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16.口移し
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私は部屋の奥にある浴場にいた。
ザシャは夕食を済ませると少し用事があるとかで、部屋を出ていて今はいない。
やっと一人になれたと、ほっとしながら私は浴槽に浸かっていた。
お湯の上でぴちゃぴちゃと指を遊ばせながら私は考え事をしていた。
考え事と言うのは、他でもないザシャの事だ。
(どうしよう。さっき言ってた事って本当なのかな。そうだったら困る……)
私は鼻っからザシャが本気で言ってるとは信じていない。
初恋の話は分からないが、私が寝てる時に漏らしたザシャの言葉を思い出していた。
『エミリーはエリーザではないのに』
私は元婚約者に似ているのだろうか?
だから私をエリーザに重ねて、そう言ったのだろうか。
もしそうだとしても、私は構わないと思っている。
似ているから選んでくれて、契約をしてもらうことが出来た。
家を建て直すチャンスを与えてもらったのだから、喜ばしい事だ。
期間は半年だけだし、ザシャが望むのなら、エリーザの代わりになっても構わないとも思っていた。
私はそれだけの報酬をもらえるのだから。
私が動揺しているのはその件ではなかった。
ザシャは本気で言っているのか冗談なのか分からない所がある。
今日一緒のベッドで寝ると言われたことだ。
ザシャの部屋のベッドはキングサイズのとても大きなベッドだから、二人で並んで寝てもゆったり眠れそうだ。
だけどザシャは抱きしめながらと言っていた。
それは冗談で言ったのか、どうなのか分からなくて私はさっきから動揺している。
(冗談よね。うん、そうよね。私ってこういう事に慣れてないから素直に受け止めてしまって駄目ね。こんな態度を取っていたら、またからかわれてしまうだけよ!)
私はそんな事を考えていると長湯し過ぎてしまい、顔が火照り頭の奥がなんだかぼーっとしていた。
(そろそろ出ないと……)
そう思い浴槽の淵に手を付こうとするが、何故だか力が入らない。
そして頭もなんだかクラクラして来た。
(やばっ、本当に早く出なきゃ……)
頭の中でそう思っていても、体は思うように動かない。
私は焦りを感じながらも、意識が遠のいて行くのを感じていた。
***
体の怠さを感じながら、ゆっくりと目を開いた。
部屋の中は少し薄暗くて、心地よい風が先程から顔に当たり、なんだかとても心地が良い。
「エミリー、目を覚ましたようだな」
「え? ザシャ、さん?」
私がゆっくりと目を開けると、私を見下ろす様に優しい表情のザシャの姿があった。
「私が戻ったら、エミリーの姿がなくて慌てたよ。浴槽の中でぐったりしながら意識を失っていたから急いで運び出したけど、気付くのが遅くなってしまってごめんな」
「え? 浴槽で? ……あ、そういえば長湯し過ぎてのぼせてしまったのかも」
「ああ、その様だな。一応医者も呼んで見てもらったが、大したことはないそうだ。水分は取った方が良いと言っていたから、水は用意しておいたけど起き上がれるか?」
「ご迷惑かけてしまいごめんなさい。今、起きますね、……っ」
起き上がろうとすると、体が重くて力が入らない。
それにちょっと頭を揺らそうとすると頭の奥がガンガンして、私は表情を歪めた。
そんな私の態度を見ていたザシャは「無理そうだな」と小さく答えた。
こんなことになってしまい、ザシャに迷惑を掛けてしまった事に、申し訳なさで胸がいっぱいになった。
先程からずっと心地良く感じている風は、ザシャが扇子で仰いでくれている事に気付いた。
(ザシャさんはずっと私の傍に付いていてくれたの?)
「エミリー、無理に起きなくていいよ。水は私が飲ませてあげるよ。だから口を開けて?」
「……はい」
ザシャはベッドの横に置かれていた机の上から水差しを取ると、コップに水を注いだ。
そしてそれを何故か自分の口の中に流し込むと、私の方へと近づいて来た。
私はのぼせて赤くなった顔で、近づいて来るザシャの顔をドキドキしながら見つめていた。
「……ん」
温かくて柔らかいものが唇に触れたかと思うと、口の中に水が入って来る。
しかもちゃんと流し込めるようになのか、ザシャの熱くなった舌が私の咥内へと入って来る。
時折、舌同士がぶつかり擦れる瞬間、ざらざらした感触にぞくっと体が震えた。
ごくんと喉を鳴らして水を飲み込むと、からからだった喉の奥が潤っていく。
「エミリー、いい子だな。このままもう少し飲めそうか?」
「……はい」
こんなことされて恥ずかしいけど、喉はまだ水を欲していた。
これは私が自分で水を飲めないから、ザシャが飲ませてくれてる、ただそれだけのことだと自分に言い聞かせた。
私が頷くとザシャは「わかった」と言って再び水を含むと、私に飲ませてくれた。
「エミリー、また口を開けて待ってて」
「……はい」
私が小さく口を開けて待ってると、ザシャは微笑ましそうな表情で私を眺めていた。
「なんですか?」
「いや、口を開けて待ってるエミリーがとても愛らしく思えてね」
突然そんなことを言われて、私は恥ずかしくなり顔の奥が、かっと熱くなった。
「か、からかわないでくださいっ。水が欲しいだけですっ」
「そうだったな。待たせてごめんな。それじゃ、もう一回口を開けて」
私が慌てて言い返すと、ザシャは楽しそうに答えた。
(別にキスして欲しいからじゃないわっ! 喉が渇いているのよ……)
そんな事を考えていると、ザシャの顔が再び近づいていた。
唇に触れるまでの間、視線が絡み胸の奥がバクバクと激しく鳴っていた。
そして暫くすると唇が重なり、ザシャの舌と共に水が私の咥内へと流れ込んで来る。
「もっとって顔をしているな」
「……っ、喉が渇いているんですっ」
唇が剥がれて行くと、つい名残惜しそうな顔をしてしまっているのをザシャに見られてしまい、私は恥ずかしくなり慌てる様に誤魔化した。
「水はまだ沢山残ってる。エミリーが飲みたいだけ飲ませてあげるよ」
ザシャは夕食を済ませると少し用事があるとかで、部屋を出ていて今はいない。
やっと一人になれたと、ほっとしながら私は浴槽に浸かっていた。
お湯の上でぴちゃぴちゃと指を遊ばせながら私は考え事をしていた。
考え事と言うのは、他でもないザシャの事だ。
(どうしよう。さっき言ってた事って本当なのかな。そうだったら困る……)
私は鼻っからザシャが本気で言ってるとは信じていない。
初恋の話は分からないが、私が寝てる時に漏らしたザシャの言葉を思い出していた。
『エミリーはエリーザではないのに』
私は元婚約者に似ているのだろうか?
だから私をエリーザに重ねて、そう言ったのだろうか。
もしそうだとしても、私は構わないと思っている。
似ているから選んでくれて、契約をしてもらうことが出来た。
家を建て直すチャンスを与えてもらったのだから、喜ばしい事だ。
期間は半年だけだし、ザシャが望むのなら、エリーザの代わりになっても構わないとも思っていた。
私はそれだけの報酬をもらえるのだから。
私が動揺しているのはその件ではなかった。
ザシャは本気で言っているのか冗談なのか分からない所がある。
今日一緒のベッドで寝ると言われたことだ。
ザシャの部屋のベッドはキングサイズのとても大きなベッドだから、二人で並んで寝てもゆったり眠れそうだ。
だけどザシャは抱きしめながらと言っていた。
それは冗談で言ったのか、どうなのか分からなくて私はさっきから動揺している。
(冗談よね。うん、そうよね。私ってこういう事に慣れてないから素直に受け止めてしまって駄目ね。こんな態度を取っていたら、またからかわれてしまうだけよ!)
私はそんな事を考えていると長湯し過ぎてしまい、顔が火照り頭の奥がなんだかぼーっとしていた。
(そろそろ出ないと……)
そう思い浴槽の淵に手を付こうとするが、何故だか力が入らない。
そして頭もなんだかクラクラして来た。
(やばっ、本当に早く出なきゃ……)
頭の中でそう思っていても、体は思うように動かない。
私は焦りを感じながらも、意識が遠のいて行くのを感じていた。
***
体の怠さを感じながら、ゆっくりと目を開いた。
部屋の中は少し薄暗くて、心地よい風が先程から顔に当たり、なんだかとても心地が良い。
「エミリー、目を覚ましたようだな」
「え? ザシャ、さん?」
私がゆっくりと目を開けると、私を見下ろす様に優しい表情のザシャの姿があった。
「私が戻ったら、エミリーの姿がなくて慌てたよ。浴槽の中でぐったりしながら意識を失っていたから急いで運び出したけど、気付くのが遅くなってしまってごめんな」
「え? 浴槽で? ……あ、そういえば長湯し過ぎてのぼせてしまったのかも」
「ああ、その様だな。一応医者も呼んで見てもらったが、大したことはないそうだ。水分は取った方が良いと言っていたから、水は用意しておいたけど起き上がれるか?」
「ご迷惑かけてしまいごめんなさい。今、起きますね、……っ」
起き上がろうとすると、体が重くて力が入らない。
それにちょっと頭を揺らそうとすると頭の奥がガンガンして、私は表情を歪めた。
そんな私の態度を見ていたザシャは「無理そうだな」と小さく答えた。
こんなことになってしまい、ザシャに迷惑を掛けてしまった事に、申し訳なさで胸がいっぱいになった。
先程からずっと心地良く感じている風は、ザシャが扇子で仰いでくれている事に気付いた。
(ザシャさんはずっと私の傍に付いていてくれたの?)
「エミリー、無理に起きなくていいよ。水は私が飲ませてあげるよ。だから口を開けて?」
「……はい」
ザシャはベッドの横に置かれていた机の上から水差しを取ると、コップに水を注いだ。
そしてそれを何故か自分の口の中に流し込むと、私の方へと近づいて来た。
私はのぼせて赤くなった顔で、近づいて来るザシャの顔をドキドキしながら見つめていた。
「……ん」
温かくて柔らかいものが唇に触れたかと思うと、口の中に水が入って来る。
しかもちゃんと流し込めるようになのか、ザシャの熱くなった舌が私の咥内へと入って来る。
時折、舌同士がぶつかり擦れる瞬間、ざらざらした感触にぞくっと体が震えた。
ごくんと喉を鳴らして水を飲み込むと、からからだった喉の奥が潤っていく。
「エミリー、いい子だな。このままもう少し飲めそうか?」
「……はい」
こんなことされて恥ずかしいけど、喉はまだ水を欲していた。
これは私が自分で水を飲めないから、ザシャが飲ませてくれてる、ただそれだけのことだと自分に言い聞かせた。
私が頷くとザシャは「わかった」と言って再び水を含むと、私に飲ませてくれた。
「エミリー、また口を開けて待ってて」
「……はい」
私が小さく口を開けて待ってると、ザシャは微笑ましそうな表情で私を眺めていた。
「なんですか?」
「いや、口を開けて待ってるエミリーがとても愛らしく思えてね」
突然そんなことを言われて、私は恥ずかしくなり顔の奥が、かっと熱くなった。
「か、からかわないでくださいっ。水が欲しいだけですっ」
「そうだったな。待たせてごめんな。それじゃ、もう一回口を開けて」
私が慌てて言い返すと、ザシャは楽しそうに答えた。
(別にキスして欲しいからじゃないわっ! 喉が渇いているのよ……)
そんな事を考えていると、ザシャの顔が再び近づいていた。
唇に触れるまでの間、視線が絡み胸の奥がバクバクと激しく鳴っていた。
そして暫くすると唇が重なり、ザシャの舌と共に水が私の咥内へと流れ込んで来る。
「もっとって顔をしているな」
「……っ、喉が渇いているんですっ」
唇が剥がれて行くと、つい名残惜しそうな顔をしてしまっているのをザシャに見られてしまい、私は恥ずかしくなり慌てる様に誤魔化した。
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