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73.婚約者になる覚悟
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「あら、こんな所で貴女に会うなんて珍しいわね」
カトリナは私を視界に入れると、特に表情を変える事も無く淡々とした口調で答えた。
しかし隣にいるアンナを見ると、一瞬カトリナは驚いたような顔を見せた。
私は慌てる様にカトリナに挨拶をした。
「カトリナ様、お久しぶりです…」
「ええ、お久しぶりね。アイロス様が貴女から離れたと聞いていたけど、まさか今度はコリント家の貴女だなんて、ね。もう決まったも同然と言う事かしら」
カトリナはアンナを眺めながら呟くと、何かを一人で納得している様子だったが、私には何のことを言っているのか分からなかった。
(アンナさんってカトリナ様と知り合いなの…?)
「貴女、エミリー・ヴィアレットさんと言ったわね」
「はい…」
先程までアンナを見ていたカトリナは、私の方へと視線を移した。
その視線はとても真っすぐで、私は緊張からバクバクと鼓動が速くなっていくのを感じていた。
(こんな所でカトリナ様に会うなんて…、どうしよう……)
「会って早々悪いけど、単刀直入に聞くわ。エミリーさん、貴女はザシャ殿下の婚約者になる覚悟は出来ているのかしら?」
「え…?」
突然そんな事を言われてしまい一瞬戸惑ってしまったが、私はぎゅっと掌を握り締めカトリナをじっと見つめ返した。
「はい」
私がはっきりとした口調で答えると、カトリナは僅かに目を細め、更に質問を続けて来る。
「覚悟の意味を理解した上での返事なのよね?ただ王太子であるザシャ殿下に気に入られて、憧れや色恋しか考えて無いのなら、今すぐここから出て行った方がいいわよ」
「違います…!私はカトリナ様達に比べたら知識も作法も全然出来ては無いと思いますが、これからもザシャさんの傍にいたい。今私に出来ることなんて殆どない事は分かっているけど、少しづつでも支えられる様な存在になりたいとは思っています」
「それを色恋っていうのよ。貴女も貴族の端くれなら分かるでしょ?相手はこの国の王太子、言わばこの国を背負う事になる人間なの。婚約者になれば、エミリーさん…貴女にも必ず試練は訪れるわ。それがどれだけ大変な事か、今想像するのは難しいかもしれないけど、いつか貴女はそれに向き合わなくてはならなくなる。もちろん逃げるなんて選択肢は無いわ」
カトリナは厳しい口調で話していて、突き刺さる様な鋭い視線を向けて来る。
私はそんなカトリナの姿に怯んでしまいそうになるが、そんな時脳裏にザシャの顔が映り、弱弱しい態度を見せるのはやめようと改めた。
「たしかに…、私はザシャさんの事が好きです。好きだから傍にいたいという気持ちもあります。こんな気持ちだけで傍にいたらいけないって事も分かっています。それでも、私が努力すれば傍にいられると言うのであれば、絶対に諦めたくはない……」
私はカトリナを睨む様にして必死に答えていた。
私がザシャにとって、ふさわしい相手ではない事は一番自分が分かっている。
身分の事は私がいくら頑張っても、どうにか出来る問題では無いからだ。
だけど、それでもザシャは私と一緒にいたいと望んでくれた。
そんなザシャの気持ちを裏切りたくない一心で、片っ端から本を読んで知識を得たり、作法も必死になって覚えようとしていた。
「エミリー様は努力されています。覚悟が無ければそんなことはしないはずです……」
暫く黙っていたアンナは静かに口を開いた。
「今エミリーさんがしていることは、私達が当然の様にして来た事よ」
「分かっています…」
アンナに言われても尚、カトリナは厳しい言葉を放ち続ける。
私はカトリナと比べたら勝てる所なんて何一つ無いことは分かっていた。
だからせめて気持ちの部分では負けたくないと、必死に食らいついていた。
暫くそんな言い合いが続いた後、カトリナは急に表情を緩めた。
「少し強く言い過ぎたわ、ごめんなさいね」
「……?」
突然態度が変わったカトリナに私とアンナは動揺していた。
「エミリーさんが努力家だって事は知っているわ。それに、どちらにせよもう逃げるのは不可能な事もね…」
「……どういう意味ですか?」
私は理解出来ないと言った顔をしていると、カトリナはアンナの方に視線を移した。
「アンナ・コリント。エミリーさんは彼女の事は知っているの?」
「……有名な騎士の家系なんですよね?」
「まあ、間違ってはいないわね。彼女は元々現王妃様の傍で仕えていた騎士よ。現王妃と言うのはザシャ殿下のお母様の事よ。そんな彼女をエミリーさんの傍に置くって事はどういうことか、分かるわよね」
「え…?ど、どういうことですかっ…!?王妃様に仕えているって……」
私が驚いて慌てているとアンナは困った顔をしていた。
「あら、伝えていなかったの?もしかして隠す様に言われてた…?」
「極力エミリー様には気を遣わせない様にと、ザシャ殿下から申し付かっていたので黙っておりました。エミリー様、黙っていて申し訳ありません…」
アンナは申し訳なさそうに表情を曇らせると、深々と私に頭を下げた。
「頭を上げてくださいっ…!私の為に気を遣わせてしまってごめんなさいっ…」
動揺していたせいで私もアンナに向かい頭を下げてしまった。
そんな様子をカトリナは静かに眺めていた。
「だけど、どうしてザシャさんは王妃様に仕えているアンナさんを私の傍に置くなんてしたんだろう」
「そんなの簡単よ。それだけザシャ殿下にとってエミリーさんが大切だって事。それに王妃様もザシャ殿下が選んだ令嬢がどんな人物なのか、知りたかったのではないの?」
「……っ…!?そ、そうなんですか…?」
「はい…、王妃様にはエミリー様がどんな方なのか…報告はさせて頂いております」
「……っ…!!」
私が一人で焦っているとカトリナは呆れた様に「少し落ち着きなさい」と言った。
「今頃焦った所で既に報告済みなのだからどうにもならないでしょ」
「……そう、ですよね」
カトリナの言う通りだとは思うが、突然そんな事実を知ってしまい冷静になるなんて無理な話だった。
カトリナは私を視界に入れると、特に表情を変える事も無く淡々とした口調で答えた。
しかし隣にいるアンナを見ると、一瞬カトリナは驚いたような顔を見せた。
私は慌てる様にカトリナに挨拶をした。
「カトリナ様、お久しぶりです…」
「ええ、お久しぶりね。アイロス様が貴女から離れたと聞いていたけど、まさか今度はコリント家の貴女だなんて、ね。もう決まったも同然と言う事かしら」
カトリナはアンナを眺めながら呟くと、何かを一人で納得している様子だったが、私には何のことを言っているのか分からなかった。
(アンナさんってカトリナ様と知り合いなの…?)
「貴女、エミリー・ヴィアレットさんと言ったわね」
「はい…」
先程までアンナを見ていたカトリナは、私の方へと視線を移した。
その視線はとても真っすぐで、私は緊張からバクバクと鼓動が速くなっていくのを感じていた。
(こんな所でカトリナ様に会うなんて…、どうしよう……)
「会って早々悪いけど、単刀直入に聞くわ。エミリーさん、貴女はザシャ殿下の婚約者になる覚悟は出来ているのかしら?」
「え…?」
突然そんな事を言われてしまい一瞬戸惑ってしまったが、私はぎゅっと掌を握り締めカトリナをじっと見つめ返した。
「はい」
私がはっきりとした口調で答えると、カトリナは僅かに目を細め、更に質問を続けて来る。
「覚悟の意味を理解した上での返事なのよね?ただ王太子であるザシャ殿下に気に入られて、憧れや色恋しか考えて無いのなら、今すぐここから出て行った方がいいわよ」
「違います…!私はカトリナ様達に比べたら知識も作法も全然出来ては無いと思いますが、これからもザシャさんの傍にいたい。今私に出来ることなんて殆どない事は分かっているけど、少しづつでも支えられる様な存在になりたいとは思っています」
「それを色恋っていうのよ。貴女も貴族の端くれなら分かるでしょ?相手はこの国の王太子、言わばこの国を背負う事になる人間なの。婚約者になれば、エミリーさん…貴女にも必ず試練は訪れるわ。それがどれだけ大変な事か、今想像するのは難しいかもしれないけど、いつか貴女はそれに向き合わなくてはならなくなる。もちろん逃げるなんて選択肢は無いわ」
カトリナは厳しい口調で話していて、突き刺さる様な鋭い視線を向けて来る。
私はそんなカトリナの姿に怯んでしまいそうになるが、そんな時脳裏にザシャの顔が映り、弱弱しい態度を見せるのはやめようと改めた。
「たしかに…、私はザシャさんの事が好きです。好きだから傍にいたいという気持ちもあります。こんな気持ちだけで傍にいたらいけないって事も分かっています。それでも、私が努力すれば傍にいられると言うのであれば、絶対に諦めたくはない……」
私はカトリナを睨む様にして必死に答えていた。
私がザシャにとって、ふさわしい相手ではない事は一番自分が分かっている。
身分の事は私がいくら頑張っても、どうにか出来る問題では無いからだ。
だけど、それでもザシャは私と一緒にいたいと望んでくれた。
そんなザシャの気持ちを裏切りたくない一心で、片っ端から本を読んで知識を得たり、作法も必死になって覚えようとしていた。
「エミリー様は努力されています。覚悟が無ければそんなことはしないはずです……」
暫く黙っていたアンナは静かに口を開いた。
「今エミリーさんがしていることは、私達が当然の様にして来た事よ」
「分かっています…」
アンナに言われても尚、カトリナは厳しい言葉を放ち続ける。
私はカトリナと比べたら勝てる所なんて何一つ無いことは分かっていた。
だからせめて気持ちの部分では負けたくないと、必死に食らいついていた。
暫くそんな言い合いが続いた後、カトリナは急に表情を緩めた。
「少し強く言い過ぎたわ、ごめんなさいね」
「……?」
突然態度が変わったカトリナに私とアンナは動揺していた。
「エミリーさんが努力家だって事は知っているわ。それに、どちらにせよもう逃げるのは不可能な事もね…」
「……どういう意味ですか?」
私は理解出来ないと言った顔をしていると、カトリナはアンナの方に視線を移した。
「アンナ・コリント。エミリーさんは彼女の事は知っているの?」
「……有名な騎士の家系なんですよね?」
「まあ、間違ってはいないわね。彼女は元々現王妃様の傍で仕えていた騎士よ。現王妃と言うのはザシャ殿下のお母様の事よ。そんな彼女をエミリーさんの傍に置くって事はどういうことか、分かるわよね」
「え…?ど、どういうことですかっ…!?王妃様に仕えているって……」
私が驚いて慌てているとアンナは困った顔をしていた。
「あら、伝えていなかったの?もしかして隠す様に言われてた…?」
「極力エミリー様には気を遣わせない様にと、ザシャ殿下から申し付かっていたので黙っておりました。エミリー様、黙っていて申し訳ありません…」
アンナは申し訳なさそうに表情を曇らせると、深々と私に頭を下げた。
「頭を上げてくださいっ…!私の為に気を遣わせてしまってごめんなさいっ…」
動揺していたせいで私もアンナに向かい頭を下げてしまった。
そんな様子をカトリナは静かに眺めていた。
「だけど、どうしてザシャさんは王妃様に仕えているアンナさんを私の傍に置くなんてしたんだろう」
「そんなの簡単よ。それだけザシャ殿下にとってエミリーさんが大切だって事。それに王妃様もザシャ殿下が選んだ令嬢がどんな人物なのか、知りたかったのではないの?」
「……っ…!?そ、そうなんですか…?」
「はい…、王妃様にはエミリー様がどんな方なのか…報告はさせて頂いております」
「……っ…!!」
私が一人で焦っているとカトリナは呆れた様に「少し落ち着きなさい」と言った。
「今頃焦った所で既に報告済みなのだからどうにもならないでしょ」
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カトリナの言う通りだとは思うが、突然そんな事実を知ってしまい冷静になるなんて無理な話だった。
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