王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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74.お願い

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アンナが現王妃に仕えている騎士であることを知り私は驚いていた。
それにカトリナの予想外な態度にも驚かされていた。

私が怪訝そうな顔をカトリナに向けていると、『何?』と言わんばかりの顔をされてしまい慌てる様に視線を逸らした。

「言いたいことがあるのなら言ったら?そんな風に見られていると気になって仕方がないわ」
「……ごめんなさいっ…」
私が思わず謝ってしまうとカトリナは僅かに目を細めた。

「貴女、そうやってすぐに謝るのは癖なの?」
「え…?」

「悪いことをしてないのに謝るのは止めなさい。それから、もっと堂々とすべきよ。貴女はザシャ殿下の隣に立つ人間なのだから、もっと自覚を持って。弱いところを見せていると、いずれ狡い人間に付け入られるわよ」
「…………」
カトリナは厳しい口調で話していたが、私はぽかんとした顔で見つめていた。

「何?その気の抜けた顔は……」
「あ…、ごめんな…っ…。どうして、私に色々教えてくれるんですか?カトリナ様だってザシャさ…殿下の婚約者候補ですよね?私はカトリナ様に取ってはライバルの筈じゃないんですか?」

「ライバル…?貴女が…?冗談でも言っているの?」
「……っ…」
カトリナは嘲るかの様に鼻先で笑った。

カトリナにそんな態度を取られた事は悔しかったが、それ以上に自分の言った言葉に後悔した。
私がライバルにも思われていない事は現実を見れば当然だったからだ。
何を取っても今の私ではカトリナの足元にも及ばない。

「貴女の事はライバルだとは思っていないけど、ザシャ殿下が認めたのであれば私はそれに従うだけよ」
「従うって…、私がザシャ殿下の婚約者になっても構わないって事ですか?」

「どうしてそんな事を聞くの?決めるのはザシャ殿下よ」
「それはそうですけど…」
私が弱々しく答えると、カトリナは盛大にため息を漏らした。

「今の貴女を見ているとすごく腹が立つわ。いつまでその弱々しい態度を見せているつもり?先程の意気込みはどこにいったの…?ああ、全くもって駄目だわ」
「カトリナ様って…なんだかアイロスさんみたい」
私が思わずぽつりと声を漏らしてしまうと、隣で聞いてたアンナは「確かに似てますね」と呟いた。

「それはどういう意味かしら?」
「何でも思ったことをはっきり言うところとか、そっくりです!」
カトリナは怪訝そうな表情で聞いて来たので、私は迷うことなくさらりと答えた。

(女版のアイロスさんだわ……。はっきり厳しい事を言って来る所とか…)

「……っ…!!」
カトリナは私の言葉を聞いて少し驚いた顔をしていた。

「カトリナ様、もし良ければですが…私に色々教えてはくれませんか?」
「は…?」
私の言葉を聞いたカトリナは眉を顰めた。

「お暇な時で構いません!ちょっと時間がある時に少しだけでもいいのでっ…」
「どうして私が貴女の面倒なんて見なければならないのよ、嫌よ」

「そこをなんとかっ…!私、厳しくされると頑張れるタイプみたいなんです」
「は…?変な人ね。それならアイロス様に頼めば良いじゃない。元々はアイロス様が貴女の教育も見ていたんでしょ?」

「そうですが、今は妹のシルヴィアさんの傍にいます。出来れば、兄妹の邪魔はしたくないんです…」
私は心痛な表情を浮かべ、懇願するかのような瞳でじっとカトリナの事を見つめていた。

アイロスが私の傍から離れた後、別の者が私に付いた。
しかし厳しいと言われたら厳しいのだが、何か物足りなさを感じてしまう。
それはきっとアイロスの教育の仕方に慣れてしまったこともあるのかもしれない。
だからアイロスと似ているカトリナだったら、私の求めている物を満たしてくれるのではないかと思ってしまった。

「そんな目で見ないで。それに…アイロス様の後任を選ばれたのはザシャ殿下よね?だったら尚更貴女の判断で勝手に決めるのはどうかと思うわ」
「それは、ザシャ殿下から許可が下りたら良いって事ですか?」
カトリナは嫌そうな顔をしていたが、私は引き下がることなく続けた。


「貴女もしつこい人ね。そうね、許可が出たのならその時は考えるわ。だけど、先に言っておくわよ。私はアイロス様よりも厳しいわよ?泣き言は許さないけど、それでも付いて来れる自信は貴女にはあるの?」
「が、頑張りますっ…!」

結局、カトリナはザシャの許可さえ取れれば考えてくれると言う話になった。
週に何度か王宮には訪れているそうなので、次会う約束を取り付けカトリナとは別れた。


***


カトリナと別れた後、私はアンナと並んで廊下を歩いていた。


「認めてもらえるといいですね。あの方は厳しい方ですが、公爵令嬢であり完璧な作法も身に付けている方なので、間違いはないでしょうね…」
「明日、ザシャさんと過ごす日だから、その時に聞いてみるわ」

そんな話をしていると、前方から見慣れた人物が歩いて来ることに気付いた。
そこにいたのはアイロスだった。

アイロスの顔を見るのは久しぶりと言うわけでは無かったのだが、最近は遠くから見かけることが多かったので、目を合わせられると少し懐かしさを感じてしまう。

「アイロスさん、お久しぶりです。今日はお一人なんですか?」
私はすれ違い様、特に何かを気にする事も無く話しかけていた。

「ああ…。お前、今時間はあるか?」
「え…?大丈夫ですけど…」
突然そんな風に言われてしまい、私は思わずアンナと目を合わせてしまった。

「新しいエミリーの護衛か」
「はい、アンナ・コリントと申します。アイロス様、お久しぶりです」
アイロスはアンナの方に視線を向けると、アンナはアイロスの事を知っているのか挨拶を返していた。

「ああ。少しこいつと話がある。後で俺が部屋まで送り届けるから、お前は下がってくれて構わない」
「……畏まりました」
アイロスにそう言われると、アンナはそれに従った。

「エミリー様、この借りられた本は私がお部屋までお持ちしておきますね」
「アンナ、ありがとう…」

「それでは、私はこれで失礼させて頂きます」
そう言ってアンナは私達から離れていった。


突然アイロスに呼び止められ、一体何の話をされるのだろうと少しドキドキしていた。

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