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71.変わった日常
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あれからすぐにアイロスは私の傍付きからは外れ、暫くの間はシルヴィアの専属として就くことになった。
私はと言えば、それなりに上手くやっているつもりだ。
一ヶ月程度ではあるが慣れ親しんだアイロスが離れてしまった事に少し寂しさを感じたけど、新しく来た侍女や護衛とは仲良くやれている。
ザシャは私の為を思ってか、護衛には女騎士を選んでくれた。
私の護衛として来たのは、アンナ・コリントという名前の、22歳の女騎士だった。
何でも名門騎士一族の娘であり、ザシャも認めているくらいだからかなりの強さなのだろう。
長い赤髪を後ろで一纏めにし、すらっとしていて騎士服もしっかりと着こなしている。
侍女にはエラが選ばれた。
エラは私より年下の17歳で、雰囲気がとても可愛らしい。
茶色いふわっとした髪に、オレンジ色の瞳。
年齢が近い事や人懐っこい性格な為、エラとはすぐに仲良くなった。
やっぱり女同士だと分かり合えることも多いので、気楽と言うか、今まで以上に穏やかに過ごせている気がする。
そして他に変わった事と言えば、王宮にある図書室に自由に出入り出来る様になった。
図書室には様々な本が並んでいて、初めて来た日には感動して一日中図書室に入り浸ってしまったくらいだ。
今までは全てアイロスが授業を行っていたが、現在は別の先生を付けてもらい週に数回授業を受けている。
以前は私が何も出来ない事を隠す為にアイロスを傍に置いていた。
王太子であるザシャの婚約者候補というのは特別な立場であり、それに加えて私には特殊な理由が絡んでいる為出来るだけ目立たない存在にしたい、というのがザシャの考えだった様だ。
しかし、それについてはもう問題はないとのことらしい。
詳しい理由は良く分からないが、ザシャが問題ないと言うのだから恐らく大丈夫なのだろう。
今回の事で私の行動範囲が一気に広がった。
さすがに勝手に街に出ることは許されてはいないが、王宮を自由に行き来出来る様になったのは私にとっては大きなことだった。
教育についてもザシャは無理はしないでいいと言ってくれている。
あくまで私が楽しんで続けられる範囲で構わないと…。
そんな事もあって今までのプレッシャーから解放されて、伸び伸びとした気持ちでのんびりと勉強が出来ることになった。
本当にザシャには感謝しか無かった。勿論、アイロスにも…。
「エミリー様、本日も図書室に行かれますか?」
「そのつもりですっ…!」
アンナの言葉に、思わず熱の入った声で答えていた。
それには理由があった。
ちなみに二人が私の傍に付く様になってから2週間程が経つが、すっかり私達は仲良くなっていた。
お互い立場は違うが、同性だけあって打ち解けるのも早かった。
「例のあの本ですよね?」
「はい、前回行った時には借りられていたけど…」
以前は本に関心を持つ事なんて無かったのだが、ここに来て色々な情報を読んでいくうちに読書の楽しさに目覚めてしまった様だ。
最初は教本的な物ばかりを読んでいたのだが、王宮には色々なジャンルの本が揃っている。
中には娯楽要素のある本も多く置かれていて、ミステリーやロマンス小説などもあるのだが、私の興味を一番惹いている本は恋愛心理学だった。
簡単に言えば好きな相手を振り向かせるコツが書かれている本だ。
こんな本を読んでいるのがザシャに見つかれば、きっと笑われてしまうのだろう。
しかし私は今まで恋愛なんてしたことが無かった。
ザシャとの恋は初めてのことばかりで、不安になる事や考えさせられることも多い。
ザシャには私の他に三人の候補者がいる。
その三人共が地位も、容姿も私とは比べ物にならない程魅力的だった。
それでもザシャは私の事を好きだと言ってくれて、私もその言葉を信じている。
だけど、最近他の候補者と仲良くしている所を偶然見かけてしまったのだ。
今までは離宮に閉じ籠っていたのでそんな光景を見ることは無かった。
しかし、王宮に自由に出入り出来る様になってからは、そんな光景を度々目撃してしまう。
その時のザシャは優しく微笑み、候補者と楽しそうに過ごしていた。
始めて見た時は本当にショックだった。
あの笑顔は私にだけ向けられているものだと信じて疑わなかったからだ。
ザシャは私の事を好きだと言ってくれるし、何度も抱いてくれる。
だけどそんな光景を見る度に、それが本物なのかどうか分からなくなる。
もちろん、これは決められた事なので仕方が無い事だと言う事も分かっている。
分かっているのだけど、それでもあんな光景を見せつけられると胸が締め付けられる様に苦しくなる。
落ち込んでいた時に心配してくれたのがアンナとエラだった。
私は正直にその事を二人に打ち明けた。
すると二人は私に協力してくれると言ってくれたのだが、二人共まだ恋をしたことが無いと言う。
それならば図書室で本を探してみようという話になり、恋愛心理学の本へと辿り着いたというわけだ。
授業以外の時間は自室に篭り、三人でその本を読んで良い意見を出し合っている。
この前初心者向けの本があったのだけど、二巻は誰かに借りられていて読むことが叶わなかった。
(今日こそは読めるといいな…!)
「返却されていたら、また三人で作戦会議しましょ!」
「そうね…!」
「それでは、行きましょうか」
身支度を済ませると、私とアンナは部屋を出て図書室へと向かった。
私はと言えば、それなりに上手くやっているつもりだ。
一ヶ月程度ではあるが慣れ親しんだアイロスが離れてしまった事に少し寂しさを感じたけど、新しく来た侍女や護衛とは仲良くやれている。
ザシャは私の為を思ってか、護衛には女騎士を選んでくれた。
私の護衛として来たのは、アンナ・コリントという名前の、22歳の女騎士だった。
何でも名門騎士一族の娘であり、ザシャも認めているくらいだからかなりの強さなのだろう。
長い赤髪を後ろで一纏めにし、すらっとしていて騎士服もしっかりと着こなしている。
侍女にはエラが選ばれた。
エラは私より年下の17歳で、雰囲気がとても可愛らしい。
茶色いふわっとした髪に、オレンジ色の瞳。
年齢が近い事や人懐っこい性格な為、エラとはすぐに仲良くなった。
やっぱり女同士だと分かり合えることも多いので、気楽と言うか、今まで以上に穏やかに過ごせている気がする。
そして他に変わった事と言えば、王宮にある図書室に自由に出入り出来る様になった。
図書室には様々な本が並んでいて、初めて来た日には感動して一日中図書室に入り浸ってしまったくらいだ。
今までは全てアイロスが授業を行っていたが、現在は別の先生を付けてもらい週に数回授業を受けている。
以前は私が何も出来ない事を隠す為にアイロスを傍に置いていた。
王太子であるザシャの婚約者候補というのは特別な立場であり、それに加えて私には特殊な理由が絡んでいる為出来るだけ目立たない存在にしたい、というのがザシャの考えだった様だ。
しかし、それについてはもう問題はないとのことらしい。
詳しい理由は良く分からないが、ザシャが問題ないと言うのだから恐らく大丈夫なのだろう。
今回の事で私の行動範囲が一気に広がった。
さすがに勝手に街に出ることは許されてはいないが、王宮を自由に行き来出来る様になったのは私にとっては大きなことだった。
教育についてもザシャは無理はしないでいいと言ってくれている。
あくまで私が楽しんで続けられる範囲で構わないと…。
そんな事もあって今までのプレッシャーから解放されて、伸び伸びとした気持ちでのんびりと勉強が出来ることになった。
本当にザシャには感謝しか無かった。勿論、アイロスにも…。
「エミリー様、本日も図書室に行かれますか?」
「そのつもりですっ…!」
アンナの言葉に、思わず熱の入った声で答えていた。
それには理由があった。
ちなみに二人が私の傍に付く様になってから2週間程が経つが、すっかり私達は仲良くなっていた。
お互い立場は違うが、同性だけあって打ち解けるのも早かった。
「例のあの本ですよね?」
「はい、前回行った時には借りられていたけど…」
以前は本に関心を持つ事なんて無かったのだが、ここに来て色々な情報を読んでいくうちに読書の楽しさに目覚めてしまった様だ。
最初は教本的な物ばかりを読んでいたのだが、王宮には色々なジャンルの本が揃っている。
中には娯楽要素のある本も多く置かれていて、ミステリーやロマンス小説などもあるのだが、私の興味を一番惹いている本は恋愛心理学だった。
簡単に言えば好きな相手を振り向かせるコツが書かれている本だ。
こんな本を読んでいるのがザシャに見つかれば、きっと笑われてしまうのだろう。
しかし私は今まで恋愛なんてしたことが無かった。
ザシャとの恋は初めてのことばかりで、不安になる事や考えさせられることも多い。
ザシャには私の他に三人の候補者がいる。
その三人共が地位も、容姿も私とは比べ物にならない程魅力的だった。
それでもザシャは私の事を好きだと言ってくれて、私もその言葉を信じている。
だけど、最近他の候補者と仲良くしている所を偶然見かけてしまったのだ。
今までは離宮に閉じ籠っていたのでそんな光景を見ることは無かった。
しかし、王宮に自由に出入り出来る様になってからは、そんな光景を度々目撃してしまう。
その時のザシャは優しく微笑み、候補者と楽しそうに過ごしていた。
始めて見た時は本当にショックだった。
あの笑顔は私にだけ向けられているものだと信じて疑わなかったからだ。
ザシャは私の事を好きだと言ってくれるし、何度も抱いてくれる。
だけどそんな光景を見る度に、それが本物なのかどうか分からなくなる。
もちろん、これは決められた事なので仕方が無い事だと言う事も分かっている。
分かっているのだけど、それでもあんな光景を見せつけられると胸が締め付けられる様に苦しくなる。
落ち込んでいた時に心配してくれたのがアンナとエラだった。
私は正直にその事を二人に打ち明けた。
すると二人は私に協力してくれると言ってくれたのだが、二人共まだ恋をしたことが無いと言う。
それならば図書室で本を探してみようという話になり、恋愛心理学の本へと辿り着いたというわけだ。
授業以外の時間は自室に篭り、三人でその本を読んで良い意見を出し合っている。
この前初心者向けの本があったのだけど、二巻は誰かに借りられていて読むことが叶わなかった。
(今日こそは読めるといいな…!)
「返却されていたら、また三人で作戦会議しましょ!」
「そうね…!」
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身支度を済ませると、私とアンナは部屋を出て図書室へと向かった。
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