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5.助ける者②
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ザシャに馬に乗せられ走ること数分。
見覚えのある馬車が視界に入って来た。
「あ、あれです! あの馬車です!」
「あれか。恐らく御者も盗賊の一味で間違いないな」
少し離れた所で止ると、ザシャは馬から降りた。
「君はここで待っていて。少し様子を見て来るよ」
「あのっ! わ、私も行きます」
「相手は盗賊だよ。女性の君が行くのは危険だ」
「大丈夫です! 私これでも魔法なら少し使えるし。それに一応冒険者もしてるので、多分大丈夫……、だと思います」
ザシャは気遣うような言葉を掛けてくれる。
私は咄嗟に強気に来てえてしまうも、さっきの事を思い返すと急に怖くなり、徐々に言葉が弱弱しくなっていってしまう。
「ふふっ、無理はしなくても平気だよ」
「だ、大丈夫ですっ」
私が不安を滲ませた顔で答えてしまうと、ザシャは少し考えた後「一緒に行こうか」と言ってくれて、私を馬から下ろしてくれた。
(この人多分強そうだし、きっと大丈夫よね。それにこちらは二人、向こうは一人なはず)
「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はザシャ」
「私はエミリーと言います。先程は助けてくれたのに失礼な言動を取ってしまいごめんなさいっ! そして見捨てないでくれてありがとうございます……」
私が謝るとザシャは「大丈夫だよ」と優しい声で返した。
「あんな状況にいたのだから、戸惑うのは当然の事だよ。だからそんなに謝らないで」
「ザシャさんは優しいんですね。一緒にいた人は、ちょっと怖かったけど……」
私は思わずぽつりと本音を漏らしてしまった。
それを聞いていたザシャは可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「ふふっ、アイロスの事かな。彼はそうだね。少し人に冷たい所はあるな」
「少し?」
あの人は私の事を見殺しにしようとした。
そう思うと不満が顔に出てしまった様だ。
そんな私の姿を見て「少しじゃないな」とザシャは愉しそうに続けた。
「エミリー、ここからは少し慎重に行こうか。一応相手は武器を持ってる可能性があるからね」
「は、はいっ!」
ザシャに名前を呼ばれると一瞬ドキッとしてしまった。
だけど今は警戒しなければいけないと思い、気持ちを切り替えることにした。
馬車の周りには人の姿は無い。
御者の姿も見当たらないが、馬車の中にいるのだろうか。
そして馬車に近づくと、中で動く人影が見えた。
「エミリー、あの男で間違いないか?」
「はいっ! あの人です!」
馬車の中に見える人物を確認すると、一緒にいた御者で間違いない無かった。
「エミリーは私の後から付いて来て。怖かったら待っていても良いよ」
「大丈夫です。行きますっ!」
「ふふっ、エミリーは強い女性なんだね。私一人で対処出来るとは思うけど、不測の事態が起こったら遠慮なく逃げていいからね」
「逃げるなんて、そんなことはしません。その時は私も一緒に戦います! ハッタリをかますのも得意なので、任せてください」
私が真面目な顔で答えると、ザシャはぷっと笑い出した。
「ははっ、エミリーは面白い子だね。ハッタリか。いいね、それ」
「……っ」
突然笑われてしまい、なんだか恥ずかしくなり私の頬は赤く染まっていく。
「ああ、ごめんね。突然笑い出して失礼だったよな。それに今は笑っている場合じゃなかったね。それじゃあ、エミリーの大切な物を取り返しに行こうか」
「はいっ!」
私はザシャの後から極力音を絶えない様に、静かに馬車の方へと近づいていく。
生憎、御者は馬車の中にいる様で、私達の存在に気付く様子は一切なかった。
そしてザシャは馬車の扉を開いた。
「おいおい。なんだよ、この古着の数々は……。貴族の娘じゃなかったのかよ。このドレスなんて一体いつの時代のものだ?」
「女性の持ち物を勝手に覗き見るなんて、随分悪趣味だな」
御者はトランクを開け、ブツブツと文句を言いながら私の荷物を物色していた。
ザシャは御者の首筋に剣を押し当てた。
「うわぁっ!?」
御者はザシャに気付くと驚きの声を上げた。
そして私のトランクをザシャの方へと押し付けた。
トランクを盾代わりにしようとしている様だ。
「観念しろ。お前の仲間はもう居ない」
「は? あいつらが簡単にやられるわけはないはずだ! くそ、なんでここに男がいるんだよ」
私に気付いた御者は、こちらに視線を向けると不満そうな顔で呟いた。
(やっぱりこの御者も盗賊の一味だったんだ……)
「彼女が襲われている所を偶然通りかかったんだ。運が悪かったな」
「本当に付いてないな。貴族の女だと思って期待したら、高価そうな物は何一つないし」
御者はトランクを勢い良く外へと投げ捨てた。
空いてる状態で投げた為、中に入っていた荷物が衝撃で外に飛び出てしまう。
「酷いっ! 人の荷物をぶちまけるなんて!」
私は御者に向かって文句を言うと、慌てて散乱した荷物を集め始めた。
「エミリー、こっちは私に任せてくれていい。エミリーは荷物の回収をしていてくれ」
「はい、ありがとうございます!」
散らばった荷物の中には下着なども混じっている。
私の荷物をばら撒けた御者に怒りを感じながらも、急いで集めた。
こんな物をザシャには見られたくは無かったからだ。
私が荷物を集め終わった頃には、ザシャによって御者は気絶させられていた。
「荷物は無事だった?」
「はい、おかげさまでっ!」
一息ついていると、遠くの方から馬の駆ける音が聞こえてくる。
私達が視線をそちらに向けると、現れたのはアイロスだった。
アイロスは漆黒の長髪で、ルビーの様な赤い瞳をしている。
顔立ちは綺麗だが、視線が鋭いせいで少し怖く感じてしまう。
「ザシャ様、ご無事でしたか」
「ああ、こちらも片付いたところだよ」
アイロスは馬から降りると、私の事を冷たい視線で見下ろしていた。
怒っているのだろうか。
(うっ……、この人やっぱり怖い)
「アイロス。そんなに怖い顔をしたら、彼女が怯えてしまうよ」
「悪いな、こういう顔なんだ」
ザシャが困った様に呟くと、アイロスは不愛想に私に向けて言って来た。
そんな態度に私は苦笑してしまう。
(分かりやすい人だな。私、この人に絶対嫌われている気がするわ)
「荷物も無事回収出来たことだし、王都に向かおうか。ここからなら、一時間程で着くはずだ」
見覚えのある馬車が視界に入って来た。
「あ、あれです! あの馬車です!」
「あれか。恐らく御者も盗賊の一味で間違いないな」
少し離れた所で止ると、ザシャは馬から降りた。
「君はここで待っていて。少し様子を見て来るよ」
「あのっ! わ、私も行きます」
「相手は盗賊だよ。女性の君が行くのは危険だ」
「大丈夫です! 私これでも魔法なら少し使えるし。それに一応冒険者もしてるので、多分大丈夫……、だと思います」
ザシャは気遣うような言葉を掛けてくれる。
私は咄嗟に強気に来てえてしまうも、さっきの事を思い返すと急に怖くなり、徐々に言葉が弱弱しくなっていってしまう。
「ふふっ、無理はしなくても平気だよ」
「だ、大丈夫ですっ」
私が不安を滲ませた顔で答えてしまうと、ザシャは少し考えた後「一緒に行こうか」と言ってくれて、私を馬から下ろしてくれた。
(この人多分強そうだし、きっと大丈夫よね。それにこちらは二人、向こうは一人なはず)
「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はザシャ」
「私はエミリーと言います。先程は助けてくれたのに失礼な言動を取ってしまいごめんなさいっ! そして見捨てないでくれてありがとうございます……」
私が謝るとザシャは「大丈夫だよ」と優しい声で返した。
「あんな状況にいたのだから、戸惑うのは当然の事だよ。だからそんなに謝らないで」
「ザシャさんは優しいんですね。一緒にいた人は、ちょっと怖かったけど……」
私は思わずぽつりと本音を漏らしてしまった。
それを聞いていたザシャは可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「ふふっ、アイロスの事かな。彼はそうだね。少し人に冷たい所はあるな」
「少し?」
あの人は私の事を見殺しにしようとした。
そう思うと不満が顔に出てしまった様だ。
そんな私の姿を見て「少しじゃないな」とザシャは愉しそうに続けた。
「エミリー、ここからは少し慎重に行こうか。一応相手は武器を持ってる可能性があるからね」
「は、はいっ!」
ザシャに名前を呼ばれると一瞬ドキッとしてしまった。
だけど今は警戒しなければいけないと思い、気持ちを切り替えることにした。
馬車の周りには人の姿は無い。
御者の姿も見当たらないが、馬車の中にいるのだろうか。
そして馬車に近づくと、中で動く人影が見えた。
「エミリー、あの男で間違いないか?」
「はいっ! あの人です!」
馬車の中に見える人物を確認すると、一緒にいた御者で間違いない無かった。
「エミリーは私の後から付いて来て。怖かったら待っていても良いよ」
「大丈夫です。行きますっ!」
「ふふっ、エミリーは強い女性なんだね。私一人で対処出来るとは思うけど、不測の事態が起こったら遠慮なく逃げていいからね」
「逃げるなんて、そんなことはしません。その時は私も一緒に戦います! ハッタリをかますのも得意なので、任せてください」
私が真面目な顔で答えると、ザシャはぷっと笑い出した。
「ははっ、エミリーは面白い子だね。ハッタリか。いいね、それ」
「……っ」
突然笑われてしまい、なんだか恥ずかしくなり私の頬は赤く染まっていく。
「ああ、ごめんね。突然笑い出して失礼だったよな。それに今は笑っている場合じゃなかったね。それじゃあ、エミリーの大切な物を取り返しに行こうか」
「はいっ!」
私はザシャの後から極力音を絶えない様に、静かに馬車の方へと近づいていく。
生憎、御者は馬車の中にいる様で、私達の存在に気付く様子は一切なかった。
そしてザシャは馬車の扉を開いた。
「おいおい。なんだよ、この古着の数々は……。貴族の娘じゃなかったのかよ。このドレスなんて一体いつの時代のものだ?」
「女性の持ち物を勝手に覗き見るなんて、随分悪趣味だな」
御者はトランクを開け、ブツブツと文句を言いながら私の荷物を物色していた。
ザシャは御者の首筋に剣を押し当てた。
「うわぁっ!?」
御者はザシャに気付くと驚きの声を上げた。
そして私のトランクをザシャの方へと押し付けた。
トランクを盾代わりにしようとしている様だ。
「観念しろ。お前の仲間はもう居ない」
「は? あいつらが簡単にやられるわけはないはずだ! くそ、なんでここに男がいるんだよ」
私に気付いた御者は、こちらに視線を向けると不満そうな顔で呟いた。
(やっぱりこの御者も盗賊の一味だったんだ……)
「彼女が襲われている所を偶然通りかかったんだ。運が悪かったな」
「本当に付いてないな。貴族の女だと思って期待したら、高価そうな物は何一つないし」
御者はトランクを勢い良く外へと投げ捨てた。
空いてる状態で投げた為、中に入っていた荷物が衝撃で外に飛び出てしまう。
「酷いっ! 人の荷物をぶちまけるなんて!」
私は御者に向かって文句を言うと、慌てて散乱した荷物を集め始めた。
「エミリー、こっちは私に任せてくれていい。エミリーは荷物の回収をしていてくれ」
「はい、ありがとうございます!」
散らばった荷物の中には下着なども混じっている。
私の荷物をばら撒けた御者に怒りを感じながらも、急いで集めた。
こんな物をザシャには見られたくは無かったからだ。
私が荷物を集め終わった頃には、ザシャによって御者は気絶させられていた。
「荷物は無事だった?」
「はい、おかげさまでっ!」
一息ついていると、遠くの方から馬の駆ける音が聞こえてくる。
私達が視線をそちらに向けると、現れたのはアイロスだった。
アイロスは漆黒の長髪で、ルビーの様な赤い瞳をしている。
顔立ちは綺麗だが、視線が鋭いせいで少し怖く感じてしまう。
「ザシャ様、ご無事でしたか」
「ああ、こちらも片付いたところだよ」
アイロスは馬から降りると、私の事を冷たい視線で見下ろしていた。
怒っているのだろうか。
(うっ……、この人やっぱり怖い)
「アイロス。そんなに怖い顔をしたら、彼女が怯えてしまうよ」
「悪いな、こういう顔なんだ」
ザシャが困った様に呟くと、アイロスは不愛想に私に向けて言って来た。
そんな態度に私は苦笑してしまう。
(分かりやすい人だな。私、この人に絶対嫌われている気がするわ)
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