王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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60.心の葛藤①-sideアイロス-

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俺の名前はアイロス・ハウラー、現在22歳になる。
父は王弟であり、公爵家の次男として生まれた。

俺は次男として生まれたことで、兄に比べたら大分自由を許されていた様に思う。
それでも王家の血を引くものとして恥ずかしくないようにと、幼い頃から厳しい教育を受けさせられていた。
保身ばかりを気にする家が昔から嫌いだった。

そんな時、ザシャと出会った。
ザシャは王子だったが同い年だったこともあり、気が付くといつも傍にいた。
俺は昔から不愛想な性格だったので、話しかけて来たのはザシャの方からだった。

ザシャとは気が合うわけでは無かったが、傍にいても不満を感じることは一切無かったため、気付けば隣にいるようになっていた。
いつも当たり前のように傍にいたら、ある日『私の補佐をして欲しい』と告げられた。

最初は驚いたが、ザシャが俺のことを前々から気に入ってくれていたのは気付いていたし、俺もこの人の為なら力を貸すのも悪くないと思ったから、その申し入れを快諾した。
勿論それだけが理由だった訳ではない。

俺は昔からあまり他人に干渉するのは好きでは無かった。
王弟の子息という肩書があるせいか、俺に近づいてくる人間は多かったのだが、相手にするのが面倒で睨んでいたら勝手に怖がられ、近づいて来るものは減っていった。
ザシャの側近になってからは、両親もほとんど注意をしなくなった。
きっと俺が側近と言う地位を手に入れたことに、満足でもしたのだろう。

ザシャは王子であるのに気さくで、それでいて一定の距離を保ってそれ以上は立ち入ってこない。
口調も柔らかいし、父の様に偉そうな態度も見せない。
俺のこの素っ気ない言葉遣いだって、たまに注意される時はあるが、咎められたことは殆ど無かった。
だけどたまに何を考えているのか分からない時がある。

その一つが、婚約者候補に選んだ女の事だった。

ザシャの婚約者が事故死したことで、新たな婚約者を選ぶことになったのだが、ザシャは前婚約者であったエリーザ・ノイマンの死を不審がっていた。
そして今回上が決めた候補者の中に、エリーザの事故に関わっている可能性が高い女が含まれていた。

候補者に入ればザシャと近づく機会も多くなる。
そうなれば真相を掴めるかもしれないと考え、三人目の候補者をザシャ自身が選び、協力者にして仲間に入れることを考えた。
その為に、田舎町の令嬢に婚約者候補選考会の招待状を送りつける事になったのだ。

レイラ・ヴィアレットがそのターゲットに選ばれた。
ヴィアレット家の当主である男爵は事業に失敗して、多額の負債を追うことになった。
そして今や廃爵寸前だった。
田舎の町に住むヴィアレット家は他の貴族との繋がりも薄く、協力者にするのはもってこいの相手だった。

資金を援助するとでも言えば、簡単に乗ってくるだろうと踏んだのだ。
もちろん、婚約者に選ぶことは絶対に無い。
協力者が欲しかった為に、用意した駒でしかなかった……、本来はそのはずだった。

しかし色々と想定外な事が起こる。
あの日エミリーと会ったのは本当に偶然だった。
エミリーがヴィアレット家の令嬢と言うことは最初は知らなかった。
確かに妹がいるのは調査の段階で分かっていたが、まさか姉に成り代わり妹が来るなんて予想もしていなかったのだから。

ザシャは初めて会った時から、エミリーのことを気に入っていたのは確かだった。
エミリーと別れた後も、俺に楽しそうに話しかけて来ていて…、どこの家の令嬢か調べる様に言って来る位だった。

ザシャは表上は優しい顔をしているが、割と冷めている人間だと俺は思っている。
王太子という立場があるから、表では良く見せた方がイメージ的にもいいからだ。
ザシャの前婚約者だったエリーザにさえも、本性はあまり見せることは無かったように思う…。

だけどエミリーに対してはどこか違かった。
一番の理由は、エミリーが他の令嬢と全く違う部類の人間だったことにあるのだろう。
それに、ヴィアレット家の令嬢だと知った事も大きく関係しているのかもしれない。

本来ならレイラを協力者に据えるはずだったのだが、妹が来てしまい仕方なくエミリーを協力者にすることになった。
正直、姉でも妹でもどちらでもこちらとしては構わなかった。
あくまで半年間協力者として過ごしてもらうだけの存在だからだ。
半年が過ぎたらザシャは婚約者を選び、エミリーの仕事は終わり、報酬を払いそこで関係も終わる。

だけどザシャはエミリーがヴィアレット家の令嬢だと分かると、何故かすごく嬉しそうな態度を取っていた。
他人にあまり干渉をしないザシャが、あれほどまでに楽しそうな態度をみせるのは初めて見た様な気がした。

でも…そう思っていたのはザシャだけではなく、俺も同じだったのかもしれない。
エミリーは田舎育ちなせいか、令嬢感が無いに等しいレベルだった。
王太子であるザシャに対しても、その態度は最悪で令嬢と言うよりは、何も知らない平民に近い感じだ。

それに…、俺がいくら睨んでもエミリーは平気で言い返してくる。
今までこんなことなどあっただろうか…。
表には態度を見せない様にしていたが、内心はかなり驚いていた。

俺はザシャに言われた通り、エミリーを守る為に昼間は彼女の傍付きになった。
離宮は完全にザシャの管理する場になる為、安心ではあるが…、急に何かが起こった場合にすぐに対処できるようにと俺を置いた。

ザシャがユリアを疑っていることは知っていたし、カトリナを嫌っているのも前々から知っていた。
エミリーはあくまで協力者であって、絶対に選ばれない相手だ。
だから、第四の候補者に妹のシルヴィアを入れれば、妹がザシャの婚約者になれる可能性が高くなる。
そう思っていた。

シルヴィアは俺の四個下の妹なのだが、昔から体が弱くあまり屋敷から出しては貰えなかった。
両親が過保護すぎるのがそもそもの原因なのだとは思う…。
外に出ないせいか、体力もあまりないし…寧ろ両親の所為でシルヴィアは体が弱くなっているのではないかと思う程だった。

俺は昔から父が苦手だった。 
自分の意見を押し付けてくるタイプの人間で、幼い頃は俺にも色々と指図をして来た。
それを一番に受けていたのは長男である、兄なのだと思う。
兄は将来この公爵家を継ぐ人間として、幼い頃からその意思を植え付けられながら育ってきたせいか、父と性格がそっくりになっていた。
俺は兄の様に父の操り人形になりたくなくて、屋敷にいたくない為に王宮に行っていた。

最初は騎士になりたいと言う理由を付けて出かけていた。
父は愛国主義者なせいか、俺が騎士になりたいと告げると大喜びしていた。
だから王宮に行くのには反対はされなかった。

ザシャの父は国王ではあるが、俺達の前では普通の優しい叔父さんだった。
俺が王宮に寄り付いている理由を察したのか、いつでもここに居て構わないと言ってくれたのだ。
そしてそこで同い年のザシャと出会い、ここで一緒に教育を受ける様になった。
最初は口実に過ぎなかったが、騎士団見習いにさせてもらい実際稽古を体験してみると、楽しくてのめり込んでいった。
俺は屋敷にいるより、王宮で剣を振るったり、ザシャと共に居る方が心を落ち着かせることが出来ていた。

俺はあの家から一人だけ逃げ出し、家から出れないシルヴィアに寂しい思いをさせてしまった。
そのことは今でも後悔している。

だからこそ、シルヴィアをあの家から救い出したいと強く思うようになった。
両親はシルヴィアの婚約者をずっと探しているが、条件が厳し過ぎてそれに合う相手が中々見つからない。
見つかったとしても、上位貴族の嫡男や、隣国の王族などばかりで、体が弱いシルヴィアは跡取りを産めないかもしれないという理由で断られる事が多い。
その事をシルヴィアが聞いてどんな気持ちになっているのか、きっと両親には分からないのだろう。
シルヴィアの為だと言いながら、結局は自分たちの事ばかり考える両親には腹が立つ。
だけどそんな二人に何も言えない、自分が情けなくてたまらない。

普段なら誰にでもはっきりと言えるはずなのに、幼い頃のトラウマなのか、あの二人を怖いと思ってしまっている自分がいた。
だから俺はあの二人に関しては何も言えなかった。


だからこそ…ザシャの婚約者にはシルヴィアを選ばせなければならなかった。
長年仕えていたから分かる…。
ザシャならばきっとシルヴィアを幸せにしてくれるだろう。
それに俺は一生ザシャに仕えるつもりでいるので、シルヴィアを見守る事も出来る。
これ以上の相手など他にはいない。

それに両親もザシャの婚約者にさせる事には積極的に考えている様で、上と掛け合っている様だった。
だからこのまま上手く行くと思っていた。


だけど…あの日ザシャは言った。

『エミリーを正式に婚約者に決めようと思っているんだ』

その言葉を聞いた時、頭の中が真っ白になった。


それはシルヴィアが選ばれないと言う事を意味していたからだ。
シルヴィアが正式に候補者に決まったばかりで、そんな発言を聞いてしまったから俺は動揺していた。

だけど理由はきっとそれだけでは無かった。

どうして…エミリーなのかと、そう強く思った。
エミリーはただの駒でしかない女だ。
貴族であれば婚姻は原則的には結べるが、男爵家の…しかも殆ど教育をまともに受けていない女を選ぶなんてあり得ないと思った。
ザシャはもっとまともな考えを持った人間だと思っていたし、こんな女に引っかかるなんてどうかしていると…そう考えていた。


だけど、それだけじゃない…。
俺が、俺自身も気付かない間にエミリーに惹かれていたから、その事実を認めたくなかった。

たしかにエミリーは酷いくらい何も出来ない女だけど、諦めずに必死に努力する姿を俺が一番近くで見て来た。
俺が幾ら罵倒しても逃げないし、口では弱音を吐いたりはしているがそれでも頑張ろうとしていた。
だからこそ応援したい気持ちになっていった。

そんなエミリーを裏切ることなんて今更出来ない。
エミリーが悲しむ姿は見たくない。
だからと言って、シルヴィアの事は諦めたくない…。

俺は…どうしたら良いんだろう…。
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