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79.落ち着ける場所
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私を部屋まで送り届けるとアイロスは出て行った。
その後エラに質問攻めにされ、今日起きた出来事や、今まで心の中に閉じ込めてた思い全てを打ち明けた。
二人は私の話を最後まで聞いてくれて、悩む前に自分達に相談して欲しいと言ってくれた。
そんな二人の気持ちが本当に嬉しくて、私はまた泣いてしまった。
最近の私は涙もろくなっているのかもしれない。
今日は色々とあり、泣きつかれたこともあったりで早めにベッドに入ることにした。
ザシャがこの後来てくれることは分かっていたが、いつもの様に執務を終えてから来るはずなので恐らくは数時間後だろう。
私は眠らない様に体をベッドの背凭れに預け、今日借りて来た本に目を通していた。
本を開いて数ページ読んだ所で、ガチャと奥の方で扉が開く音が響いた。
(エラかな?)
私はそう思って扉の方に視線を向けた。
もう眠る準備をしていたため室内は薄暗く、ベッド脇にある蝋燭の炎だけがこの部屋を灯す光だった。
そのため奥から近づいて来る足音はまだ誰のものか分からない。
だけどその足音が近づいて来るに連れて、エラのものでは無い事に気付く。
「だ、誰?」
私は足音の方に視線を向けて、声を震わせ問いかける。
その返事が来る前に、私の視界に一番会いたかった人の姿が映った。
「ザシャ…、さん?」
「エミリー、今日はいつもよりも大分早く来てしまったから驚かせてしまったかな」
ザシャはいつも通りの優しい表情をしていた。
だけど僅かに息を切らしていて、私の為に急いで来てくれたんだとすぐに気付いた。
(ザシャさん、いつもより来るのが早い。もしかして昼間のことを心配して、早く来てくれたの?)
「大丈夫です。それより息が切れてますけど、急いで来てくれたんですか?」
「あ、バレてしまったか。一応扉の前で息を整えて来たつもりなんだけどね。一秒でも早くエミリーの顔が見たくて、少し慌ててしまった様だな」
ザシャは苦笑していた。
だけどその言葉を聞くと、胸の奥深くがジーンと熱くなっていくのを感じていた。
「昼間見た時よりは目の腫れは大分良くなってきているみたいだな。痛くはないか?」
「大丈夫です」
ザシャは私の頬に触れると、私の目元を心配そうに見ていた。
一度は赤く腫れている目元に触れようとするも、昼間シルヴィアに言われたことを気にしているのか途中で指が止まり触れられることは無かった。
「ご心配かけてしまって、ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。心配は私が勝手にしたことだからな。それよりも昼間はエミリーの側にいてやることが出来なくて、ごめん……」
ザシャは悔しそうに謝っていた。
「謝らないでくださいっ!私も勝手に泣いただけなので、謝る必要なんてないですからっ!」
私は慌てる様に答えると、ザシャは「やっぱり泣いていたんだな」とぼそりと呟いた。
あの時、咄嗟に目にゴミが入ったと嘘を付いてしまった。
ザシャは最初から嘘を付いていることには気付いていた様子だった。
「……っ……」
「エミリーの事だから、嘘を付いたのは私に心配を掛けまいと思っての事だろう?あの場にはシルヴィアもいたから尚更話しづらい状況だったよな」
「やっぱり、嘘だと気付いていたんですね」
「明らかにあの時のエミリーは動揺していたからね。見ていればすぐに気付くよ。それにエミリーとあの場所で出会ったのは偶然だったからな。余計に焦らせてしまったんだよな」
「……はい」
ザシャの言葉は的確に私の心の内を見抜いていた。
「もし、あの時あの場所で私と会わなければ、今回の事は黙っているつもりだった?」
「え?そ、それは大した事では無いですし……」
その問いを聞いて、思わず視線を泳がせてしまう。
あの場でザシャと会わなければ、この事は私の口からは告げなかったかもしれない。
私が弱弱しい口調で答えているとザシャは盛大にため息を漏らした。
「エミリー、こっちを見て」
ザシャの言葉に促される様に、私は視線を向けた。
ザシャは怒っている様子もなく、ただじっと私の瞳の奥を見つめていた。
敢えて言えば少し困った様な表情をしている様に見えた。
そして私の手を包み込む様に上から触れて来た。
「こんなこと、いつも傍にいてやることが出来ない私が言った所で何の説得力も感じないとは思うけど、私はエミリーの事を本当に大切に思っている。誰よりも…、ね。だから私の知らない所で泣かれたり、悩んでいる姿を想像すると辛くなる。あんなに目を腫らすくらい泣かせてしまって、それを見るまで何も気付かなかった私に……、こんなことを言われても信じられないよな」
ザシャは眉を顰める様に表情を歪め、本当に悔しそうな顔をしていた。
「そんなことないっ!ザシャさんに大切にして貰っているのは分かってます。今回の事は少しアイロスさんと口論になってしまって、それで感情が抑えらられなくなってそうなってしまっただけで……。だけどアイロスさんが悪いわけでは無いです。それだけは分かってください。アイロスさんは私を思って言ってくれた事だからっ……」
「ちょっと待って。エミリーはアイロスのことで泣いてたの?」
ザシャの言葉を聞いていたら感情が昂り、誤解されたく無いと言う思いから次第に焦っていってしまう。
話していくに連れて混乱し、途中から自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
私の話を聞いていたザシャも表情を曇らせて始めていたので、このままでは誤解されてしまうと感じて、言葉よりも先にザシャの手をぎゅっと掴んだ。
(どうしよう。このままだとザシャさんに誤解されてしまう。アイロスさんは悪くないのにっ…、ちゃんと説明しないと……)
私は焦っている為か良い言葉が思い浮かばず、口を噤んでしまう。
そんな私の動揺している姿に気付いたザシャは、小さく笑って私の事を包み込む様に優しく抱きしめてくれた。
まるで落ち着かせる様に。
「エミリー、落ち着いて。まずは深呼吸をしてみようか。話すのは落ち着いてからで構わないから」
「……っ……」
私はザシャに言われた通りゆっくりと深呼吸を繰り返す。
その間ザシャは私の頭を優しく撫でていてくれた。
次第に私の心も落ち着きを取り戻していく。
「ザシャさん、ありがとうございます。おかげでなんとか落ち着けました」
「もういいの?」
私が声を掛けると、ザシャは優しい声で返して来た。
私はそれを聞いて、なんとなく離れるのが名残惜しく思えてしまい、ザシャの背中に手を回してぎゅっと抱き着いた。
「本当にエミリーは可愛いらしいね。時間はたっぷりあるのだから、エミリーの言葉が纏まるまでこうしていてあげるよ。だからゆっくりでいい。私だって今日一日、ずっとこうやってエミリーの事を抱きしめたいと思っていたくらいだからね。だからもう少し、私に抱きしめられていて…」
「……っ、ザシャさん」
それから暫くの間、お互いを思い合うように抱きしめ合っていた。
最初は興奮してドキドキしてしまうが、ザシャに包まれていると自然と焦りは消えていき、話したい事を落ち着いて考えられるようになっていく。
その後エラに質問攻めにされ、今日起きた出来事や、今まで心の中に閉じ込めてた思い全てを打ち明けた。
二人は私の話を最後まで聞いてくれて、悩む前に自分達に相談して欲しいと言ってくれた。
そんな二人の気持ちが本当に嬉しくて、私はまた泣いてしまった。
最近の私は涙もろくなっているのかもしれない。
今日は色々とあり、泣きつかれたこともあったりで早めにベッドに入ることにした。
ザシャがこの後来てくれることは分かっていたが、いつもの様に執務を終えてから来るはずなので恐らくは数時間後だろう。
私は眠らない様に体をベッドの背凭れに預け、今日借りて来た本に目を通していた。
本を開いて数ページ読んだ所で、ガチャと奥の方で扉が開く音が響いた。
(エラかな?)
私はそう思って扉の方に視線を向けた。
もう眠る準備をしていたため室内は薄暗く、ベッド脇にある蝋燭の炎だけがこの部屋を灯す光だった。
そのため奥から近づいて来る足音はまだ誰のものか分からない。
だけどその足音が近づいて来るに連れて、エラのものでは無い事に気付く。
「だ、誰?」
私は足音の方に視線を向けて、声を震わせ問いかける。
その返事が来る前に、私の視界に一番会いたかった人の姿が映った。
「ザシャ…、さん?」
「エミリー、今日はいつもよりも大分早く来てしまったから驚かせてしまったかな」
ザシャはいつも通りの優しい表情をしていた。
だけど僅かに息を切らしていて、私の為に急いで来てくれたんだとすぐに気付いた。
(ザシャさん、いつもより来るのが早い。もしかして昼間のことを心配して、早く来てくれたの?)
「大丈夫です。それより息が切れてますけど、急いで来てくれたんですか?」
「あ、バレてしまったか。一応扉の前で息を整えて来たつもりなんだけどね。一秒でも早くエミリーの顔が見たくて、少し慌ててしまった様だな」
ザシャは苦笑していた。
だけどその言葉を聞くと、胸の奥深くがジーンと熱くなっていくのを感じていた。
「昼間見た時よりは目の腫れは大分良くなってきているみたいだな。痛くはないか?」
「大丈夫です」
ザシャは私の頬に触れると、私の目元を心配そうに見ていた。
一度は赤く腫れている目元に触れようとするも、昼間シルヴィアに言われたことを気にしているのか途中で指が止まり触れられることは無かった。
「ご心配かけてしまって、ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。心配は私が勝手にしたことだからな。それよりも昼間はエミリーの側にいてやることが出来なくて、ごめん……」
ザシャは悔しそうに謝っていた。
「謝らないでくださいっ!私も勝手に泣いただけなので、謝る必要なんてないですからっ!」
私は慌てる様に答えると、ザシャは「やっぱり泣いていたんだな」とぼそりと呟いた。
あの時、咄嗟に目にゴミが入ったと嘘を付いてしまった。
ザシャは最初から嘘を付いていることには気付いていた様子だった。
「……っ……」
「エミリーの事だから、嘘を付いたのは私に心配を掛けまいと思っての事だろう?あの場にはシルヴィアもいたから尚更話しづらい状況だったよな」
「やっぱり、嘘だと気付いていたんですね」
「明らかにあの時のエミリーは動揺していたからね。見ていればすぐに気付くよ。それにエミリーとあの場所で出会ったのは偶然だったからな。余計に焦らせてしまったんだよな」
「……はい」
ザシャの言葉は的確に私の心の内を見抜いていた。
「もし、あの時あの場所で私と会わなければ、今回の事は黙っているつもりだった?」
「え?そ、それは大した事では無いですし……」
その問いを聞いて、思わず視線を泳がせてしまう。
あの場でザシャと会わなければ、この事は私の口からは告げなかったかもしれない。
私が弱弱しい口調で答えているとザシャは盛大にため息を漏らした。
「エミリー、こっちを見て」
ザシャの言葉に促される様に、私は視線を向けた。
ザシャは怒っている様子もなく、ただじっと私の瞳の奥を見つめていた。
敢えて言えば少し困った様な表情をしている様に見えた。
そして私の手を包み込む様に上から触れて来た。
「こんなこと、いつも傍にいてやることが出来ない私が言った所で何の説得力も感じないとは思うけど、私はエミリーの事を本当に大切に思っている。誰よりも…、ね。だから私の知らない所で泣かれたり、悩んでいる姿を想像すると辛くなる。あんなに目を腫らすくらい泣かせてしまって、それを見るまで何も気付かなかった私に……、こんなことを言われても信じられないよな」
ザシャは眉を顰める様に表情を歪め、本当に悔しそうな顔をしていた。
「そんなことないっ!ザシャさんに大切にして貰っているのは分かってます。今回の事は少しアイロスさんと口論になってしまって、それで感情が抑えらられなくなってそうなってしまっただけで……。だけどアイロスさんが悪いわけでは無いです。それだけは分かってください。アイロスさんは私を思って言ってくれた事だからっ……」
「ちょっと待って。エミリーはアイロスのことで泣いてたの?」
ザシャの言葉を聞いていたら感情が昂り、誤解されたく無いと言う思いから次第に焦っていってしまう。
話していくに連れて混乱し、途中から自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
私の話を聞いていたザシャも表情を曇らせて始めていたので、このままでは誤解されてしまうと感じて、言葉よりも先にザシャの手をぎゅっと掴んだ。
(どうしよう。このままだとザシャさんに誤解されてしまう。アイロスさんは悪くないのにっ…、ちゃんと説明しないと……)
私は焦っている為か良い言葉が思い浮かばず、口を噤んでしまう。
そんな私の動揺している姿に気付いたザシャは、小さく笑って私の事を包み込む様に優しく抱きしめてくれた。
まるで落ち着かせる様に。
「エミリー、落ち着いて。まずは深呼吸をしてみようか。話すのは落ち着いてからで構わないから」
「……っ……」
私はザシャに言われた通りゆっくりと深呼吸を繰り返す。
その間ザシャは私の頭を優しく撫でていてくれた。
次第に私の心も落ち着きを取り戻していく。
「ザシャさん、ありがとうございます。おかげでなんとか落ち着けました」
「もういいの?」
私が声を掛けると、ザシャは優しい声で返して来た。
私はそれを聞いて、なんとなく離れるのが名残惜しく思えてしまい、ザシャの背中に手を回してぎゅっと抱き着いた。
「本当にエミリーは可愛いらしいね。時間はたっぷりあるのだから、エミリーの言葉が纏まるまでこうしていてあげるよ。だからゆっくりでいい。私だって今日一日、ずっとこうやってエミリーの事を抱きしめたいと思っていたくらいだからね。だからもう少し、私に抱きしめられていて…」
「……っ、ザシャさん」
それから暫くの間、お互いを思い合うように抱きしめ合っていた。
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