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35.精霊の契約者

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「これから話す事は君だから話す。他言無用にして欲しい、勿論…ルカルド王子にもね」
「……分かりました」

私は真実が知りたい。
ラヴィニアの身に何があったのか…。
どうして私が誘拐されることになったのか。

「オルヴィス帝国は長年…強い勢力を持つ国だった。そのため色んな国や組織からも狙われる事も当然多かった。だけど我が国の皇族は黄昏の魔女と呼ばれる精霊と契約を結ぶことで、強固な結界を張り外部からの攻撃を避けることが出来た。もちろんそれだけじゃない。伝染病や、自然災害からも守る力を持っている。それがあったから今まで国を守ることが出来たと言っても過言ではない」

「だけどね…その力が年々弱まって来ているんだ。理由は分からないが、恐らく新たな契約者になる適合者が見つかっていないんだと思う」
「でもそれって皇族であれば契約出来るんじゃないんですか…?」
オルヴィス帝国には他にも皇子や皇女が何人かいるはずだ。

「そうだね、皇族の血を持つ者であればその資格を持っている。だけどあくまでも資格なだけであって、契約の適合者とは呼べないんだ。契約者に選ばれるのは一人だけ…」
「その一人と言うのは現皇帝陛下じゃないんですか…?」

「うん、その通りだよ。今は現皇帝が契約者だ。そして次の皇帝になる者がその力を受け継いでいく。だから新たな契約者が見つかると、その前の契約者…つまり今の皇帝の力は弱まっていくんだ。だけど、今は新たな契約者が見つからないまま、皇帝の力だけが弱まっている状態だ。このまま行けば、間違いなく結界は無くなってしまう。そうなればどうなるか…簡単に想像できるよね…。それを恐れた皇帝は周りの力がある国と同盟を結ぶことを考えたんだ。ラヴィとルカルド王子との婚約も、ドラグレス国と同盟を結ぶという大きな目的の為に必要だったことだ」

「しかしある日ラヴィは誘拐されてしまった。ラヴィを見つけ出すことも、犯人を特定する事さえ出来なかった。簡単に誘拐を許してしまう国だと思われる訳にはいかなかった。特に力が弱まってる今そんな情報が他国に知れ渡れば狙われるのは目に見えていたからね…。なるべく目立ちたくは無かった。だからラヴィの事を病死として公表した。結果的にドラグレス国からは同情され同盟を結ぶことは出来たけどね…」

「もし…ラヴィニアが後から見つかったらどうするつもりだったんですか?」
「ラヴィがいなくなってから1か月間あらゆる所を調べた。それでも有力な情報を集めることは出来なかったんだ。勿論見つかって欲しいとは皆思っていたけど、それでも見つからない以上…もう諦めるしかなかったんだと思う。それにラヴィの婚約は既に決まっていたから、いつまでも誤魔化してもいられなかった…」
そう話すロベルトはすごく辛そうな表情をしていた。

「僕はラヴィはどこかで絶対生きてると思ってた…。だからシンリーをこの学園で見た時、奇跡だと思ったんだ」

ずっと私が生きていると信じてくれたのはルカルドだけでは無かったんだ…。
私は愛されていたんだなと実感した。
そう思うと目元が潤んで行くのを感じた。

「さっきも話したけど、結界を張る力を持っているのは契約者だけだ。僕はその契約者はラヴィだと思ってる。今まで皇子の中からしか選ばれなかったのは単にその力に耐えられる器が皇女には備わっていなかったんだと思う。現に全属性を使える皇女はいなかったとされている。幼いラヴィにそれが現れなかったのは、成長段階が追い付いてなかっただけの話…だと…。時期的に考えても、他に現れない事を考えても…ね。シンリーは今まで不思議な体験はしたことない…?」
「不思議な体験ですか…?」

「例えば天候を操れたり、傷を癒せるなど…」
「……そんなことは無かったと思います。……でも、危険を察知した時に勝手に補助魔法がかかる…とかなら…あったかもしれないです」
私は崖から落ちる時に、勝手に魔法が発動した事を思い出した。

「その時、周りが黄昏色にならなかったか…?」
「……分からないです。その時は殆ど意識が無かったから…。ただ優しい光に包まれた様な気はしました…」
私がそう言うとロベルトは納得したような顔をしていた。

「シンリー、君は間違いなくラヴィだ。シンリーもその事はもう思い出してるよね…」
「……はい」
ここまで話したらもう誤魔化す事は出来ない。
それにロベルトはやっぱり敵じゃない気がする。

ルカルドはロベルトは危険って言ってたけど…、ロベルトが協力してくれた方がこの先動きやすくなるかもしれない。
恐らく私を誘拐した黒幕は帝国内の人間だ。
黒幕じゃないにしても、関わってる者は誰かしら帝国内にいる。

「あの…ロベルト様、私がラヴィニアだってことは…帝国の人間に伝えましたか…?」
「いや、確信はあったけどあくまで僕の直感だけだったからね。誰にも伝えてはいない。シンリーが記憶を取り戻したら色々動こうと思っていたんだ…」

「それなら、少し待ってもらえませんか?」
「どうしてか聞いてもいいかな…?」

「私…誘拐される場面を思い出しました…。犯人は…皇帝のせいだと言っていました。皇帝のした事で真犯人を怒らせたから、私を始末する様に依頼したって…」
「………それは本当か?」
私がその事を話すとロベルトの顔色が変わった。

「はい…、間違いないです。黒幕は分からないけど…。私は…犯人は帝国の人間な気がします。名前の所だけ雑音で聞こえなくて…、聞こえなのは親しい人物だからなんじゃないかなって」
「……身内か…。だけどそうだとしても6歳のラヴィを誘拐して消そうとするなんて、相当な恨みを持ってるって事だよな…。そんな人間いるわけ………」
ロベルトは一瞬何か思い当たる事でもあったのか、表情が強張った。

「ロベルト様…?」
「ああ…なんでもない。大丈夫だ」
私が不安そうに問いかけると、ロベルトは優しい表情でそう答えた。
まるで私を心配させない様に笑顔を作っているかの様に見えた。

(ロベルト様は何か知っているの…?)
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