65 / 133
65.うたた寝のあとに
しおりを挟む
自室に戻ると私はそわそわとしていた。
思いがけずザシャと一緒に過ごせることが嬉しくて仕方が無い。
時計に視線を向けるとまだ昼までは2時間程ある様だ。
ザシャは昼食を一緒にと言っていたから、この部屋訪ねて来るのはまだ少し先なのかもしれない。
だけど挨拶に2時間も掛からないと思うので、もしかしたら早く来る可能性もある。
私は色々な想像を膨らませてしまうが、アイロスの言葉を思い出し、山積みにされている机の前に腰掛けた。
「とりあえず…今日はまだ何も手を付けて無いし、ザシャさんが来るまでは勉強しなきゃ…」
私は読みかけの教本を一冊手に取るとパラパラとページを捲り始めた。
勉強を始めたものの、少し経つと時計に視線を向けてしまう。
時計を見ると先程からまだ10分程度しか経っておらず、思わず苦笑した。
(だめね…全く集中出来ないわ…。時間を気にするのはやめよう…)
そう自分に言い聞かせたはずなのに、結局は気になって時計を見てしまう。
それ程までにザシャが来てくれることが、私にとっては嬉しい事になっていた。
ザシャは私と過ごす日以外も、夜遅くにふらっとこの部屋を訪れてくれる時がある。
だけどそれは休む時間を削って来てくれているので少し心配してしまうが、来てくれるのは嬉しく感じてしまう。
私はそれを密かに期待していたら、いつしか夜遅くまで起きていることが多くなってしまった。
そのおかげで若干寝不足気味だが、アイロスの指導が始まってから朝は二度寝はせず、きっちりと起きるようになった。
しかし、その反動はお昼を食べた後にやって来て、午後の授業前はついうとうとしてしまう事が多い。
昨晩は特に眠れなかった。
今日、シルヴィアがこの離宮にやってくることを事前に聞いて知っていたからだった。
静かな部屋に一人きりで穏やかな時間が過ぎていくと、その中で私は何度も「ふわぁっ…」と欠伸を繰り返してしまい、瞼が徐々に重くなっていくのを感じる。
(寝たらだめ…、集中しなきゃ…)
そう自分に言い聞かしながら教本に向き合っていたが、あまりの眠さに耐え切れず私は目を閉じてしまった。
一度目を瞑ってしまえばもう目を開ける事なんて出来なくなり、私はそのまま眠りに落ちていった。
***
それからどれ位の時間が過ぎたのかは分からない。
意識がゆっくりと戻って来ると、何かに頭を撫でられている感覚がとても心地よく感じる。
私はゆっくりと瞼を開いて行くと、薄っすらと曇った視界が広がっていく。
「お目覚めかな…」
「……ん…?」
優しい声が頭上から響いて来て、じっとそちらの方に視線を向けていると、徐々に曇っていた視界が鮮明になっていく。
「……っ…!?……ザシャさん!?ど、どうしてここにっ…」
意識がはっきりと分かると、目の前にザシャがいる事に動揺してしまう。
慌てて体を起こそうとすると、ザシャに「いきなり起き上がるのは良くないよ」と言われて止められる。
私は先程座っていたソファーに、何故か仰向けになりザシャに膝枕をされていた様だ。
目覚めたらこんな状態になっていて、私はかなり動揺していた。
「ふふっ、エミリーの寝顔は本当にいつ見ても飽きないね。良いものが見られて良かったよ…」
「……っ…!ご、ごめんなさいっ…、私…寝てしまったんですね…。あ…、昼食は…?」
私は慌てる様に視線を時計に向けると、昼食の時刻は疾うに過ぎていた。
「まだだよ。エミリーが起きてから一緒に取るつもりだったからね…」
「ごめんなさいっ…」
「気にしないで良いよ、さっきも言ったけどそれ以上に良いものを見ることが出来たからね。それに…、可愛いエミリーの寝言も聞けたしな…」
「ね…寝言っ!?」
ザシャは口元を僅かに上げて意地悪そうな表情を見せた。
(私…寝言で何を言ったの…?)
「何を言っていたのかは…教えてあげないよ。エミリーは絶対照れて否定しそうだからね…」
「…っ…!?余計に気になります…」
私が困った顔で答えると、ザシャはクスッと悪戯に笑い「想像してみて?」と言って来た。
私はその言葉を聞いて色々想像をしていくと、恥ずかしい事ばかり考えてしまい気付けば顔を真っ赤に染めていた。
きっとザシャの態度からして、私が漏らした寝言はザシャに対しての事なのだろう。
(恥ずかしいっ…、私…一体何を言っていたんだろう……)
「どうしてそんなに顔を赤らめているの…?もしかして、いやらしい想像でもしているのかな?エミリーは…そういうの大好きだもんな…」
「……っ…、意地悪…」
意地悪な事ばかり言うザシャに、私は不満そうにむっとした顔を向けた。
ザシャはそんな私の様子を満足そうに眺め小さく笑うと、そのまま顔を下ろしてきて距離が縮まる。
「少しいじめすぎてしまったかな。キスをしてあげるから機嫌を直してくれると嬉しいな…」
「……っ…ん…」
ザシャは優しい表情で呟くと、私の唇を食む様に口付けた。
唇が触れる瞬間私は目を閉じて、そのままザシャの口付けを受け入れた。
「機嫌は直った…?それともまだ足りない…?」
「……足りない…」
ザシャは物足りなさそうな顔を見せる私の事を上から眺めながら問いかけて来る。
私は少し恥ずかしそうに小声で呟くと、ザシャは「そうだね、知ってる…」と言って再び私の唇を奪っていく。
思いがけずザシャと一緒に過ごせることが嬉しくて仕方が無い。
時計に視線を向けるとまだ昼までは2時間程ある様だ。
ザシャは昼食を一緒にと言っていたから、この部屋訪ねて来るのはまだ少し先なのかもしれない。
だけど挨拶に2時間も掛からないと思うので、もしかしたら早く来る可能性もある。
私は色々な想像を膨らませてしまうが、アイロスの言葉を思い出し、山積みにされている机の前に腰掛けた。
「とりあえず…今日はまだ何も手を付けて無いし、ザシャさんが来るまでは勉強しなきゃ…」
私は読みかけの教本を一冊手に取るとパラパラとページを捲り始めた。
勉強を始めたものの、少し経つと時計に視線を向けてしまう。
時計を見ると先程からまだ10分程度しか経っておらず、思わず苦笑した。
(だめね…全く集中出来ないわ…。時間を気にするのはやめよう…)
そう自分に言い聞かせたはずなのに、結局は気になって時計を見てしまう。
それ程までにザシャが来てくれることが、私にとっては嬉しい事になっていた。
ザシャは私と過ごす日以外も、夜遅くにふらっとこの部屋を訪れてくれる時がある。
だけどそれは休む時間を削って来てくれているので少し心配してしまうが、来てくれるのは嬉しく感じてしまう。
私はそれを密かに期待していたら、いつしか夜遅くまで起きていることが多くなってしまった。
そのおかげで若干寝不足気味だが、アイロスの指導が始まってから朝は二度寝はせず、きっちりと起きるようになった。
しかし、その反動はお昼を食べた後にやって来て、午後の授業前はついうとうとしてしまう事が多い。
昨晩は特に眠れなかった。
今日、シルヴィアがこの離宮にやってくることを事前に聞いて知っていたからだった。
静かな部屋に一人きりで穏やかな時間が過ぎていくと、その中で私は何度も「ふわぁっ…」と欠伸を繰り返してしまい、瞼が徐々に重くなっていくのを感じる。
(寝たらだめ…、集中しなきゃ…)
そう自分に言い聞かしながら教本に向き合っていたが、あまりの眠さに耐え切れず私は目を閉じてしまった。
一度目を瞑ってしまえばもう目を開ける事なんて出来なくなり、私はそのまま眠りに落ちていった。
***
それからどれ位の時間が過ぎたのかは分からない。
意識がゆっくりと戻って来ると、何かに頭を撫でられている感覚がとても心地よく感じる。
私はゆっくりと瞼を開いて行くと、薄っすらと曇った視界が広がっていく。
「お目覚めかな…」
「……ん…?」
優しい声が頭上から響いて来て、じっとそちらの方に視線を向けていると、徐々に曇っていた視界が鮮明になっていく。
「……っ…!?……ザシャさん!?ど、どうしてここにっ…」
意識がはっきりと分かると、目の前にザシャがいる事に動揺してしまう。
慌てて体を起こそうとすると、ザシャに「いきなり起き上がるのは良くないよ」と言われて止められる。
私は先程座っていたソファーに、何故か仰向けになりザシャに膝枕をされていた様だ。
目覚めたらこんな状態になっていて、私はかなり動揺していた。
「ふふっ、エミリーの寝顔は本当にいつ見ても飽きないね。良いものが見られて良かったよ…」
「……っ…!ご、ごめんなさいっ…、私…寝てしまったんですね…。あ…、昼食は…?」
私は慌てる様に視線を時計に向けると、昼食の時刻は疾うに過ぎていた。
「まだだよ。エミリーが起きてから一緒に取るつもりだったからね…」
「ごめんなさいっ…」
「気にしないで良いよ、さっきも言ったけどそれ以上に良いものを見ることが出来たからね。それに…、可愛いエミリーの寝言も聞けたしな…」
「ね…寝言っ!?」
ザシャは口元を僅かに上げて意地悪そうな表情を見せた。
(私…寝言で何を言ったの…?)
「何を言っていたのかは…教えてあげないよ。エミリーは絶対照れて否定しそうだからね…」
「…っ…!?余計に気になります…」
私が困った顔で答えると、ザシャはクスッと悪戯に笑い「想像してみて?」と言って来た。
私はその言葉を聞いて色々想像をしていくと、恥ずかしい事ばかり考えてしまい気付けば顔を真っ赤に染めていた。
きっとザシャの態度からして、私が漏らした寝言はザシャに対しての事なのだろう。
(恥ずかしいっ…、私…一体何を言っていたんだろう……)
「どうしてそんなに顔を赤らめているの…?もしかして、いやらしい想像でもしているのかな?エミリーは…そういうの大好きだもんな…」
「……っ…、意地悪…」
意地悪な事ばかり言うザシャに、私は不満そうにむっとした顔を向けた。
ザシャはそんな私の様子を満足そうに眺め小さく笑うと、そのまま顔を下ろしてきて距離が縮まる。
「少しいじめすぎてしまったかな。キスをしてあげるから機嫌を直してくれると嬉しいな…」
「……っ…ん…」
ザシャは優しい表情で呟くと、私の唇を食む様に口付けた。
唇が触れる瞬間私は目を閉じて、そのままザシャの口付けを受け入れた。
「機嫌は直った…?それともまだ足りない…?」
「……足りない…」
ザシャは物足りなさそうな顔を見せる私の事を上から眺めながら問いかけて来る。
私は少し恥ずかしそうに小声で呟くと、ザシャは「そうだね、知ってる…」と言って再び私の唇を奪っていく。
16
お気に入りに追加
3,094
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる