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77.自分を取り戻す
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アイロスは私を部屋まで送ってくれていた。
私達は並ぶ様にして歩いているのだが、お互い会話は無く黙ったままで靴音だけが響いている。
私は先程の光景を思い出し表情を曇らせていた。
「いつまで、そんなに暗い表情をしているつもりだ?」
「え…?」
沈黙を破るかのように、アイロスはため息交じりの声で私に向けて呟いてきた。
私はその言葉に一瞬驚いた顔を見せるが、その後苦笑した。
私だってこんな顔をしたくてしているわけではない。
だけど気になって、色々考えてしまうのだから仕方がないことだ。
「お前、何か誤解してそうだから一応伝えておく」
「誤解?」
「シルヴィアとザシャ様の関係だ」
「…………」
その言葉を聞くと私の足がぴたっと止まった。
「聞きたくないのなら無理には話さない。だけどあの二人はお前が考えている様な関係では無いと思うが」
「でもっ、シルヴィアさん……ザシャって親しそうに呼んでました。ザシャさんもそれを咎めたりはしなかった」
思わず反論してしまうと、アイロスは深く溜息を漏らした。
「やっぱりその事を気にしていたんだな。あの呼び方を許しているのは、この場所にいる間だけはシルヴィアを自由に過ごさせてやりたいって思うザシャ様の善意だ。シルヴィアは幼い頃ザシャ様と出会っていて、その時少し仲良くなった時期があったんだ。シルヴィアには友人はいない。だから付き合い方が分からないんだろうな。それで昔のように接しているだけだと思うぞ」
「シルヴィアさんは、ザシャさんといるとすごく楽しそうに見えました」
アイロスの言っていることは正しいのかもしれないが、シルヴィアのあの楽しそうな姿を思い出してしまうと、素直に受け入れることが出来ないでいた。
「王都に行く話か?」
「……はい」
「シルヴィアは今まで外を出歩くことを余り許されていなかったからな。行ったとしても色々制限されて、自由に見て周る事は出来なかったんだろう。だから行きたい場所を周れることにはしゃいでいるだけだと思うぞ」
「…………」
私もザシャと一緒に王都を周ってみたい。
二人で楽しく過ごしてみたいけど、私には契約があるから半年間はここからは出られない。
それは仕方がない事だと分かってはいるけど、シルヴィアのあんなに嬉しそうな姿を見ていると羨ましく感じてしまう。
「その顔、行きたいのか?王都に」
「行きたい…けど、行けないですよね……」
私がぽつりと呟くとアイロスは「無理だな」と即答して来たので、思わず苦笑してしまう。
(無理なのは私だって良く分かってる……)
「どうして無理なのか分かるか?」
「分かります。私の身を案じてのことですよね」
「ああ、その通りだ。お前がザシャ様の婚約者候補に選ばれたと言う事は周りの貴族には伝わっているからな。良く思わない連中も中にいる。ここに居ればそういう連中からエミリーの身を守ることが出来る。逆を言えばそれだけお前は大事にされているってことだ。もっと自分に自信を持て。前向きに考える所がお前の長所だろ。それでも不安に思うのであれば直接ザシャ様に伝えればいい。エミリーの話なら喜んで聞いてくれるんじゃないか?」
アイロスの言葉がスッと私の心の中に入って来た。
私はいつだって前向きに考えて来た。
物は考えようで良くも悪くもなる。
前向きに考えていたら嫌なことも違う見方が出来て、悪い事だけじゃなくて良い側面も見えてきたりするものだ。
私は今までずっとそういう風に考えて来たのに、アイロスに言われるまですっかり忘れていた。
(アイロスさんの言う通りだ。私ザシャさんのこと信じるって決めたのに、どうしてこんなにも悩んでいたんだろう)
「アイロスさん!ありがとうございます。私、今の言葉で大事なことを思い出せました」
「そうか」
私の顔は普段の様な明るい表情に戻っていた。
それは作り笑顔なんかでは無く、本来の自分を取り戻した希望に満ちた瞳だった。
アイロスもそんな私の笑顔を見て、小さく笑っていた。
私達は並ぶ様にして歩いているのだが、お互い会話は無く黙ったままで靴音だけが響いている。
私は先程の光景を思い出し表情を曇らせていた。
「いつまで、そんなに暗い表情をしているつもりだ?」
「え…?」
沈黙を破るかのように、アイロスはため息交じりの声で私に向けて呟いてきた。
私はその言葉に一瞬驚いた顔を見せるが、その後苦笑した。
私だってこんな顔をしたくてしているわけではない。
だけど気になって、色々考えてしまうのだから仕方がないことだ。
「お前、何か誤解してそうだから一応伝えておく」
「誤解?」
「シルヴィアとザシャ様の関係だ」
「…………」
その言葉を聞くと私の足がぴたっと止まった。
「聞きたくないのなら無理には話さない。だけどあの二人はお前が考えている様な関係では無いと思うが」
「でもっ、シルヴィアさん……ザシャって親しそうに呼んでました。ザシャさんもそれを咎めたりはしなかった」
思わず反論してしまうと、アイロスは深く溜息を漏らした。
「やっぱりその事を気にしていたんだな。あの呼び方を許しているのは、この場所にいる間だけはシルヴィアを自由に過ごさせてやりたいって思うザシャ様の善意だ。シルヴィアは幼い頃ザシャ様と出会っていて、その時少し仲良くなった時期があったんだ。シルヴィアには友人はいない。だから付き合い方が分からないんだろうな。それで昔のように接しているだけだと思うぞ」
「シルヴィアさんは、ザシャさんといるとすごく楽しそうに見えました」
アイロスの言っていることは正しいのかもしれないが、シルヴィアのあの楽しそうな姿を思い出してしまうと、素直に受け入れることが出来ないでいた。
「王都に行く話か?」
「……はい」
「シルヴィアは今まで外を出歩くことを余り許されていなかったからな。行ったとしても色々制限されて、自由に見て周る事は出来なかったんだろう。だから行きたい場所を周れることにはしゃいでいるだけだと思うぞ」
「…………」
私もザシャと一緒に王都を周ってみたい。
二人で楽しく過ごしてみたいけど、私には契約があるから半年間はここからは出られない。
それは仕方がない事だと分かってはいるけど、シルヴィアのあんなに嬉しそうな姿を見ていると羨ましく感じてしまう。
「その顔、行きたいのか?王都に」
「行きたい…けど、行けないですよね……」
私がぽつりと呟くとアイロスは「無理だな」と即答して来たので、思わず苦笑してしまう。
(無理なのは私だって良く分かってる……)
「どうして無理なのか分かるか?」
「分かります。私の身を案じてのことですよね」
「ああ、その通りだ。お前がザシャ様の婚約者候補に選ばれたと言う事は周りの貴族には伝わっているからな。良く思わない連中も中にいる。ここに居ればそういう連中からエミリーの身を守ることが出来る。逆を言えばそれだけお前は大事にされているってことだ。もっと自分に自信を持て。前向きに考える所がお前の長所だろ。それでも不安に思うのであれば直接ザシャ様に伝えればいい。エミリーの話なら喜んで聞いてくれるんじゃないか?」
アイロスの言葉がスッと私の心の中に入って来た。
私はいつだって前向きに考えて来た。
物は考えようで良くも悪くもなる。
前向きに考えていたら嫌なことも違う見方が出来て、悪い事だけじゃなくて良い側面も見えてきたりするものだ。
私は今までずっとそういう風に考えて来たのに、アイロスに言われるまですっかり忘れていた。
(アイロスさんの言う通りだ。私ザシャさんのこと信じるって決めたのに、どうしてこんなにも悩んでいたんだろう)
「アイロスさん!ありがとうございます。私、今の言葉で大事なことを思い出せました」
「そうか」
私の顔は普段の様な明るい表情に戻っていた。
それは作り笑顔なんかでは無く、本来の自分を取り戻した希望に満ちた瞳だった。
アイロスもそんな私の笑顔を見て、小さく笑っていた。
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