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4.助ける者

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「手を貸すから、乗って。アイロス、そこにいる盗賊の処理は任せるよ」

 ザシャは優しい声を私に向けると、手をこちらに差し伸べてくれた。
 しかし私は戸惑っていた。

「畏まりました」

 アイロスはザシャに言われると、静かに答えた。
 そして馬から降りると、盗賊の前に近づいて行った。

「おい、なんだよ」
「こっちは急いでいるんだ。暴れて手間をかけさせるな。お前達がこの辺りで通る者達を襲って、強奪行為を繰り返しているという噂は聞いている」

「な、なんの話だ?」
「とぼける気か? 聞いてた人相と合致するし、間違いないだろうな。この辺は人通りが殆どないから、襲うのには絶好だよな? しかも馬車の御者と手を組んで犯行に及ぶとか、全く卑劣な連中だ」

 アイロスは呆れた口調で盗賊に迫っていく。

(御者と組んでって、どういうこと?)

 私がその話を聞いて青ざめていると、ザシャは「もしかして、馬車に大切な物を残して来たの?」と聞いて来た。
 大切な物と言えば母から借りたペンダントだが、それは身に着けていたので奪われる事は無かった。
 貴重品は肩から下げているバッグに入っているので取られたわけではない。
 しかし、馬車の中に置いて来たトランクの中には、明日参加する時に着る為のドレスが入っている。
 ドレスが無ければ選考会には参加出来なくなる。
 それはとてもまずいことだった。

「大切なものがあるんだね。まずはその馬車を探しに行こうか」
「はい……」

 私は気が動転していて、お礼を言う事すら忘れていた。
 失礼な態度を取っているのに、ザシャは嫌な顔は一切見せず親切に接してくれた。

(ザシャさんって人が良い人で助かったわ)

「人相まで知られているなら仕方がない、か。見た所あんた達、随分良い身なりをしてるな。貴族か? 俺の兄貴は昔は名の知れていた冒険者だったんだ。死にたくないのなら、金目の物を全て寄こしな。もちろんその立派な馬も置いて行けよ。こりゃ、売れば相当な金になりそうだ」
「はぁ……。ザシャ様、こう言っておりますが、このまま斬り捨てても構いませんか?」

 アイロスは盗賊の言葉を聞くと盛大にため息をついて面倒くさそうな顔を見せた。
 そしてザシャの方へと視線を向ける。

「そうだね。馬を奪われるのは困るからな。アイロス、そっちは任せるよ。私達は馬車を探しに行く」
「わかりました。こちらの処理が終わり次第すぐに合流します。相手は盗賊です。見た感じ、まあ……、問題は無いとは思いますが、俺が到着するまで無理はなさらない様に」

 アイロスの言葉を聞いてザシャは「分かったよ」と答えた。

 先程からのやり取りを見ている限り、この二人には上下関係があるようだ。
 優しそうな態度を見せるザシャと呼ばれる者の方が、立場は上なのだろう。

「そう言う事だから、さぁ乗って」

 ザシャは私の手を引っ張ると馬の上に乗せてくれた。
 私はザシャの前に座らさせられて、思わずドキドキしてしまう。
 馬に二人乗りをしているせいか、ザシャとの距離が妙に近く感じる。

「行こうか。きっと近くにいる筈だ」
「は、はいっ!」

 体勢的にザシャが話すと、その吐息が耳元に伝わりドキドキして鼓動がどんどん早くなっていく。
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