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66.小さなやきもち
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「…んっ…はぁっ…、ザシャさん…好きっ…」
「ふふっ、今日は素直だな。どうしたの?」
私は口付けを受けながら、ぎゅっとザシャの手を握った。
そんな事を声に出してしまったのは、少しの不安が心の中に引っかかっていたからなのかもしれない。
ザシャの前では極力表には出さない様にしていた感情だった。
ザシャにとってシルヴィアは、他の候補者達とは何かが違う存在な気がしていた。
それはアイロスの妹であることが大きい理由だけど、この離宮に住まわせる程気を許した相手と取ることも出来る。
私はザシャとシルヴィアの関係がどうなのか詳しいことは良くは知らない。
信じようって決めたはずなのに、不安になってしまうのは二人の関係を何も知らない事が理由なのかもしれない。
私が切なそうな顔をしてしまうと、ザシャはふっと小さく笑った。
「本当にエミリーは可愛いな。もしかして、やきもちでも妬いてくれているの?」
「……ち、違いますっ…」
心の中を見透かすように直接指摘されてしまうと、私は慌てる様に否定した。
こんな事で勝手にやきもちを妬いて、不安になってしまう自分が嫌になる。
しかも隠せていると思っていたのに、簡単にザシャに気付かれてしまった様だ。
「そう?一応話しておくけど、シルヴィアには形式的な挨拶をしてきただけだよ。それからアイロスと少し話をしたくらいかな。その後はすぐにエミリーのいるこの部屋に来たからな…」
「そうなんですね…。もしかして、ここには大分前から居ました…?」
「そうだな、ここに来て1時間くらいはエミリーの寝顔を眺めていたかな」
「……っ…!!」
ザシャはにっこりと微笑みながらさらりと答えた。
私はそれを聞いた瞬間恥ずかしくなり、慌てる様に起き上がった。
「そんなに勢いよく起き上がって大丈夫?」
「早く来ているなら起こしてくれたら良かったのにっ…」
私が不満そうに、そしてどこか恥ずかしそうに顔を赤めて呟くと、ザシャの掌が伸びて来て私の頬にそっと添えられた。
「気持ち良さそうに、無防備に昼寝をするエミリーの姿を見る事は私にとっては貴重なことだからね。夢の中でも私の事を思っていてくれて、嬉しく感じたくらいだよ」
「……っ…!!」
ザシャは口端を上げて意地悪そうに笑うと、そのまま私の事を引き寄せて腕の中に押し込めた。
「寝言でエミリーは『私から離れないで』と言っていたよ。ふふっ…安心して、絶対に離れるなんて事はしないから…」
ザシャは私の耳元に唇を寄せると、囁く様に呟いた。
その瞬間耳にかかるザシャの吐息と、恥ずかしさから耳元に熱が集まり始める。
(うそっ…!?私、そんなこと言ったの…?は、恥ずかしいっ…)
「本当に…どうしようもないくらいエミリーが可愛くて仕方がない。いつも傍に居てやれない事を悔やむくらいだ…」
「ごめんなさい…」
私は恥ずかしさから咄嗟に謝ることしか思いつかなかった。
その言葉を聞くとザシャは「どうして謝るの?」と聞いて来た。
「だって…、この状況を私は理解しているのにも関わらず、そんな事を言ってしまったから」
「そんな言葉を聞くと、ますます不安になるな」
「え…?」
「前に言ったよね?私には何でも話して欲しいって…。それはこういうことも含まれているんだよ。私はあまりエミリーの傍にはいてやれないから、極力不安の種になることは持たせたくはないんだ。だから些細な事でもエミリーが不安を感じている様なら話して欲しい、かな。エミリーは遠慮して我慢する所があるから心配だな…」
ザシャは優しい顔で、私の事を見つめていた。
こんなにもザシャが私の事を気に掛けてくれていたのだと知ると、胸の奥がじわじわと熱くなっていくのを感じる。
「そうだな、じゃあこうしようか」
「……?」
「次、私の前で何か我慢をしようとしたら、その時は悪戯をしようかな」
「悪戯…?」
ザシャは口端を上げて意地悪そうな顔をしていたが、私はなんだかドキドキしてしまう。
「でもこれはエミリーにとってはご褒美になってしまうのかな」
「一体、何の話をしているんですかっ?」
「私の前ではどんな時でも素直になって欲しいって話だよ。だけど私に意地悪されたいのであれば、我慢しても構わないけど…その時は後悔するくらい…私の事しか考えられない様にしてあげようかな」
「……っ…、それ、すごく気になるんですけど…」
私がドキドキしながら困った顔で答えると、ザシャは突然笑い出した。
「ぷっ…、やっぱり…エミリーは面白いな。本来はお仕置きなのにエミリーにとってはご褒美になってしまうね。どうしたものかな…」
「からかったんですかっ…!酷いですっ!」
私はむっとした顔でザシャを睨むと、ザシャは「そんなつもりでは無いんだけどね」と呟いた。
(ザシャさん、絶対楽しんでる。これ、からかわれてるよね…)
「さて、少し遅くなってしまったけど昼食にしようか。エミリーもお腹空いたんじゃない?朝から何も食べて無いと聞いたよ…」
「今日は少し食欲が無くて…」
シルヴィアが今日来ると聞いていた為、心の中がざわざわとしてしまい食事どころでは無かったというのが正直なところだ。
「どこか体調が悪いの?」
「ち、違います…。そうじゃなくて…ただ食欲が無くて…」
ザシャは心配そうに私の顔を覗き込んできたが、ドキッとして慌てる様に否定してしまった。
「シルヴィアの事が気になって食事が喉に通らなかった?」
「……はい。…っ…ち、違いますっ…!」
私は思わず答えてしまうと、ザシャは可笑しそうに小さく笑った。
「もしかして、エミリーは意地悪されたくてそんなことを言っているの?それじゃあ、昼食を済ませたら少し意地悪をしてあげるよ。それでいい?」
「良く無いですっ…!」
私が慌てて顔を真っ赤にさせて反論するも、ザシャは楽しそうに笑っているだけでそれ以上は何も言わなかった。
(まさか…本気では無いよね…?)
ザシャの本心は結局分からず仕舞いだった。
その後ザシャは使用人を呼んで部屋に料理を運ばせ、少し遅くなった昼食をザシャと共に取ることになった。
「ふふっ、今日は素直だな。どうしたの?」
私は口付けを受けながら、ぎゅっとザシャの手を握った。
そんな事を声に出してしまったのは、少しの不安が心の中に引っかかっていたからなのかもしれない。
ザシャの前では極力表には出さない様にしていた感情だった。
ザシャにとってシルヴィアは、他の候補者達とは何かが違う存在な気がしていた。
それはアイロスの妹であることが大きい理由だけど、この離宮に住まわせる程気を許した相手と取ることも出来る。
私はザシャとシルヴィアの関係がどうなのか詳しいことは良くは知らない。
信じようって決めたはずなのに、不安になってしまうのは二人の関係を何も知らない事が理由なのかもしれない。
私が切なそうな顔をしてしまうと、ザシャはふっと小さく笑った。
「本当にエミリーは可愛いな。もしかして、やきもちでも妬いてくれているの?」
「……ち、違いますっ…」
心の中を見透かすように直接指摘されてしまうと、私は慌てる様に否定した。
こんな事で勝手にやきもちを妬いて、不安になってしまう自分が嫌になる。
しかも隠せていると思っていたのに、簡単にザシャに気付かれてしまった様だ。
「そう?一応話しておくけど、シルヴィアには形式的な挨拶をしてきただけだよ。それからアイロスと少し話をしたくらいかな。その後はすぐにエミリーのいるこの部屋に来たからな…」
「そうなんですね…。もしかして、ここには大分前から居ました…?」
「そうだな、ここに来て1時間くらいはエミリーの寝顔を眺めていたかな」
「……っ…!!」
ザシャはにっこりと微笑みながらさらりと答えた。
私はそれを聞いた瞬間恥ずかしくなり、慌てる様に起き上がった。
「そんなに勢いよく起き上がって大丈夫?」
「早く来ているなら起こしてくれたら良かったのにっ…」
私が不満そうに、そしてどこか恥ずかしそうに顔を赤めて呟くと、ザシャの掌が伸びて来て私の頬にそっと添えられた。
「気持ち良さそうに、無防備に昼寝をするエミリーの姿を見る事は私にとっては貴重なことだからね。夢の中でも私の事を思っていてくれて、嬉しく感じたくらいだよ」
「……っ…!!」
ザシャは口端を上げて意地悪そうに笑うと、そのまま私の事を引き寄せて腕の中に押し込めた。
「寝言でエミリーは『私から離れないで』と言っていたよ。ふふっ…安心して、絶対に離れるなんて事はしないから…」
ザシャは私の耳元に唇を寄せると、囁く様に呟いた。
その瞬間耳にかかるザシャの吐息と、恥ずかしさから耳元に熱が集まり始める。
(うそっ…!?私、そんなこと言ったの…?は、恥ずかしいっ…)
「本当に…どうしようもないくらいエミリーが可愛くて仕方がない。いつも傍に居てやれない事を悔やむくらいだ…」
「ごめんなさい…」
私は恥ずかしさから咄嗟に謝ることしか思いつかなかった。
その言葉を聞くとザシャは「どうして謝るの?」と聞いて来た。
「だって…、この状況を私は理解しているのにも関わらず、そんな事を言ってしまったから」
「そんな言葉を聞くと、ますます不安になるな」
「え…?」
「前に言ったよね?私には何でも話して欲しいって…。それはこういうことも含まれているんだよ。私はあまりエミリーの傍にはいてやれないから、極力不安の種になることは持たせたくはないんだ。だから些細な事でもエミリーが不安を感じている様なら話して欲しい、かな。エミリーは遠慮して我慢する所があるから心配だな…」
ザシャは優しい顔で、私の事を見つめていた。
こんなにもザシャが私の事を気に掛けてくれていたのだと知ると、胸の奥がじわじわと熱くなっていくのを感じる。
「そうだな、じゃあこうしようか」
「……?」
「次、私の前で何か我慢をしようとしたら、その時は悪戯をしようかな」
「悪戯…?」
ザシャは口端を上げて意地悪そうな顔をしていたが、私はなんだかドキドキしてしまう。
「でもこれはエミリーにとってはご褒美になってしまうのかな」
「一体、何の話をしているんですかっ?」
「私の前ではどんな時でも素直になって欲しいって話だよ。だけど私に意地悪されたいのであれば、我慢しても構わないけど…その時は後悔するくらい…私の事しか考えられない様にしてあげようかな」
「……っ…、それ、すごく気になるんですけど…」
私がドキドキしながら困った顔で答えると、ザシャは突然笑い出した。
「ぷっ…、やっぱり…エミリーは面白いな。本来はお仕置きなのにエミリーにとってはご褒美になってしまうね。どうしたものかな…」
「からかったんですかっ…!酷いですっ!」
私はむっとした顔でザシャを睨むと、ザシャは「そんなつもりでは無いんだけどね」と呟いた。
(ザシャさん、絶対楽しんでる。これ、からかわれてるよね…)
「さて、少し遅くなってしまったけど昼食にしようか。エミリーもお腹空いたんじゃない?朝から何も食べて無いと聞いたよ…」
「今日は少し食欲が無くて…」
シルヴィアが今日来ると聞いていた為、心の中がざわざわとしてしまい食事どころでは無かったというのが正直なところだ。
「どこか体調が悪いの?」
「ち、違います…。そうじゃなくて…ただ食欲が無くて…」
ザシャは心配そうに私の顔を覗き込んできたが、ドキッとして慌てる様に否定してしまった。
「シルヴィアの事が気になって食事が喉に通らなかった?」
「……はい。…っ…ち、違いますっ…!」
私は思わず答えてしまうと、ザシャは可笑しそうに小さく笑った。
「もしかして、エミリーは意地悪されたくてそんなことを言っているの?それじゃあ、昼食を済ませたら少し意地悪をしてあげるよ。それでいい?」
「良く無いですっ…!」
私が慌てて顔を真っ赤にさせて反論するも、ザシャは楽しそうに笑っているだけでそれ以上は何も言わなかった。
(まさか…本気では無いよね…?)
ザシャの本心は結局分からず仕舞いだった。
その後ザシャは使用人を呼んで部屋に料理を運ばせ、少し遅くなった昼食をザシャと共に取ることになった。
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