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9.失礼な人
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「面倒な言い訳は要らない。お前は俺に付いてくればいいだけだ」
「……っ!」
言い返そうとする前に釘を刺されてしまい、私は言葉に詰まってしまった。
「一体どこに連れて行くつもりですか? ま、まさか牢ご……」
「安心しろ。お前が大人しく従いさえすれば、酷い事はするつもりはない」
その言葉を聞いてほっとするも、間違いなく脅されてる気がする。
そんなことを考えていると化粧室の前へと辿り着いた。
「俺はここで待ってる。くれぐれも逃げるなんて変な考えは起こすなよ? 余計な手間をかけさせられるのは面倒だからな」
「に、逃げませんよっ! 貴方、どこまででも追いかけて来そうで怖いし」
アイロスは目を細めて軽く睨んで来たので、私は慌てて答えるとそのまま化粧室の中へと入っていった。
***
「一体なんなの? 私に用って何だろう」
私は化粧室の手洗い場の前に立ち、少し考えていると鏡に映る自分の姿に気付いてはっとした。
色々あった事ですっかり忘れていたけど、この姿を見るとなんだか無性に残念な気持ちになってしまう。
早く帰りたいのに、アイロスに呼び止められるなんて最悪だ。
戻りたくないと思いながらも、いつまでもここに居ても仕方が無いと諦め、渋々化粧室から出た。
「お前、もっとマシなドレスは無かったのか?」
「……っ! 古臭いって言いたいんでしょ? 分かっているわ、そんなこと。私の家はドレスが買えない程貧乏なのよ!」
アイロスの心無い言葉にカチンと来て、私は思わず文句を言ってしまった。
(私、やっぱりこの人苦手だ)
「別にそこまでは言ってない。貧乏なのか?」
「……そうよ、貧乏よ。悪い?」
「いや、別に。それより行こう、ザシャ様が待ってる」
「ちょっと待って」
私が引き留めるとアイロスは眉間に皺を寄せ「なんだ?」と聞き返して来た。
「ザシャさ、様って王太子様だったのよね?」
「ああ、そうだが」
「一体私に何の用があるって言うの? 昨日は知らなかったの。ザシャ様が王太子様だなんて。だから、知らなくて失礼な事を沢山言ってしまって」
「ああ、相当失礼な事を言っていたよな」
もしかして、その事が原因で呼ばれたのだろうか。
そう思うと私の顔はさーっと青ざめて行く。
「とにかく来い。言いたい事があるなら本人に直接伝えればいい」
「無理ですっ、私帰りますっ!」
「は? 帰すわけ無いだろう? 俺はザシャ様の命令でお前を連れてくるように言われたんだからな」
アイロスは大袈裟にため息を漏らすと、再び私の手首を掴んで歩き出した。
一体ザシャは何の為に私の事を呼んだのか、全く見当が付かなかった。
不安だけが募っていき、私は半泣き状態になっていた。
(もうやだ、帰りたい……)
***
アイロスに手首を捕まれ、引っ張られる様に連れて来られたのは応接間の様な部屋だった。
「ここは?」
私は部屋内に視線を巡らせ辺りを見渡していた。
中央には大きなテーブルと、ソファーが置かれている。
王宮だけあって、置かれている家具はどれも高価そうだ。
「客間だ、お前はそこで少し座って待っていろ。ザシャ様を呼んで来る」
「……はい」
そう言われて、私はソファーの上に腰掛けるとアイロスと視線が合った。
「くれぐれも逃げるなんて考えるなよ」
「しませんっ!」
念を押す様にアイロスはそう言うと、部屋を出て行った。
(なんなの、あの人! 本当に嫌な人ね)
思い返せばアイロスは始終私の事を睨んでいたように思える。
嫌われていることは昨日会った時から感じていたが、あんなにもあからさまに態度に出す事は無いのに。
(それよりもザシャさんが私を呼んだ理由が分からないわ)
待っている間、不安と緊張で額からは変な汗が流れて来た。
ザシャは中々現れず嫌な事ばかり考えてしまうせいか、その時間はとても長く感じられていた。
そんな時扉が開いた。
私は扉の方に視線を向けると、白い服を身に纏ったザシャの姿が視界に入って来て、私は慌てて席を立った。
「エミリー、待たせてしまってすまないな」
「いえ、大丈夫です」
ザシャは優しい表情を浮かべながら私に挨拶をしてきた。
それは昨日会った時と同じ表情をしていたので内心ほっとはしたものの、私の心臓はバクバクと鳴り響いていた。
「急に呼んで驚かせてしまったかな? ごめんね。本当は個別挨拶の時にエミリーが来たら伝えようと思っていたんだけど、来なかったからね。アイロスに頼んで呼びに行ってもらったんだ」
「そう、だったんですね。申し訳ありませんっ!」
私は慌てる様に深く頭を下げて謝った。
「エミリー? どうして謝るの?」
「私、ザシャさんが王太子様だなんて知らなくて。失礼な事を沢山言ってしまいました。それに事情があって今日は姉の代理で……」
「昨日エミリーと会った時から気付いていたよ。それに失礼な事だとも思ってないから気にしなくていい。本音で話してくれるエミリーと話しているのは楽しかったからね。代理で来たことも別に責める気は無いよ。だから何も気にする必要はないからね」
「それなら、どうして私を呼んだんですか?」
私はその言葉を聞いてほっとしたが、不思議そうに聞き返すとザシャに座る様に促されたので、私は再びソファーへと腰掛けた。
ザシャは対面する様に私とは反対側の席へと座った。
「呼んだ理由はね、エミリーにお願いしたい事があるんだ」
「……っ!」
言い返そうとする前に釘を刺されてしまい、私は言葉に詰まってしまった。
「一体どこに連れて行くつもりですか? ま、まさか牢ご……」
「安心しろ。お前が大人しく従いさえすれば、酷い事はするつもりはない」
その言葉を聞いてほっとするも、間違いなく脅されてる気がする。
そんなことを考えていると化粧室の前へと辿り着いた。
「俺はここで待ってる。くれぐれも逃げるなんて変な考えは起こすなよ? 余計な手間をかけさせられるのは面倒だからな」
「に、逃げませんよっ! 貴方、どこまででも追いかけて来そうで怖いし」
アイロスは目を細めて軽く睨んで来たので、私は慌てて答えるとそのまま化粧室の中へと入っていった。
***
「一体なんなの? 私に用って何だろう」
私は化粧室の手洗い場の前に立ち、少し考えていると鏡に映る自分の姿に気付いてはっとした。
色々あった事ですっかり忘れていたけど、この姿を見るとなんだか無性に残念な気持ちになってしまう。
早く帰りたいのに、アイロスに呼び止められるなんて最悪だ。
戻りたくないと思いながらも、いつまでもここに居ても仕方が無いと諦め、渋々化粧室から出た。
「お前、もっとマシなドレスは無かったのか?」
「……っ! 古臭いって言いたいんでしょ? 分かっているわ、そんなこと。私の家はドレスが買えない程貧乏なのよ!」
アイロスの心無い言葉にカチンと来て、私は思わず文句を言ってしまった。
(私、やっぱりこの人苦手だ)
「別にそこまでは言ってない。貧乏なのか?」
「……そうよ、貧乏よ。悪い?」
「いや、別に。それより行こう、ザシャ様が待ってる」
「ちょっと待って」
私が引き留めるとアイロスは眉間に皺を寄せ「なんだ?」と聞き返して来た。
「ザシャさ、様って王太子様だったのよね?」
「ああ、そうだが」
「一体私に何の用があるって言うの? 昨日は知らなかったの。ザシャ様が王太子様だなんて。だから、知らなくて失礼な事を沢山言ってしまって」
「ああ、相当失礼な事を言っていたよな」
もしかして、その事が原因で呼ばれたのだろうか。
そう思うと私の顔はさーっと青ざめて行く。
「とにかく来い。言いたい事があるなら本人に直接伝えればいい」
「無理ですっ、私帰りますっ!」
「は? 帰すわけ無いだろう? 俺はザシャ様の命令でお前を連れてくるように言われたんだからな」
アイロスは大袈裟にため息を漏らすと、再び私の手首を掴んで歩き出した。
一体ザシャは何の為に私の事を呼んだのか、全く見当が付かなかった。
不安だけが募っていき、私は半泣き状態になっていた。
(もうやだ、帰りたい……)
***
アイロスに手首を捕まれ、引っ張られる様に連れて来られたのは応接間の様な部屋だった。
「ここは?」
私は部屋内に視線を巡らせ辺りを見渡していた。
中央には大きなテーブルと、ソファーが置かれている。
王宮だけあって、置かれている家具はどれも高価そうだ。
「客間だ、お前はそこで少し座って待っていろ。ザシャ様を呼んで来る」
「……はい」
そう言われて、私はソファーの上に腰掛けるとアイロスと視線が合った。
「くれぐれも逃げるなんて考えるなよ」
「しませんっ!」
念を押す様にアイロスはそう言うと、部屋を出て行った。
(なんなの、あの人! 本当に嫌な人ね)
思い返せばアイロスは始終私の事を睨んでいたように思える。
嫌われていることは昨日会った時から感じていたが、あんなにもあからさまに態度に出す事は無いのに。
(それよりもザシャさんが私を呼んだ理由が分からないわ)
待っている間、不安と緊張で額からは変な汗が流れて来た。
ザシャは中々現れず嫌な事ばかり考えてしまうせいか、その時間はとても長く感じられていた。
そんな時扉が開いた。
私は扉の方に視線を向けると、白い服を身に纏ったザシャの姿が視界に入って来て、私は慌てて席を立った。
「エミリー、待たせてしまってすまないな」
「いえ、大丈夫です」
ザシャは優しい表情を浮かべながら私に挨拶をしてきた。
それは昨日会った時と同じ表情をしていたので内心ほっとはしたものの、私の心臓はバクバクと鳴り響いていた。
「急に呼んで驚かせてしまったかな? ごめんね。本当は個別挨拶の時にエミリーが来たら伝えようと思っていたんだけど、来なかったからね。アイロスに頼んで呼びに行ってもらったんだ」
「そう、だったんですね。申し訳ありませんっ!」
私は慌てる様に深く頭を下げて謝った。
「エミリー? どうして謝るの?」
「私、ザシャさんが王太子様だなんて知らなくて。失礼な事を沢山言ってしまいました。それに事情があって今日は姉の代理で……」
「昨日エミリーと会った時から気付いていたよ。それに失礼な事だとも思ってないから気にしなくていい。本音で話してくれるエミリーと話しているのは楽しかったからね。代理で来たことも別に責める気は無いよ。だから何も気にする必要はないからね」
「それなら、どうして私を呼んだんですか?」
私はその言葉を聞いてほっとしたが、不思議そうに聞き返すとザシャに座る様に促されたので、私は再びソファーへと腰掛けた。
ザシャは対面する様に私とは反対側の席へと座った。
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