王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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21.目覚めると…

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「エミリー様、起きてください」
「……ん」

 どこか遠くから声が響いてきた気がして、私はゆっくりと瞼を開いた。
 目を開けると、眩しい日差しが視界に入って来て、眩しそうに目を細めた。
 暫くすると目が慣れて来て、私を見下ろす様に見つめて来るメイドと視線があった。

「おはようございます、エミリー様。本日から離宮で過ごして頂く事になり、お部屋の準備が既に出来ております。お迎えの方が廊下でお待ちになられておりますので、エミリー様の準備が出来ましたら、お声掛けください」
「あ、あのっ」

 メイドは丁寧な口調で説明をしてくれた。
 私はまだどこか寝ぼけているのか、頭の奥がなんとなくぼーっとしている様だった。

「はい、どうされましたか?」
「えっと、ここは?」

「こちらはザシャ殿下の私室になります。昨晩エミリー様はこちらでお休みになられたのですが、覚えておりませんか?」
「ザシャ……っ!?」

 私はザシャの名前を聞いて全てを思い出し、それと同時に一気に目が冷めた。
 顔が火照る様に熱を持ち始めると、メイドは不思議そうに私の顔を眺めていた。

「もしかして、どこか体調が優れませんか? 昨日エミリー様はお風呂で上せられたと聞きました。ザシャ殿下から、体調が悪い様ならご無理をされない様と申し付かっておりますので、その場合はこちらでお休み頂いても構わないとのことですが」
「いえ、大丈夫ですっ! それよりザシャさ……、まは?」

 部屋の奥へと視線を巡らせるがザシャの姿はどこにもない。

「ザシャ殿下は夜までこちらの私室には戻って来られないと思います。本日はカトリナ・キストラー様とお過ごしになられることになっておりますので」
「え?」

「エミリー様はザシャ殿下から聞かれてませんか? 婚約者候補に選ばれた方々は、ザシャ殿下と順番に過ごして頂くことになるのですが、本日はカトリナ様で、明日はユリア・ノイマン様。そしてエミリー様は明後日になります」

 私はメイドの話を聞いて、なんとなく把握した。
 婚約者候補に選ばれた私を含めた三人は、この半年間ザシャと交流を深めていく事になる。
 週に一度、ザシャと共に過ごす日が設けられるらしい。

 離宮で過ごすのは恐らく私だけだ。
 他の二人は王都近くの屋敷で過ごしている為、婚約者候補が王宮に訪れるか、ザシャが迎えに行き何処かで過ごすことになるのだろう。
 私だけは王宮からかなり離れた場所に住んでいる事と、特殊な事情の為、周りにその目的を知られてはならないと言う理由から、離宮で過ごす事を約束させられたのだと思う。
 半年間、もしくはザシャの正式な婚約者が決まるまでは如何なる理由があろうと離宮からは離れられないと言う事だ。


「着替えはこちらに用意しております。エミリー様のサイズに合う服を昨日取り急ぎ用意させて頂きましたが、急だった為既製品になります。数日中に仕立て屋がエミリー様の離宮に訪れる事になっておりますので、それまではこちらで用意したものを着て頂くことになります。ご希望等ありましたら、傍付きのアイロス様にお申し付けください」
「…………」

 私はその名を聞いて、顔から表情が消えた。

(ああ、アイロスさんね。すっかり忘れていたけど、やっぱり私の傍付きはあの人なのね)

「エミリー様?」
「いえ、なんでもありません。あの、もしかして外で待ってる迎えの者って」

「はい、アイロス様になりますが」

 私はその言葉を聞いて「ははっ」と乾いた笑いを漏らした。

(やっぱりそうなのね。私がぐずぐずしていたらきっとまた文句を言われてしまうわ)

「あの、すいません。私の荷物は?」
「お持ち頂いた物は、既に離宮にあるエミリー様のお部屋に届けてあります」

 私はメイドが用意してくれた服に視線を向けた。
 そこに置かれていたのは淡い緑色のドレスだった。

(王宮だから普段もドレスなのかな。少し堅苦しいけど仕方ないわね)

「着替えの方、お手伝いいたします」
「ありがとうございますっ」

「そういえば私が来ていたドレスは?」
「あちらは少し傷んでいたので、補修の為お預かりさせて頂いております。終わりましたら、エミリー様のお部屋にお持ち致します」

 私はその言葉を聞いて少しほっとした。
 見た目はかなり古臭いが、あれは祖母の遺品だ。
 もう着たいとは思わないが、勝手に捨てられていたらどうしようかと少し不安だった。

 私はその後メイドに手伝ってもらい、用意してもらったドレスに袖を通した。
 着てみるとサイズはぴったりで、そこまで派手さは無いが可憐さを感じさせられるドレスだった。

(私が着ていたのと全然違うわ! 素敵ね。やっぱりドレスってこういうものよね)

 私はなんだか嬉しくなり、鏡の前でクルクル回ってはしゃぐ様に鏡に映る自分を見つめていた。

「お気に召して頂けたみたいで良かったです。王宮内ですのでドレスを着用して頂きましたが、離宮で過ごされる際にはもう少し楽な服装も可能ですので、ご希望があればアイロス様にお伝えください」
「ありがとう」

 アイロスの名前を聞く度に、私は苦々しい表情を浮かべてしまう。

「では、ご準備が宜しければ」
「大丈夫です」
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