。怒ったりなんてしないから、話してみて」
「わかり、ました……」
きっとザシャは私が話すまで諦めてはくれない、そんな気がしたので私は意を決して話す事にした。
今後の事を考えても、多分今のタイミングで話してしまった方が良い気がしたから。
「私ってザシャさんにとって、婚約者候補の一人ですよね」
「そんな風に言われると違うと答えたくなるけど、立場的な意味で言えばそうなるかな」
「今日、ザシャさんとシルヴィアさんが一緒に居るのを見て、すごく仲良さそうで……。シルヴィアさんが羨ましいなって思って、それに……」
私は話しながらザシャの反応をドキドキしながら見つめていた。
「いいよ、全部話して」
「それに、王都に一緒に行くのも羨ましいなって思ってしまいました。他の候補者の方とどんな接し方をしているのか私には分からないけど、シルヴィアさんは特別な気がして……」
私の言葉を聞いてザシャは僅かに目を細めた。
「シルヴィアのことはエミリーが思っている様な関係では無いよ」
「それはアイロスさんから聞きました、でも……」
「仲良さそうな二人を見ていると不安になって、勝手に嫉妬して嫌なことばかり考えてしまう自分がすごく嫌いで。このまま私が嫌な人間になっていったら、いつかザシャさんに愛想を尽かされてしまうんじゃないかって思うと、怖くて堪らない……」
私は声を震わせ、零れそうになる涙を必死に堪えていた。
(言っちゃった……、どうしよう……)
私が話終えるとザシャは深くため息を漏らした。
その姿を見て私は戸惑った表情を見せる。
「エミリー、そんな泣きそうな顔をしないで。こんな事を言ったら不謹慎かもしれないけど、嫉妬するエミリーも愛おしく感じてしまう位だ。だから嫌いになるなんてことはないよ。それに謝るべきなのは私の方だな。ここまで不安にさせているとは正直思っていなかった。気付けなくて本当にごめん。だけどこれだけは信じて欲しい、私が特別だと思っているのはエミリーだけだよ。愛しているのも、こんな風に傍にいたいと思うのもエミリーだけ」
ザシャは切なそうな表情で伝えて来た。
その言葉からは『信じて欲しい』という思いが伝わって来て、これは心からの言葉なんだろうと伝わって来た。
嬉しい反面、困らせてしまったことに申し訳なさも感じてしまう。
「ザシャさん、謝らないでっ…。これは私が勝手に嫉妬しただけで」
「エミリー、言い訳にはなってしまうかもしれないが、これから話す事を聞いて欲しい」
ザシャはそう前置きして話し始めた。
「私には婚約者候補になった者達と公平に接しなければならないという決まりがある。それは週に一度与えられた時間のことだ。エミリー以外の候補者は私の意思で決めたわけでは無く、家柄で選ばれたのは多分知っているよね。国にとって有益になる者達ばかりだ。もし今回の候補者選びから外れたとしても、側妃として迎え入れて欲しいという意見もある」
ザシャは険しい表情で話していて、そこからは嫌悪感を感じ取ることが出来た。
私もその話を聞いて更に不安を感じてしまう。
ザシャは王子だけど、今回の候補者選びはザシャの意思で決めたものではないということ。
もし今言った事を命じられれば、ザシャの意思に反していても従わなければならないのかもしれない。
(そんな……)
「勿論、私は側妃を置く事なんて望んではいない。それにこのやり方は大分古い。いい加減この悪いしきたりを私の代で最後にしたいと考えていて、その為に今少し動いているんだ。だからもう少しだけ待っていて欲しい。今はこんな事しか言えなくてごめん」
ザシャは申し訳なさそうに話すと、私の頬を包む様に触れた。
「もう少しの間、寂しい思いをさせてしまうかもしれないけど、私の事を信じて待っていて欲しい。それとこれからはどんな些細なことでも、何でも話して。エミリーは我慢し過ぎだ。前にも言ったけど、もっと私を頼って欲しいな」
「ザシャさんっ……」
私の目からは涙が溢れていた。
ザシャは私が不安になる度に何度だってそう言ってくれる。
それなのに私はいつの間にかその言葉を忘れて一人で不安になって、ザシャの事を信じることが出来なくなっていた。
それは迷惑を掛けたくない、嫌われたく無いという思いから、自分の気持ちをちゃんと伝えることが出来なかったからだ。
「本当は寂しい、もっとザシャさんの傍にいたいっ……」
「やっと本音を言ってくれたな。ありがとう」
ザシャは穏やかな声でそう呟き、私の髪を柔らかく撫でてくれた。
「ザシャさん、大好きっ……、私の傍から離れないで……」
私は泣きながら言いたい事を全部口にしていた。
今まで抑えていた感情が一気に溢れて来て、全てを吐き出すまで止まらなかった。
ザシャはそんな私の思いを全て受け止めてくれた。
「また泣かせてしまったな」
ザシャは指で私の涙を拭ってくれた。
私は泣き止むと急にはずかしくなってきてしまう。
それと同時に引かれてしまったんじゃないかと不安になり、ザシャの胸に抱き着き顔を隠した。
「今度は甘えたいの?ふふっ、本当にエミリーは可愛いね。私はそんなエミリーに夢中だから、他の令嬢に余所見をする暇なんてないよ」
ザシャは何度も私に気持ちを打ち明けて、言葉にして伝えてくれる。
今までの私だったら素直に喜んで、それだけで不安が吹き飛んでいただろう。
だけど今は前とは少し違う。
ザシャを深く思っていく度に、不安もその分大きくなる。
これから先何度も同じ思いをして、我慢しなくてはならないと思うと胸が苦しくなる。
本心を伝えてしまえば楽になれるかもしれないが、そんな事を言ってザシャを困らせたくない。
伝えてザシャが私から離れてしまったらと思うと、怖くて堪らない。
「エミリー、何を考えているの?」
「え?」
ザシャは鋭い視線で私の瞳をじっと捉えていた。
私はドキッとして思わず視線を逸らしてしまう。
「私に言いたい事があるのなら言って。私はエミリーの言葉なら何でも喜んで聞くよ」
「でも、言ったらザシャさん……、嫌な気持ちになっちゃうかも」
私が不安そうに答えると、ザシャはふっと小さく笑って「大丈夫だよ」と呟いた。
「話してみないと分からないだろう?何も言わないで黙っていられる方が寂しいな」
「本当に…?怒ったり、しませんか?」
「んー…、それは聞いてみないと分からないかな」
「……っ…」
ザシャは悩んだ様にぼそりと呟いた。
その言葉を聞いて私は困った顔を見せる。
「ふふ、冗談だよ。怒ったりなんてしないから、話してみて」
「わかり、ました……」
きっとザシャは私が話すまで諦めてはくれない、そんな気がしたので私は意を決して話す事にした。
今後の事を考えても、多分今のタイミングで話してしまった方が良い気がしたから。
「私ってザシャさんにとって、婚約者候補の一人ですよね」
「そんな風に言われると違うと答えたくなるけど、立場的な意味で言えばそうなるかな」
「今日、ザシャさんとシルヴィアさんが一緒に居るのを見て、すごく仲良さそうで……。シルヴィアさんが羨ましいなって思って、それに……」
私は話しながらザシャの反応をドキドキしながら見つめていた。
「いいよ、全部話して」
「それに、王都に一緒に行くのも羨ましいなって思ってしまいました。他の候補者の方とどんな接し方をしているのか私には分からないけど、シルヴィアさんは特別な気がして……」
私の言葉を聞いてザシャは僅かに目を細めた。
「シルヴィアのことはエミリーが思っている様な関係では無いよ」
「それはアイロスさんから聞きました、でも……」
「仲良さそうな二人を見ていると不安になって、勝手に嫉妬して嫌なことばかり考えてしまう自分がすごく嫌いで。このまま私が嫌な人間になっていったら、いつかザシャさんに愛想を尽かされてしまうんじゃないかって思うと、怖くて堪らない……」
私は声を震わせ、零れそうになる涙を必死に堪えていた。
(言っちゃった……、どうしよう……)
私が話終えるとザシャは深くため息を漏らした。
その姿を見て私は戸惑った表情を見せる。
「エミリー、そんな泣きそうな顔をしないで。こんな事を言ったら不謹慎かもしれないけど、嫉妬するエミリーも愛おしく感じてしまう位だ。だから嫌いになるなんてことはないよ。それに謝るべきなのは私の方だな。ここまで不安にさせているとは正直思っていなかった。気付けなくて本当にごめん。だけどこれだけは信じて欲しい、私が特別だと思っているのはエミリーだけだよ。愛しているのも、こんな風に傍にいたいと思うのもエミリーだけ」
ザシャは切なそうな表情で伝えて来た。
その言葉からは『信じて欲しい』という思いが伝わって来て、これは心からの言葉なんだろうと伝わって来た。
嬉しい反面、困らせてしまったことに申し訳なさも感じてしまう。
「ザシャさん、謝らないでっ…。これは私が勝手に嫉妬しただけで」
「エミリー、言い訳にはなってしまうかもしれないが、これから話す事を聞いて欲しい」
ザシャはそう前置きして話し始めた。
「私には婚約者候補になった者達と公平に接しなければならないという決まりがある。それは週に一度与えられた時間のことだ。エミリー以外の候補者は私の意思で決めたわけでは無く、家柄で選ばれたのは多分知っているよね。国にとって有益になる者達ばかりだ。もし今回の候補者選びから外れたとしても、側妃として迎え入れて欲しいという意見もある」
ザシャは険しい表情で話していて、そこからは嫌悪感を感じ取ることが出来た。
私もその話を聞いて更に不安を感じてしまう。
ザシャは王子だけど、今回の候補者選びはザシャの意思で決めたものではないということ。
もし今言った事を命じられれば、ザシャの意思に反していても従わなければならないのかもしれない。
(そんな……)
「勿論、私は側妃を置く事なんて望んではいない。それにこのやり方は大分古い。いい加減この悪いしきたりを私の代で最後にしたいと考えていて、その為に今少し動いているんだ。だからもう少しだけ待っていて欲しい。今はこんな事しか言えなくてごめん」
ザシャは申し訳なさそうに話すと、私の頬を包む様に触れた。
「もう少しの間、寂しい思いをさせてしまうかもしれないけど、私の事を信じて待っていて欲しい。それとこれからはどんな些細なことでも、何でも話して。エミリーは我慢し過ぎだ。前にも言ったけど、もっと私を頼って欲しいな」
「ザシャさんっ……」
私の目からは涙が溢れていた。
ザシャは私が不安になる度に何度だってそう言ってくれる。
それなのに私はいつの間にかその言葉を忘れて一人で不安になって、ザシャの事を信じることが出来なくなっていた。
それは迷惑を掛けたくない、嫌われたく無いという思いから、自分の気持ちをちゃんと伝えることが出来なかったからだ。
「本当は寂しい、もっとザシャさんの傍にいたいっ……」
「やっと本音を言ってくれたな。ありがとう」
ザシャは穏やかな声でそう呟き、私の髪を柔らかく撫でてくれた。
「ザシャさん、大好きっ……、私の傍から離れないで……」
私は泣きながら言いたい事を全部口にしていた。
今まで抑えていた感情が一気に溢れて来て、全てを吐き出すまで止まらなかった。
ザシャはそんな私の思いを全て受け止めてくれた。
「また泣かせてしまったな」
ザシャは指で私の涙を拭ってくれた。
私は泣き止むと急にはずかしくなってきてしまう。
それと同時に引かれてしまったんじゃないかと不安になり、ザシャの胸に抱き着き顔を隠した。
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