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14.幼い頃の思い出

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 私が慌てて起き上がろうとすると、ザシャに「無理に起きなくても大丈夫だよ」と言われた。
 ザシャはベッドの端に腰掛け、私の髪を柔らかく撫でながら見下ろしていた。
 おかげで起きたくても起きられない様な状態だった。
 目覚めたらこんな事になっていて、私はただ動揺していた。

(この展開は一体何なの!?)

 私の胸の鼓動はバクバクと激しく鳴っていて、先程から見下ろす様に見つめて来るザシャから視線が離せないでいる。
 私の頬はほんのりと赤く染まっていた。

「綺麗な色だな」

 ザシャは私の首元にあるペンダントに視線を向けた。

「これ、お母様から借りて来たんです。綺麗ですよね」
「琥珀か、珍しいな。少し見てもいい?」

 ザシャはそれに興味を示した様で、私は小さく頷いた。
 するとザシャはそのペンダントを手に取り、中をじっくりと眺めていた。

「ザシャ様は、琥珀に興味があるんですか?」
「いや、琥珀を見るのは久々だったからね。エミリーに良く似合っているよ」

 ザシャは穏やかな口調で呟くと、ペンダントを私の首元へと戻した。
 そんな事を言われるとなんだか照れてしまう。
 私は恥ずかしくなり思わず視線を逸らしてしまった。

「エミリーは、私と何処かであった事はないかな?」
「昨日以外では無いですね。ずっとレイル、私が住んでいる町からは出たことが無いから」

「東の外れの町と言っていたね」
「はい、皆がのんびりと暮らしている様な小さな田舎町です。近くには妖精の森っていうのがあるんですよ。妖精が住んでるって伝説があって」

 妖精の森というのは私が住んでるレイルから南に進んだ所にある。
 その森には数々の伝説があり、一部の者達からは聖地と呼ばれている。

「妖精の森? もしかして、その森の中には湖はなかった? 水の中が光って見える様な」
「あ、ありますよっ! 水中に光る水草が生えているんです。期間は限られいるんですけど、夜になると紫色に光るんです。すごく幻想的で綺麗なんですよ!」

 私は夢中になって話してしまっていたが、どうしてそれをザシャは知っているんだろうと不思議に思っていた。

「ザシャ様も妖精の森をご存知なんですか?」
「幼い頃に本で読んだ妖精の森が本当かどうか知りたくて、無理を言って連れて行ってもらったことがあるんだ。当時の私はまだ幼かったから護衛と共に入ったんだけど、森の中で綺麗な蝶を見つけて、その時の私にはそれが妖精の様に見えたんだろうな。気付けば夢中で追いかけていた。その所為で護衛達とはぐれてしまったんだ。初めて入った森の中で一人になり心細くて仕方が無かった。だけどそんな時、変な妖精に出会ったんだ」

「変な妖精?」
「私よりも少し小さい女の子だったかな。彼女は自分の事を妖精だと言ってなりきっていたよ。この森の見張りをしているとかで、星形のステッキのような物を持っていて。偶然会った彼女に森の秘密を色々と教えてもらったんだ。光る湖もその中の一つだったな」

 ザシャは昔を思い出す様に楽しそうに話していた。

(それって……)

「あの、その妖精ってもしかしてフォリーと名乗っていませんでしたか?」
「フォリー……。ああ、そう言えばそんな名前だったな」

 私はザシャの言葉を聞いて思わず苦笑した。

「それ、多分私です。町から少し離れた所が妖精の森で、昔そこで良く遊んでいたので」

 子供の時だったとは言え、変な遊びをしていたことがザシャに知られてしまいなんだか恥ずかしくなってしまった。
 ザシャはその話を聞いて驚いた顔をしていた。

「……やっぱり、どこかで会ったことがあると思っていたのは間違いでは無かったんだな。だけどあの時の子がエミリーだったなんて驚いたよ」

(私も驚きました)

「エミリーはフォリーだったのか。そうか……。それで何となく分かった気がするよ」
「え?」

 ザシャは一人で納得する様にぼそりと呟いた。

「フォリーと過ごした三日間は私にとっては大切な思い出だ。本当に楽しかったんだ。いつかまた会いに行こうと思っていたんだ。だけど年齢を重ねる毎に自由の時間も奪われていって、いつも何かに追われるような毎日を送っているうちに大切な思い出すら忘れてしまっていた様だ。こんな形でまた再会出来るなんて思ってもみなかったよ」
「ザシャ様にそう言って貰えて嬉しいです。私には良くは分からないけど、王太子様ってなんだか大変なんですね」

「エミリー、前は三日間と短かったけど今回は半年の間傍にいられるな。これから色々とよろしくな」

 ザシャは優しく微笑むと、私の額にそっと口付けた。
 そんなことをされると、耐性の無い私はすぐに顔が真っ赤に染まっていく。

「ふふっ、本当にエミリーは初心で可愛い反応をするね」
「……っ! ふざけないでくださいっ」

 ザシャは楽しそうに微笑みながら、私を見下ろしていた。
 私はむっとした顔でザシャを軽く睨んだ。

「そんな可愛い顔で睨んでもちっとも怖くないよ。寧ろ、もっといじめたくなるな」

 ザシャは口端を上げて不敵な笑みを見せると、私の唇を指でなぞった。
 その時のザシャの表情はとても色っぽく見えて、私は抵抗する事も忘れ、ただ激しい胸の鼓動を感じながら、魅入られる様にその顔を眺めていた。
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