王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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31.婚約者候補たち①

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 中に入ると中央には大きなテーブルが用意されていて、上には食器などが並べられている。
 更に室内に視線を巡らせていくと、存在感を感じさせるようにソファーに座っているカトリナと目が合った。
 鋭い眼光が向けられ、私はゾクッと鳥肌が立つのを感じた。

 カトリナは首元が大きく開いた濃い紫色のドレスを着ていた。
 ドレスには細かい刺繍が丁寧に施されていて、上品さと大人っぽさを感じさせるドレスだった。
 カトリナはスタイルがとても良いので、どんなドレスでも似合ってしまいそうで羨ましく思ってしまう。

(カトリナ様もドレスなんだ。これを着て来て正解だったようね)

「エミリー、堂々としていろ」
「は、はいっ」

 すぐ傍で私の態度を見ていたアイロスは、委縮している私を見て小さく呟いた。

「アイロス様、お久しぶりです」

 カトリナはソファーから立ち上がると私達の方へと近づき、アイロスに向かい綺麗なカーテシーを見せていた。

「ああ」

 カトリナに挨拶されたアイロスは、相変わらずの不愛想ぶりだった。
 あのカトリナ相手でも、一切動じないアイロスに私は少し感心してしまった。

(さすがアイロスさんね! 誰に対しても態度を変えないとか。ザシャさんの言う通りなのかも)

「貴女がエミリー・ヴィアレットさんね」
「は、はい。エミリー・ヴィアレットです。お初にお目にかかります、カトリナ様」

 私は不格好ながらもカトリナが先程やっていたカーテシーを真似しながら挨拶をした。
 今の私は心臓が飛び出てしまう程緊張している。

「貴女、どこかでお会いした事あるかしら?」
「な、無いです。初めてお会いしますわ」

 私は引き攣った口元を隠す様に、持っていた扇子を開いた。

「あらそう? どこかで見た様な気がするのだけど……。気のせいかしらね」
「ええ、きっと気のせいだと思います」

 カトリナは目を細めてじっとこちらを見つめて来たので、私は必死に笑顔を作って誤魔化した。
 カトリナはそれ以上は聞いて来なかったので、内心ほっとしていた。

(バレなくて良かった……)

「あの、そういえばユリア様の姿が見えない様ですが遅れているんですかね?」
「ああ、あの子ならザシャ殿下と一緒に来るんじゃない? 今日はあの子と過ごす日のようだし」

 私がユリアと名前を出した瞬間、カトリナは嫌悪感に滲んだ表情を見せた。

(やっぱり、カトリナ様とユリアさんの間に何かあるのかな)

「貴女もあの女……。いえ、ユリア・ノイマンさんには気を付けた方が良いわよ」
「え? それはどういう意味ですか?」

 カトリナはアイロスが傍にいる事を気にしてなのか、以前の様な傲慢な振る舞いはして来なかった。
 アイロスが本来はザシャの側近であることを分かっているのだろう。

(どういう意味なんだろう)

 そんな事を話していると扉が開く音が響き、私達は視線をそちら側へと向けた。
 するとザシャとユリアが一緒に入って来た。
 ユリアはザシャの腕に掴まる様にくっついていた。

「二人とも急な事だったにも関わらず、集まってくれて感謝するよ」

 ザシャはいつも通りの柔らかい口調で話すと小さく微笑んでいた。
 今日のザシャはマントが付いた白い軍服を着ていて、金色の糸で出来た飾緒が高貴さを引き立たせている様だ。
 そしてユリアは白い清楚なワンピースを着ている。
 ふわっとした、可愛らしいワンピースはユリアの雰囲気にぴったりで似合っていた。
 二人とも同じ白い服を着ていてお揃いみたいに見えた。

(二人で過ごす日は、同じ色の服で合わせた方が良いのかな?)

「カトリナ様、エミリー様。私の突然の我儘に付き合わせてしまい申し訳ありません。同じザシャ殿下の婚約者候補として、一度ちゃんとお会いしたいと思っていたんです」
「私も一度皆で顔合わせをしたいと思っていた所だから丁度良かったよ。二人ともこんなに急だったのにドレスを着て来てくれたんだね。とても素敵で似合っているよ」

「お褒めの言葉、感謝致します。本日もザシャ殿下にお目にかかることが出来て大変嬉しく思っていますわ」

 カトリナは流石と言うべきか、すぐさまザシャに向かい挨拶を返していた。

「しょ、招待して頂き、ありがとうございますっ」

 私も慌てる様にカトリナに続き挨拶をした。
 ザシャと目が合うとなんだかドキドキしてしまう。

「あれ? レイラ、さん?」

 突然ユリアは何かを思い出したかのように、私に向かいその名前を呟いた。

「……っ!? レ、レイラ? だ、誰の事かしら? 私はエミリーです。エミリー・ヴィアレットです」
「そう、ですよね。似ていたのでつい……。失礼なことを申し上げてごめんなさい。私はユリア・ノイマンと申します」

 私は必死に知らないフリを押し通し誤魔化した。
 ここで私がレイラだとバレるのはまずい気がしたからだ。
 ユリアは勘違いだと思ってくれたようで、私はほっとした。

(危なかった! しっかりとメイクをしてくれた使用人さん達には感謝をしなければ)

「エミリーと会うのは二人は初めてなのかな?」
「は、はいっ! 初めてですっ」

 ザシャは私では無く他の二人に聞いたのにも関わらず、緊張のせいで聞き間違えてしまい、私が思いっきり返事を返してしまった。

「エミリーには聞いてない」

 後ろにいたアイロスがぼそっと呟いた。

「……っ! ご、ごめんなさいっ。聞き間違えました」
「ふふっ、そんなに慌てて謝らなくても大丈夫だよ」

 私が慌てて謝ると、ザシャは優しく答えてくれた。

(いきなり失敗しちゃった。ザシャさん、ごめんなさい)

 私が心の中で反省していると、鋭い目つきで見つめるユリアと目が合った。
 まるで睨むかのように私の事を見つめている様に見えたが、それは一瞬だった。

(……ユリア、さん?)
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