36 / 133
36.不安を拭ってくれる人②
しおりを挟む
「今の言葉だけでは納得は出来ないという顔をしているね。私が伝えなかった事で、エミリーに不安を植え付けてしまったのは私の責任だ。だから聞きたい事があれば何でも聞いて。今ならエミリーの知りたい事、答えてあげるよ」
「何でも……?」
私が不安そうな顔で問いかけると、ザシャは「何でも答えるよ」と言った。
ザシャが何でも聞いて構わないと言うのだから、不安を取り去る為にも自分の身を守る為にも気になる事はこの際全て聞いてしまおう。
「ザシャさんが、私を婚約者候補に選んだ本当の目的は何ですか? 前の婚約者さんを忘れる為の時間稼ぎ……、だけでは無いですよね?」
私はザシャの目を真直ぐに見つめながら静かに答えた。
その理由も少しはあるかもしれないが、決してそれだけではない気がする。
もっとふさわしい令嬢は幾らだっていたはずなのに、どうして貴族からは一番かけ離れている私を選んだのだろう。
「エミリーは鋭いね。確かに私は前婚約者を忘れる為だけにエミリーに依頼をしたわけではない。エリーザの死についての真相をどうしても知りたくて、その為に時間稼ぎとして誰か協力者を作る必要があった」
「死の真相って、まさか……」
エリーザの死については私は一切知らない。
ただザシャやアイロスの話を聞いている限り、何かに巻き込まれて命を落としたのではないかと嫌な想像をしてしまい、そこから不安が膨らんでいく。
「正直なところ、まだ分かってはいない。ただその可能性もあるかもしれないと言ったところかな。私の思い過ごしの可能性だってある。だけど、もしそうだったとしたのならば、私はそんな相手とは結婚はしたくない」
「……その相手と言うのがカトリナ様か、ユリアさんのどちらかって事なんですね。見極める為の時間を作る為に私を協力者にしたと……」
たしかにザシャの言っていることが本当だとしたら、大事な人を手にかけた相手となんて結婚したく無いのは当然のことだ。
それに、そんなことになればエリーザだって報われないだろう。
「そうだね、本来ならばそのつもりだった」
「……?」
ザシャは自嘲する様に呟くと、力なく微笑んだ。
「真実は勿論今でも知りたい。その為に候補者達と過ごす時間を使って手がかりを探っている最中だ。まだ接触するのも1度きりだから大きな進展はないけどね」
「見つかるといいですね。私にはその事に関しては何も出来ないけど、力になれそうなことがあれば何でも言ってくださいね! 私はその為の協力者なんだし」
私が意気込んで答えると、ザシャは困った様に苦笑していた。
(私じゃ、やっぱり頼りないのかな……)
「エミリーを協力者にしたことを少し後悔しているんだ」
「…………」
ザシャの言葉が響くと急に胸の奥がざわつき、ズキズキと痛くなった。
やっぱり私じゃ力不足だと思われているのかもしれない。
今日の対応だって私的には頑張った方だと思うけど、貴族令嬢として考えれば酷いものだったのだと思う。
それにザシャの口から『後悔』という言葉を聞くと、申し訳なさと幻滅したと言っている様に聞こえて苦しくなった。
「私……、クビですか?」
私は震えた声で呟いた。
「いや、一度婚約者候補に決めてしまってその契約も交わしているから、正式な婚約者が決まるまでは降りることは出来ないんだ。だけどエミリーの事は絶対に守るつもりだ。身の安全は保障する。だからエミリーは不安になんてなる必要はないよ」
ザシャはいつもの様に優しい表情で呟くと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「私、もっと頑張りますっ……! まだまだまともに見られない所も多いけど、来週からはアイロスさんに色々指導してもらう予定なので…きっとマシになるはずです。だからっ……」
私の言葉はそこで止まってしまった。
私の事を信じて欲しい……、とは到底今の私には言えなかった。
何も出来ない自分が悔しくて仕方が無い。
私は唇を噛み締め、掌をぎゅっと強く握りしめていた。
「エミリー、どうして泣いているの?」
「え……?」
ザシャにそう言われて、そこで初めて自分が泣いていることに気付いた。
「あれ? なん、で……っ?」
私は自分でも分からなくてザシャに問いかけると、そのまま抱きしめられた。
「後悔していると言ったのは、こんなにもエミリーを不安にさせてしまう結果になった事を言ってるのであって、エミリーの事を責めてるつもりは無いよ。誤解をさせてしまってすまない」
「よ、良かった。私、ザシャさんに必要とされてないのかと思ったからっ」
ザシャの言葉を聞いてほっとしていたが、涙はまだ止まらなかった。
それにザシャの胸の中は暖かくて心が落ち着く。
まるで離れたくないと言うかのように、ぎゅっと抱きしめ返していた。
「私にとってエミリーは大事な存在だよ。だから必要無いなんて思ったことは一度だってないよ」
「どうして、協力者なだけの私にそこまで優しくしてくれるんですか?」
私がその問いかけをするとザシャはゆっくりと私の体を剥がしていき、ザシャの手が私の頬に触れた。
「エミリーはずっと誤解をしている様だから、今日ははっきり言わせてもらってもいいかな?」
「……え?」
ザシャは真直ぐに私の顔を見つめて、どこか困った顔で呟いた。
(誤解……?)
「私はエミリーの事を愛人だとは思ってないし、ただの協力者とも思ってない。確かに契約を交わし今は仮の婚約者候補である事には違いないけど、この一件が片付いたら正式にエミリーを婚約者にしたいと考えているんだ」
「……は、い?」
突然のザシャの言葉に、私はぽかんとした顔で気の抜けた声を漏らしてしまった。
「何でも……?」
私が不安そうな顔で問いかけると、ザシャは「何でも答えるよ」と言った。
ザシャが何でも聞いて構わないと言うのだから、不安を取り去る為にも自分の身を守る為にも気になる事はこの際全て聞いてしまおう。
「ザシャさんが、私を婚約者候補に選んだ本当の目的は何ですか? 前の婚約者さんを忘れる為の時間稼ぎ……、だけでは無いですよね?」
私はザシャの目を真直ぐに見つめながら静かに答えた。
その理由も少しはあるかもしれないが、決してそれだけではない気がする。
もっとふさわしい令嬢は幾らだっていたはずなのに、どうして貴族からは一番かけ離れている私を選んだのだろう。
「エミリーは鋭いね。確かに私は前婚約者を忘れる為だけにエミリーに依頼をしたわけではない。エリーザの死についての真相をどうしても知りたくて、その為に時間稼ぎとして誰か協力者を作る必要があった」
「死の真相って、まさか……」
エリーザの死については私は一切知らない。
ただザシャやアイロスの話を聞いている限り、何かに巻き込まれて命を落としたのではないかと嫌な想像をしてしまい、そこから不安が膨らんでいく。
「正直なところ、まだ分かってはいない。ただその可能性もあるかもしれないと言ったところかな。私の思い過ごしの可能性だってある。だけど、もしそうだったとしたのならば、私はそんな相手とは結婚はしたくない」
「……その相手と言うのがカトリナ様か、ユリアさんのどちらかって事なんですね。見極める為の時間を作る為に私を協力者にしたと……」
たしかにザシャの言っていることが本当だとしたら、大事な人を手にかけた相手となんて結婚したく無いのは当然のことだ。
それに、そんなことになればエリーザだって報われないだろう。
「そうだね、本来ならばそのつもりだった」
「……?」
ザシャは自嘲する様に呟くと、力なく微笑んだ。
「真実は勿論今でも知りたい。その為に候補者達と過ごす時間を使って手がかりを探っている最中だ。まだ接触するのも1度きりだから大きな進展はないけどね」
「見つかるといいですね。私にはその事に関しては何も出来ないけど、力になれそうなことがあれば何でも言ってくださいね! 私はその為の協力者なんだし」
私が意気込んで答えると、ザシャは困った様に苦笑していた。
(私じゃ、やっぱり頼りないのかな……)
「エミリーを協力者にしたことを少し後悔しているんだ」
「…………」
ザシャの言葉が響くと急に胸の奥がざわつき、ズキズキと痛くなった。
やっぱり私じゃ力不足だと思われているのかもしれない。
今日の対応だって私的には頑張った方だと思うけど、貴族令嬢として考えれば酷いものだったのだと思う。
それにザシャの口から『後悔』という言葉を聞くと、申し訳なさと幻滅したと言っている様に聞こえて苦しくなった。
「私……、クビですか?」
私は震えた声で呟いた。
「いや、一度婚約者候補に決めてしまってその契約も交わしているから、正式な婚約者が決まるまでは降りることは出来ないんだ。だけどエミリーの事は絶対に守るつもりだ。身の安全は保障する。だからエミリーは不安になんてなる必要はないよ」
ザシャはいつもの様に優しい表情で呟くと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「私、もっと頑張りますっ……! まだまだまともに見られない所も多いけど、来週からはアイロスさんに色々指導してもらう予定なので…きっとマシになるはずです。だからっ……」
私の言葉はそこで止まってしまった。
私の事を信じて欲しい……、とは到底今の私には言えなかった。
何も出来ない自分が悔しくて仕方が無い。
私は唇を噛み締め、掌をぎゅっと強く握りしめていた。
「エミリー、どうして泣いているの?」
「え……?」
ザシャにそう言われて、そこで初めて自分が泣いていることに気付いた。
「あれ? なん、で……っ?」
私は自分でも分からなくてザシャに問いかけると、そのまま抱きしめられた。
「後悔していると言ったのは、こんなにもエミリーを不安にさせてしまう結果になった事を言ってるのであって、エミリーの事を責めてるつもりは無いよ。誤解をさせてしまってすまない」
「よ、良かった。私、ザシャさんに必要とされてないのかと思ったからっ」
ザシャの言葉を聞いてほっとしていたが、涙はまだ止まらなかった。
それにザシャの胸の中は暖かくて心が落ち着く。
まるで離れたくないと言うかのように、ぎゅっと抱きしめ返していた。
「私にとってエミリーは大事な存在だよ。だから必要無いなんて思ったことは一度だってないよ」
「どうして、協力者なだけの私にそこまで優しくしてくれるんですか?」
私がその問いかけをするとザシャはゆっくりと私の体を剥がしていき、ザシャの手が私の頬に触れた。
「エミリーはずっと誤解をしている様だから、今日ははっきり言わせてもらってもいいかな?」
「……え?」
ザシャは真直ぐに私の顔を見つめて、どこか困った顔で呟いた。
(誤解……?)
「私はエミリーの事を愛人だとは思ってないし、ただの協力者とも思ってない。確かに契約を交わし今は仮の婚約者候補である事には違いないけど、この一件が片付いたら正式にエミリーを婚約者にしたいと考えているんだ」
「……は、い?」
突然のザシャの言葉に、私はぽかんとした顔で気の抜けた声を漏らしてしまった。
38
お気に入りに追加
3,094
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる