王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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36.不安を拭ってくれる人②

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「今の言葉だけでは納得は出来ないという顔をしているね。私が伝えなかった事で、エミリーに不安を植え付けてしまったのは私の責任だ。だから聞きたい事があれば何でも聞いて。今ならエミリーの知りたい事、答えてあげるよ」
「何でも……?」

 私が不安そうな顔で問いかけると、ザシャは「何でも答えるよ」と言った。
 ザシャが何でも聞いて構わないと言うのだから、不安を取り去る為にも自分の身を守る為にも気になる事はこの際全て聞いてしまおう。

「ザシャさんが、私を婚約者候補に選んだ本当の目的は何ですか? 前の婚約者さんを忘れる為の時間稼ぎ……、だけでは無いですよね?」

 私はザシャの目を真直ぐに見つめながら静かに答えた。
 その理由も少しはあるかもしれないが、決してそれだけではない気がする。
 もっとふさわしい令嬢は幾らだっていたはずなのに、どうして貴族からは一番かけ離れている私を選んだのだろう。

「エミリーは鋭いね。確かに私は前婚約者を忘れる為だけにエミリーに依頼をしたわけではない。エリーザの死についての真相をどうしても知りたくて、その為に時間稼ぎとして誰か協力者を作る必要があった」
「死の真相って、まさか……」

 エリーザの死については私は一切知らない。
 ただザシャやアイロスの話を聞いている限り、何かに巻き込まれて命を落としたのではないかと嫌な想像をしてしまい、そこから不安が膨らんでいく。

「正直なところ、まだ分かってはいない。ただその可能性もあるかもしれないと言ったところかな。私の思い過ごしの可能性だってある。だけど、もしそうだったとしたのならば、私はそんな相手とは結婚はしたくない」
「……その相手と言うのがカトリナ様か、ユリアさんのどちらかって事なんですね。見極める為の時間を作る為に私を協力者にしたと……」

 たしかにザシャの言っていることが本当だとしたら、大事な人を手にかけた相手となんて結婚したく無いのは当然のことだ。
 それに、そんなことになればエリーザだって報われないだろう。

「そうだね、本来ならばそのつもりだった」
「……?」

 ザシャは自嘲する様に呟くと、力なく微笑んだ。

「真実は勿論今でも知りたい。その為に候補者達と過ごす時間を使って手がかりを探っている最中だ。まだ接触するのも1度きりだから大きな進展はないけどね」
「見つかるといいですね。私にはその事に関しては何も出来ないけど、力になれそうなことがあれば何でも言ってくださいね! 私はその為の協力者なんだし」

 私が意気込んで答えると、ザシャは困った様に苦笑していた。

(私じゃ、やっぱり頼りないのかな……)

「エミリーを協力者にしたことを少し後悔しているんだ」
「…………」

 ザシャの言葉が響くと急に胸の奥がざわつき、ズキズキと痛くなった。
 やっぱり私じゃ力不足だと思われているのかもしれない。
 今日の対応だって私的には頑張った方だと思うけど、貴族令嬢として考えれば酷いものだったのだと思う。
 それにザシャの口から『後悔』という言葉を聞くと、申し訳なさと幻滅したと言っている様に聞こえて苦しくなった。

「私……、クビですか?」

 私は震えた声で呟いた。

「いや、一度婚約者候補に決めてしまってその契約も交わしているから、正式な婚約者が決まるまでは降りることは出来ないんだ。だけどエミリーの事は絶対に守るつもりだ。身の安全は保障する。だからエミリーは不安になんてなる必要はないよ」

 ザシャはいつもの様に優しい表情で呟くと、私の頭を優しく撫でてくれた。

「私、もっと頑張りますっ……! まだまだまともに見られない所も多いけど、来週からはアイロスさんに色々指導してもらう予定なので…きっとマシになるはずです。だからっ……」

 私の言葉はそこで止まってしまった。
 私の事を信じて欲しい……、とは到底今の私には言えなかった。
 何も出来ない自分が悔しくて仕方が無い。
 私は唇を噛み締め、掌をぎゅっと強く握りしめていた。

「エミリー、どうして泣いているの?」
「え……?」

 ザシャにそう言われて、そこで初めて自分が泣いていることに気付いた。

「あれ? なん、で……っ?」

 私は自分でも分からなくてザシャに問いかけると、そのまま抱きしめられた。

「後悔していると言ったのは、こんなにもエミリーを不安にさせてしまう結果になった事を言ってるのであって、エミリーの事を責めてるつもりは無いよ。誤解をさせてしまってすまない」
「よ、良かった。私、ザシャさんに必要とされてないのかと思ったからっ」

 ザシャの言葉を聞いてほっとしていたが、涙はまだ止まらなかった。
 それにザシャの胸の中は暖かくて心が落ち着く。
 まるで離れたくないと言うかのように、ぎゅっと抱きしめ返していた。

「私にとってエミリーは大事な存在だよ。だから必要無いなんて思ったことは一度だってないよ」
「どうして、協力者なだけの私にそこまで優しくしてくれるんですか?」

 私がその問いかけをするとザシャはゆっくりと私の体を剥がしていき、ザシャの手が私の頬に触れた。

「エミリーはずっと誤解をしている様だから、今日ははっきり言わせてもらってもいいかな?」
「……え?」

 ザシャは真直ぐに私の顔を見つめて、どこか困った顔で呟いた。

(誤解……?)

「私はエミリーの事を愛人だとは思ってないし、ただの協力者とも思ってない。確かに契約を交わし今は仮の婚約者候補である事には違いないけど、この一件が片付いたら正式にエミリーを婚約者にしたいと考えているんだ」
「……は、い?」

 突然のザシャの言葉に、私はぽかんとした顔で気の抜けた声を漏らしてしまった。
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