王太子の婚約者選考会に代理で参加しただけなので、私を選ばないでください【R18】

Rila

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1.貧乏男爵家の次女です

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 私の名前はエミリー・ヴィアレット。
 男爵家の次女であり、今年で18歳になる。

 くすんだプラチナブロンドの髪に、色素の薄いブルーの瞳。
 体系は小柄で色白、顔立ちは幼さが残るような童顔だ。
 こんな容姿のせいか、恋人なんて出来たことも無いし、婚約者もいない。

 それに比べて二つ年上になる姉のレイラは、大人っぽくて美人だ。
 私と同じプラチナブロンドの髪に、アメジストの様な紫の瞳。
 そんな姉は、最近出来たばかりの恋人に夢中の様だった。

 我がヴィアレット家は、数年前父が事業に失敗した事で負債を抱え、没落寸前にまで陥っている。
 名ばかりの貴族であり、生活は平民と大して変わらないと思う。
 決して裕福な暮らしでは無いが、衣食住には困らない最低限の生活はなんとか送れている。

 ヴィアレット家には私達姉妹しかいない為、父は自分の代で廃爵になっても構わないと思っている様だ。
 姉は裕福な暮らしを望んでる為、何処か良い貴族の家に嫁ぎたいと思っている。
 私はというと、結婚に関してはそれほど興味は無かった。
 だから父の後を継いで、この男爵家の当主になろうと考えているが、父はこんな没落寸前の家にいるより良縁を探した方が私が幸せになれると思い、この家を継ぐことに対しては否定的だった。

 私は昼間は街のパン屋で働き、こっそり冒険者としても活動をしている。
 冒険者をしている事は、家族には秘密にしてある。

 冒険者と言えば魔物を相手にする様な依頼が多い為、危険だと思われがちだ。
 もちろん私も魔物退治をすることはたまにはあるけど、狂暴な魔物というわけでは無く、街の外にいる素材になる様な比較的簡単に倒せる魔物を相手にしている。

 私は今の生活にはさほど不満を持っている訳では無かった。
 だからこの生活が続けられるように、今のうちから少しづつ貯蓄をしようと思っていたのだ。


 ***


 いつもの様に仕事を終えて家に戻ると、居間の方から騒がしい声が響いて来た。

「いや、嫌よっ! 私はこの日、ライナーと一緒に旅行することになってるのよ! だから王宮になんて絶対に行かないからっ!」
「レイラ、王家からの招集は絶対だ。もし行かなければ、咎められる可能性だってあるんだ。旅行ならまたいつでも行けるだろう」

 私が居間に続く扉を開くと、困った父と怒り心頭に発する姉の姿が視界に入って来た。
 ちなみにライナーと言うのは、姉が今熱を上げている恋人の名前だ。

「何事ですか?」

 私が二人に声を掛けると、一斉に私の方へと視線が向けられた。

「エミリーからも言ってよ! お父様ったら王家から送られて来た手紙を、見ずにずっとしまい込んでいたのよ。それで来週末王宮で開かれる、王太子殿下の婚約者選考会があるから行けって言うのよ。私はライナーとの初旅行、すごく楽しみにしていたのに! 酷いわっ、あんまりだわっ!」

「手紙に気付かなかったのは私の落ち度だが、王宮からの招集は断れない。この家の為だと思って出てくれないか。エミリーからもレイラに行くように頼んで欲しい」

 私は二人の会話を聞いて、なんとなく事情が見えて来た。

「お姉様。王宮からの通達なら仕方がないことです」
「ちょっと! エミリーはお父様の肩を持つの!?」

 私が困った顔で答えると、レイラは私のことをむっと睨んで来た。
 そんなに睨まれても困ってしまう。

「え、だって仕方ないじゃないですか。相手は王族ですよ」
「そうだぞ、レイラ」

「この旅行でライナーとの未来が決まるかも知れないのよ? ライナーは伯爵家の嫡男なの! お父様とエミリーは私の幸せな未来を奪うつもり?」
「で、でも、王宮で開かれるのって王太子殿下の婚約者探しですよね? お姉様は綺麗だし、もしかしたら選ばれる可能性だってあるかもしれないじゃないですか。そしたら未来の王妃になれますよ?」

 私は姉を煽てて、なんとか行くように説得を試みた。
 姉は裕福な暮らしに憧れている。
 王太子妃になれば、申し分が無い程の暮らしが約束されるだろう。

「エミリー、馬鹿ね。誰が貧乏男爵家の娘なんて選ぶと思うの? それに上位貴族の令嬢達がわんさかいる様な場所よ? まともなドレスも無いし、そんな中に飛び込んで私に恥をかけって言うの? 酷すぎるわっ!」
「ド、ドレスならあるじゃないか」

 父は遠慮しがちに弱弱しく言った。
 私とレイラは揃って苦笑した。

「はぁ? あんないつの時代か分からない、古臭いドレスなんて着れるわけないわ! 私は絶対行かないからっ! どうしても行けって言うなら、エミリーが行けばいいじゃない。どうせ男なんていないし、エミリーなら人の目も気にならないでしょ?」
「……ああ、たしかに。手紙はレイラ宛になっていたが、この際エミリーでも問題ないだろう。絶対に選ばれる事は無いだろうしな」

 二人はまるで解決策を見つけたかの様に、安堵の表情を浮かべ始めていた。
 そんな話の流れには付いて行けず、私はただ固まってしまった。

「そうよ、そうしましょう! エミリー頼んだわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! なんで私が行かないといけないの? 私には仕事だってあるし無理よ」

 我に返ると私は咄嗟に否定した。
 私だってそんな場所になんて行きたくはない。

「事情を話せば数日位、休ませて貰えるだろう? 頼むよ、エミリー。行くだけでいいんだ。きっと美味しい料理も多数出るはずだ。旅行だと思って、楽しんでくればいい」
「そうね、エミリーは王都にも行った事は無かったわよね。丁度いい機会だし、観光だと思って楽しんで来たらいいわ」

「…………」

 二人は懇願するような瞳でじっと私を見つめていた。
 そんな態度に圧倒され、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 そんなことで、王宮には私が行くことに決まってしまった。
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