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31.複雑な心
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「学園に着いたらルカ様にお話があります…」
「話…?だけど…今日じゃなくても構わないぞ?」
「お気遣いありがとうございます…。でも出来るだけ早く伝えておいた方が良いと思うので…」
「分かった。シンリーの話なら何だって聞くよ…」
ルカルドは柔らかい口調で答えた。
***
学園に到着すると私達はいつもの部屋へと向かった。
普段なら向かい合って座るのだが、あんなことがあった後だったせいかルカルドは私の隣に腰掛けた。
きっと私が不安な顔をしていたから、少しでも傍にいて安心させようと思ってくれたのかもしれない。
そしてベンノが温かいお茶とお菓子を用意してくれた。
やっぱりベンノが淹れたお茶を飲むと心がなんとなくほっとする。
「ベンノ、少しシンリーと話があるんだ」
「それでは、私はこれで失礼させて頂きますね。シンリー様、ごゆっくりしていってくださいね」
ルカルドはベンノにそう告げると、ベンノは挨拶をして部屋を出て行った。
私はどう話を切り出そうか迷っていた。
私が中々言葉を出せないでいると、ルカルドは膝の上に置いてある私の手の上に自分の掌を重ねた。
「無理しなくていいよ」
「………」
私は顔を上げて横を向くと、すぐ隣には優しい表情のルカルドがいた。
小さく深呼吸をして心を落ち着かせると、私はゆっくりと話し始めた。
「ルカ様…、私誘拐された時に記憶の一部を思い出したみたいです…」
「記憶って幼い頃の…?」
「はい…。私は6歳の頃に誘拐されました」
「誘拐…?犯人の顔は見たのか…?」
ルカルドは驚いた表情をしていた。
「一応見たんですが、依頼を受けただけの者だと思います。指示したのは別にいるって話していたから…」
「一体、誰が…」
ルカルドは私の話を聞いて考えた様な表情をしていた。
「ルカ様が言ってたことは正しかった。ラヴィニアは病死では無かったから…」
「…っ…!?…ラヴィの事を知っているのか…!?」
ラヴィニアと私が口に出すと、ルカルドの瞳の色が変わった。
その表情を見ると私の心の中は複雑な気持ちになってしまう。
私が実はラヴィニアだったって話したらがっかりするかもしれない。
そう思うと中々言葉が出て来なくなってしまう。
「シンリー、頼む…教えてくれ…。ラヴィが病死じゃないって…どういう事だ?」
「ラヴィニアは……私…だったから…」
私は小さな声で呟いたが、ルカルドにはその言葉は届いた様だった。
「「………」」
ほんの数秒沈黙が続いた。
数秒だけど私にはすごく長い時間に思えてしまった。
「ルカ様…ごめんなさい。私、全然思い出せなくて…」
言葉には出せなかったが「私がルカ様の大事な思い出のラヴィニアでごめんなさい」と心の中で謝った。
その言葉を声に出してしまうと、きっと泣いてしまいそうな気がしたから私は言えなかった。
「……やっぱり君が、ラヴィだったんだな…」
ルカルドはそう呟くと私の事を抱きしめていた。
「ルカ様…!?」
突然抱きしめられて私は一人で動揺していた。
「シンリー…、いや…ラヴィ…俺、ラヴィの為に何も出来なくてごめん…」
「ルカ様はずっと私の事を調べていてくれたんですよね…?ずっと私の事、忘れないでいてくれてありがとうございますっ…」
ルカルドの声はどこか切なくて、辛そうで、それでいて優しい声にも聞こえた。
「当たり前だ、ラヴィは俺に取って恩人みたいな存在だからな。ラヴィに出会っていなかったら、きっと今の俺は無かったと思う。俺にとっては幼い頃も、今も大切な存在には変わりない…」
「………」
私はその言葉を聞くと胸の奥がチクっと痛くなった。
ルカルドは今でもラヴィニアが好きなんだ…。
やっぱり私はルカルドにとってはラヴィニアを重ねて見ているだけの存在だったのだと分かってしまった。
どっちも私だけど、今の私はシンリーであってラヴィニアではない。
ルカルドには私を、シンリーとしての私を見て欲しかった…。
「話…?だけど…今日じゃなくても構わないぞ?」
「お気遣いありがとうございます…。でも出来るだけ早く伝えておいた方が良いと思うので…」
「分かった。シンリーの話なら何だって聞くよ…」
ルカルドは柔らかい口調で答えた。
***
学園に到着すると私達はいつもの部屋へと向かった。
普段なら向かい合って座るのだが、あんなことがあった後だったせいかルカルドは私の隣に腰掛けた。
きっと私が不安な顔をしていたから、少しでも傍にいて安心させようと思ってくれたのかもしれない。
そしてベンノが温かいお茶とお菓子を用意してくれた。
やっぱりベンノが淹れたお茶を飲むと心がなんとなくほっとする。
「ベンノ、少しシンリーと話があるんだ」
「それでは、私はこれで失礼させて頂きますね。シンリー様、ごゆっくりしていってくださいね」
ルカルドはベンノにそう告げると、ベンノは挨拶をして部屋を出て行った。
私はどう話を切り出そうか迷っていた。
私が中々言葉を出せないでいると、ルカルドは膝の上に置いてある私の手の上に自分の掌を重ねた。
「無理しなくていいよ」
「………」
私は顔を上げて横を向くと、すぐ隣には優しい表情のルカルドがいた。
小さく深呼吸をして心を落ち着かせると、私はゆっくりと話し始めた。
「ルカ様…、私誘拐された時に記憶の一部を思い出したみたいです…」
「記憶って幼い頃の…?」
「はい…。私は6歳の頃に誘拐されました」
「誘拐…?犯人の顔は見たのか…?」
ルカルドは驚いた表情をしていた。
「一応見たんですが、依頼を受けただけの者だと思います。指示したのは別にいるって話していたから…」
「一体、誰が…」
ルカルドは私の話を聞いて考えた様な表情をしていた。
「ルカ様が言ってたことは正しかった。ラヴィニアは病死では無かったから…」
「…っ…!?…ラヴィの事を知っているのか…!?」
ラヴィニアと私が口に出すと、ルカルドの瞳の色が変わった。
その表情を見ると私の心の中は複雑な気持ちになってしまう。
私が実はラヴィニアだったって話したらがっかりするかもしれない。
そう思うと中々言葉が出て来なくなってしまう。
「シンリー、頼む…教えてくれ…。ラヴィが病死じゃないって…どういう事だ?」
「ラヴィニアは……私…だったから…」
私は小さな声で呟いたが、ルカルドにはその言葉は届いた様だった。
「「………」」
ほんの数秒沈黙が続いた。
数秒だけど私にはすごく長い時間に思えてしまった。
「ルカ様…ごめんなさい。私、全然思い出せなくて…」
言葉には出せなかったが「私がルカ様の大事な思い出のラヴィニアでごめんなさい」と心の中で謝った。
その言葉を声に出してしまうと、きっと泣いてしまいそうな気がしたから私は言えなかった。
「……やっぱり君が、ラヴィだったんだな…」
ルカルドはそう呟くと私の事を抱きしめていた。
「ルカ様…!?」
突然抱きしめられて私は一人で動揺していた。
「シンリー…、いや…ラヴィ…俺、ラヴィの為に何も出来なくてごめん…」
「ルカ様はずっと私の事を調べていてくれたんですよね…?ずっと私の事、忘れないでいてくれてありがとうございますっ…」
ルカルドの声はどこか切なくて、辛そうで、それでいて優しい声にも聞こえた。
「当たり前だ、ラヴィは俺に取って恩人みたいな存在だからな。ラヴィに出会っていなかったら、きっと今の俺は無かったと思う。俺にとっては幼い頃も、今も大切な存在には変わりない…」
「………」
私はその言葉を聞くと胸の奥がチクっと痛くなった。
ルカルドは今でもラヴィニアが好きなんだ…。
やっぱり私はルカルドにとってはラヴィニアを重ねて見ているだけの存在だったのだと分かってしまった。
どっちも私だけど、今の私はシンリーであってラヴィニアではない。
ルカルドには私を、シンリーとしての私を見て欲しかった…。
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