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64.思いがけない出会い
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私は暫く二人の再会の場面を眺めながら、自分の家族のことを考えていた。
ここに来てから約1ヶ月が経つ。
私は今までそんなにも長く家を空けることは無かったので、少しだけ心配していた。
簡単に人を信じすぎてしまう父はまた誰かに騙されていないだろうか、母の病気は悪化していないのだろうかなど考えてしまう。
そして一番の心配事は、私の代わりに姉がちゃんと家の事をやっているかどうかだった。
(どう考えても…無理よね。お姉様が掃除や料理をしている所なんて見たことがないわ…。どうしよう…すごく心配になってきた…)
そんなことを考えていると私の不安は増していく。
だけどそんな時に不意にシルヴィアと目が合った。
「あら…?そちらの方は…お兄様の恋人ですか?」
「……ち、違いますっ…」
シルヴィアはアイロスから離れると私の方に視線を向けた。
「手紙にも書いたが、彼女はザシャ様の婚約者の一人…エミリー・ヴィアレット男爵令嬢だ」
「あ…、そっか…。この人が……。申し訳ありません、私…勘違いしてしまいました…」
シルヴィアは私のことをじっと観察するように眺めていたが、その後小さく頭を下げて謝罪してきた。
「いえいえ、私の方こそ…申し訳ありません…。アイロスさんの妹さんが気になって、折角の兄妹の再会だったにも関わらず…邪魔してしまいましたよね…」
「そんなことないですよっ!私、貴女のことも気になっていたので、ここで会えて嬉しいですっ…」
私が済まなさそうに答えると、シルヴィアはにこっと明るい笑顔を見せて返事を返してくれた。
病気と聞いていたので、もっと大人しそうなイメージだと勝手に想像していたが、実際に会ったシルヴィアは全然違かった。
彼女はハキハキとした口調で明るく話すし、人見知りとは無縁のタイプに見える。
「あ、挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。私はシルヴィア・ハスラーと申します。以後お見知りおきを…」
「わ、私の方こそ…よろしくお願いしますっ」
シルヴィアは綺麗なカーテシーを決めていたので、私も続けた。
病弱とは言え、シルヴィアはどこから見ても貴族の令嬢に見える。
まだあどけなさが残る愛らしい顔立ち、そしてどこか守ってあげたくなるような華奢な体型。
(シルヴィアさんて…すごく可愛らしい方ね…)
そう思うとどことなく不安を感じてしまう。
「エミリー、俺はこれからシルヴィアの手伝いをする。お前は部屋に戻って自習をしていろ…」
「……そう…ですね」
私はその言葉を聞くと現実を思い出し思わず苦笑してしまう。
「シルヴィア様、今日はお会い出来て良かったです。これから5か月の間よろしくお願いしますっ…」
私は挨拶を済ますと、その場から立ち去り部屋に戻ることにした。
(部屋に帰ったら、あの山の様な教本を読まないと…)
そう思うだけで、どっと気が重くなる。
***
一人で長い廊下を歩いていると、奥からこちらに向かって歩いてくるザシャの姿が目に入った。
「あ…ザシャさん…」
「あれ?エミリー…、こんな所で迷子かな?」
私が声を掛けると、ザシャは冗談ぽく笑っていた。
「ち、違いますっ…!」
「ここにいるって事は、シルヴィアに会いに行って来たの?」
「はい…、来る途中にアイロスさんに会ったので、連れて行ってもらいました。シルヴィアさんて…アイロスさんとは全く似て無くてびっくりしました…」
「ふふっ、たしかにな…。アイロスは母親似で、シルヴィアは父親似だからね…」
その言葉に納得するように私は頷いた。
「ザシャさんはこれからシルヴィアさんに会いに行くんですか?」
「本当は午後から私のいる王宮の方へ出向いてもらう事になっていたんだけど、今日は色々移動や片付けで疲れていると思うから、それなら私の方から会いに行くことにしたんだ。今日は早めに執務も片付いたからね…」
「そうなんですね…。ザシャさんてやっぱり優しいですね…」
「そう…?だけど理由はそれだけではないんだけどな…」
私が不思議そうに顔を傾けると、ザシャは優しく微笑み私の手に触れた。
突然ザシャに触れられ私はドキッとしてしまう。
「その後エミリーと一緒に昼食でもどうかと思っているんだ。今日のアイロスはシルヴィアに付きっきりだろう?だから、アイロスに変わって今日は私がエミリーの傍付きでもしてみようと思ってね…」
「……はい…?」
思いも寄らない返答が返ってきた為、私はきょとんとした表情をしてしまう。
「半分はエミリーの傍にいたいが為の口実なんだけど…、私じゃ不満か?」
「そ、そんなことないですっ!……でも、折角ゆっくり出来る時間なのに…私の為に時間を使ってしまって良いんですか?」
私は慌てるように答えた。
ザシャは週に3日、これからは4日は候補者達と過ごすことになる。
もちろん執務もあり、休む時間がそれだけ削られるということになるのだろう。
ザシャと一緒に過ごせるのは私としては嬉しいが、休める時は体を休めて欲しいと思ってしまう。
「エミリーは私に気を遣ってくれているのかな?だけど、それなら尚更エミリーの傍にいたいかな。それが何よりの癒やしになるからな…」
「……っ…」
その言葉を聞いて私の顔は真っ赤に染まっていった。
「可愛い反応だな。もっと見ていたけど、今は我慢しておくよ。それじゃあ私は一度シルヴィアの所に行って挨拶をしてくるから、エミリーは部屋で待っていて…」
「…はいっ…」
ザシャはそう言うと私の額にそっと口付けて、触れていた手を離した。
ザシャと分かれた後、私の胸の鼓動はバクバクと鳴り響いていた。
思いがけずザシャと過ごせる事になってしまったことに嬉しさを感じて、帰り道は表情が緩んでいた。
ここに来てから約1ヶ月が経つ。
私は今までそんなにも長く家を空けることは無かったので、少しだけ心配していた。
簡単に人を信じすぎてしまう父はまた誰かに騙されていないだろうか、母の病気は悪化していないのだろうかなど考えてしまう。
そして一番の心配事は、私の代わりに姉がちゃんと家の事をやっているかどうかだった。
(どう考えても…無理よね。お姉様が掃除や料理をしている所なんて見たことがないわ…。どうしよう…すごく心配になってきた…)
そんなことを考えていると私の不安は増していく。
だけどそんな時に不意にシルヴィアと目が合った。
「あら…?そちらの方は…お兄様の恋人ですか?」
「……ち、違いますっ…」
シルヴィアはアイロスから離れると私の方に視線を向けた。
「手紙にも書いたが、彼女はザシャ様の婚約者の一人…エミリー・ヴィアレット男爵令嬢だ」
「あ…、そっか…。この人が……。申し訳ありません、私…勘違いしてしまいました…」
シルヴィアは私のことをじっと観察するように眺めていたが、その後小さく頭を下げて謝罪してきた。
「いえいえ、私の方こそ…申し訳ありません…。アイロスさんの妹さんが気になって、折角の兄妹の再会だったにも関わらず…邪魔してしまいましたよね…」
「そんなことないですよっ!私、貴女のことも気になっていたので、ここで会えて嬉しいですっ…」
私が済まなさそうに答えると、シルヴィアはにこっと明るい笑顔を見せて返事を返してくれた。
病気と聞いていたので、もっと大人しそうなイメージだと勝手に想像していたが、実際に会ったシルヴィアは全然違かった。
彼女はハキハキとした口調で明るく話すし、人見知りとは無縁のタイプに見える。
「あ、挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。私はシルヴィア・ハスラーと申します。以後お見知りおきを…」
「わ、私の方こそ…よろしくお願いしますっ」
シルヴィアは綺麗なカーテシーを決めていたので、私も続けた。
病弱とは言え、シルヴィアはどこから見ても貴族の令嬢に見える。
まだあどけなさが残る愛らしい顔立ち、そしてどこか守ってあげたくなるような華奢な体型。
(シルヴィアさんて…すごく可愛らしい方ね…)
そう思うとどことなく不安を感じてしまう。
「エミリー、俺はこれからシルヴィアの手伝いをする。お前は部屋に戻って自習をしていろ…」
「……そう…ですね」
私はその言葉を聞くと現実を思い出し思わず苦笑してしまう。
「シルヴィア様、今日はお会い出来て良かったです。これから5か月の間よろしくお願いしますっ…」
私は挨拶を済ますと、その場から立ち去り部屋に戻ることにした。
(部屋に帰ったら、あの山の様な教本を読まないと…)
そう思うだけで、どっと気が重くなる。
***
一人で長い廊下を歩いていると、奥からこちらに向かって歩いてくるザシャの姿が目に入った。
「あ…ザシャさん…」
「あれ?エミリー…、こんな所で迷子かな?」
私が声を掛けると、ザシャは冗談ぽく笑っていた。
「ち、違いますっ…!」
「ここにいるって事は、シルヴィアに会いに行って来たの?」
「はい…、来る途中にアイロスさんに会ったので、連れて行ってもらいました。シルヴィアさんて…アイロスさんとは全く似て無くてびっくりしました…」
「ふふっ、たしかにな…。アイロスは母親似で、シルヴィアは父親似だからね…」
その言葉に納得するように私は頷いた。
「ザシャさんはこれからシルヴィアさんに会いに行くんですか?」
「本当は午後から私のいる王宮の方へ出向いてもらう事になっていたんだけど、今日は色々移動や片付けで疲れていると思うから、それなら私の方から会いに行くことにしたんだ。今日は早めに執務も片付いたからね…」
「そうなんですね…。ザシャさんてやっぱり優しいですね…」
「そう…?だけど理由はそれだけではないんだけどな…」
私が不思議そうに顔を傾けると、ザシャは優しく微笑み私の手に触れた。
突然ザシャに触れられ私はドキッとしてしまう。
「その後エミリーと一緒に昼食でもどうかと思っているんだ。今日のアイロスはシルヴィアに付きっきりだろう?だから、アイロスに変わって今日は私がエミリーの傍付きでもしてみようと思ってね…」
「……はい…?」
思いも寄らない返答が返ってきた為、私はきょとんとした表情をしてしまう。
「半分はエミリーの傍にいたいが為の口実なんだけど…、私じゃ不満か?」
「そ、そんなことないですっ!……でも、折角ゆっくり出来る時間なのに…私の為に時間を使ってしまって良いんですか?」
私は慌てるように答えた。
ザシャは週に3日、これからは4日は候補者達と過ごすことになる。
もちろん執務もあり、休む時間がそれだけ削られるということになるのだろう。
ザシャと一緒に過ごせるのは私としては嬉しいが、休める時は体を休めて欲しいと思ってしまう。
「エミリーは私に気を遣ってくれているのかな?だけど、それなら尚更エミリーの傍にいたいかな。それが何よりの癒やしになるからな…」
「……っ…」
その言葉を聞いて私の顔は真っ赤に染まっていった。
「可愛い反応だな。もっと見ていたけど、今は我慢しておくよ。それじゃあ私は一度シルヴィアの所に行って挨拶をしてくるから、エミリーは部屋で待っていて…」
「…はいっ…」
ザシャはそう言うと私の額にそっと口付けて、触れていた手を離した。
ザシャと分かれた後、私の胸の鼓動はバクバクと鳴り響いていた。
思いがけずザシャと過ごせる事になってしまったことに嬉しさを感じて、帰り道は表情が緩んでいた。
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