王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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57.信じること

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私は突然の事で頭が追いついていなかった。

(アイロスさんの妹さんが4人目の候補者で、この離宮で暮らす…ってこと…?)

「エミリーとシルヴィアの部屋は大分離れているし、偶然顔を合わせる事はたまにあるかもしれないけど、頻繁にはないだろうな」
「……そう、ですか…」
私はザシャの言葉に小さく答えた。

私が一番気になっていることは、その事では無かった。
さっきの話を聞く限り、ザシャは余り前向きに考えている様子は無いが、シルヴィアを婚約者に押そうとしている人間が少なからず存在してると言うこと。
そしてその中の一人がアイロスであるということだ。

私はアイロスにとって、邪魔な人間にはならないのだろうか。
アイロスだって婚約者には妹のシルヴィアを選んで欲しいに決まっているはずだ。

私は複雑な胸の内を隠せる程器用な人間では無いため、困惑した顔をそのまま表に出してしまう。
するとザシャはそのまま私の事を抱きしめてくれた。

「エミリーは何を心配しているのかな…?」
「え…?」

「私の心はもうエミリーのものだから、この事が決まったとしても考えを覆すつもりは無い。エミリーだって、その事は昨日十分伝えたはずだから分かってくれているよね…。だとすれば…アイロスのことかな…」
「……っ…」
ザシャの言葉に私が反応してしまうと、ザシャは「やっぱりな」と続けた。

「このことを許可した時に、アイロスには今まで通りエミリーの傍付きを続けることを条件に出したんだ。アイロスもそれには納得してた…。だからエミリーの傍付きはそのままで、それ以外の時間であればシルヴィアの傍にいても構わないと言うことになった」
「じゃあ、妹さんには別の傍付きがいるってことですか?」

「うん、そうだね。元々屋敷で世話をしていたメイドを連れてくるそうだ。慣れている者を置いた方がシルヴィアだって都合が良いんじゃないかな…。それにアイロスは与えた仕事はきっちりとこなす男だ、エミリーの事は今まで通りしっかり守ってくれる筈だから、安心して良いと思うよ」
「……でも、アイロスさんは…私よりも妹さんの傍にいたいと思っているんじゃ…」
私は二人の間を邪魔しているように思えて、申し訳なく感じてしまう。

「エミリーは優しいね。だけどいつでも会える距離にいるんだ、アイロスだって満足はしているはずだよ…」
「そう…かな…」
この前のアイロスの取り乱した姿を見てしまった為、私は簡単に納得は出来なかった。

「腑に落ちないと言った顔だね。だけど、アイロスには今まで通りエミリーの傍にいてもらう。もしそれでもエミリーが気になると言うのであれば、少しシルヴィアを気に掛けてあげて欲しいかな…」
「え…?」

「シルヴィアは昔から体が弱かったことで、家からも殆ど出られなかったんだ。だから、年の近い友人は恐らくいないんじゃないかな…」
「あの…私、近づいても良いんですか?」
私はザシャの口からそんな言葉が出てくるとは思わず、驚いて咄嗟に聞いてしまった。

私は割と気さくな方だし、地元ではパン屋で働いていた為、人と話すのは慣れている。
それに人と話すことは嫌いじゃ無い。

でも私は契約している身なので勝手なことは出来ない。


「え…?ああ…、それはエミリーの自由だよ。一応離宮に閉じ込めて隔離しているけど、それはあくまでエミリーを守るための対策だからね。他の候補者と合わせないようにしているのも、二人とも気が抜けない相手で…エミリーに危害を向ける可能性が無いとは言えないから、警戒しているだけだよ。だから決して禁止しているとかではないかな…」
「そうなんですねっ…。ザシャさんが良いって言うのなら、私シルヴィアさんに会ってみたい…。アイロスさんの妹さんって言うのが…ちょっと気になってました」
ザシャが会うことを勧めて来る位なのだから、決して危ない人間ではないのだろう。

アイロスがあんな性格なので少し怖いが、興味はある。
アイロスにはずっと世話になりっぱなしなので、私に出来ることであれば恩を返したい。

「ふふっ、エミリーはやっぱり変わっているな。私が見てきた令嬢達とは全く違う…。正直嫌がると思ってた…」
「え…?不安は…無いと言えば嘘になるけど…、まだここには半年はいることになるのだから…、楽しく過ごすためにも…仲良く出来るならしたいなって…思いました。それに私達が仲良くなれたら、アイロスさんも妹さんと一緒に過ごせる時間が増えるし…良いこと尽くしですっ…」
私がそう答えると、ザシャは「たしかに」と納得しながらクスクスを笑っていた。

「それに……、わ…私…ザシャさんのこと信じるって決めたので…」
私が恥ずかしそうに顔を染めながら小声で呟くと、ザシャは私の頬にそっと手を添えた。

「信じてくれて嬉しいよ。だけど一つだけ訂正してもいいかな?」
「…え?」

「きっと半年経っても、ここからは出してあげられなくなりそうだ…」
「……っ…」

「エミリーの夢を私が潰してしまうことになるけど、エミリーはそれでも私の傍にいてくれることを選んでくれたんだよね…?」
「……はい…」

あんなにもずっと男爵家を継ぐと言い張っていたのに、こんなにも簡単に諦めてしまうなんて一番驚いているのは私自身だった。

今までこんなに誰かを思ったことなど無かった。
恋などしたことが無かった。

だけどそれを知ってしまい、私はそれ以上に欲しいものが出来てしまった。

(人を好きになるって…すごいことなんだな…)

「ありがとう、すごく嬉しいよ。大事なものをエミリーから奪ったんだから、その分エミリーのことは大切にする。だけど見ているだけでは伝わらないこともあると思うから、気になった事は小さな事でも、これからは何でも私に話して欲しい。私もエミリーには何でも話すようにするよ」
「…わかりましたっ…」

ザシャの気持ちが嬉しかった。
私はザシャには何でも思っている事を伝えようと思った。
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