【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

文字の大きさ
21 / 87

21.今の二人の距離感③

しおりを挟む
「リリア、そういえば眼鏡は?」
「……あ」

 アレクシスに指摘されて、私は自分の目元に手を当てた。
 急いで準備をしていたので、眼鏡のことをすっかり忘れていたようだ。 
 しまったと思い、私は表情を曇らせた。
 不安そうな顔で、恐る恐るアレクシスの方へと視線を向けた。
 
(どうしよう、急いでたから持ってくるの忘れちゃった)

「ごめんなさい……」
「謝らないで。朝から可愛い素顔を私に見せてくれようとしたんだよね?」

「え?」
「……なんてね。安心して、こんなこともあろうかと思って常に持ち歩くことにしたんだ」

 アレクシスは自慢げに話すと、ポケットから見慣れた眼鏡を取り出した。
 どうしてそれをアレクシスが持っているのだろう。
 私は驚いて呆然と固まっていた。
 アレクシスが手にしている眼鏡は、間違いなく普段私が付けているものと同じものだ。

「なん、で……」
「実はね、これは新しく作らせたものなんだ。リリアが持っている眼鏡と同じものを作らせたんだよ」

「いつの間に」
「使用人に頼んで、リリアが眠っている間に少し借りさせて貰った。事後報告になってしまってごめんね」

 私に了解を得ず勝手に持ち出したことは余り喜ばしいことではないが、そのような理由であれば怒る気も起きなかった。
 眠っている間という、短時間の間に同じものを作ることが出来るのだろうか。
 でも、相手がアレクシスであれば出来てしまうのかも知れない。

「アレクシス様は、どうしてその可愛くない眼鏡にこだわるんですか? 私にはもう必要ないのに。……折角こんなに可愛い服を着ているのに」

 私は小さな声で本音を漏らしてしまう。
 どう考えてもこの服にあの眼鏡は不釣り合いだ。
 少しでも可愛くなった姿を見せたいという私の気持ちは、彼には届かないのだろうか。
 
(やっぱりこんな服、私には似合わなかったのかな……)

 そう思うと泣きたい気持ちになってくる。

「今のリリアはいつもに増して可愛らしいよ。それこそ絵本の中から飛び出したお姫様のように。だからこそ他の人間には見せたくない。こんな姿を見せたら、皆リリアに心を奪われてしまう。私以外の人間がリリアに好意をもつなんて、許せない」
「……それは言い過ぎではないでしょうか」

 アレクシスに可愛いと言われるのは嬉しいが、そこまでいくと逆に引いてしまう。
 昨日から感じていたが、彼の言葉は極端すぎる。
 以前はこんな風に感じたことは無かった。

「言い過ぎなんかじゃないよ。これは私の本音だ。もう、自分の気持ちを抑えることも、遠慮することもやめることにしたから。その理由も無くなったからね。そうだね、それじゃ明日から食事はリリアの部屋でしようか。それなら眼鏡を掛ける必要もないしね」
「……っ、我が儘言ってごめんなさい」

 会話の一部は良く分からなかったが、アレクシスは意外にもあっさりと折れてくれた。
 
「謝らないで。今日はもう準備が出来てしまったから、これを掛けておいて。食べ終わったら、私にだけその可愛い姿をたくさん見せて」

 アレクシスは照れる様子も無く、さらりとそんな言葉を口に出すと、持っている眼鏡を私の耳元にそっと掛けた。
 動揺しているのは先程から私ばかりだ。

(可愛いって言い過ぎ。お世辞にしても、言い過ぎだから……)

「アレクシス様は、どうして私にここまでしてくださるんですか? もう妹になることはないのに……」
「妹?」

 変な空気になってしまったので、話を変えることにした。
 私が問いかけるとアレクシスの足がピタッと止まった。

「アレクシス様?」
「リリア、私は君のことを妹の様に思ったことは一度もないよ」

 思わず口走ってしまった台詞を後悔した。
 今のは恥ずかしさを紛らわせるために、咄嗟に口から出てしまったものだ。
 今考えれば、妹だなんて恐れ多い言葉だったのかもしれない。

「ああ、そうか。まだちゃんと私の気持ちを伝えていなかったね。本当はもっと雰囲気のあるところで伝えたかったんだけど、誤解されていると思うと耐えきれない気持ちになるから、今ここで伝えてもいい?」
 
 アレクシスは真っ直ぐに私の瞳の奥を捉えていた。
 何かを予感して、私の鼓動はドクンと高まっていく。
 その時急に風が吹いて、私の髪が顔にかかってしまう。
 するとアレクシスは手を伸ばして、私の髪を掬い耳に掛けてくれた。 
 そしてそのまま頬に手を添えられる。

 今の彼の表情は切なげに映っていた。
 何故そのような顔を見せるのか、分からない。
 だけど、知りたい。
 私は昂る気持ちを抑えながら、期待するようにアレクシスの言葉を待った。

「私は君の全てを愛している」

 直球過ぎる言葉に、私は目を丸くして固まっていた。
 今までのアレクシスの態度から、自惚れかも知れないと思っていた反面、なんとなくそうかもしれないと感じていた。
 いや、期待していたのかもしれない。
 私はずっとラルスでは無く、アレクシスが婚約者だったら良かったのに……と思っていたのだから。

 だけど実際に面と向かって言われると、嬉しさよりも驚きの方が勝っていた。
 時間が止まったように、息をするのも忘れていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

処理中です...