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1.異世界召喚と追放が一緒だなんて酷すぎる①

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「ごめんなさいね。魔力がない子は、ここでは必要とされてないみたいなの。だから早く出て行ってね。愛玩ちゃん」
「……っ」

 私に向けられた視線はとても冷え切っていて、まるで邪魔者だと言われているような気分だった。
 そんな瞳を向けているのは、冷たい言葉を言い放った彼女だけではない。
 ここにいるほとんどの者達が、責めるような敵意にも似た視線を私に送ってきている。
 それがとても異様に見えて、私は怖くて何も口にすることが出来なかった。

(なんで、こんなことに……)

 今の私は、絶望にも似た表情をしているのかもしれない。
 突然異世界に飛ばされて、理不尽な理由でこの場から追放されようとしているのだから。
 私からしてみれば、これは悪夢としか言いようが無い出来事だ。
 だけど、多分現実なんだと思う……。


 ***


 私こと、深月みつき星那せなと、白鳥しらとり可憐かれんは同じ大学に通う20歳の学生だ。
 ただ同じ大学に通っているという共通点があるだけで、友人のような親しい間柄ではない。

 私は胸元まで伸びたロングストレートの黒髪に、色素の薄い茶色い瞳で、少し幼さが残る顔立ちをしている。
 身長も150センチ程しかなく、小柄であるため、友達からは愛玩動物のように可愛がられていた。
 大人の女性には勿論憧れを持っているけど、この容姿のおかげで幼い頃から可愛がられている部分も多かったので、見た目に対して悲観したことはあまりない。
 性格はマイペースな方で、自分でも自覚するくらいのんびりとしている。
 いつも友人にくっついて行動する事が多いので、あまり目立った存在ではないはずだ。
 同性にちやほやされる機会は多いけど、異性と付き合ったことは一度もない。
 でも、人並みに恋愛には憧れは持っている。

 それに対して、彼女は私とは真逆のタイプだ。
 男を魅了する様な豊満な胸に、細身でモデルのような体形。
 肩まで伸びたふわっとした明るめの茶色の髪は、先端を緩く巻いている。
 大人っぽい雰囲気なのに顔立ちはどこかあどけなさが残り、そんな彼女の魅力に惹き付けられるようにいつも男が群がって来る。
 噂ではこの年齢にして数人のパトロンがいるとか、いないとか……。
 あざとい性格であるのは学内でも有名な話で、同性に接する時はまるで別人の様に変わるらしい。
 その為、敵は多いようだ。
 しかし、当の本人は全く気にしていない様子なので、それがまた大きな反感を買っているのだとか。
 私は直接彼女と話したことはないので、噂程度にしか知らない。

 私は普段の様に大学に登校すると、教室に向かう為に廊下を歩いていた。
 すると前方から彼女の姿が見えて、すれ違おうとした瞬間、目の前が突然激しい光に包まれる。
 まるで、足元から何か強い光が発しているように感じた。
 だけどあまりの眩しさに耐え切れなくなり、私はすぐに目を瞑ってしまった。
 だから、これは曖昧な記憶でもある。

 それから暫くして、恐らく数秒後だと思う。
 ざわざわとした周囲の騒めき声に気付きゆっくりと目を開けると、明らかに廊下ではない場所に私は立っていた。

 どこかの薄暗い部屋のようで、壁際には窓一つ見当たらない。
 傍には球体の発光物が浮かんでいて、それが照明の役割を果たしているようだった。
 更に私達を取り囲むように黒いローブに包まれた者達が複数名いて、歓喜を上げる者、涙を流す者までいる。
 この異様過ぎる光景に私はただただ戸惑っていた。
 足元には大きな魔法陣のようなもの描かれていて、何かの儀式でも行っているのだろうかとつい疑ってしまいたくなる。
 怪しい集団であることは明白であり、戸惑いに加えて恐怖心が混じっていく。

「一体、どうなっているの!?」

 苛立ったような声が室内に大きく響き渡る。
 その時初めて、自分以外にも動揺している者がいることに気付いた。

 その声に気付いた一人は、ゆっくりと彼女の前へと近づいていく。
 自ずと私達は身構えるような姿勢を取ってしまう。
 それも当然だろう。
 全身ローブに包まれていて、何者かを知ることが出来ないのだから。
 こんなの怪しいとしか言いようがない。

 近付いて来た者は深く被っていたフードを下ろすと、奥からは紫色の宝石のような瞳が現れる。
 それに燃えるような赤髪が特徴的で、外国人の様に目鼻立ちがはっきりとしていた。
 俳優の様に見える程の美形だった。

(外国人……?)

「突然このような場所にお呼び立てしてしまい、さぞ驚かれているかと思います。このような無礼をどうかお許しください。私はこの国、バルムート大国の第二王子クリストフと申します」
「は? お、王子……?」

 彼女は戸惑った声で聞き返す。
 僅かに彼女の耳元は赤く染まっているようにも見え、声のトーンが明らかに変わったところから、恐らく見惚れているのではないだろうか。
 確かに彼を見て美形だとは感じていたが、それよりも怪しさが勝っていて、私は警戒心を保ちながら身構えていた。
 赤髪の男は自らを王子だと名乗り、それが更に胡散臭く思えたからなのかもしれない。

 二人が会話を始めると、私は傍観者のように少し後ろの方からその様子を眺めていた。
 この場に彼女がいたことで話が勝手に進行し、私は内心ほっとしていたのだろう。
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