王子が何かにつけて絡んできますが、目立ちたく無いので私には構わないでください

17.お菓子作り③

私はルカルドが待っている連絡部屋まで向かった。
最近はここに来ることも増え、見慣れた場所になっていた。

急いで来たせいで私は、はぁはぁと息を切らしていた。
その為、扉の前で少し息を落ち着かせてから入ることにした。
意外とルカルドは心配性なので変に心配をされたく無かったからだ。

息が落ち着いた頃にトントンとノックをして部屋の扉を開けると、ルカルドの専属の使用人がお茶の準備をしていた。
ベンノさんと言って、聞けばルカルドが幼い頃からずっと傍で仕えているらしい。
年齢は50代位で優しそうな雰囲気をしていて、その口調も柔らかい。

「シンリー様、お待ちしておりました」
「ベンノさん、こんにちわ。…あれ？ルカ様は…？」
私が室内を見渡すとルカルドの姿が無かった為、ベンノに問いかけた。

「ルカルド殿下は少し遅れて来られるそうです。来られるまでこちらでお茶でも飲んで待っていてくださいね」
「ありがとうございますっ」
私はソファーに座るとベンノがお茶の準備をしてくれた。

「昨日初めてお菓子作りをしたと随分楽しそうに話してましたよ。本当に楽しかったんでしょうね、あんなに楽しそうに話すルカルド殿下を見るのは久しぶりです」
ベンノは思い出す様に話した。
そんなことを話すベンノの姿も嬉しそうに見えて、私まで嬉しい気持ちになった。
だけど、私はそんなに楽しみにしてたクッキーを半分無駄にしてしまったことに罪悪感を感じていた。

私が暫くベンノとお喋りをしていると、扉が開きルカルドが入って来た。

「シンリー、待たせてしまってすまなかったね」
「大丈夫です、ベンノさんと楽しくお喋りしてたので…」
私が楽しそうに答えるとルカルドはほっとした様に「そうか」と言って、対面する様にソファーに腰を掛けた。

「クッキー持って来ましたっ！ルカ様すごく楽しみにしてくれていたんですね…！」
「ああ…」
私がそう言うとルカルドは困った顔をしていた。
浮かれているのが私に知られて恥ずかしいのだろうか…。

私は持ってきたクッキーの包みをお皿の上で開いた。
ちょっと見た目が悪くて私は不安そうな顔でルカルドの顔を見つめていると、ルカルドは小さく笑みを浮かべてクッキーを一枚手に取り口の中に放り込んだ。

私はそんな姿をドキドキしながら、じっと見つめていた。
味にはそこまで変わりはないと思うけど…、そんなに喜んでいてくれてたなら綺麗な方を渡したかった。

「サクサクで美味いな、シンリーの言った通りだな」
「本当ですか？」
ルカルドは満足そうな顔でそう言うと、私はほっとした。

「シンリーも食べてみたらどうだ？」
「はい、頂きます…」
私も一枚手に取りクッキーを口にすると、バターの風味が口に広がり程良い甘さで美味しかった。

「美味しい…」
「自分で作ったから余計にそう感じるのかも知れないな…。次回作る時も俺の事を誘ってくれたら嬉しい」

「ルカ様はお菓子作りにはまっちゃった感じですか？」
「ああ、そうかもしれないな。それに…シンリーと一緒だったから楽しかったのかもな…」
私が冗談ぽく言うと、ルカルドは笑いながら答えた。
ルカルドは私を見ながら優しい顔で微笑み、その表情を見た私は照れて僅かに頬が赤く染まった。

「照れてるのか？シンリーは本当にすぐ顔に出るな…」
「…うるさいですっ…！」
私が照れながらむっとして言い返すと、ルカルドは可笑しそうに笑っていた。

だけど喜んでくれたみたいで本当に良かった。
半分に分けといて良かった…。