王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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65.うたた寝のあとに

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自室に戻ると私はそわそわとしていた。
思いがけずザシャと一緒に過ごせることが嬉しくて仕方が無い。

時計に視線を向けるとまだ昼までは2時間程ある様だ。
ザシャは昼食を一緒にと言っていたから、この部屋訪ねて来るのはまだ少し先なのかもしれない。
だけど挨拶に2時間も掛からないと思うので、もしかしたら早く来る可能性もある。
私は色々な想像を膨らませてしまうが、アイロスの言葉を思い出し、山積みにされている机の前に腰掛けた。

「とりあえず…今日はまだ何も手を付けて無いし、ザシャさんが来るまでは勉強しなきゃ…」
私は読みかけの教本を一冊手に取るとパラパラとページを捲り始めた。


勉強を始めたものの、少し経つと時計に視線を向けてしまう。
時計を見ると先程からまだ10分程度しか経っておらず、思わず苦笑した。

(だめね…全く集中出来ないわ…。時間を気にするのはやめよう…)

そう自分に言い聞かせたはずなのに、結局は気になって時計を見てしまう。
それ程までにザシャが来てくれることが、私にとっては嬉しい事になっていた。

ザシャは私と過ごす日以外も、夜遅くにふらっとこの部屋を訪れてくれる時がある。
だけどそれは休む時間を削って来てくれているので少し心配してしまうが、来てくれるのは嬉しく感じてしまう。
私はそれを密かに期待していたら、いつしか夜遅くまで起きていることが多くなってしまった。
そのおかげで若干寝不足気味だが、アイロスの指導が始まってから朝は二度寝はせず、きっちりと起きるようになった。
しかし、その反動はお昼を食べた後にやって来て、午後の授業前はついうとうとしてしまう事が多い。


昨晩は特に眠れなかった。
今日、シルヴィアがこの離宮にやってくることを事前に聞いて知っていたからだった。

静かな部屋に一人きりで穏やかな時間が過ぎていくと、その中で私は何度も「ふわぁっ…」と欠伸を繰り返してしまい、瞼が徐々に重くなっていくのを感じる。

(寝たらだめ…、集中しなきゃ…)

そう自分に言い聞かしながら教本に向き合っていたが、あまりの眠さに耐え切れず私は目を閉じてしまった。
一度目を瞑ってしまえばもう目を開ける事なんて出来なくなり、私はそのまま眠りに落ちていった。



***


それからどれ位の時間が過ぎたのかは分からない。
意識がゆっくりと戻って来ると、何かに頭を撫でられている感覚がとても心地よく感じる。
私はゆっくりと瞼を開いて行くと、薄っすらと曇った視界が広がっていく。

「お目覚めかな…」
「……ん…?」
優しい声が頭上から響いて来て、じっとそちらの方に視線を向けていると、徐々に曇っていた視界が鮮明になっていく。

「……っ…!?……ザシャさん!?ど、どうしてここにっ…」
意識がはっきりと分かると、目の前にザシャがいる事に動揺してしまう。
慌てて体を起こそうとすると、ザシャに「いきなり起き上がるのは良くないよ」と言われて止められる。

私は先程座っていたソファーに、何故か仰向けになりザシャに膝枕をされていた様だ。
目覚めたらこんな状態になっていて、私はかなり動揺していた。

「ふふっ、エミリーの寝顔は本当にいつ見ても飽きないね。良いものが見られて良かったよ…」
「……っ…!ご、ごめんなさいっ…、私…寝てしまったんですね…。あ…、昼食は…?」
私は慌てる様に視線を時計に向けると、昼食の時刻は疾うに過ぎていた。

「まだだよ。エミリーが起きてから一緒に取るつもりだったからね…」
「ごめんなさいっ…」

「気にしないで良いよ、さっきも言ったけどそれ以上に良いものを見ることが出来たからね。それに…、可愛いエミリーの寝言も聞けたしな…」
「ね…寝言っ!?」
ザシャは口元を僅かに上げて意地悪そうな表情を見せた。

(私…寝言で何を言ったの…?)

「何を言っていたのかは…教えてあげないよ。エミリーは絶対照れて否定しそうだからね…」
「…っ…!?余計に気になります…」
私が困った顔で答えると、ザシャはクスッと悪戯に笑い「想像してみて?」と言って来た。

私はその言葉を聞いて色々想像をしていくと、恥ずかしい事ばかり考えてしまい気付けば顔を真っ赤に染めていた。
きっとザシャの態度からして、私が漏らした寝言はザシャに対しての事なのだろう。

(恥ずかしいっ…、私…一体何を言っていたんだろう……)

「どうしてそんなに顔を赤らめているの…?もしかして、いやらしい想像でもしているのかな?エミリーは…そういうの大好きだもんな…」
「……っ…、意地悪…」
意地悪な事ばかり言うザシャに、私は不満そうにむっとした顔を向けた。
ザシャはそんな私の様子を満足そうに眺め小さく笑うと、そのまま顔を下ろしてきて距離が縮まる。

「少しいじめすぎてしまったかな。キスをしてあげるから機嫌を直してくれると嬉しいな…」
「……っ…ん…」
ザシャは優しい表情で呟くと、私の唇を食む様に口付けた。
唇が触れる瞬間私は目を閉じて、そのままザシャの口付けを受け入れた。

「機嫌は直った…?それともまだ足りない…?」
「……足りない…」
ザシャは物足りなさそうな顔を見せる私の事を上から眺めながら問いかけて来る。
私は少し恥ずかしそうに小声で呟くと、ザシャは「そうだね、知ってる…」と言って再び私の唇を奪っていく。
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