29 / 133
29.違う自分
しおりを挟む
私はその後急いで準備を済ませ、ドレスへと着替えた。
普段ドレスを着慣れていない私からすると、ドレスはとても優雅に見えて素敵だけど、人の手を借りて着替えなければならないというのが煩わしく思えてしまう。
たまになら良いが、頻繁にあるとそれだけで気疲れしてしまいそうだ。
「エミリー様、準備の方はこちらで終わりになります」
「ありがとうございます」
私は姿見に映る着飾った自分の姿を見ると心が弾んだ。
(確かに着るのは面倒だけど、ドレスって素敵ね。着る度に違う自分になれる気がするわ)
私ははしゃぐ様に一周くるっと回って鏡の中に映る自分の姿を眺めていた。
そんな時、鏡の奥に鋭い目つきで私を見るアイロスと目が合った気がして私は慌てて振り返った。
「おい、準備が出来たならさっさと行くぞ」
「は、はいっ! わっ!?」
私は慌てて走り出そうとすると、履きなれないヒールの靴のせいか、バランスが崩れそのまま倒れ込んでしまった。
「エミリー様、大丈夫ですか?」
傍に居た使用人達は慌てて私の事を起き上がらせてくれた。
「ご、ごめんなさい。なんとか大丈夫です」
私が苦笑しながら答えると、アイロスに腕を掴まれた。
「お前、なんでそんなドレスを選んだんだ?」
「だって、目立った方が良いかと思って」
アイロスは呆れた顔で私のドレスを眺めていた。
私はゴシック調の真っ赤なドレスを選んだ。
薔薇の色に染まった鮮やかな赤は、どのドレスよりも大人っぽさを感じさせた。
レースは黒なのでまた引き締まって見える。
そして頭には薔薇を模った髪飾りを付けてもらった。
髪も軽く巻いてもらい、優雅さが増している。
まるで別人の様だった。
(ちょっとカトリナ様をイメージしてみたのよね。今日のお手本はあの人だから!)
「私、かなり大人っぽく見えるでしょ? びっくりした?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃない。今回は急遽決まった事で、別にドレスを選ぶ必要は無かったって事だ」
私はアイロスの言葉に驚き「そうなの!?」と思わず声を上げてしまった。
「もう着替え直す時間は無いからそのままでいい、行くぞ」
「それ、先に言ってよ!」
私はアイロスに手を引っ張られる様に部屋を出て、速足で廊下を歩いて行く。
だけど普段履きなれないヒールの靴だと足が縺れて、中々早く歩くことが出来ない。
「もっと早く歩けないのか?」
「む、無理です。この靴歩きにくくて、これ以上早く歩くときっとまた転んでしまいます」
私が困った顔で答えると、アイロスは溜息を漏らし「仕方ない」と呟いた。
「大人しくしてろよ」
「え? わっ!?」
突然アイロスに横向きに抱き上げられると、ふわっとした浮遊感にどきっとして、慌ててアイロスの首にしがみ付いた。
「落とされたく無ければ、そのまましっかりと俺にしがみ付いていろ」
「……っ、わかりました。でも私、重く無いですか?」
突然こんなことになってしまい戸惑ってはいたが、私は大人しくアイロスに従う事にした。
急いでいるこの状況ではこうするのが一番良いと、私も気付いていたからだ。
ここから出口までは相当な距離があるのは、来た時に実際歩いたから分かっている。
私のペースで歩いていれば、確実に間に合わなくなるだろう。
「この程度なら問題ない」
「そうですか」
(何でこんな事に!)
普段ドレスを着慣れていない私からすると、ドレスはとても優雅に見えて素敵だけど、人の手を借りて着替えなければならないというのが煩わしく思えてしまう。
たまになら良いが、頻繁にあるとそれだけで気疲れしてしまいそうだ。
「エミリー様、準備の方はこちらで終わりになります」
「ありがとうございます」
私は姿見に映る着飾った自分の姿を見ると心が弾んだ。
(確かに着るのは面倒だけど、ドレスって素敵ね。着る度に違う自分になれる気がするわ)
私ははしゃぐ様に一周くるっと回って鏡の中に映る自分の姿を眺めていた。
そんな時、鏡の奥に鋭い目つきで私を見るアイロスと目が合った気がして私は慌てて振り返った。
「おい、準備が出来たならさっさと行くぞ」
「は、はいっ! わっ!?」
私は慌てて走り出そうとすると、履きなれないヒールの靴のせいか、バランスが崩れそのまま倒れ込んでしまった。
「エミリー様、大丈夫ですか?」
傍に居た使用人達は慌てて私の事を起き上がらせてくれた。
「ご、ごめんなさい。なんとか大丈夫です」
私が苦笑しながら答えると、アイロスに腕を掴まれた。
「お前、なんでそんなドレスを選んだんだ?」
「だって、目立った方が良いかと思って」
アイロスは呆れた顔で私のドレスを眺めていた。
私はゴシック調の真っ赤なドレスを選んだ。
薔薇の色に染まった鮮やかな赤は、どのドレスよりも大人っぽさを感じさせた。
レースは黒なのでまた引き締まって見える。
そして頭には薔薇を模った髪飾りを付けてもらった。
髪も軽く巻いてもらい、優雅さが増している。
まるで別人の様だった。
(ちょっとカトリナ様をイメージしてみたのよね。今日のお手本はあの人だから!)
「私、かなり大人っぽく見えるでしょ? びっくりした?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃない。今回は急遽決まった事で、別にドレスを選ぶ必要は無かったって事だ」
私はアイロスの言葉に驚き「そうなの!?」と思わず声を上げてしまった。
「もう着替え直す時間は無いからそのままでいい、行くぞ」
「それ、先に言ってよ!」
私はアイロスに手を引っ張られる様に部屋を出て、速足で廊下を歩いて行く。
だけど普段履きなれないヒールの靴だと足が縺れて、中々早く歩くことが出来ない。
「もっと早く歩けないのか?」
「む、無理です。この靴歩きにくくて、これ以上早く歩くときっとまた転んでしまいます」
私が困った顔で答えると、アイロスは溜息を漏らし「仕方ない」と呟いた。
「大人しくしてろよ」
「え? わっ!?」
突然アイロスに横向きに抱き上げられると、ふわっとした浮遊感にどきっとして、慌ててアイロスの首にしがみ付いた。
「落とされたく無ければ、そのまましっかりと俺にしがみ付いていろ」
「……っ、わかりました。でも私、重く無いですか?」
突然こんなことになってしまい戸惑ってはいたが、私は大人しくアイロスに従う事にした。
急いでいるこの状況ではこうするのが一番良いと、私も気付いていたからだ。
ここから出口までは相当な距離があるのは、来た時に実際歩いたから分かっている。
私のペースで歩いていれば、確実に間に合わなくなるだろう。
「この程度なら問題ない」
「そうですか」
(何でこんな事に!)
44
お気に入りに追加
3,094
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる