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6.王都へ
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私は再びザシャの前に座らされて、馬に二人乗りをして走っていた。
たった一時間程度の筈だが、とても長い時間に感じてしまうのは緊張しているからなのかもしれない。
「エミリーはどこから来たの?」
「東の外れの方にある小さな町です。レイルって町なんですが、知ってますか?」
ザシャは少し考えた後に「わからないな」と答えた。
(田舎だし、知らなくて当然よね)
「ザシャさん達は王都に住んでいるんですか?」
「そうだね。まあ、そんな感じかな」
その言葉を聞いて納得していた。
身なりを見る限りでは、田舎者には到底見えなかったからだ。
「私、王都に行くの初めてで。だから少し楽しみなんです」
「そうなのか。楽しめたらいいね。王都まで来たのは、王宮で開かれる王太子の婚約者選びの為って言っていたけど、暫くはこっちに滞在するの?」
「折角ここまで来たのだから、数日は滞在しようと思っています。それにしても、王太子様の考える事は私には分かりません。いくら婚約者を選ぶ為とはいえ、田舎の娘まで呼ぶことないと思いませんか? 大体候補は決まってそうなのに」
「たしかに、そうだね。移動だって大変なのに、本当に迷惑な話だよな」
ザシャは同調する様に答えて来たので、私は「本当ですよ」とため息交じりに返した。
すると後ろからザシャの乾いた笑い声が微かに聞こえて来た。
「王太子様ってどんな方かは一切知らないけど、折角なので拝んできます」
「ふふっ、拝むの? エミリーは面白い表現をするな。王太子は神でもなんでもない、ただの人間だと思うよ」
ザシャは私の言葉を聞くと可笑しそうに笑い始めた。
私は王太子がどんな人物なのかを全く知らない。
年齢も容姿も、名前すら知らないからこそ、想像することが出来なかったのだ。
だからそんな言い方をしてしまった。
「そうかもしれないですけど、私にとっては雲の上の人ですし。似た様なものです」
「だけど、エミリーだって選考会に参加するって事はその資格があるのだし、選ばれる可能性もゼロとは言い切れないんじゃないか?」
私はザシャの言葉に笑いながら「絶対に無いですよ」と言い切った。
そもそもこの選考会は姉の代理で来たものだ。
その時点で私に資格があるわけでもないし、こんな田舎娘を選ぶなんてどう考えてもあり得ない話だ。
選んだ所で何のメリットも無い。
「絶対にない、か」
「父にも参加することに意味があるって言われました。だから私は美味しい物を食べに行く程度の気持ちで参加するつもりです」
私は清々しい程にきっぱりと答えた。
「ふふっ、やっぱりエミリーは面白い子だね。それなら明日は遠慮せずに美味しい物を沢山食べて来るんだよ」
「そのつもりですっ!」
私が明るい声で答えると、後ろから暫くザシャの笑い声が響いていた。
(私、そんなにおかしな事を言ったかな?)
***
そして一時間程走っていると、王都が見えて来た。
「うわ、すごいっ! あれが、王都!?」
高い壁が王都を取り囲む様にしていて、私の町とは比較にならない程の大きさだった。
私はその光景に圧倒され、魅入られてしまった様だ。
「エミリーは初めてここを訪れるって言っていたから、出来れば街の案内などもしてあげたかったけど。私達もこの後色々とやる事が詰まっていて難しいかな。ごめんね」
「いえいえ、そんな謝らないでくださいっ! 盗賊から助けてくれた上に、王都まで運んでくれて。それだけで十分感謝しています! お礼をしなければいけないのは私の方です」
申し訳なさそうに謝るザシャを見て、私は慌てるように返した。
本当なら何かお礼をしたい所だけど、お金はそれほど持っていない。
今すぐ私に出来ることは、残念ながら思いつかなかった。
***
街の入口で私は馬から下ろして貰った。
「ザシャさん達がいなければ、私はここまで辿りつけていなかったと思います。命も危うかったかも。二人は命の恩人ですっ! 本当に、本当にありがとうございました!」
「無事に王都まで送り届ける事が出来て良かったよ。また会えることを楽しみにしているよ。エミリー、またね」
私は深々と頭を下げると、ザシャは優しい顔で挨拶をしてくれた。
チラッとアイロスに視線を向けると、相変わらずムスッとした顔で私を眺めていた。
少し困ってしまったが、アイロスも私を助けてくれたことには変わりはない。
なので私はぺこっと頭を下げた。
暫くして、二人は馬に乗って街の奥へと駆けて行った。
(この滞在中にまた会えるかな……)
優しくて話しやすい感じの人だったから、機会があればまた会いたいなと思った。
私は取り合えず最初に宿屋を探す事にした。
王都だけあって、広すぎて宿屋を探すのも一苦労だった。
泊まれる部屋を探すと、本当の意味でほっと出来た気がした。
今日は本当に色んな事があり過ぎて、気が抜けるとどっと疲れを感じてしまいベッドの上に横になり軽く目を瞑った。
(疲れたなぁ……。明日は王宮かー。気が重いけど行くしかないよね)
ゆっくりと薄れ行く意識の中、明日への不安を感じていた。
そして、いつしか夢の中へと落ちて行った。
たった一時間程度の筈だが、とても長い時間に感じてしまうのは緊張しているからなのかもしれない。
「エミリーはどこから来たの?」
「東の外れの方にある小さな町です。レイルって町なんですが、知ってますか?」
ザシャは少し考えた後に「わからないな」と答えた。
(田舎だし、知らなくて当然よね)
「ザシャさん達は王都に住んでいるんですか?」
「そうだね。まあ、そんな感じかな」
その言葉を聞いて納得していた。
身なりを見る限りでは、田舎者には到底見えなかったからだ。
「私、王都に行くの初めてで。だから少し楽しみなんです」
「そうなのか。楽しめたらいいね。王都まで来たのは、王宮で開かれる王太子の婚約者選びの為って言っていたけど、暫くはこっちに滞在するの?」
「折角ここまで来たのだから、数日は滞在しようと思っています。それにしても、王太子様の考える事は私には分かりません。いくら婚約者を選ぶ為とはいえ、田舎の娘まで呼ぶことないと思いませんか? 大体候補は決まってそうなのに」
「たしかに、そうだね。移動だって大変なのに、本当に迷惑な話だよな」
ザシャは同調する様に答えて来たので、私は「本当ですよ」とため息交じりに返した。
すると後ろからザシャの乾いた笑い声が微かに聞こえて来た。
「王太子様ってどんな方かは一切知らないけど、折角なので拝んできます」
「ふふっ、拝むの? エミリーは面白い表現をするな。王太子は神でもなんでもない、ただの人間だと思うよ」
ザシャは私の言葉を聞くと可笑しそうに笑い始めた。
私は王太子がどんな人物なのかを全く知らない。
年齢も容姿も、名前すら知らないからこそ、想像することが出来なかったのだ。
だからそんな言い方をしてしまった。
「そうかもしれないですけど、私にとっては雲の上の人ですし。似た様なものです」
「だけど、エミリーだって選考会に参加するって事はその資格があるのだし、選ばれる可能性もゼロとは言い切れないんじゃないか?」
私はザシャの言葉に笑いながら「絶対に無いですよ」と言い切った。
そもそもこの選考会は姉の代理で来たものだ。
その時点で私に資格があるわけでもないし、こんな田舎娘を選ぶなんてどう考えてもあり得ない話だ。
選んだ所で何のメリットも無い。
「絶対にない、か」
「父にも参加することに意味があるって言われました。だから私は美味しい物を食べに行く程度の気持ちで参加するつもりです」
私は清々しい程にきっぱりと答えた。
「ふふっ、やっぱりエミリーは面白い子だね。それなら明日は遠慮せずに美味しい物を沢山食べて来るんだよ」
「そのつもりですっ!」
私が明るい声で答えると、後ろから暫くザシャの笑い声が響いていた。
(私、そんなにおかしな事を言ったかな?)
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そして一時間程走っていると、王都が見えて来た。
「うわ、すごいっ! あれが、王都!?」
高い壁が王都を取り囲む様にしていて、私の町とは比較にならない程の大きさだった。
私はその光景に圧倒され、魅入られてしまった様だ。
「エミリーは初めてここを訪れるって言っていたから、出来れば街の案内などもしてあげたかったけど。私達もこの後色々とやる事が詰まっていて難しいかな。ごめんね」
「いえいえ、そんな謝らないでくださいっ! 盗賊から助けてくれた上に、王都まで運んでくれて。それだけで十分感謝しています! お礼をしなければいけないのは私の方です」
申し訳なさそうに謝るザシャを見て、私は慌てるように返した。
本当なら何かお礼をしたい所だけど、お金はそれほど持っていない。
今すぐ私に出来ることは、残念ながら思いつかなかった。
***
街の入口で私は馬から下ろして貰った。
「ザシャさん達がいなければ、私はここまで辿りつけていなかったと思います。命も危うかったかも。二人は命の恩人ですっ! 本当に、本当にありがとうございました!」
「無事に王都まで送り届ける事が出来て良かったよ。また会えることを楽しみにしているよ。エミリー、またね」
私は深々と頭を下げると、ザシャは優しい顔で挨拶をしてくれた。
チラッとアイロスに視線を向けると、相変わらずムスッとした顔で私を眺めていた。
少し困ってしまったが、アイロスも私を助けてくれたことには変わりはない。
なので私はぺこっと頭を下げた。
暫くして、二人は馬に乗って街の奥へと駆けて行った。
(この滞在中にまた会えるかな……)
優しくて話しやすい感じの人だったから、機会があればまた会いたいなと思った。
私は取り合えず最初に宿屋を探す事にした。
王都だけあって、広すぎて宿屋を探すのも一苦労だった。
泊まれる部屋を探すと、本当の意味でほっと出来た気がした。
今日は本当に色んな事があり過ぎて、気が抜けるとどっと疲れを感じてしまいベッドの上に横になり軽く目を瞑った。
(疲れたなぁ……。明日は王宮かー。気が重いけど行くしかないよね)
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そして、いつしか夢の中へと落ちて行った。
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