王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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29.違う自分

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 私はその後急いで準備を済ませ、ドレスへと着替えた。
 普段ドレスを着慣れていない私からすると、ドレスはとても優雅に見えて素敵だけど、人の手を借りて着替えなければならないというのが煩わしく思えてしまう。
 たまになら良いが、頻繁にあるとそれだけで気疲れしてしまいそうだ。

「エミリー様、準備の方はこちらで終わりになります」
「ありがとうございます」

 私は姿見に映る着飾った自分の姿を見ると心が弾んだ。

(確かに着るのは面倒だけど、ドレスって素敵ね。着る度に違う自分になれる気がするわ)

 私ははしゃぐ様に一周くるっと回って鏡の中に映る自分の姿を眺めていた。
 そんな時、鏡の奥に鋭い目つきで私を見るアイロスと目が合った気がして私は慌てて振り返った。

「おい、準備が出来たならさっさと行くぞ」
「は、はいっ! わっ!?」

 私は慌てて走り出そうとすると、履きなれないヒールの靴のせいか、バランスが崩れそのまま倒れ込んでしまった。

「エミリー様、大丈夫ですか?」

 傍に居た使用人達は慌てて私の事を起き上がらせてくれた。

「ご、ごめんなさい。なんとか大丈夫です」

 私が苦笑しながら答えると、アイロスに腕を掴まれた。

「お前、なんでそんなドレスを選んだんだ?」
「だって、目立った方が良いかと思って」

 アイロスは呆れた顔で私のドレスを眺めていた。

 私はゴシック調の真っ赤なドレスを選んだ。
 薔薇の色に染まった鮮やかな赤は、どのドレスよりも大人っぽさを感じさせた。
 レースは黒なのでまた引き締まって見える。
 そして頭には薔薇を模った髪飾りを付けてもらった。
 髪も軽く巻いてもらい、優雅さが増している。
 まるで別人の様だった。

(ちょっとカトリナ様をイメージしてみたのよね。今日のお手本はあの人だから!)

「私、かなり大人っぽく見えるでしょ? びっくりした?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃない。今回は急遽決まった事で、別にドレスを選ぶ必要は無かったって事だ」

 私はアイロスの言葉に驚き「そうなの!?」と思わず声を上げてしまった。

「もう着替え直す時間は無いからそのままでいい、行くぞ」
「それ、先に言ってよ!」

 私はアイロスに手を引っ張られる様に部屋を出て、速足で廊下を歩いて行く。
 だけど普段履きなれないヒールの靴だと足が縺れて、中々早く歩くことが出来ない。

「もっと早く歩けないのか?」
「む、無理です。この靴歩きにくくて、これ以上早く歩くときっとまた転んでしまいます」

 私が困った顔で答えると、アイロスは溜息を漏らし「仕方ない」と呟いた。

「大人しくしてろよ」
「え? わっ!?」

 突然アイロスに横向きに抱き上げられると、ふわっとした浮遊感にどきっとして、慌ててアイロスの首にしがみ付いた。

「落とされたく無ければ、そのまましっかりと俺にしがみ付いていろ」
「……っ、わかりました。でも私、重く無いですか?」

 突然こんなことになってしまい戸惑ってはいたが、私は大人しくアイロスに従う事にした。
 急いでいるこの状況ではこうするのが一番良いと、私も気付いていたからだ。
 ここから出口までは相当な距離があるのは、来た時に実際歩いたから分かっている。
 私のペースで歩いていれば、確実に間に合わなくなるだろう。

「この程度なら問題ない」
「そうですか」

(何でこんな事に!)
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