王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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58.やるべきこと

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ザシャと過ごした夢のような一日は、あっという間に過ぎていってしまった。
目覚めるとベッドにザシャの姿は無く、大きなベッドに一人きりだった。
いつも一人で起きることが当たり前だったのに、昨日の朝の出来事を思い出すと、それだけで寂しく感じてしまう。

私はきっと、相当ザシャにハマっている。


「……」
私はそんなことを考えながらゆっくりと体を起こした。

(そういえば…今日はアイロスさん起こしに来ないのかな…?)

私は目を擦りながら、室内に視線を巡らせていく。
そして昨日ザシャに言われたことを思い出した。

「あ…そっか。今日から朝はアイロスさんは来ないんだっけ…」
私はぽつりと一人事を漏らした。

いつも怒られながら起こされていたので、それがなくなり少しほっとしている反面、寂しくもあった。

だけどそれ以上に今はアイロスに会うのが少し怖かった。
昨日ザシャからあんな話しを聞いてしまった事と、ザシャがアイロスに私を婚約者にすると宣言してしまったことで、アイロスからの対応が変わるんじゃ無いかと不安だった。

こんな時に傍にザシャがいてくれれば…とつい思ってしまう。
だけどザシャはザシャでやることが多くて大変なのだろう。

(今からこんな弱気なことばかり考えていてはダメよね…、もっとしっかりしなきゃっ…!)

私はそう自分に言い聞かすと、ベッドから起き上がった。

そしてそれから暫くすると、メイドがやってきて色々私の準備を手伝ってくれた。

本当は着替えなどは自分で出来るのだが、ここは私が住んでいた世界とは違う。
郷に入れば郷に従えという言葉を思い出し、全てメイドに任せることにした。

今日は何も予定が無かったため、身軽に動ける白色のワンピースを選んだ。

(私はザシャさんの婚約者候補なんだし…その自覚をしっかり持たなきゃ…。少しでも周りに認めて貰えるように…。まずは…アイロスさんに…かな…)

「今日も一日…頑張ろう…」
私は自分に向けてそう呟いた。


***


私が着替え終わると、アイロスが部屋へと入ってきた。

「……アイロスさん、お…おはようございますっ…」
「……ああ」
私はアイロスを視界に入れると緊張気味に声を掛けた。
アイロスは相変わらずの素っ気ない態度だったが、それが逆に私を不安にさせる。


「あの…」
「……なんだ?」

(アイロスさんって表情が薄いから、こんな時すごく困る…)

「ザシャさんから…聞きました…。アイロスさんの妹さんのこと…」
「……」
私がその話をするとアイロスは僅かに目を細めた。
その小さな変化でさえも、警戒してしまう。

「この離宮に来るんですよね?」
「ああ……」

(お願いだから…もう少しちゃんと喋ってっ…)

「私と同い年ぽいですね!18歳で…。す…すごい偶然…」
「……何が言いたい?回りくどい説明は要らない」
アイロスは不満そうに眉を顰めた。

「……あのっ!それなら…はっきり言いますけど…私、出来る限り協力します、アイロスさんが妹さんと一緒に過ごせるように…」
「……?」

「で、でもっ…私…ザシャさんの事は…諦めるつもりはありませんからっ!アイロスさんに…例え反対されても……」
「おい…」

「は、はいっ…」
「別に…俺は反対するつもりは無い。ザシャ様が選んだ相手にけちをつけるつもりはないからな…。だが、お前の場合は別だ…」
アイロスは私の事をじっと睨んできた。

「……っ…」
私はその言葉を聞いて、思わず俯いてしまう。

(やっぱり私じゃ認められない…ってこと…なのかな)

予想は付いていたけど、実際そんな風に言われるとへこんでしまう。

「でもっ、まだ半年あります!その間に私、出来る限り頑張るので…」
「そうだな。お前の場合は人の倍…いや、それ以上頑張らない限り、ザシャ様のふさわしい相手になることは不可能だ」
アイロスははっきりと言い放った。
私はその言葉に苦笑する。

「うっ…相変わらずはっきり言うのね…」
「当然だろ。相手はこの国の王太子だ…」

「……です…よね」
「最初は候補者と言うことで、それなりにこなせれば良いと思っていたが、事情は変わった。この意味分かるよな?」

「は、はいっ…。死ぬ気でやれと…」
「その通りだ。お前はやる気だけはありそうだから、俺もそのつもりで厳しくやらせてもらう。来週からと言ったが、今日から始めるぞ…」

「え…?いい…んですか…?」
「良いも何も…俺はザシャ様からしっかりお前の面倒を見るように頼まれてるからな…」
アイロスの言葉に私は思わずほっとして、表情が緩んでいってしまう。

(いつも通りのアイロスさんだ…。良かった……)

「何ヘラヘラしてるんだ…?準備が出来たなら早速始めるぞ…」
「は、はいっ…!でも…本当に良いんですか…?私ってアイロスさんにとっては…邪魔な存在ではないんですか…?」
私は思わず心配そうな顔で問いかけてしまう。

「お前の事を邪魔だとか思ったことは無い…」
「でも…、アイロスさんは…婚約者には、妹のシルヴィアさんを選んで欲しいんですよね…?」

「最終的に選ぶのはザシャ様だ…。それに…決定まではまだ半年ある。お前こそ、悠長に他人の事を気にする余裕はあるのか?この半年の間、ザシャ様に愛想を付かれないように…精々頑張るんだな。俺もそれに付き合ってやるんだから、簡単に弱音を吐くことは許さないからな…」
「が…頑張りますっ…」

アイロスは相変わらず厳しいことを言う。
だけどそれが普段のアイロスであり、今までと変わらない対応をしてくれていることに私は嬉しくなった。


その後アイロスは私の部屋に数十冊の教本を持ってこさせた。
机の周りはその本に埋め尽くされ、私は絶句した。
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