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 あっという間にベッドの前まで辿り着くと、私の体をゆっくりと下ろしてくれた。
 そして青い瞳が静かに私を見下ろしている。

「もう手を離してもいいよ」
「……っ、ありがとうございます」
 
 私は慌てるように急いで彼の首に巻き付けていた手を外した。

「すごい緊張しているみたいだけど大丈夫? だけど、きっとすぐにそんなことも気にならなくなると思うよ」
「……っん」

 彼はふわりと柔らかく微笑むと、ゆっくりと顔を下ろしてきて私の唇を塞いだ。
 最初は触れるだけの優しいキスから始まり、何度も角度を変えながら繰り返していく。

「まずはリゼの緊張を解してからにしようか。それとも、さっきみたいな激しいのがお好みだったりする?」
「……はぁっ、これがいい、ですっ」

 あんなキスをされたらまた心臓がおかしくなってしまいそうだ。
 それに、この蕩けてしまいそうな甘ったるいキスは嫌いではない。

「そう? じゃあこのまま続けるよ」
「はいっ……」

 このやりとりがすでに恥ずかしいけど、私は目を閉じて彼のことを受け入れる。
 視界が遮断されれば少しだけ恥ずかしさも薄れていくような気がした。
 時折、ちゅっという淫靡なリップ音と共に、唇を食むように吸われる。
 彼の熱を帯びた舌先が唇に這っていく感覚に体がゾクゾクする。
 最初は少し擽ったさを感じていたけど、次第にそれが心地よく感じるように変化していった。

(……このキス、好きかも)
 
 それから暫くの間キスを堪能していると、ゆっくりと彼の唇が離れていくのを感じて、私は静かに目を開いた。
 離れていく彼の口元を見つめて、少し名残惜しく思えてしまう。

「ずいぶん、寂しそうな顔をしているようだけど、まだ足りなかった?」
「……え? ……っ!! ち、違いますっ!」

 キスをされて頭の中が半分溶けかけていたのか、私の思考は暫く停止していたようだ。
 しかし、彼の意地悪そうな言葉を聞いて一気に現実に引き戻される。 
 こんな顔を見られていたことに恥ずかしくなり、勢いよく否定してしまう。
 すると、殿下はおかしそうにクスクスと笑っていた。

「本当に君は素直じゃないね。またあとでここにたくさんキスしてあげるから、そんな顔をしないで。それよりも、今度は君の体に触れさせて」

 彼はそう言うと、私の着ているナイトドレスに手を伸ばした。

「……やっ、ちょっと待ってください!」

 私はハッとして、慌てて彼の手を制止させた。
 今の私が纏っているのは、この薄い布一枚だけだ。
 これを奪われたら、全て見られてしまう。

「これを着ていたら次には進めないよ?」
「でも、心の準備が……」

「困ったな。そんなに泣きそうな顔をされても、私を喜ばしているようにしか思えないよ。こんな薄着で、しかも君をどうにかしたいと思っている男の部屋に一人で来て、今さらじゃない? それに、私を受け入れてくれるんだろう?」
「それは、そうですがっ……、でもっ!」

「でもじゃないよ。案外、潔く諦めてしまったほうが恥ずかしくないかもしれないし」
「……えっ、ちょっと、待って……」

 彼は私の手を簡単に剥がすと、ナイトドレスをゆっくりと脱がし始めた。
 自分も望んでいる以上、それ以上抵抗することはやめたが、やはり恥ずかしいことには変わりない。

「やっぱり、どこも白くて綺麗な肌だね。触れるよ」
「……ぁっ」

 殿下はうっとりとした顔で私の胸元を眺めると、首筋に顔を埋めて愛撫を始めた。
 普段触れられない場所のせいか、少しの刺激でも過剰に反応してしまう。

「体、震えているようだけど痛くはしないから安心して」
「……っ、はぁっ……」

 先ほど唇にされた口づけのように何度も優しくキスされ、擽ったさに体をうねってしまいたくなる。
 彼の与える熱を感じるたびに、その動きを意識的に追いかけて、一人でドキドキしていた。

「んっ……」

 不意をつくように、きつく肌を吸われチクリとした鋭い痛みに僅かに声を漏らしてしまう。
 暫くすると刺激された場所がじんじんと熱を持ち、体の奥が疼き始める。

「声、我慢しなくてもいいよ? 私としてはリゼの可愛い声をたくさん聞きたいんだけどな」
「……っ!」

 そんなふうに言われると、反射的に聞かせたくなくなって思わず自分の口元を手で覆った。
 私だけこんなに恥ずかしい思いをしてるのが悔しく思えたからだ。

「今日はリゼのほうが意地悪だね。そうやって必死に耐えている姿も可愛いらしいから、別に構わないけど。好きなだけ我慢していいよ」
「……っ!」

 彼は余裕ありげに涼しげな顔でそんな台詞を言うので、ますます抵抗したい気持ちが増していく。

(またからかって……! 殿下のほうが意地悪じゃないっ!)
 
 今の私は言葉を発せられないので、心の中で盛大に文句を言った。

 そんなことを考えていると彼の唇が首筋から胸元へと降りてくる。
 先ほどまでは隠れていた胸の膨らみも、いつの間にか彼の目の前で露わになっていて、恥ずかしさのあまりぎゅっと目を瞑った。

「もうこれは邪魔だから、全て脱がしてしまうよ。腰、少し浮かせてくれるかな?」
「えっ……、あ、はいっ……」

 そんな声が響いてきたので、思わず素直に従ってしまった。

「いい子だね。素直なリゼも可愛いよ」
「……っ、私はいつも素直なんです。殿下が意地悪なことさえ言わなければ……」

 褒められて妙な気持ちになり、恥ずかしさを隠すようにぼそりと答えた。

「意地悪なことを言われて喜んでいるくせに」
「喜んでなんていませんっ!」

 即答されて勢いよく否定すると、彼は私の胸を包むように触れて中心で膨らみ始めている先端に視線を落とした。

「興奮して、こんなに反応させているのに?」
「これはっ、勝手に……、というか、あまり見ないでくださいっ!」

 私は恥ずかしくなり手で隠そうとする。

「君はすぐにそうやって隠そうとするね。……ああ、そうだ。ちょっと待っていて」
「……なんですか?」

 なんだか嫌な予感がする。
 彼はそう言うと、ベッドから立ち上がりソファーのほうへと移動した。
 そしてなにかを手に持ち再び戻ってくる。

「リゼ、手を上に上げて」
「なんですか? 突然……」

 私が不審がりながら問いかけると「いいから」と言われてしまったので、仕方なく両手を上げた。
 すると彼は私の手を取って、すぐさま頭の上に移動させる。

「ちょっと、なにをしているんですか?」
「跡が残らないようになるべく緩く結んでおくけど、抵抗すると肌に擦れてしまうから気をつけてね」

 彼が先ほど持ってきたものは、昼間首元に付けていたスカーフだった。 
 それを私の両手首にひとくくりにして、ベッドの端に巻きつける。
 手の自由が奪われてしまい、私は自分の体を隠すことができなくなってしまった。

「殿下っ、お願いです。今すぐ、これ外してくださいっ! こんなの恥ずかしすぎますっ……、ていうか、そんなにじっと見ないでっ!!」
「暫くしたらちゃんと外してあげるよ。君の体中に私の痕を残してからね。それと、見ないでっていうのは無理かな。私はリゼの全てを見たいから」

「なっ……!」
「さて、おしゃべりはこのへんにして続きをしようか」
 
 殿下は不敵に笑うと、再び愛撫を開始した。

(なんでこんなことになってるの……!? そもそも、この乙女ゲームR18じゃなかったのに……!)

 彼の設定もゲームとはなにか違うし、やっぱり殿下は私と同じ転生者なのかもしれない。
 しかし、そんな考え事をする余裕はすぐになくなってしまう。
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