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34.婚約者候補たち④
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ヒヤヒヤする場面もあったけど、恙無く婚約者候補達の顔合わせが終わり、私は安堵の表情を浮かべていた。
今は自室へと戻り、ドレスを脱いで楽な格好に着替え直し寛いでいる。
私は中央にあるソファーに座り、テーブルの上にはお茶やお菓子などが並べられていて、今まさに私は至福の時間を過ごしている。
「はぁ……。仕事の後のお茶は格別ね」
私は一口お茶を啜りそんな言葉を口にすると、対面する様に座るアイロスは呆れた顔をしていた。
「アイロスさん、今日の私に点数を付けるとしたら何点くらいですか?」
「そうだな、お前にしては良くやっていたな」
参考までに聞いてみることにすると、いつも辛口発言ばかりするアイロスに『良くやっていた』と言われ私の期待値は上がって行く。
(あのアイロスさんが、私の事を褒めてる! こ、これはもしかしたら相当上手くやれたってことかしら)
「大目に見て30点と言った所か」
「さ、30!? 低っ!」
期待してドキドキしながら待っていたら、予想以上の低さに思わず声を漏らしてしまった。
「低い? 当然だろう。狼狽え過ぎだし、人の話は聞いてない。顔もずっと引き攣っていたぞ」
「うっ、確かに間違っては無いけど。あれでも私は精一杯やっていたわ。アイロスさんには分からないと思うけど、どれだけ私が緊張していたか。何か言われる度に心臓が止まるんじゃないかと思う位、ドキドキしていたんだからっ!」
アイロスが指摘した事はその通りだと思う。
だけどあの雰囲気の中、私は良くやったと自分で褒めてあげたいくらいだった。
「でも急に決まった事で、事前準備も無しにあそこまで出来たのなら十分だ」
「そ、そうですよね!」
(素直に頑張ったって言ってくれたらいいのに……)
「そういえば、前から少し気になっていたんですけど。カトリナ様とユリアさんの仲ってあんまり良くは無いんですか?」
私はずっと気になっていた二人の関係を問いかけてみることにした。
すると一瞬アイロスは顔を顰めた。
(もしかして、聞いちゃいけなかった?)
「い、一応私も婚約者候補の一人だし。他の二人についてある程度知っておいた方がいいかなぁ、と思いまして」
私は慌てる様に答えると、アイロスは「それもそうか」と小さく呟いた。
「お前はどこまで知っているんだ?」
「えっと、カトリナ様は元々ザシャさんの婚約者になるはずの人だったんですよね? だけどユリアさんのお姉さんが婚約者に決まってしまったって。ユリアさんに関しては元婚約者の妹って事と、選考会の時にカトリナ様が言っていたんですが、ユリアさんはずっとザシャさんの事を思っていて、それで……。元婚約者であるお姉さんが亡くなって、自分にもチャンスが来て喜んでいるんじゃないかって話してました」
後半はカトリナが嫌味で言ったような内容だ。
二人の仲については私は何も知らなかったので、アイロスに包み隠さず話した方が良いのかと思い、少し言いづらそうにしながらも話した。
「「…………」」
私が話し終えるとアイロスは何か考えた様な表情をして黙ったままだった。
沈黙が続くと私は自分で言った事を後悔し始めていた。
(カトリナ様が言った事は、やっぱり言わない方が良かったかも。仮にもザシャさんの婚約者だった人なのに。喜んでいるなんて不謹慎過ぎたわ。どうしよう、今から撤回するべきかな)
「あ、あのっ」
「お前は、あの二人には近づくな」
私が慌てて言いかけるのとほぼ同時に、アイロスは静かにそう告げた。
「え? それはどういう意味ですか?」
「あの二人はお前にとっては危険な存在だ。危害を加えられる可能性もある、そうならない為にザシャ様はお前の傍に俺を置いたんだと思う」
アイロスは真直ぐに私を捉えると、重々しい表情で話し始めた。
「それって、婚約者候補に決まった私を蹴落とすために?」
「ああ。蹴落とされるだけならまだいいが、お前だってこんな所で命までは取られたくは無いだろう? お前にとってはこれは依頼であり、本当の婚約者候補では無いはずだ。興味本位であの二人に近付こうとしているのなら、今すぐその考えを止めることだ。ここにお前を軟禁状態にしているのも、あの二人に近づけさせない意図があっての事で、お前を守りやすくするためにザシャ様が考えてくれたことだ」
(命って、ちょっと大袈裟過ぎない?)
「ちょっと、待ってくださいっ。この依頼って、そんなに危険なものだったんですか?」
「当然だ。王太子であるザシャ様の婚約者になると言う事は、未来の王妃になると言っているのと同じことだ。そうなれば命を狙われることだって無いとは言えない」
アイロスの言葉に私の表情は凍り付いていく。
急に怖くなり血の気が引いて行く様だった。
「わ、私、そんな説明聞いてませんっ!」
「ザシャ様は言ったら変に恐怖心を煽るだけだと思って伝えなかったんだろうな。もちろんお前を守る体制は万全だ。だけど警戒心を持つことは決して悪い事じゃないし、疑う事でより自分自身の身を守ることに繋がるのだから持っておいた方が良い。特にお前は警戒心を持つ事には無縁そうだからな。自分から敵に近付いて行かれると俺が困る。特に、ユリア・ノイマンには十分警戒しろ」
「ユリアさん? 優しそうな人なのに?」
「優しそう、か。お前らしい意見だな。だけど表の顔に騙されるな。カトリナが言った言葉は強ち間違ってはいないかもしれないな」
今は自室へと戻り、ドレスを脱いで楽な格好に着替え直し寛いでいる。
私は中央にあるソファーに座り、テーブルの上にはお茶やお菓子などが並べられていて、今まさに私は至福の時間を過ごしている。
「はぁ……。仕事の後のお茶は格別ね」
私は一口お茶を啜りそんな言葉を口にすると、対面する様に座るアイロスは呆れた顔をしていた。
「アイロスさん、今日の私に点数を付けるとしたら何点くらいですか?」
「そうだな、お前にしては良くやっていたな」
参考までに聞いてみることにすると、いつも辛口発言ばかりするアイロスに『良くやっていた』と言われ私の期待値は上がって行く。
(あのアイロスさんが、私の事を褒めてる! こ、これはもしかしたら相当上手くやれたってことかしら)
「大目に見て30点と言った所か」
「さ、30!? 低っ!」
期待してドキドキしながら待っていたら、予想以上の低さに思わず声を漏らしてしまった。
「低い? 当然だろう。狼狽え過ぎだし、人の話は聞いてない。顔もずっと引き攣っていたぞ」
「うっ、確かに間違っては無いけど。あれでも私は精一杯やっていたわ。アイロスさんには分からないと思うけど、どれだけ私が緊張していたか。何か言われる度に心臓が止まるんじゃないかと思う位、ドキドキしていたんだからっ!」
アイロスが指摘した事はその通りだと思う。
だけどあの雰囲気の中、私は良くやったと自分で褒めてあげたいくらいだった。
「でも急に決まった事で、事前準備も無しにあそこまで出来たのなら十分だ」
「そ、そうですよね!」
(素直に頑張ったって言ってくれたらいいのに……)
「そういえば、前から少し気になっていたんですけど。カトリナ様とユリアさんの仲ってあんまり良くは無いんですか?」
私はずっと気になっていた二人の関係を問いかけてみることにした。
すると一瞬アイロスは顔を顰めた。
(もしかして、聞いちゃいけなかった?)
「い、一応私も婚約者候補の一人だし。他の二人についてある程度知っておいた方がいいかなぁ、と思いまして」
私は慌てる様に答えると、アイロスは「それもそうか」と小さく呟いた。
「お前はどこまで知っているんだ?」
「えっと、カトリナ様は元々ザシャさんの婚約者になるはずの人だったんですよね? だけどユリアさんのお姉さんが婚約者に決まってしまったって。ユリアさんに関しては元婚約者の妹って事と、選考会の時にカトリナ様が言っていたんですが、ユリアさんはずっとザシャさんの事を思っていて、それで……。元婚約者であるお姉さんが亡くなって、自分にもチャンスが来て喜んでいるんじゃないかって話してました」
後半はカトリナが嫌味で言ったような内容だ。
二人の仲については私は何も知らなかったので、アイロスに包み隠さず話した方が良いのかと思い、少し言いづらそうにしながらも話した。
「「…………」」
私が話し終えるとアイロスは何か考えた様な表情をして黙ったままだった。
沈黙が続くと私は自分で言った事を後悔し始めていた。
(カトリナ様が言った事は、やっぱり言わない方が良かったかも。仮にもザシャさんの婚約者だった人なのに。喜んでいるなんて不謹慎過ぎたわ。どうしよう、今から撤回するべきかな)
「あ、あのっ」
「お前は、あの二人には近づくな」
私が慌てて言いかけるのとほぼ同時に、アイロスは静かにそう告げた。
「え? それはどういう意味ですか?」
「あの二人はお前にとっては危険な存在だ。危害を加えられる可能性もある、そうならない為にザシャ様はお前の傍に俺を置いたんだと思う」
アイロスは真直ぐに私を捉えると、重々しい表情で話し始めた。
「それって、婚約者候補に決まった私を蹴落とすために?」
「ああ。蹴落とされるだけならまだいいが、お前だってこんな所で命までは取られたくは無いだろう? お前にとってはこれは依頼であり、本当の婚約者候補では無いはずだ。興味本位であの二人に近付こうとしているのなら、今すぐその考えを止めることだ。ここにお前を軟禁状態にしているのも、あの二人に近づけさせない意図があっての事で、お前を守りやすくするためにザシャ様が考えてくれたことだ」
(命って、ちょっと大袈裟過ぎない?)
「ちょっと、待ってくださいっ。この依頼って、そんなに危険なものだったんですか?」
「当然だ。王太子であるザシャ様の婚約者になると言う事は、未来の王妃になると言っているのと同じことだ。そうなれば命を狙われることだって無いとは言えない」
アイロスの言葉に私の表情は凍り付いていく。
急に怖くなり血の気が引いて行く様だった。
「わ、私、そんな説明聞いてませんっ!」
「ザシャ様は言ったら変に恐怖心を煽るだけだと思って伝えなかったんだろうな。もちろんお前を守る体制は万全だ。だけど警戒心を持つことは決して悪い事じゃないし、疑う事でより自分自身の身を守ることに繋がるのだから持っておいた方が良い。特にお前は警戒心を持つ事には無縁そうだからな。自分から敵に近付いて行かれると俺が困る。特に、ユリア・ノイマンには十分警戒しろ」
「ユリアさん? 優しそうな人なのに?」
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