王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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22.離宮へ

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 ドレスに着替え、ハイヒールの靴を履くと扉の方へ移動した。

(こんなに背の高い靴を履くのは初めてかも。素敵だけど、すごく歩きづらいわ)

 私が扉の前で立ち止まっていると、一緒にいたメイドが廊下へと続く扉を開いた。

「エミリー様、それでは後はアイロス様に全てお願いしてありますので」
「分かったわ、ありがとう」

 メイドに挨拶を終えると私は扉から廊下へと出た。
 廊下に出ると、扉の横に不機嫌そうな顔で立っているアイロスと視線が合った。
 私は突然視界に入って来たアイロスに驚いて、びくっと体を震わせてしまった。

(うわっ、いきなり横にいた。相変わらず今日もアイロスさんは不機嫌そうね)

「離宮に案内する、付いて来てくれ」
「……はい。今日からよろしくお願いします」

 アイロスは相変わらず不愛想で、私は愛想笑いを交えながら小さく挨拶をしたが、反応は返って来なかった。
 着慣れていないドレスに、ヒールの高い靴を履いているせいか、どうにも歩きづらい。
 アイロスは前だけを向いて歩いている為、私のペースには合わせてくれることも無く、どんどん私との距離が広がっていく。
 私は足元の方ばかり見て歩いていると、突然耳元で「おい」と低い声が響いてドキッとして顔を上げた。

「……っ!?」
「何で後ろに倒れようとするんだよ」

 顔を上げるとすぐ傍にアイロスがいて、私は驚いてバランスを崩し後ろに倒れそうになってしまう寸前でアイロスに背中を支えられた。
 しかもそのままアイロスに抱きしめられる様な格好になってしまい、私は驚いてアイロスの胸を押しやった。

「ご、ごめんなさいっ! 私、ドレスもこういう靴も慣れて無くて。どうも歩きづらくて。あ、はは……」

 私が笑って誤魔化そうとしているとアイロスは盛大にため息を漏らした。

(び、びっくりした!)

「そう言う事ならさっさと言えよ。気付いたらお前が着いて来ないから何かあったのかと」
「心配してくれたんですか? ありがとうございます」

「別にそういうわけじゃない。お前の世話をするのは仕事の内だからな」
「仕事……。なら、手を貸してくれませんか?」

「……?」
「私、このままだと離宮に着くまでにすごく時間がかかっちゃうと思うので。なら良いですよね?」

 私が強気に『仕事』を強調して答えると、アイロスは面倒臭そうな顔を見せるも「仕方ないな」と言って私に手を貸してくれた。

「ありがとうございますっ」
「さっさと行くぞ」

 私が笑顔で答えると、アイロスは表情を変えなかったものの、ゆっくりとした歩調で歩いてくれた。

(アイロスさんには仕事と言えばどうにかなりそうね! それに意外と優しいのかも?)



 ***


 アイロスのおかげでどうにか離宮へと辿り着くことが出来た。
 離宮は王宮から少し離れた所にあり、建物もとても立派で圧倒され、私はついぽかんとしてしまっていた。

 王宮に比べたら小さいが、貴族が住むような立派な屋敷で入り口には大きな庭が広がっている。
 生垣はしっかりと手入れが行き届いていて、奥には薔薇園が広がっている様だ。

(こんな庭園、憧れていたわ! すごいっ! 私こんな場所で半年も過ごせるなんて夢の様だわ!)

「何固まってるんだ? 行くぞ」
「あ、はい。すみませんっ。ここの庭ってすごい綺麗ですねっ! 天気が良い日に外でお茶とかしてみたいなぁ」

 私がぼそりと漏らすとアイロスは「したいのならすればいい」と小さく呟いた。
 私はその言葉に目を輝かせ、思わずアイロスの手をぎゅっと握ってしまった。

「外でお茶する事は出来るんですか? 」
「ああ。ここに居る間はお前の好きに出来る様、ザシャ様が計らってくれたからな」

「さすがザシャさん! 優しいなぁ。一人でお茶するのも寂しいのでアイロスさんもその際はご一緒してくださいねっ!」

 私が楽しそうに話していると、アイロスは一瞬面倒臭そうな顔を見せるも「分かった」と答えた。
 最初はアイロスが不愛想過ぎてとても付き合いづらいイメージがあったが、これが仕事だと言えばアイロスは嫌そうにはしているが従ってくれるし、どうにかなりそうな気がして来た。

「庭を少し見て行くか?」
「庭は今度にします。まずは私の部屋になる場所を見てみたいです」

 私が答えるとアイロスは「分かった」と短く答えて、離宮の奥へと私を案内してくれた。
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