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35.不安を拭ってくれる人①
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昼間アイロスに聞いた言葉がずっと頭の中を支配する様に、私の心をもやもやとした気持ちにさせていた。
そして、アイロスはあれ以上は何も教えてはくれなかった。
これ以上二人には関わるなとアイロスの目は訴えてる様で、私もそれ以上は聞けなかった。
(この依頼受けるべきじゃなかったのかな)
相手はこの国の王太子だ。
好きだからと言う気持ちだけで、婚約を決めるものでは無いと言う事は私も理解している。
本人の意思だけではなく、周りの者達を巻き込んで様々な思惑が蠢いているのも納得出来る。
例えライバルを蹴落としてでも、その座を手に入れようとする者が居たとしてもおかしくはないだろう。
未来の王妃と言う、輝かしい地位が手に入るのだから。
「でも、アイロスさんがずっと傍にいてくれてるし、守ってくれるはずだわっ」
不安な心を鎮めようと胸に手を当て、自分自身に問いかける様に小さく呟いた。
だけど今この部屋には私一人しかいない。
静まり返った部屋に一人きりでいると、考えなくても良い事ばかり頭に過ってしまうみたいだ。
昨晩ザシャが今日の夜は一緒に寝ようと言ってくれたこともあり、私はザシャが訪れるのを待っているのだが、未だにザシャの姿は現れない。
夜が深くなる中、ベッド横にある蝋燭に灯る炎がオレンジ色の優しい光を灯している。
その光を眺めていると、次第に頭の奥がぼーっとして来て時折欠伸が出てしまう。
「ザシャさん、まだかな」
きっとザシャは遅くまで執務をしているのだろう。
そう思うと起きていたい気持ちにはなるのだが、瞼がとても重い。
ベッドの端に背を預けながら時折首がガクンと落ち、その度にはっとして目を覚ます。
そんな事を何度か繰り返していた時、室内の奥の方でガチャと扉が開く音が聞こえた。
(ザシャ、さん?)
私は眠くなった目を擦りながら、薄暗い室内に目を凝らす様に視線を巡らせた。
そして暫くすると会いたかった人物が視界に入って来て、安心したのか口元が緩んでいく。
「エミリー、遅くなってごめんね」
ザシャはいつもの優しい声で私に言葉をかけると、ベットの端に座った。
「遅くまでお疲れ様です」
「ありがとう。随分と眠そうな顔をしているね、先に寝ていてくれても良かったのに」
ザシャは私の頬に手を触れると、指で眠そうな目元を優しくなぞった。
それがなんだかとても擽ったい。
だけど指から伝わるザシャの温もりが、私の不安を一気に拭い去ってくれるようだった。
「今日は急に決まった事に付き合わせてしまってごめんね。エミリーのドレス姿とても素敵だったよ。今度はもう少しじっくり見ていたいものだな」
「やっぱり、ザシャさんはちょっと大人っぽいドレスの方が好みなんですか?」
あれはカトリナを真似て選んだドレスだ。
それを褒めると言う事は、ザシャの好みはやっぱりカトリナみたいな大人びた雰囲気を持つ女性なのだろうか。
そう思うと素直に喜べない気持ちもあった。
「そんなことはないよ。エミリーが着ている物なら、なんだって私には素敵に見えるからね」
「……っ、ありがとうございます」
そんな言葉を言われると、お世辞だと分かっていも照れてしまう。
きっとザシャはそんな台詞を他の候補者達にも言っているのだろう。
「エミリー、アイロスから少し話を聞いた。不安にさせてしまってすまないね」
「…………」
ザシャは話題を変えると私の顔を真直ぐに見つめ、申し訳なさそうに呟いた。
私はそれが何について言われているのかすぐに気付き、困った顔でザシャの顔を見つめ返した。
ザシャは不安を感じている私の顔を見て、落ち着かせる様に私の手の上から掌を被せる様に重ねた。
「どうして、何も教えてくれなかったんですか? 黙っていたのは、私が知ったらこの依頼を受けないと思ったから?」
私は不安に瞳を揺らしながら細い声で呟いた。
「その事については本当に申し訳なく思ってる。騙していたって思われてしまうかもしれないけど、エミリーを守れる自信は十分にあったからね。だから下手に不安を煽りたくは無かったんだ。ここは王宮からは隔離されているし、ここに出入り出来る者は私が選んだ者達だけだ。それに傍にはアイロスも付けている。だからエミリーがここに居る限り安心だと言える。あの二人には特別な事情が無い限り会わせることはしないと約束する。だからエミリーは今まで通り、安心してここでゆったり暮らしてくれれば良い」
ザシャが言った事をそのまま鵜呑みにして良いのか悩む所だが、その言葉は私に安心を与えてくれた。
それは同時にアイロスが言った事が真実だと言う事だ。
私は二人の婚約者候補から狙われる可能性があると言う事になる。
そして、アイロスはあれ以上は何も教えてはくれなかった。
これ以上二人には関わるなとアイロスの目は訴えてる様で、私もそれ以上は聞けなかった。
(この依頼受けるべきじゃなかったのかな)
相手はこの国の王太子だ。
好きだからと言う気持ちだけで、婚約を決めるものでは無いと言う事は私も理解している。
本人の意思だけではなく、周りの者達を巻き込んで様々な思惑が蠢いているのも納得出来る。
例えライバルを蹴落としてでも、その座を手に入れようとする者が居たとしてもおかしくはないだろう。
未来の王妃と言う、輝かしい地位が手に入るのだから。
「でも、アイロスさんがずっと傍にいてくれてるし、守ってくれるはずだわっ」
不安な心を鎮めようと胸に手を当て、自分自身に問いかける様に小さく呟いた。
だけど今この部屋には私一人しかいない。
静まり返った部屋に一人きりでいると、考えなくても良い事ばかり頭に過ってしまうみたいだ。
昨晩ザシャが今日の夜は一緒に寝ようと言ってくれたこともあり、私はザシャが訪れるのを待っているのだが、未だにザシャの姿は現れない。
夜が深くなる中、ベッド横にある蝋燭に灯る炎がオレンジ色の優しい光を灯している。
その光を眺めていると、次第に頭の奥がぼーっとして来て時折欠伸が出てしまう。
「ザシャさん、まだかな」
きっとザシャは遅くまで執務をしているのだろう。
そう思うと起きていたい気持ちにはなるのだが、瞼がとても重い。
ベッドの端に背を預けながら時折首がガクンと落ち、その度にはっとして目を覚ます。
そんな事を何度か繰り返していた時、室内の奥の方でガチャと扉が開く音が聞こえた。
(ザシャ、さん?)
私は眠くなった目を擦りながら、薄暗い室内に目を凝らす様に視線を巡らせた。
そして暫くすると会いたかった人物が視界に入って来て、安心したのか口元が緩んでいく。
「エミリー、遅くなってごめんね」
ザシャはいつもの優しい声で私に言葉をかけると、ベットの端に座った。
「遅くまでお疲れ様です」
「ありがとう。随分と眠そうな顔をしているね、先に寝ていてくれても良かったのに」
ザシャは私の頬に手を触れると、指で眠そうな目元を優しくなぞった。
それがなんだかとても擽ったい。
だけど指から伝わるザシャの温もりが、私の不安を一気に拭い去ってくれるようだった。
「今日は急に決まった事に付き合わせてしまってごめんね。エミリーのドレス姿とても素敵だったよ。今度はもう少しじっくり見ていたいものだな」
「やっぱり、ザシャさんはちょっと大人っぽいドレスの方が好みなんですか?」
あれはカトリナを真似て選んだドレスだ。
それを褒めると言う事は、ザシャの好みはやっぱりカトリナみたいな大人びた雰囲気を持つ女性なのだろうか。
そう思うと素直に喜べない気持ちもあった。
「そんなことはないよ。エミリーが着ている物なら、なんだって私には素敵に見えるからね」
「……っ、ありがとうございます」
そんな言葉を言われると、お世辞だと分かっていも照れてしまう。
きっとザシャはそんな台詞を他の候補者達にも言っているのだろう。
「エミリー、アイロスから少し話を聞いた。不安にさせてしまってすまないね」
「…………」
ザシャは話題を変えると私の顔を真直ぐに見つめ、申し訳なさそうに呟いた。
私はそれが何について言われているのかすぐに気付き、困った顔でザシャの顔を見つめ返した。
ザシャは不安を感じている私の顔を見て、落ち着かせる様に私の手の上から掌を被せる様に重ねた。
「どうして、何も教えてくれなかったんですか? 黙っていたのは、私が知ったらこの依頼を受けないと思ったから?」
私は不安に瞳を揺らしながら細い声で呟いた。
「その事については本当に申し訳なく思ってる。騙していたって思われてしまうかもしれないけど、エミリーを守れる自信は十分にあったからね。だから下手に不安を煽りたくは無かったんだ。ここは王宮からは隔離されているし、ここに出入り出来る者は私が選んだ者達だけだ。それに傍にはアイロスも付けている。だからエミリーがここに居る限り安心だと言える。あの二人には特別な事情が無い限り会わせることはしないと約束する。だからエミリーは今まで通り、安心してここでゆったり暮らしてくれれば良い」
ザシャが言った事をそのまま鵜呑みにして良いのか悩む所だが、その言葉は私に安心を与えてくれた。
それは同時にアイロスが言った事が真実だと言う事だ。
私は二人の婚約者候補から狙われる可能性があると言う事になる。
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