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15.初恋の人
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「エミリーは抵抗しないの?」
「え? あ、忘れてました」
ザシャのその言葉でハッと我に返ると、私は動揺し始めた。
そんな様子を見ていたザシャはおかしそうに笑っていた。
「エミリーは本当に面白い反応をするな。私が何も言わなかったら、このままキスされていたかもしれないね」
「もう、からかわないでくださいっ!」
私はからかわれたと思うと恥ずかしくなり、顔を傾けザシャから視線を逸らした。
(ザシャさんってやっぱり意地悪な人なんだ。もう騙されないわっ!)
「エミリー、怒ったのか?」
「……怒ってません」
私は視線を外したまま静かに答えた。
怒っていると言うよりは、動揺している姿を見られて恥ずかしいだけだった。
出来ればもうこの話は早く終わらせて欲しいと内心思っていた。
私は今まで異性とこんなに近距離で接する事は殆どなかったのだから当然だろう。
だから突然そんな場面に遭遇しても、どう反応していいのか良く分からないし、耐性もない為あんな反応になってしまう。
「本当に君は面白いね。だから私は惹かれたのかもしれないな」
「惹かれた?」
「私の初恋はフォリーだからね」
「は? うそ、ですよね?」
「嘘じゃない、本当だ。フォリーというより、君は無邪気に笑っていつも楽しそうにしている所とか、失敗してもそれを認めず前向きに考える所とか。私にはそんな姿がとてもキラキラ輝いて見えたんだ。私は幼い頃から王子と言うしがらみに囚われて育って来たから、自分に素直に生きてる君が羨ましかったんだろうな。最初は君と話す事に戸惑ってはいたけど、気付いたら心の底から笑ってる自分がいたんだ。だからあの三日間は私にとっては本当に大切な思い出だ。今でもね」
ザシャは優しい表情をしながら、どこか楽しそうに話していた。
私はザシャにそんな風に思われていたなんて全く気付かなかった。
だからそんな話をされると嬉しい反面、恥ずかしいとも思ってしまう。
「エミリーがフォリーだと分かって『ああ、そういうことだったんだな』ってすぐに受け入れられたよ。なんでか分かる?」
「……わかりません」
「幼い頃に出会ったフォリーと、今の君は何も変わっていなかったからだよ。君は今でも感情のままに表情をころころ変えて、言いたい事も素直に答えるだろう? 私が王太子だと分かった後も、ね」
「も、申し訳ありません。私こういう事には慣れて無くて。貴族社会も良く分かってないから」
私が戸惑っているとザシャは優しく微笑み「責めてるわけじゃない」と答えた。
ザシャの言葉に私の胸はバクバクと激しく鳴っていて、落ち着ける為に私は胸に手を当てた。
だけど全然収まる気配はない様だ。
(ザシャさんの初恋が私? 信じられないわ)
「エミリーが私の婚約者になってくれたら、きっと毎日が楽しくなりそうだな」
「む、無理です。私は仮の婚約者候補です」
「そうだな。今はね」
「え?」
ザシャは含ませた言い方をすると、私の頬に手を添えて真直ぐに見つめて来た。
あんな話を聞いた直後だったこともあり、私は更にドキドキしてしまう。
「本気でエミリーが欲しくなったと言ったら、エミリーは私を受け入れてくれるか?」
「……無理です」
「どうして?」
「……私には家を継ぐと言う大事な目的があるからですっ! 今回の契約できっと家は持ち直せる。そうなれば後継者が必要になる。私の姉は恋人である伯爵家に嫁ぐそうなので、そうなると私しか継げる者はいなくなるんですっ! だから、そんなことを言われても困ります」
今回の契約は家を建て直すという目的の為に、受け入れたものだ。
ザシャには悪いが、ただの気まぐれに付き合う事は私には出来ないと思った。
「ぷっ、エミリーは相変わらず素直に言うな。私は君の家に負けたと言う事か」
「……ごめんなさいっ」
突然ザシャは笑い出し、断ったはずなのに楽しそうに見えた。
「謝らなくていいよ。そうだな。振られて寂しいから今日はエミリーを抱きしめながら眠らせてもらおうかな。折角同じベッドで寝るのだし、ね」
「……!?」
ザシャは悪戯に笑うと、私の額にそっと口付けた。
何度されても私は同じ反応をしてしまう様だ。
そんな私の姿をザシャは満足そうに眺めていた。
(ザシャさんは、元婚約者さんのことを忘れられなかったんじゃなかったの?)
「え? あ、忘れてました」
ザシャのその言葉でハッと我に返ると、私は動揺し始めた。
そんな様子を見ていたザシャはおかしそうに笑っていた。
「エミリーは本当に面白い反応をするな。私が何も言わなかったら、このままキスされていたかもしれないね」
「もう、からかわないでくださいっ!」
私はからかわれたと思うと恥ずかしくなり、顔を傾けザシャから視線を逸らした。
(ザシャさんってやっぱり意地悪な人なんだ。もう騙されないわっ!)
「エミリー、怒ったのか?」
「……怒ってません」
私は視線を外したまま静かに答えた。
怒っていると言うよりは、動揺している姿を見られて恥ずかしいだけだった。
出来ればもうこの話は早く終わらせて欲しいと内心思っていた。
私は今まで異性とこんなに近距離で接する事は殆どなかったのだから当然だろう。
だから突然そんな場面に遭遇しても、どう反応していいのか良く分からないし、耐性もない為あんな反応になってしまう。
「本当に君は面白いね。だから私は惹かれたのかもしれないな」
「惹かれた?」
「私の初恋はフォリーだからね」
「は? うそ、ですよね?」
「嘘じゃない、本当だ。フォリーというより、君は無邪気に笑っていつも楽しそうにしている所とか、失敗してもそれを認めず前向きに考える所とか。私にはそんな姿がとてもキラキラ輝いて見えたんだ。私は幼い頃から王子と言うしがらみに囚われて育って来たから、自分に素直に生きてる君が羨ましかったんだろうな。最初は君と話す事に戸惑ってはいたけど、気付いたら心の底から笑ってる自分がいたんだ。だからあの三日間は私にとっては本当に大切な思い出だ。今でもね」
ザシャは優しい表情をしながら、どこか楽しそうに話していた。
私はザシャにそんな風に思われていたなんて全く気付かなかった。
だからそんな話をされると嬉しい反面、恥ずかしいとも思ってしまう。
「エミリーがフォリーだと分かって『ああ、そういうことだったんだな』ってすぐに受け入れられたよ。なんでか分かる?」
「……わかりません」
「幼い頃に出会ったフォリーと、今の君は何も変わっていなかったからだよ。君は今でも感情のままに表情をころころ変えて、言いたい事も素直に答えるだろう? 私が王太子だと分かった後も、ね」
「も、申し訳ありません。私こういう事には慣れて無くて。貴族社会も良く分かってないから」
私が戸惑っているとザシャは優しく微笑み「責めてるわけじゃない」と答えた。
ザシャの言葉に私の胸はバクバクと激しく鳴っていて、落ち着ける為に私は胸に手を当てた。
だけど全然収まる気配はない様だ。
(ザシャさんの初恋が私? 信じられないわ)
「エミリーが私の婚約者になってくれたら、きっと毎日が楽しくなりそうだな」
「む、無理です。私は仮の婚約者候補です」
「そうだな。今はね」
「え?」
ザシャは含ませた言い方をすると、私の頬に手を添えて真直ぐに見つめて来た。
あんな話を聞いた直後だったこともあり、私は更にドキドキしてしまう。
「本気でエミリーが欲しくなったと言ったら、エミリーは私を受け入れてくれるか?」
「……無理です」
「どうして?」
「……私には家を継ぐと言う大事な目的があるからですっ! 今回の契約できっと家は持ち直せる。そうなれば後継者が必要になる。私の姉は恋人である伯爵家に嫁ぐそうなので、そうなると私しか継げる者はいなくなるんですっ! だから、そんなことを言われても困ります」
今回の契約は家を建て直すという目的の為に、受け入れたものだ。
ザシャには悪いが、ただの気まぐれに付き合う事は私には出来ないと思った。
「ぷっ、エミリーは相変わらず素直に言うな。私は君の家に負けたと言う事か」
「……ごめんなさいっ」
突然ザシャは笑い出し、断ったはずなのに楽しそうに見えた。
「謝らなくていいよ。そうだな。振られて寂しいから今日はエミリーを抱きしめながら眠らせてもらおうかな。折角同じベッドで寝るのだし、ね」
「……!?」
ザシャは悪戯に笑うと、私の額にそっと口付けた。
何度されても私は同じ反応をしてしまう様だ。
そんな私の姿をザシャは満足そうに眺めていた。
(ザシャさんは、元婚約者さんのことを忘れられなかったんじゃなかったの?)
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